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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
42/66

42. 空間を所持するということ

「便利な世の中だ」


 新空間に物を入れられた。取り出しも可能。

 場所を取らず、手間もそうかからないだなんて誰しもが羨むことだろう。

 とんでもない面積を誇る収納BOXと歩けるなんて最高かよ。


(新空間…収納空間…面倒だから“収納”でいっか)


 鞄とも違うので私はこの機能を“収納”と呼ぶことにした。

 内心でしか話題に上がらないし問題ないよね。


 さて、今はキッチンにある食料や食器を使い収納の理解を深めているところだ。

 収納を使用するには都度魔力を必要とする。入れる際も出す際もだ。

 作ってしまえば後は鞄感覚でとならず少々驚きがあるものの困ったことにはなっていない。

 今のところ物の出し入れで減少した魔力は全て5秒以下で自然回復している。

 というのも、物によって奪われる魔力の量に違いがあるように感じるんだ。

 大きいほどにというのは納得できる。

 だけど、同じような形と大きさの器でも素材によって差が出ることには驚く。

 どの素材ならば魔力を多く必要とするのか、どれならば少なく済むのか、それを調べ尽くすのもさぞ楽しいだろう。


「あ…」


 隙間時間に行うならいいんじゃない?と思えるものが増えてしまった。

 それはそれでいいとして、作業部屋へ移動しましょう。

 そちらでも収納作業を繰り返す。


 植物は種類によりけり。

 “おぉっ”と冷静に声が漏れる量だけ魔力を奪われるものもあれば、減った気がしないのもある。


 石は石でも魔石は他と比べて出し入れに必要な魔力が多め。

 大きな肉の塊よりも必要量は多いときた。

 庭先に元々落ちていた石はそうでもない。

 私が生み出した石に関しては出し入れの際に魔力の減少を感じ取れなかった。

 これは自身が内包する魔力を正確に捉えられていないからなのか、魔力無しで出し入れ可能なのか、まだ分からない。


 大きなテーブルよりも小さな魔道具の方が魔力の減りは多い。

 鉄よりもミスリルの方が少なく済む。


 あちこち移動し入れては出して、出しては入れてを繰り返した。

 操作もルールも単純なゲームにのめり込んでいるかのように。

 ついつい次から次へと時間を忘れてねぇ。

 困ったものだ。

 なんて言いつつ大して気にしていない。


 全てにおいて言えるのは、そこまで魔力を必要としないということ。

 あくまで比べれば差が現れるというだけだ。

 これならば物を好きなだけ持ち歩ける。

 不要かもしれないと思うものさえとりあえず入れとけとなるだろう。

 問題は何を所持しているか把握できなくなりそうだということ。


(まぁ、そこはね?なんとか持ちこたえよう)


 収納をそこに出した後、何が入ってたっけと探ればズラぁーっと流れ込んでくるんだ。

 かつて魔道食料庫の中身を知ろうとしたときのように。


(というか、同じか。ん?あれは魔道具だから…陣か)


 今回私が作り上げた収納と似て非なるものだ。

 魔道食料庫はあくまで魔道具。

 私のこれは魔法。


 魔道食料庫だと手を突っ込みあの野菜をと思い浮かべればそれが手に当たる。

 魔法で作られた収納は違う。

 まず、所持している収納BOXをこの空間に現す。

 あくまでそうしたつもり。瞳に映ることはない。

 その後、あれをここに出すと脳内で指定する。

 何を何処に出すのか両者とも明確でないといけない。

 魔法を宙に顕現させるときと似ているね。

 

 しまうときは簡単と言えば簡単だけど、考え無しにできるものでもない。

 これを私の収納棚にしまう、あれをあの棚に入れる。

 そんな風に思えばいいだけだ。さすれば音も無く、スッと消える。

 だけど、収納したい物の形や大きさ、位置を把握していないといけないみたい。

 逆を言えば全貌が見えていなくとも収納は可能。

 今はできないけれど、いずれは椅子の陰になって見えないペンだって動かずに収納可能となるだろう。

 位置と形と大きさをインプットすればね。


 いやはや収納も奥が深いんだね。

 しかし、これにて荷物問題は解決だ。

 早速物を収納していこう。


(ここだと…)


 この作業部屋にあるものの多くはこの場にあってほしい。

 だから、ここから持ち出す物は少ない。

 ポーションは自分が製作した物1本ずつだけこの部屋に残す。

 師匠が製作した物は1本ずつを所持するんだ。

 お守りだね。


(こんなとこかなぁ)


 後は必要だと思った際に収納しに来よう。 

 続いてキッチンへ。

 さっきやれよと笑っちゃうね。




***




 食器類は棚に無くともいい。

 棚から取り出すよりもこの収納から出した方が手っ取り早いし楽だ。

 料理中に場を離れることなくお皿を出せるなんて感動で手元が狂うね。


 食器棚ごと収納し、その中のお皿だけを取り出せないかと試してみれば、見事にできた。

 単体収納したお皿を取り出すよりも一手間多いが問題ない。

 箱だろうと袋だろうと、中身だけを取り出したいならカテゴリーをひとつ展開する必要がある。

 言葉で説明すると一手間に思うが、要する時間は1秒にも満たないので手間ですらない。

 脳内完結だしね。


(しかし…)


 収納した棚を元の位置に出す。

 そして中の食器だけをしまっていく。

 このキッチン内にある棚はそのままここにあってくれ。

 せめてね。


 それにしても、食器棚をしまった際は中身だけがキッチンに残るというわけではないんだね。

 元々、中に物があると知りながら収納したからかな?

 中身をある程度把握していたことも関係するのかもしれない。


(となると…)


 思った通り魔道食料庫はしまえなかった。

 しかし、引き出しの多い棚はしまえるという不思議。

 謎が生まれすぎだ。


(家は無理でも小屋ならしまえそう)


 何故そう思えたのか理解不能だ。

 今は調べようがないので人里で思い出したときにでも試してみよう。

 とにかく今は食料をしまうのに忙しい。

 食料庫から取り出しては収納していくんだ。

 なんとなくこの食料庫内にも残しておきたいのでそのつもりで。

 棚にある調味料やハーブ、粉類やお米も収納収納。


(物置部屋もか)


 これだけあれば安心だろうと思えたところで移動開始。

 作業部屋にいたときにまずそっちを思い浮かべろよとこれまた笑っちゃうね。

 忙しない奴だ。




***




 物で溢れる場所にやってきた。

 ここでは主に木箱と木材と扱えそうな武器類を収納していく。

 麻袋を雑に詰め込んだ樽があるのでそれは樽ごとだね。


(あ、石の回収が楽になるね)


 収納した後日はそれを手に出して投擲すればいい。

 これはかなり使い勝手のいいやり方かもしれない。


(あれ?これって人が持ってる…)


「………」


 人の持ち物を奪えてしまうのではないだろうか。

 私が思い浮かんだのは武器だけど、その他のものだって。


(え?どうするの?)


 よく考えればこの魔法を他の人が使えてもおかしくない。

 私でさえこうも簡単に使えたのだから。

 魔法が存在する世界なんだ。

 運搬方法に魔法が組み込まれていて当然なのでは?


(日常のなかにあるのかもしれない…)


 それならば街中では使用不可となっているか、使用できないようにする仕組みが出来上がっているのでは?

 例えば、魔法を使用不可能にする魔道具とか薬とか…

 だって、そうでなければ危険すぎる。

 なんでも入れられるんだ。


(毒は?爆弾は?武器だって所持数に制限があってもおかしくないし…)


 何に恐怖を覚えればいいのか分からず身震いもできなかった。

 ただ、もしかしたら私は今、青褪めているかもしれない。


(転移もそうだ…)


 あれを悪用する方法なんて少し考えれば思い浮かぶ。

 何かあったら転移で逃げればと思っていたけれど、追跡装置が既にあるかもしれない。


(どんな世界なんだろう…)


 島を出た先で待ち受けている人の世はどのような世界なのだろう。

 もしもこの島を出る日が来たならば、もしも国や街に入ることがあるならば、人や街を確認しなければ。

 異空間を所持しているかどうか、転移が可能なのかどうか、何か規制があるのかどうか…


(そこはここを出てから確認するしかないか…)


 慎重に事を進めなければいけない。

 しかし、今はまず、それ以前のことに時間を割くべきだ。


(いや、でも…)


 この異空間で何ができるのか考え、それに向けた対策を練った方がいいだろう。

 いい活用方法を見出せれば自分も助かる。


(なんとか私だから思いつく使い方があればいいのに…)


 島を出て人里を見ないことには独自の発想なのか確認が取れない。

 困ったものだね。

 微笑みながら眉を下げる姿は随分と情けないだろう。


 部屋を出て回路を歩き階段を降りる。

 向かうは玄関扉の先だ。

 心に陰りを帯びながらも警戒を怠らない。

 それを身につけるには今こそ外へ。

 せっかくの機会を無駄にするのは勿体無いからね。


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