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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
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45.浮き沈む雨日

 あれからいくつの夜が巡ったのだろう。

 あの日に比べて知識は増え、身のこなしは良くなったと思う。

 魔法に関することも含め、当初を思えば成長したと言える。

 進んでは戻りを繰り返し、無駄も多い。

 進歩は鈍足だけど、わずかでも進んでいるならいい。

 とにかく脆弱な自分を少しでも上げていかないと。


 やはり私が思考の多くを割くのは戦闘に関してだ。

 命が懸かっている。危険度の高い行いだから。

 だと言うのに全くの未経験であり無知な部分。

 とにかく考えて考えて考えるべき事なんだ。

 戦場において要となる魔法と武術はどこまでもどこまでも向上させなければいけないと思う。

 

 戦闘時に魔法を扱う際は、思い描くから発動まで一瞬でなければいけない。

 その事前準備として様々な魔法を考えた。

 どのような形状が役に立つのか、隙を突けそうか。

 どこから繰り出されれば攻撃が通りやすいだろうか。

 大きさや強度、色の濃淡、水か氷か風か雷か…

 思いつくままに出したこともあったね。


 選択肢が多いと迷いが生まれてしまうが、いいこともある。

 とある一手が通じずとも動揺せずに済むと思うんだ。

 それはそれとして、主な攻撃方法を決めておくのも大事だろう。

 毎度毎度、どれを使うか悩むところから始まるなんて無駄でしかない。

 有効な攻撃を見出せたならばそれを、そうでない、もしくは大抵通じそうならばいつも使う魔法をってね。


 動きながら魔法を繰り出せるようにならねばと励むなかで大衆に有効な魔法はないかと考えた。

 もちろん答えを出せないけれど、こちらの方がいいのでは?を繰り返したんだ。

 現時点では魔力での攻撃が一番いいと思っている。

 他の魔法と同じように魔力そのものだって形や大きさは自由自在。

 強度だって上げられる。

 それに決めた一番の理由は目視できないから。

 魔力を感じ取り魔力攻撃すら避けられる敵だとしても、見えるより見えない方がマシだろう。

 風魔法も目視不可だけど、戦闘中は別の用途にだけ使いたいので除外した。


 とりあえず、魔法に関することはここまで考え動き出している。

 そして、武術方面も真剣に考えたつもりだ。

 

 武器の扱いは自己流も自己流なので自信がないけれど、当初よりは馴染んできた。

 ぎこちなさはあれど、一手、二手、三手と繋ぐ動きがいくらかできるようになったかな。

 それは剣と槍、ナイフの話。

 他の武器に関しては何ひとつ馴染んでいない段階だ。

 弓や鞭、斧やハンマーなどなど。

 なんとか基礎的な使い方ぐらいは覚えておきたいとの考えから手に取るようになった。

 軸、重心、体重移動、角度、様々気にしつつ、どのような体勢でも最低限一手は繰り出せるよう日々研鑽に努めている。

 そうして毎日毎日身体を動かしていると成果を感じられ嬉しくなるときもあるんだ。

 今だって胸の内には自信がひとつ芽生えたまま。

 


(景色が流れる…と言うにはまだ早いか)


 速く走れるようになった。

 変に身を硬めず軽やかに。

 姿勢も表情も変えることなく、淡々と。


 そこには私なりの努力がある。

 単純に体力がついたからもあるだろう。

 だけど、それだけではないんだ。


 一定速度を保つこと。

 それを目指してみたら思いの外、走りが良くなった。

 動きながらも原因解明に努めるという点も育ったと思う。

 どこに疲労が蓄積され動きを鈍らせるか考えるようになり、疲労の原因を追求し、蓄積速度を落とせないか、蓄積量を減らせないかと考えた。

 一定速度を保てる時間が伸びたが、やはりいずれは崩れてしまう。

 では、どうするか。治すんだ。さすればまた速度に変動無しとなる。

 しかし、何が悪いのか魔法で治しても残ったままの疲労というものがありましてねぇ。

 それが今残っている課題だ。

 そうそう、調子に乗ると足元が疎かになることも知った。

 大事な気づきだと思う。


 さて、いくらか疲れが残り始めたところで次の舞台へ。

 淡々と庭を周回するところから始まるランニングはここでようやく変化を見せる。

 この一帯を無尽蔵に動き回るんだ。

 もはやランニングではないが、鍛錬名が分からないので“ランニング”としている。

 三次元の動きも出てくるが、なんでもいいだろう。


 これが想像以上に楽しいんだ。

 まさか自分がこんな異次元の動きをできるとは想像だにしなかった。

 ゲームやアニメ、映画の世界だ。

 あれもこれもやってみたいと思う度に身体は勝手に動き出す。

 柔軟性の大切さをひしひしと感じるね。

 

 反転し弾丸のように…という理想を思い描き、身を低くしながら翻り、前へ飛ぶ。


(んー、微妙だ)


 タイミングが合わず、地面を蹴る力が不十分となってしまった。

 使うのは足のバネだけではなく、全身を。それと風魔法。

 あるとき思ったんだ。風で勢いを増せばこの身での限界速度を凌駕できるのではと。

 自分を押し出す。足の裏に風を発生させる。風に乗り駆ける。

 様々な方法を試しながら自分に合わせていく。

 

 行なって初めて浮上する問題も多い。

 風の調整が難しく勢いがつきすぎて前に吹き飛んだり、想定外の速さに上手く曲がれずすっ転んだり、想定の着地点とズレが生じ足首をやったり…本当にたくさんある。


「いけるか…」


 今度は高さのついた動きに変わっていく。

 この勢いを操るんだ。前ではなく斜め上へ。

 速度も力も調整し、踏み込み、飛び、崖を頼りに宙へ飛び出しながらも回転、着地、即座に身を翻しあそこへ…

 着地後の静止時間をコンマ1秒でも減らしたい。

 全ての動きが一連となるように。

 動作ごとに点が打たれることなく、始まりから終わりまで一糸であれと意識するようになった。

 なめらかにすべらかに、水流のように、風のように…


「いくか」


 また上を見据え高く飛ぶ。

 魔法で生み出した足場を頼りに庭の上を動き回る。

 この鍛錬を思いついた当初は石の足場だけであった。

 しかし、途中から魔力の足場、岩、氷と増えていったんだ。

 いつも望む足場であるわけがない。

 どのような土地でも動けるようにと、様々な形状で様々な大きさで、生み出しては足掛けに。

 もっと足場の種類を増やしたいと考えているところだ。


 これを初めて行なったとき、楽しくて楽しくて家より高い位置まで到達してしまった。

 そこでようやくどうやって降りようかと悩み、やはり足場を利用してなんとか庭に着地したんだ。

 背中からね。途中で足を滑らせ落下してしまったんだ。


 その際に思ったね。馬鹿野郎と。打ちどころが悪ければ即死じゃないかと。

 故にそこからは落下した場合や吹き飛んだ場合の身の守り方も考えるようになった。

 なので、まぁ、いい経験となったと言えよう。

 大きな痛みのなかでも治癒回復魔法を使えると知れたのも良かったね。


「あ…」


 本日も足元が滑りそこそこの高さから落ちていく…

 似たような景色を見たことがある。何度も。

 大抵、空の高さは変わらないなぁと思うんだ。

 衝撃に備えないとね。


「ぐっ…」


(痛い…早く…)


 内臓が潰れた気がする。治し治し。

 大丈夫。落ちても死なない。

 死を回避すべく策を興じた上で落下に抗わなかった。

 痛むなかでも戦えないといけないんだ。

 本当はこんなことしたくないけれど、生きる為には必要だと思う。


「あー」


 草原に背を預けたまま目を閉じる。

 本日は雨。足場が滑りやすくなると分かった上で動いていた。

 落ちるつもりはなかったのだが、上手いこといかないねぇ。

 ゴツゴツとした勇ましい岩がまだ空を背景に空中で静止している。

 そのうち落下するだろう。

 私に直撃することはないので問題ない。

 白い服は何色に染まっているのだろうか…


(白い服に赤い染みは取れないんだよねぇ…)


 洗濯が大変だ。

 こんな日は乾かないからそれも不満である。

 部屋干し臭とは何をしても生まれるよねぇ。


(雨かぁ…)


 水音が耳を支配する。

 ザーザーと…地面を打つ音、森を打つ音、青い屋根を打つ音…

 どこからか雫が滴り落ちる音も。何かが地を這う音も…


「………」


 なんとか気配を消す。できているのかは分からない。

 この空間にスルスルと入り込んできた生物がいると分かる。


(蛇だ…あれは…)


 静かに首を回し薄目で確認しようとしたけれど、地面に背中を向けた状態では瞳に映すことができなかった。

 私から距離はある。こちらに向かってきてもいない。

 おそらくただの通り道。だから大丈夫。

 邪魔する気はないのだと存在感を薄めることで示せないだろうか…


(あれも魔物か…)


 姿を目で捉えることはできずとも、シルエットやどのような魔法を使いそうかは分かるんだ。

 そして、核を有していればそれも分かる。

 魔力感知の感度を上げるべく頑張った成果がこれかな。

 そのせいで恐怖も増すけどね。


「ふぅ…」


 森からここへ入り込み、また別の箇所から森へ入っていった。

 やはりこの場にも生物は入り込める。

 それは分かっていた。以前にも似たようなことがあったからね。


(何やってんだろ…)


 高く跳ねていたかと思えば地面と一体になるかのように横たわり息を潜める。

 どちらも生きる為の行いだ。


(どんな人生だよ…)


 こんな人生知らない。肌に当たる雨は冷たい。

 こうして堕ちることもある。

 心が軋むような堕ち方のときもあれば、心地良さすら感じるときも。

 今はどちらかと言えば後者かな。

 雨の世界をただ感じるだけというのもいいと思えるんだ。


(痛いか、さすがに)


 瞼を上げれば雨が目に入った。

 普通に痛いのでまた瞼を下ろし水の世界に浸る。


「………ふっ」


 砂漠に埋められた花びらを見つけ出し、素水さみずを遥か上空から一滴点じ潤す。

 どんな言い回しだよ。

 無理に言葉を並べたような文面だ。

 息を漏らすように笑いながら上空から点じられた水々《みずみず》に打たれる。


(潤わないなぁ)


 内から水が出てしまうばかりだ。

 誰か傘を差してよね。


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