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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
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41.秋晴れに新空間と酸味を少々

 黒板を使い己に目標を教え込んだあの日から数日が経過した。

 当然だが、その間にも鍛錬は欠かさなかった。

 武術はもちろんのこと、筋トレやランニング、柔軟に身体の扱い。

 魔法や魔力だってそうだ。

 普段の生活に取り込むことで操作技術を上げていく。


 書庫から知識を得ることも忘れない。

 書の中に師匠とあの青い小鳥さんの気配を感じることがままあった。

 そのときは大抵、呆れるか心がほわっと暖かくなるかだ。

 尊敬が生まれることもあったね。

 そうして過ごす合間には温度を気にしたり、薬や料理作りに精を出したりと隙間時間が埋まる。

 そのどれもが意図せず魔法の訓練になったことは喜ばしい。

 

 そんな風に目まぐるしい日々を過ごすなかで恐怖にかられることも多かった。

 新たなことを知れば、皆はとっくに知っているのだろうと嘆く。

 何かできるようになっても同じで、そんなときは空を探した。

 外だとすぐに見つけられるね。


(今日は秋晴れ…かな?)


 なんとなく秋という感じがする。

 季節という概念がこの世界にあるのかは分からない。

 調べれば何かしら出てくるのかもしれないけれど、その為にわざわざ書庫へとはならないね。


(青空ねぇ…水色なのに青空)


 首を上に傾ければ青い空が視界を埋め尽くす。

 もちろん森の一部なんかも見えているけれど、そう思うんだ。


「さてと」


 腰を下ろすのは玄関先の階段。

 今日はここに座りたい気分なんだ。

 いつもは草原がお尻に敷かれるけれど、硬い石段に腰掛けるのもいいね。


 これから何をするのかというと荷物問題の解決に向けた行動だ。

 日々思う。荷物制限があるのはきついと。


 森に入る際に持っていくべき物は何か。

 そう考えた途端、脳内に候補が溢れる。

 武器や薬はなんとか腰に括り付けるなりするとしても、1本だけでは心許ない。

 予備も持ち歩きたいし、食料は多めに確保しておかないと。

 鞄ひとつでは荷物の選定に何日かかることやら…。


 転移を覚えてから森に入れば、そこまでの準備はいらない。

 だけどそれでは遅すぎる。

 転移陣を描けるまでになることと戦闘訓練は同時に進めたい。


 島を出た後のことを考えても荷物を多めに所持しておくのがいいと思う。

 そちらに関しては転移可能となってからだが、だからと言って荷物を制限するのは怖い。

 すぐに転移を使用できない場合があるかもしれない。

 どのような事態に陥りそうか予想も立てられないのであれば、せめて準備を万全にしないと。

 それが最低限必要なことだと思う。


 森に入ることや島の外でのこと以外にも普段のなかで便利さを求めるときがある。

 薬を持ち歩くには準備が必要だと思った。

 武器を抱えて移動することに違和感を覚える。

 作り置きをしても家に置いておくしかない。

 黒板を運び出すのに苦労した。

 こうして並べるとやはり少しでも楽できる方法を探した方がいいと思うんだ。

 物不足や物運びで苦労したくない。

 ただでさえ苦労が多いんだ。

 払える懸念ならば払っておきたい。


 解決策はないかと考えるなかで目が行ったのは魔道食料庫だ。

 簡単に言えばあれの小さいバージョンを持ち歩ければいい。

 だってあれは魔法により空間が広げられているらしいじゃないか。

 欲しい。可能ならば鞄型で。

 欲を言えば鞄すら持ちたくない。

 なんてあれこれ考えている最中さなかに“魔法で新たに空間を作り”という文面を思い出した。

 書庫に続く廊下を歩んでいた際の出来事である。


 あのときは窓から外を見ていた。

 世界から見ればきっとこの家は小さくて、だけど、中は想像以上に物で溢れていて…

 とかなんとか考えつつ向かう先を思い、そこに転移扉があったと掠め…

 と、そんな風に考えは繋がるんだ。


 話が逸れたね。

 今から何をするつもりなのかというと、自分は空間を新たに作れるのか調べるんだ。

 そして可能だった場合、物の出し入れは可能なのか確認する。

 もうこれができたら夢のようだ。

 荷物を持ち歩かなくていい。いや、持ち歩いてはいる。

 けれど、手ぶらなんだ。


(最高かよ!)


 そんな馬鹿げたことが可能なのかと言うことなかれ。

 空想が現実となるのがこの世界。

 何ができても何ができなくても納得することだろう。

 物は試しだ。


(やってみよう!)


 結果。できた。

 スムーズに事が進み怖いぐらいだ。


(これまた実感が湧かないなぁ)


 自分はアッサリできてしまうと不服なようだ。

 薬製作然り、新空間誕生然り。

 土鍋での米炊きこそこうであってほしかった。

 とはいえ、全く苦労が無かったわけではない。

 多くの魔力とそこそこの時間を使ったんだ。


 新空間の作り方は簡単だった。

 自分が思う空間というものを思い浮かべ、それを生み出すつもりで魔力を放出するのみ。

 ここで脳内を汲み取る力が思う存分発揮された。

 始めは真っ暗な四角い箱の中にいる感覚を思い浮かべた。

 しかし、すぐに星が散りばめられた宇宙に切り替わり、その宇宙を球体に閉じ込め広さを明確にした。

 つもりである。

 広いと言えば体育館。いやいや、この場所だって広いよね。

 リンゴ狩りをした農園はなかなかの規模であった。

 あの範囲に物を置けるならば相当だろう。

 しかも高さもあれば尚の事。

 高いと言えば山だけど、今度は高さが明確ではない。


 なんてあれこれ考えている間に私が思う空間は広くなったり狭くなったりしていた。

 それが分かるとは摩訶不思議。


 とにかく広ければいい。

 時が止まっていればもっといい。静止画だね。静止画。


 弾力のある球体の内部にあるのは宇宙とヒマラヤ。

 リンゴ農園がポツンと。あの湖がポツンと。

 今度は衛星写真のようだと思ったものだね。


 その間ずっと魔力は放出され続けていた。

 このままではいかんと放出量を抑え、自然治癒量と同じだけ出そうと。

 おそらくこのぐらいという曖昧ではあったものの、心身共に不調なく終えられたね。


(どこにあるのかなぁ)


 苦労の末に完成した新空間は当然目視できない。

 手を伸ばしても庭先を歩き回っても気配すら感じられなかった。

 存在する次元が違うのかもしれない。


(異次元ってなんだろうなぁ…異空間とは違う?)


 なんてことは一旦置いといて、いつの間にか作り口にしていたレモンスムージーを片手にキッチンへ。

 今日は少し甘みが欲しいのでお砂糖を加えようと思ってね。

 作られた空間に物を入れられるのか試すにもちょうどいいだろう。

 ちなみにレモンスムージーが入っているのは魔力で作られたコップだ。

 これはいずれ消えてしまうのでそれを踏まえて使用する必要がある。

 コップを持ち歩けたらいいのになぁ。


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