43.収納の活用方法
再度玄関先の階段に腰を下ろし考える。
森や大気の気配を感じながら。
サンドイッチを食べながら。
レタスがシャッキシャキで美味しいんだ。
さっそくお皿が大活躍だね。
木箱をテーブル代わりにだってできる。
それはさておき、異空間を所持することで何ができるか考えましょう。
まず、分かっていることは物の出し入れが可能だということ。
となると、何を収納できるのかが気になってくる。
物は可能だとして、魔法や生物はどうなのだろうか。
魔法から考えていこう。
視線の先で収納の入口を開く。
そんなイメージを持った後、そこに向けてブドウ水球を放った。
「あら…」
何かに弾かれた様子を見せた後、地面に当たり形を崩した。
パシャッと音が鳴り水らしくわずかな範囲を濡らし染み込んでいく。
これは収納不可と言えるだろう。
念の為、大きさや強度、温度を変え試してみる。
十数個の水球全てが異空間に突入できなかった。
「んー」
石だとどうだろう?
先程作業部屋では私が生み出した石を入れられたけれど…
「あれ?」
これまた形や大きさなどを変えて放ったがどれもが草の上に転がる結果となった。
これはおかしい。
(意識の問題?魔法と思えば収納できなくて、物と思えば入れられるとか?)
「違うのかなぁ」
掌に生み出した石を収納しようとしたのだが、今度はそれもできなくなった。
人が触れると何かが変わるのかと地面に生み出した石を木製のトングのような物で挟み収納を願う。
「あれ?今度は入るの?なんでぇ?」
作業部屋にて私が生み出した石は収納可能。
ここで生み出した石は不可能。
放った石も不可。
物を使い入れようとすれば収納可能。
水球だっておかしい。
容器に入れた水はそのまま入るのに私が放った水は入れないなんてこれ如何に。
(何が違う?何を弾いている?)
水球や石、土球を放ち目を凝らす。
落ちている石を収納するべくそちらにも意識を割きながら。
(魔力を受け付けないのかな?いや、でも…)
魔石には魔力が内包されている。
魔草花だってそうだ。
なんだったら物にだってある。
全ての物がではないけれど、魔力を抱える物は多い。
だから異空間に魔力を入れられないということはないはず。
これはお手上げか?一旦保留にしよう。
(異空間に収納可能なものについて…か)
保留にしたものも多い。
黒板の“やりたいこと”と名付けられた自由欄に書くか迷うね。
書いたところで、追求したところで、最後に虚しくなるのではねぇ…
チーズトーストを食べるのとは話が違う。
(保留だ。次だ次。えぇっと…)
収納可能か否かの分類がきちんとできない。
荷物に関しては収納可能と分かっているので問題ないとして、懸念すべきは、人は自分の異空間に他人の魔法を入れられるかもしれないということ。
もし、それが可能ならば色々と考え直さなければいけないかもしれない。
“かも”が多くて嫌になるね。
(どうしたものか…武器だって…)
そうだ。魔法は分からないけれど、人が手にしている武器を収納することは可能と分かっている。
それならば武器を持って戦う意味はなんだ?
「んー………あ!」
物によって収納の際に必要な魔力の量が違う。
人が容易に収納できない武器というものが作られているのかもしれない。
収納するのに膨大な魔力を必要とする武器とか?
とりあえず、引き続き武器を向けられることを想定していた方がいいだろう。
あとは、武器を奪われた際にも戦えるようにだね。
これで魔法も同時に使用不可にされたら困る。
(逃げの一手か)
それも鍛えよう。元々逃げる方法もしっかりと細部まで考えるつもりだった。
転移もそのひとつだしね。
私は弱い上に何も知らないから勝てる見込みの方が少ないんだ。
とにかく逃げ延びること。それが誰よりも得意となりたいものだ。
(無様なのかな?ダサいと言われるのかな?)
馬鹿言うな。死なないことが大事だ。
プライドなんて命を守れないよ。
とわざわざ語ると言うことは自分でもダサいと思っているのだろう。
とはいえ、深く気に病むほどでもない。
別に逃げたっていいじゃないか。防御だよ防御。
(さて、切り替えよう)
人が魔法を収納できるのかという点はこれまた人の様子を窺い知るしかないかな。
今は自分の魔法が届かない可能性も頭に入れて鍛錬を続けよう。
もし、収納可能だとしても弾数が多ければ頭が追いつかず被弾するという可能性がある。
(お、そうかもね。うんうん)
となると、私は瞬時に複数同時に把握し、しまえるようになっておこう。
魔法は入れられないので物で鍛錬だ。
それと、魔法を複数展開できるようになるんだ。
数がものを言うことだってあるかもしれないからね。
今でも可能だが、まだまだ数が少ない。
とにかくたくさん。理想は空を覆い隠すほどの数を。
(いいね)
ひとつでも策を練ることができたのは嬉しい。
魔法の収納については一旦区切りとし、次にいこう。
続くのは生物を収納可能なのかについてだ。
魔物の素材は収納できるので不可能と言い切れない。
まずは自分で試そう。
「あー、そうなんだぁ…」
自分の手先が何かに弾かれた。
目の先に開いた状態の収納を置き、手を伸ばしたんだ。
指で突いても掌を当てても反発を受ける。
足も頭も同じ。
何度も繰り返せるのは弾かれる際に何か奪われるような感覚がないから。
不快感も不調なく、ただ、わずかに反発を受けるだけ。
弾かれるとは少し違うかもしれない。
開かれた収納の出入口に手が当たるとポンっと軽く押し返される。
その小さな小さな反動で当てがった部分が手前に戻るんだ。
意識を強く持てば受ける反動を少し抑えることは可能。
「んー」
面白くてつい繰り返してしまう。
ツンッ…ツンッ…そっと当てても手前に…
張りのあるプクプクほっぺたを触っているかのようだ。
手触りなんかは全く違うけれど、そのような反発感というかねぇ。
「虚しい…けど…」
やめられない。
指先の動きは放っておこう。
(人は収納不可と思っていいのかな?)
しかし、魔物の素材は可能。
それを踏まえると生きていれば不可能と考えられる。
視界に収まる草原のとある1本を収納できないのは大地に根付いた状態を生きていると言うからではなく、単に全貌を把握できていないからだと思う。
となると、“生きている”とはなんだとなってくるが…
(心臓?血の巡り?)
植物には血が流れていない。だけど、内部を水が流れていると思う。
何かが流れていれば“生きている”と見做されるわけではないのかな。
血でないといけないのか、やはり脈打っているかどうかなのか…
(まぁ、そこはいっか)
とにかく、命燃ゆる者は収納不可能。
そうでないと恐ろしすぎるね。
生きた生物すら収納可能ではカオスすぎる。
人を警戒しようがなくなる。
ムカつくからしまっちゃおうとかできたらやばいだろう。
(まぁ、生きた生物を収納可能なら戦わなくていいから楽だけどさぁ)
あの猪を即座に消せると思えば安心は大きい。
なんてそう上手くいく訳がない。
もし、可能だったとしたら私は人と出会い頭に即刻死か?
相手の方が行動は早いだろう。
一応、これもまた人を見つけ次第、隠れて確認した方がいい内容だ。
現状では、収納に魔法を入れられるかは不明。
生きている生物はおそらく不可能。
そう思っておきましょう。
「あれ?」
魔道食料庫は私の手を弾かない…
「え?」
サッと青褪めた。今度こそ。
ダメダメ。微笑み〜。
なんてやってる場合じゃない。
サッと立ち上がり急いでキッチンに向かう。
「いてっ…もう…」
石段に足を取られたのはこの身体のせいだ。
私のせいじゃないよ?扱いに慣れてないってだけ。
扉に正面から張り付くような形になったのはそんな理由だ。
とっとと行けよなぁ。ったくさぁ…




