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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
56/66

56.研ぎ澄まされた後のぽかぽか陽気

 朝を迎えた。

 一度戦闘から生き残って帰れたことで心がかなり軽くなった。

 戦いの感覚を忘れない内に何度か続けて戦った方がいいのだろう。

 だから本日はどうしようか迷っている。

 一区切り打ち、丸一日休息日とするか、森に入るか…


「んー」


 黒板の前に立ち考えているところだ。

 これに書いていたしょう目標のひとつ、“マンティオロス討伐”に先程横線を引いた。

 “食料確保”は一応まだだ。

 新たに小目標を書き足しもした。


(とりあえず、チーズトーストでも食べるか)


 キッチンに向かい魔法を駆使してチーズトーストを焼き上げる。

 このまま何か作る日とするのもいいし…


(どうしよっかなぁ…美味うまいな。これ)


 少しだけ硬めの食パンだけど、これはこれで美味しい。

 チーズの香りも味も濃いねぇ。


(明日やろうは馬鹿野郎?うん)


 本日を休日としても森に入らなかったことをずっと考えてしまいそうだ。

 何か美味しいものを完成させられたとして、晴れやかな気持ちで味わえないのも嫌だ。

 というわけで本日からしばらくは実戦訓練を続けよう。


「うん」


 そうと決まって少し身体が震えるけれど、これぐらいならば余裕だね。

 まずは夜から朝にかけて書き出した内容を読み返す。

 昨日を活かさないとね。

 また帰り道が分からなくなったら私は自分を蔑むよ。


「食べ物とかは持ってるし…行こうか」


 ブーツを履き、玄関扉を抜けた。

 本日もまた目指すはマンティオロス。

 気力が残っていれば別の魔物とも戦いたいね。


 頭の中で様々反故し、あらゆる魔法をイメージし、足元や前方を気にかけ、ローブの動きにも意識を向ける。

 忘れてはいけない。微笑み・背筋・警戒を。

 そうして幾日も戦いに明け暮れた。


──────


───


──


 あれから何日経ったのか分からない。

 季節は変わったと思う。

 それが齎すことは意外と多い。

 季節の変動に合わせて活発になる魔物や、逆に見かけなくなる魔物がいる。

 地面の状態は大きく変わるし、身体が凝り固まってしまうこともあるし、視界も様変わり。

 天候の変化も同じだね。

 時の巡りが齎す変化も想定しないといけないと知った。

 やはり、実戦は多くを知れる。


 一度森に入ったあの日からの成長は目覚ましい。

 動きの無駄は減ったし、軽やかに動けるようになった。

 以前に比べて森を進む速度が上がったのはそれが理由だ。

 だけど、他にも風の扱いが上手くなったからというのもある。

 自分の理想通りにはいかないけれど、いくらか動きと風を合わせられるようになってきたね。


 森を駆け抜ける。

 たったそれだけの行いが充分な鍛錬になると知った。

 滞りなく森を進むのに必要な能力は数多い。

 身のこなしも魔法の扱いも目も耳も頭脳も鍛えられるんだ。

 己の底上げにはもってこいの鍛錬だと思っている。

 それにこれは以前の自分よりも能力が上がったと実感できることも多くやめられそうにない。

 頭の処理速度や処理可能量が伸びたと思うとか、この前と違って日暮れ前に戻ってこれたとかね。


 痛みを伴うことは少なくない。

 木にぶつかることがたくさんある。

 あれは普通に痛い。脳天が揺れるとはあのことだ。

 足を滑らせ転げ落ちたり、ぶっとい枝が刺さることもあるけれど、それでもやめない。


 当然、魔物と戦うことも多かった。

 相手を見極め動きや攻撃を選べるようになってきたね。

 とはいえ、まだまだだ。


 調子に乗るなと言い聞かせつつも褒めるのが私。

 どちらかではなく、どちらも大切なことだと思う。

 だから、まだまだ弱いけれど、ここまで強くなれた自分は凄いと語るんだ。


 行動範囲が広がったことで食料問題は着々と解決に向かっている。

 肉の他にも糧とできるものを見つけたんだ。

 山菜やキノコ、木の実やコーヒー豆なんかもね。

 小さな赤い果実が成る植物は多いが、これはなんだろうと思ったらコーヒーだったのだ。

 とはいえ、どうしたら焙煎前の豆まで持っていけるのか分からず、少し収穫して収納するだけに終わっている。

 なんとなく書庫に答えはありそうだ。

 この調子ならば行動範囲が広まるほどに手に入れられる食物しょくもつの種類は増えるだろう。

 もう少し調べてから食料問題解決としたい。


 さて、主に実戦に重きを置いた日々を送ってきたけれど、合間に軽く料理をしたり薬を作ったりもしてきた。

 書庫で知識を増やし、魔力操作の鍛錬だって忘れずに。

 

 そうして過ごす内に自ずと魔法は上達した。

 なんと私は一度発動した魔法を動かせるようになったのだ!


 これまでは魔力ミキサーの刃は回転させた状態で現れていた。

 それが、静止した状態の刃を後から回転させることができるようになったということ。

 大した能力ではないと思うかもしれないが、そうではない。

 放った魔法の軌道を変えることができるのだ。

 それは戦闘において大きく役に立つ。

 実戦でそう実感しまくっている。

 一応、以前も浮かばせた魔法の球に後から変化を出すことはできていたがそれとは訳が違う。

 これからは風で押すなり手でぶん投げるなりしなくていい。

 風で軌道を変えるよりも身から離れた己の魔力を動かした方が想定とのズレは少なく済む。

 とはいえ、風で魔法の動きを変えるのは風魔法の上達に繋がるので今後も行うだろう。


 とにかく、私の戦術はかなり広がったと言いたいのだ。

 自信がつく以前に安心が大きい。

 この身が傷つく可能性を減らせたと思えばほっと一安心だ。

 今後も魔法を磨き続けたいと強く思えた一件でもある。

 初めてできたときははしゃいで木にぶつかったね。


(ぶつかりすぎ〜)


 しかも、戦闘中だったしね。

 ほらね。すぐに調子に乗るんだから。

 困ったものです。


 さて、本日は何をしているかというと、魔力と向き合っているところだ。

 魔力操作の鍛錬でもあるが、ちゅう目標は魔力をこの身に纏うこと。

 マンティオロスのように。

 そんなことができるのかと思うが、実際に行なっている生物を何度も見たのでできないことはないはずだ。


「ふぅ…」


 繋ぎ止めた魔力を身に這わせられないかと頑張っているが上手くいかない。

 胸の辺りから魔力を放出し、繋がりが途切れないように意識をしつつ、外に出ている魔力を引き伸ばそうとしているのだけど…

 魔力が伸びないんだ。

 パン生地を綿棒で伸ばすイメージなのだけど…


「何がいけないのかなぁ…」


 そう簡単に身につけられるとは思っていないので今できなくても心は明るい。

 空を見上げてのんびりカフェオレを嗜む。

 こうして事前準備も何もなくふとしたときに飲めるっていい。

 毎回毎回そう思うんだ。

 後片付けも浄化ひとつで済むしね。

 この点はこの世界のいいところと言えよう。


「うん。そろそろ甘味が欲しいなぁ…」


 お菓子という意味だ。

 そういえば以前、飴を食べたくなったときがあるね。


(さすがに作れないかなぁ。たぶんべっこう飴とは違うよね?)


 お砂糖を少々焦がすやり方でフルーツキャンディーができるとは思えない。

 となると、作り方を知らないね。


「んー」


 本日はぽかぽか陽気で脳がだらける。

 そんな日はお休みしたくなるんだ。


「それもいいかもね」


 というわけで、今日明日を休日としよう。

 飴も含めて何かお菓子を作れないか試そうかな。

 まずはキッチンと相談だね。

 それと私の記憶を漁らないと。


(何が入ってるかなぁ。この頭には)


 今はお昼過ぎ。1.5日の休日となるだろう。

 それだけの時間があるならばお菓子作りの他にも楽しめそうなことはないか探してみようかな。


「うんうん」


 カフェオレを飲み干して立ち上がった。

 この庭先に寝転び日向ぼっこをしたいところだが、誤って眠ってしまったら困る。

 当初よりも鮮やかで柔らかさもある緑の絨毯に背中を預けたいけれど我慢我慢。

 寒い日であれば微睡むこともないが、本日の陽気は危うい。


(いつかできるといいなぁ)


 後ろ髪引かれながら家へと入った。

 たぶんやけにぼーっとするのは疲れが溜まっているからもあると思うんだ。

 一度休息を取ったと思えないといけない。


「ふぅ…」


 さて、どのような休日となったのでしょうねぇ。


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