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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
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63.素人が作りしオブジェ

 無事に瓶やガラスの製造に関する書物を見つけられた。

 今回は苦戦することなく直ぐに。

 例に漏れず師匠直筆の書物。

 窓製作から始まり瓶も作ったことがあるようだ。

 書物に載っているいくつかの瓶のデザインは実に個性的なので真似ることはないだろう。


 原材料は、砂蓮されん(珪砂に似た白い砂)、ハイライせき(石灰石)、タロートせきの3つ。

 これらを高温で熱し溶かした後、型に入れるとか、空気でなんとかすると記されている。

 そうして形作った物を冷やせば完成だそうだ。

 冷やすといっても常温に置き熱が冷めるのを待つではいけない。

 方法のひとつとして挙げられるのは水に浸す。

 それを行わないと脆いガラスに仕上がるのだとか。

 水に浸すだけでいいというわけでもなく、固まるまで冷やし続ける必要があるみたい。

 高温のものを水に浸せば水の温度が上がってしまうわけだが、それは避けなければいけないのだと。


「ふーん」


 純粋に感心が強い。

 製法を知ってただただ“そうなんだ”と。

 熱したものを急速に冷やすと割れてしまう気がしていたけれど違うようだ。

 私の知識が間違っていたか何かと勘違いしているか、ガラスの原材料の性質があちらとこちらでは違うのか…


(答えは出ないか)


 とにかくここで瓶を作れるようになれればいい。

 冷却に関することが書き残されていて良かった。

 でなければ水に入れた後も水温を気にしなければいけないと気づけたかどうか…

 

(さて、製作開始だね)


 もしかしたら作業部屋か鍛冶場に型が残されているかもしれないので探してみよう。

 物入れ箱に無ければ無い気がするね。

 ちなみに、物入れ箱とは師匠が命名した。

 木箱に収納の機能が付いた魔道具の一種。

 魔道食料庫と機能は全く同じ。

 私は収納箱と呼ぶことにした。


(ん?型の名前が分からないなぁ…)


「困ったなぁ…」


(とりあえず、型と付くものや…なんだ?)


 そんなこんなで手当たり次第に探した。

 作業部屋内で見つかる気がしないと思ったところで外へ。

 扉から家の裏手に出て今度は鍛冶場の収納箱を漁る。

 一応、鍛冶場内もあちこち見ながらね。


「あったあった…お…」


 なんとか師匠が使っていたと思われる瓶の型をいくつか見つけられた。

 その他に原材料も。

 それらを鍛冶場にある石台に並べ眺める。

 必要なものを揃えられたのは嬉しいが、原材料に関しては使えば減るので困りものだ。

 この島で手に入ればいいのだけどねぇ。

 

(待てよ…)


 それとなく地魔法で土が出せるのならば、意識すれば砂も出せるのでは?

 その為にはまず現物への理解を深める必要がある。たぶん。

 物は試しと砂蓮を見る見る見る。

 砂と聞くとクリーム色のそれを思い浮かべるが、砂蓮はほんのり灰色を帯びた白色だ。

 そうして頭に焼き付けた後、目を閉じて地魔法を行使してみれば…普通に出せた。

 腰の高さの石台の上にはまっさらな砂が作り上げし小さな小さな山。

 子供が砂場で作るぐらいの盛り具合いだ。


(土と砂の境はなんだ?後にしよう。待てよ…もしかして魔法で瓶も出せる…?)


「………」


(うん。知ってた)


 試してみたが不発に終わった。

 理由は分からないが特に期待していたわけではないので問題ない。

 少し目を閉じて外の空気を感じただけだから。うん。

 頬を撫でた風が己を慰めているような気がして更に情けなくなる。


 さて、原材料に関しては砂蓮以外も出せたので良しとして、次なる問題は型だ。

 型に流し込んで固めた後、その型を外せばいいのかと考えていたが、見る限りそれだけでは瓶にならない。

 収納箱にあった型はどれも中が空洞にならない作りだ。

 見た目は瓶でも中に何かを注ぐことはできないだろう。


(鈍器の完成だね。もしくはガラスの置物?)


 では何故これらを型と思えたのか…

 内容物を知りたく収納箱を鑑定してみれば、羅列するなかに“瓶の型・ウイスキー用角瓶”とあったから。

 他も“瓶の型・〇〇”だ。


 瓶の型であることは間違いないが、内側を空洞にする工程が必要だということ。

 “型に入れるとか、空気でなんとかする”とは、型に流し込んだ後に空気でなんとかするという意味かもしれない。


(何かヒントはないか…)


 棒で空気を送り込み膨らませる様子をテレビで見たことがある。

 つまり、原材料を溶かせば人間の肺活量でなんとかできる柔らかさになるということかな?

 しかし、丸ではなく瓶の形状にするにはどうすればいいのか…


「ん?型の意味は?ん?あ…」


 溶かした原材料を型に入れ、棒か何かを突き刺し空気を送れば型の形になるのかな?

 型から漏れ出た分は上手く排除して冷やせばいいのかな?


(それでやってみるか)


 となると、瓶の形を決めないとね。

 収納箱には瓶の型がいくつかあったけれど、ポーション用はひとつだけ。

 作業部屋に遺されていたポーションは2種類の瓶に入れられているというのに…


(買ったのかな?片方は)

 

 ひとつはマニキュアの瓶を少し縦長にしたような瓶。

 もうひとつは三角フラスコを小さく細くしたような瓶だ。

 この場には後者の型があるので、三角フラスコ瓶は師匠作と思われる。


(んー、型って作れるのかぁ)


 せっかくならば私考案の瓶を作ってみたい。

 ありきたりな形状だろうと、師匠作の瓶と見分けがつくように。

 私はワインボトルを小さく細くしたような瓶を目指そう。


(無理なら諦めてこの型を使うさ)


 手始めに鍛冶場の収納箱からミスリルの塊を取り出す。

 煌めく水色。白銀色だ。

 これで型を作るとは師匠から習った。


(どうすればいいんだろう?)


 魔法を駆使して削ろうとしたが、傷ひとつ付けられなかった。

 だが、諦めない。

 固い決意のもと魔力で作ったのは歯科用ドリルの先端部分。

 魔力を込めに込めることで強度を上げに上げ、いざ!


(えー?硬すぎ)


 高速回転させているが、ほんのちょっぴりしか削れない。

 音が耳障りだ。火花は嫌いじゃない。

 これで武器を作るのは凄いことだと思う。


(待てよ…溶かせば柔らかくなるのかな?)


 今度はミスリルの欠片を収納箱から取り出した。

 それを魔力球が包み、内部に火を顕現させた。

 まん丸の火がそこに浮かんでいるように見える。

 待つこと約10分。火を消してみると…


(耐熱性バッチリだね!)


 変化が見られないミスリルの欠片。

 再度挑戦だ。

 高温の火を生み出せ生み出せと念じながら魔力球の中に火を現す。

 ついでに収納に酸素はしまえるのか、しまえたとして魔力球の中に出現させることは可能なのか試してみよう。


「おぉ…」


 火が先程よりも明るくなった。

 これでしばらく待とう。

 カフェオレでも飲みながら。


「どうかな?」


 火が弱くなってきたので残る魔力を引き寄せて消化した。

 残るのはへたれたミスリルだ。


「やった!」


(できたできた!)


 嬉しくて思わず駆け寄った。

 カフェオレを持っていることなんて気にせず動いたものだから中身が零れてしまったけれど、どうでもいい。

 楕円がへたれたようなツヤツヤピカピカのミスリルがそこに浮いているのだ。

 ニコニコだぜ!


「………あれ?」


(これからどうやって型を作ればいいのだろうか…)


 型を作る為の型が必要か?

 馬鹿野郎。その型をどうやって作るんだって話だ。

 なんて脳内ツッコミを繰り広げながら考える。


(あ、魔力で型を作ろう)


 自分が生成した魔力球の耐熱性が高いことは知っている。

 そして、魔力は形が自由自在なことも知っている。

 魔力でミニワインボトルの形を作り、このミスリルを入れると…


「いや、違うよ」


(型作らなくて良くね?って話じゃない?)


「あれぇ?」


 魔力製瓶の型に熱し溶かしたガラスの原材料を注ぎ…魔力の型を消す。

 そうすれば…


(落下して割れちゃうね。もしくは下の草を燃やしちゃうかな?)


 この方法ならば息を吹き込む必要もない。

 おそらく師匠の瓶の作り方とは違うのだろうが、まぁ、いいでしょう。


(となると…原材料をどうにかしないとね)


 そこについて考えるのを後回しにしたのは時間がかかりそうと思ったから。

 おそらく本日中に瓶を完成されることはできないだろう。

 しかし、既に瓶製作におけるいくつかの課題はクリアできたので充分だ。

 本日は原材料を混ぜ合わせ熱するについて少し触れたら一旦終わろうかな。


「んー」


 書物を石台の上に開いて置きながら内容を反復する。

 原材料の分量は大雑把にしか書かれていない。

 “多め”とか“少し”とか。

 分量はいいとして、比率は重要だと思う。

 大まかでいいということなのか、頭の中には正確な数値が入っているのか…


(脆くなるとか?透明度が違うとか?影響ありそうだけど…)


 ひとまず多め少なめだけを気にして一度混ぜ合わせてみよう。

 砂蓮、ハイライ石(石灰石)、タロート石を魔力ミキサーに投入し、粉砕がてら混ぜ合わせる。

 満遍なくサラサラの粉状になったところでミキサーごと覆う形で魔力球を発現。

 ミキサーを消し、魔力球を回転させる。

 ゆっくりと横に回すのだ。中心に回転刃を置いてもいいかもね。

 そして、真下に火を現し、炙るのだ。


(上手くいくかなぁ)

 

 正直、熱がどうして伝わるのか分かっていない。

 魔力製の何かは熱が通らないようにもできるし、風が通らないようにもできるから不思議だ。

 仮説としては、魔法は頭に思い浮かべた通りに発動するということ。

 成分や性質など無く、“頑丈だが熱は通る”とか“柔らかく温かい”など望んだ通りに。

 魔法は起こしたい事象を思い浮かべながら魔力を放出することで発動するらしい。

 それにはこういう意味も含まれているのかもしれない。


(まぁ、よく分からないね。魔法は)


「お…おぉ…」


 魔力球の内包物に変化が見られた。

 食い入るように見つめていると最後にはマグマのようなものに変わった。

 ちょっと眩しいとすら思う。

 赤とも言えないオレンジ色のような黄色のような粘り気のある液体。


(液体なのかな?なんでもいいか)


 魔力球の上部だけを消し、鍛冶場にあったミスリルの棒を差し込み持ち上げてみると、ドロリとした綺麗なオレンジ色がくっついてきた。

 静止して眺めていると徐々にオレンジ色が失われていく。

 おそらく徐々に固まって…


(あれ?冷やさないと固まらないのではなかったか…違う。脆いガラスに仕上がるんだったね)


 このまま放置していてもおそらくガラスは完成するのだろう。

 気泡はあるし、脆いのだろうが、ガラスはガラス。


(あ、気泡のせいで更に脆くなるとかありそうだ)


 どの工程で何を気にすれば気泡を無くせるのか分からない。

 もしかしたら原材料の比率が関係するのか、それとも熱する温度に問題があるのか…

 今後の課題だね。今は考えるのをやめよう。

 これにて本日の瓶製作研究は終了だ。

 止められる時に止めないと歯止めが効かなくなるだろうから。


 少しやってみて思ったのは魔法や魔力操作の鍛錬になりそうだということ。

 なので今後は罪悪感が少し薄れた状態で製作に取り掛かれそうだ。


(これどうしようかなぁ)


 未だにミスリルの棒を持ったままだ。

 先端にべっこう飴みたいな塊。

 そこから細く下に垂れ、魔力球の中に残る本元と繋がっている。

 おそらく手を離しても維持されるだろう。

 オブジェのようだ。


(割れるのはもったいないかなぁ…)


 鍛冶場にでも置いておこうと思ったのだが、おそらくこれは脆い。

 雨風で割れるかもしれないので外に置くのはよそう。

 となると、手を離すのも危険かな?


「どうしよう…収納が一番なんだろうけど……ちょっとだけいいよね?」


 冷風を吹かせて冷やす。

 今それをやって強度が上がるのか分からないけれど、念の為。

 色が琥珀色から透明に変わっていく様に感動を覚えた。

 そのすぐ後に眉が寄る。


「うわぁ…」


 なんかもっとちゃんとしたかった。

 この様子を初めて見るのはもう少し整った状態でと…


(仕方ない。もう事は起きた後…)


「はぁ…」


 このオブジェを見る度に悔しがるのだろうか。

 嫌だと思う反面、それはそれでいいかもと。


「あ…」


 魔力球が消えそうだ。

 その前に一旦収納してしまおう。

 置き場所や置き方を考え設置を済ませたら本日の瓶製作に関することは終了とする。

 頭を悩ませながら家へ入り、内部を歩き回った。


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