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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
62/66

62.瓶を含めて薬と呼ぶ

 問題が発生した。

 製作した薬を入れる瓶が無くなりつつある。

 薬を作りすぎた弊害だ。


 家が建っている上段…崖の上ね。

 上段に行ってからはヤケクソ気味にそちらを駆け回った。

 もちろんまずは慎重に把握から努めてね。

 そうして行動範囲はまた広がった。

 家を中心に半円内しか活動していなかったのが360度に切り替わったのだ。

 倍だよ、倍。


 上段の森は下段と全く同じということはなく、生息する植物や生物に違いがあった。

 下段に生息しているものもあれば、初見の植物や魔物も少なくない。

 それを知って最初に生まれたのは恐怖ではなく喜びだったのは大したものだ。

 新たなことを知り学べると心躍ったものだ。

 自分の成長が止まる心配も消え失せた。


 さて、下段で見つけられていなかったポーションの材料と出逢ったのが運命の分かれ道。

 しかもひとつだけではなく3つも。

 ひとつは魔花。ひとつは魔草。ひとつは魔物。 

 自ら入手可能となればどうなるか…

 製作、研究が加速する。


 それに加えて下段の森では見かけたことのない毒草や毒花、毒キノコに毒性の魔物も見つけてしまったのでさぁ、大変。

 研究欲・製作欲・好奇心諸々がこれでもかと湧き上がったのだ。

 それを薬方面へ逸らすことで研究にのめり込むことを阻止した。

 

 何はともあれ、次々にポーションが作り出される理由があったと言いたい。

 瓶は使用したとてその物が減ることはないからと気を抜きすぎた。

 それに、完成した薬は容器に入れずとも収納できるからいいかと。

 で、あるならば問題は発生していないと思うだろう?

 私もそう思う。


(何言ってんだ)


 呆れて飴玉を口に放り込んじゃうよ。

 作業部屋で眉を寄せ悩んでいるのはどうしてなんだって話だ。

 瓶が無くとも大きな支障はない。

 問題だと思うのは私の拘りが影響している。


 どうも私は瓶に注ぎ栓をして初めて薬の完成と思うみたい。

 一旦収納にしまっても完成した気にならず、後できちんと瓶に注ごうと思うのだ。

 剥き出しの状態で収納するのは一時的な措置としては許すけれど、そのまま放置は気になってしまう。


(どうしたものか…)


 とはいえ、瓶を用意できるとは思えないし、仮にできたとしてもそれに時間を割くのはいかがなものか。

 腕を組んで口内で飴玉を転がし考える。


「んー」


(師匠はどうしてたんだろう)


 見るに独特な形状の瓶がけっこうある。

 元々用意していた瓶に手を加え変形させたのか、作ったのか、実は買ったものなのか…


(作れるものなの?)


 ガラスの製法に詳しくないので想像が難しい。

 風鈴やグラスが出来上がっていく様子を映した動画を見たことはあるけれど…

 あれは食い入って見てしまった。

 繊細に作り上げていく職人さんに嫉妬さえ覚えた。

 純粋にそんな世界で生きたかったと羨んだね。


(そこは置いといて…)


 そんな動画を見た記憶はあれど、ガラスの原材料なんて分からない。

 かろうじて珪砂という単語が出てくるぐらいだ。


「んー」


(熱し溶かすんだっけ?珪砂を…さてねぇ)


 ネットで調べることもできないから答えはそう簡単に手に入らない。

 不便だと思う反面、書物を漁り、自分で試行錯誤して答えを出すのもいいと思える。

 瓶が無くとも命に関わることではないので気長に気楽に研究してみようかな。


(あ…また…)


 こうして増えていく。

 こんなときに思うのはやるべきことを疎かにしないこと。

 やるべきことに充てる時間を他に割くことのないように。


(鍛錬になるならいいよ?)


 と、甘やかすのもよくあることだねぇ。

 やれやれだよ。自分に呆れる。


(やるべきことって言ってもねぇ)


 私が己に課す鍛錬内容や掲げた目標は私一人の考えによるもの。

 何ができれば凄いと言えるのか、どこまで行けば強いと言えるのか、他者より優れているとは? 

 これだけ同時に魔法を発動できれば凄いと言われる、などという指標が立てられない。

 世間を見て武器の扱いはまだまだだと思えないから困る。

 全てにおいて一人の意見で結論を出すから何もかもが手探りで曖昧。

 自分の力になると確信を持てないままここまでやってきた。

 だから、瓶作りがなんの役にも立たないと言い切ることはできなくて、それならやってもいいんじゃない?と甘えが顔を出す。


(疲れるねぇ)


 何も確信を得られないとは精神を病む。

 合っているのかな、意味はあるのかなと、己に疑問を抱き不安を抱え続けるのはしんどいと知った。

 だけど、立ち止まるわけにはいかないから何かやり続けるんだ。


(もっと気楽な性格だったら良かったのに…)


 やりたいからやろう。

 理由は後から着いてくるさと思ればいいんだけどねぇ。


 どうも私はすぐに考え込んでしまう。

 何かを始めるのに毎度毎度、無駄を気にしてあれこれ考え、結局答えは出ない。

 それこそ時間を無駄にしてるじゃないか。

 これまで考えるのに使った時間全てを行動に使っていれば何かが変わっていたかもしれない。

 なんて考え出したらキリがないね。


(いいじゃん。人生に無駄は付き物だ)


 必要とすら思う。

 全てに意味を乗せ生きるのでは楽しくないし苦しいだろう。

 私は私を保ったままここを出なければいけない。

 その為には身を守るだけではなく、この心の声も聞かないと。

 趣味や休息を挟んだ上で最短でここを出るのだ。


「うんうん」


 そもそも無駄とは限らない。

 後にならないと判断できないこともある。

 今は役に立たないと思っても、いつか意味があったと思えるかもしれない。


(いや、だからもっと気楽にね?無理か)


「さっさとやれや。ふふふふふ」


 自分でツッコんで笑えてきた。

 もうやっちゃいましょう。

 まずは書庫で調べ物だ。

 小さくなった飴を舌で転がしながら隣接する部屋へと移動した。


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