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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
55/66

55.月も緩む反省会

 お風呂に浸かりまったりとしていては一日を振り返るなんてできなくて、明日にしようとお風呂から上がり布団に潜り込んだ。

 だけど眠いはずなのに、身体は疲れているはずなのに、なかなか寝付けなくて身を起こした。

 ふと外を見ればそれはそれは美しい月が世を照らしており、この身がいざなわれる。

 ぼんやりとしたままベッドから降り、両開きの窓を開けば冷えた空気を正面から浴びた。

 身が引き締まるけれど、少し張り詰めたようなこの寒さも嫌いじゃない。

 そうしてそのままベランダへ。目が冴えると分かっていてもだ。

 手摺りに阻まれそれ以上は進めず、そのままそこでしばらく月を眺めた。


(月白とはこの色だと思うなぁ)


 この世界の月は真っ白だ。

 あちらの月は黄色味がかっていたと思う。

 クリーム色とも言える。


(赤もあったかな。あれはなんでああなるんだっけ…)


 記憶の底にある気がする。

 何かきっかけがあれば引っ張り上げられそうだ。


(まぁ、今はいいか)


 まだまだ眠れそうにない。

 自分を世に落ち着きを与えられそうな月光を浴びても昼間の出来事が心を騒がせるのだろう。

 それならば何かに時間を使いながら眠りの時が来るのを待てばいい。

 

(…あれでいいか)


 振り向き寝室に置かれていた机と椅子を収納した。

 そして、私のすぐそばに出す。

 静かに歩み寄り椅子を引いて身を落とした。

 手摺りと月は左手側に。


(いいねぇ…)


 今をここで過ごすと決めたもののこうしてゆっくり月を眺めていようと思ったわけではない。

 一度眠ってからと思っていたけれど、今ここで昨日を振り返ることにした。

 主に森に入ってから出るまでを思い起こし問題点を洗い出すのだ。

 それにはノートに書き出すのがいいだろう。

 いつかやってくる初心を振り返るべき時にも役に立つかもしれない。

 私はすぐに調子に乗って大事なことを忘れそうだから。

 そんな理由で机を用意したんだ。


(これなら書き物するにも問題ないねぇ)


 2人掛けのカフェテーブルのようなこれに触れたことはなく、今初めて手触りを知った。

 見た目通り木目の凹凸を指先で感じることはできない。

 コーティングされ、ツルリとしている。

 この少しの光沢が素朴さを緩和させ高級感を持たせるよね。

 この家には木製の家具が多い。

 木製は木製でも重みのある色合い、焦げ茶色側が多いかな。

 おそらく師匠の好みがそれなのだろう。


(重厚感溢れる逸品が好き、と)


 と言いつつ今私が目の前に置いているこれはこじんまりとしていて重厚感が無い。

 色だけが反映されているね。


「さてと…」


 ノートを取りに行こうか。

 ペンもノートもいくらか所持しているけれど、せっかくならば今使いたいノートを選びたい。

 ついでにもう少し持ち歩く数を増やそう。

 ついでのついでにカフェオレを作ってこようかな。

 そちらも所持量を増やしておきたい。

 多めに作り収納しているつもりだけど、今後合間合間に飲むことが増えそうだから。

 ひとつ大きな安心が生まれたからかな。

 無事に魔物を倒せ、緊張が解けた部分がある。


(水差し足りないかなぁ…)


────


───


──


 そんなこんなで深緑色のノートと湯気の立つ白いカップが目の前に。

 ここまでくるのに数十分かかった気がするが、そこはいい。

 現在迷っているのはこのノートの呼び名だ。

 どうでもいい気がするけれど、気になるので気にすることにした。

 このノートには主に戦闘に関することを書くだろう。

 赤か緑か迷ったけれど、既に私のなかでは戦場=森となってしまっているようで。

 背表紙だけ茶色というのもなんかいいよね。

 それより、早々に呼び方を決めたい。


「んー」


(いや、内容が入ってから決めようか)


 戦闘に関することを書くと分かっているが詳しい記述内容は分からない。

 これだけ言っておいてなんなんだと思うが、まぁ、許せ。

 カフェオレで身を癒やしペンを取った。


「んー」


 頭の中で内容を纏めてから書くのは難しそうだ。

 ひとまず思いついたままを記そうか。

 メモに近いね。


【初めてのお出かけ】

 場所:森

 初戦:マンティオロス(大きい猪)


 いい小タイトルが思い浮かばなかったのでひとまずこれだ。

 その後も緩い気持ちで文字を綴った。


 ・帰りのことを考えていなかった

 ・武器の存在意義

 ・戦闘中周囲の警戒を怠った

 ・動きが大きい、戦闘範囲を広げすぎ

 ・意外とローブが気にならなかった

  →気にかけていなかったということでもある

  →意識すること、考慮した動きを染み付かせること

 ・割とブーツのダサさにヘコむ

  →気にすんな?大切なことだからなんとかする?未定

 ・足を取られすぎ、枝にやられすぎ、蔦にイラッとしすぎ

  →平地以外を知り慣れること、森に寛容になれ


 などなど、問題点は多い。

 とはいえ、どれを記すにしても大きく気落ちすることはなく、アホだなぁと口元を緩めるに済んだ。


(強かったなぁ…あ…)


 ・相手を知らなすぎ


 これもあったね。

 想定外の戦いならばいざ知らず、あの猪を目指していたにも関わらず魔力を纏っていると知らなかった。

 それは大きな過ちだ。


(知りようがないと分かっていても他にもっと…いや)


 想定外のことがあってもこなせたんだ。

 知れないまま鍛錬をするとは不足の事態に対応できるようにするってことで…


(まぁ、過ちとは違うね)


 ・相手を知らなすぎ

  →大事なことだけど、今回は仕方がないと思います


 書き足しておこう。

 反省点を書き出すだけではなく、褒められる点も書こうかな。


 ・収納を思いついた自分凄い


 とかね。あれはよくぞ咄嗟に思い出し発動できたもんだ。


「あれ?っていうか……」


 ・何故、正当法で戦っていたのか


 もう最初から収納を発動すれば良かったんだ。

 というか、初手で凍らせなさいよ。


「いやぁ…えー?」


 戦=武器もしくは魔法を打ち出す

 そう思っていたようだ。


 ・何故、正当法で戦っていたのか

  →収納も氷魔法も通用すると知れたので良し


「うんうん」


 しかし、マンティオロスだから通用しただけかもしれない。

 別の魔物にも使えるだろうと決めつけてはいけないね。


「んー、彼から学べることが多いなぁ…」


 魔力を纏えることだって知らなかったし、あの森は木々が密集しているようでそうでないと知れたし…

 他にもたくさん。

 学んだこともつらつらと書き出していこうか。

 そうして夜明けが近づくと共にゆるっと反省ノートは埋まっていった。

 緑茶ノートにしようと思ったけれど、それは全くの別物なので即座に除外。

 なんてことを考えたりもしていた緩い夜だった。


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