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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
61/66

61.飛び出し空に舞う

「やっぱりね。分かってたよ」


 手を握り締め言葉にするのは己に聞かせる為。

 自分をどう元気づければいいのか分からない。


(何も無いわけじゃないけど…)


……………


………


……


 家の背後に聳える崖の上で立ち竦む。

 恐怖でこの身を動かせないのではなく、なんだか気力が削がれたから。

 広がる景色は森。それしかない。

 崖の淵に立っていてもそこはもう森の中。

 木々の枝の下。

 

 そんなところにまで木が迫っているから下から見えてはいた。

 崖の上にも木が生えていそうだと想定するのは容易い。

 確か2日目にしてそんな想定をしていたような…


(来なければ良かったのか…いや、いずれ来ただろう)


 何を期待していたのだろう。

 分からないけれど、こうなると思ったから今まで来なかったのだ。

 期待を裏切られる可能性は高いと思うからここを目指さなかった。

 本日崖の上を確認しようと思った理由は特にない。

 そろそろ新たなアクションをと思ったのか…


(成長した証ではあるか…)


 日々転移陣をものにしようと鍛錬を続けているが、スルスルとできるようになることはなく、ほんの少しずつ目標に近づいている。

 森を駆けることも魔物との対峙も慣れてきた。

 このままでは能力の成長に一旦ストップがかかりそうと思う頃かな?

 調子に乗っているのかなんなのか分からないが、ここ最近は訳の分からない焦りが出ていた気がする。


(知るべきことだった。うん)


 いつの間にか緩み開いた手をまた握り締めた。

 なんとか心は持ち堪えられた。


「はぁ…」


 そうでもなかった。脱力感が酷い。

 もっと何かあると思ったのだろう。

 小屋とか宝とか?何かヒントや…とにかく、森以外の何かがこの瞳に映ることを期待していたんだ。

 振り返ればこれまで見てきた森が更に遠くまで見通せる。

 変わらず、何処までも続く雄大な森だ。


「なんなんだよ…」


 崖の淵から遠くを見つめても何も見えない。

 視線を下げれば私がいつも動き回る庭と左下に青い屋根。

 ここ最近はあの屋根に座りおやつの時間を過ごすことも出てきていたね。


 魔法を足場に立体的な動きを。

 その場を縦横無尽に動き回る鍛錬は続けてきた。

 規則正しく地に足をつけて戦うばかりではないから役に立っている。

 ありとあらゆる可能性を考えては可能な限り対処法を見出す。

 身体を捻った体勢の今、攻撃を繰り出されたら?とかね。

 魔法で身を守りつつ敵の居場所を把握し、後は敵の数や向けられる攻撃によって対処する。


 そんな鍛錬を続けていれば足場を使い高く登れるようになるさ。

 魔法を生み出せる高さに限度はあって無きようなもの。

 出したいと思ったところに正確に顕現させるには自分が高さや位置を把握できなければいけない。

 ただ、高さの想定などなく、ただ上にというだけならば簡単だ。

 その際に顕現した魔法は地上何mの位置にあるのか分からない。


 とにかく、空中だろうと近場ならば距離の測定は簡単で、しかもどの位置ならば足を乗せられるか把握もできるようになり、それほど時間をかけずにこの場に来れたってこと。

 来れると分かっていたってこと。


(なんか自分、飛び降りでもしそうに見える?アホくさ)


「あー」


 低い声が出た。

 抑揚もないはずなのに苛立ちを含む声。

 頭を掻き毟り、雄大な森を視界に入れながら後ろに下がる。

 木々にぶつからず真っ直ぐ移動できる位置は無いかと考えながら。

 そして…


(だったら飛んでやるわ)


 身体を前に倒しながら全力で駆け出した。

 この身に当たる枝や葉なぞどうでもいい。

 木の幹にさえ激突しなければいいのだ。

 低い姿勢で髪を後ろに流しながら、ローブを背後に靡かせながらただ一直線に。

 そして、崖の淵を足蹴にし、飛んだ。


「くくく」


 下からの圧が想像以上でなんだか面白い。

 上に流れるのか置いてけぼりにされているのか分からない髪もローブも面白い。

 この耳は強風を拾っているかのようだ。

 このままいけばいずれ地面に激突だ。


(たっのしい!)


 何も死ぬつもりがあるわけではない。

 狂ってヤケを起こし、この命を散らそうと思ったわけではない。

 ただ、飛んでやると思っただけ。

 どうせ何かしら死なない策は見つけるだろうと。


(これは強風が吹いていると言える?人工的な風と言える?)


「くくく」


 何よりもこの身が感じるのは強風に煽られる感覚。


(あぁ、風なんて吹いてないからこうなるんだ)


 速度を上げて落下していく。

 この真下から上に風を吹かせれば減速することだろう。

 この身体はあちらの身体の強度とは違う。

 魔力を鎧にもできている。

 だから、少しの衝撃なんて余裕で耐えられるのだ。


「……やるか」


 この速度を殺すのは惜しいけれど、そろそろアクションを起こさないとさすがにお陀仏だ。

 いや、瀕死で済むかもね。

 その不確かな可能性に賭けている場合ではないので風を吹かせた。


(もっとか…)


 けっこう勢いのある風を吹かせたつもりだけど変化が見られない。


「うわっ…」


 強風が私を空に投げ出した。

 こうなる可能性も掠めつつ雑に爆風を生み出したんだ。

 元の位置より更に高く舞ったか…

 衝撃に目を瞑り、髪の毛が目に入りそうだから開けられないまましばし上へ向かう感覚を堪能した。

 そして、また落下。


(あ…やりすぎると吐くかもしれない)


 三半規管が困るね。これは。

 もう少し身体に芯を通して舞い上がった方がいいみたい。

 抵抗も見せずに上がっては落ちるから気持ち悪くなるのだ。


(まぁ、治癒で治るからいっか)


 そこは気にせず風の調整に意識を割こう。

 無事着地するのが目標だ。


(風かぁ…どんな風があるかなぁ)


 そんなことを考えながら己を舞上げては落下を楽しんだ。

 少し目が回るのはご愛嬌。

 いずれこうならないように技術なり知識なり身につくといいな。


(これで最後〜)


「…っ…うん」


 着地して足がジーンとなって終わり。

 数時間にも渡る荒々しい空中遊戯はこれにて終了。

 楽しかったからまたやりたいね!


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