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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
37/66

37.塩味のおむすび

 己に降り注ぐ水音を聞きながら汗を流してきた。

 スッキリしたところでレモン水を作るべくキッチンに足を運んだ。

 何やってんのと言わないで。すぐに終わるから。


 魔力ミキサーを水で満たし、浄化。

 いくつかのレモンを切りそして絞る。

 お砂糖を少々、蓋をして回転刃登場。

 棚に並ぶミスリル製の水差しを取り出しまして、ミキサーの下に。

 そして、ミキサーを覆うように新たな製品を発現。

 ミキサーの下に漏斗をくっつけたようなやつ。

 下部の先端が水差しの中に入る位置に置くのが大切だ。

 最後に製作に使用した…


(あ、消せない)


 魔力が魔力で覆われているんだ。

 内部からだけ魔力を戻すなんて行なったことがない。

 見切り発車はいけないね。

 しかし、慌てるようなことでもない。


 水差しを一旦避けて大きめのボウルを置く。

 そして2つのミキサーを消して、ボウルに落ちた中身を水差しへ。

 たくさん作り置きしていつでも飲めるようにしておこうと思ったのだけど、もう少しやり方を整えてからにしよう。


(魔力を動かせたらいいのにね)


 要は一度発現した魔法の形を変えたいんだ。

 その辺も後で考えましょう。

 今は料理に集中、集中。


(何を作ろうかなぁ)


 もうここまできたら作り置きをたくさん作ってもいいかもしれない。

 きっとこれからも私は食事を疎かにする。

 食事は大切と言っておきながらこの有り様だ。

 それに、毎日毎日、毎食毎食作るなんて面倒極まりない。

 自分の為にそんなことをする気力が湧かないんだ。


(うん。お腹が痛いだけで空腹ではない)


 とか言いつつ梨を食う。

 今回は作りながら栄養補給をするということで。

 味見もするだろうしね。

 というわけで、何を作るか考えましょう。

 このキッチンにあるもので作れる料理となるとかなり絞られるので道は困難かもしれない。


(えぇっと…)


 手っ取り早くたくさんの栄養を摂るとなるとスープが真っ先に思い浮かぶ。

 昼夜問わず胃は受け付けるだろう。

 数種類を大量生産したいところだね。

 お味噌汁やお吸い物を除外して考えなければいけないのが悲しい。

 その上、コンソメも中華スープの素も出汁も無いとは致命的だ。


(作れる気がしないしなぁ…)


 なんかお肉や骨や野菜を煮込んで出汁とすればいいのかな?

 それだと味が薄そうだけど…

 入れると一気に味の濃さが増すよね。

 コンソメと中華スープの素って。


(あれ?2つとも鶏ガラ?違うっけ?原材料を見ないよねぇ)


 とりあえず、色々煮込んでみてその味から何かを掴もうか。

 使われていそうな材料や確か入っていたと思われる食材を集める。


(パセリって入ってたっけ?入れてみるか)


 大きな寸胴鍋を取り出しコンロに乗せた。

 そこに水、鶏ガラ(ケイラバード)、玉ねぎ、人参、セロリ、ローリエ、パセリを入れ火にかける。

 あとは時々アクを取りながら煮込むるだけ。

 果たして何が完成するのか…


(もうこれに塩胡椒でスープだけどねぇ)


 なんだったらそのままスープとして保管してもいい。

 続いてまたしても寸胴鍋をコンロに置いた。

 これで具沢山のトマトスープを作るんだ。

 ミネストローネと言えないのはパスタがないから。

 パスタは小麦粉を練って茹でればいいというものではないのだろう。

 それを作れたら料理の幅は広がるが、研究するかは未定だ。

 今は具沢山のトマトスープを作るんだ。

 色々切ってオリーブオイルで炒めて水を加え煮る。

 味の調整は最後だね。


(あとは…魚介ベースのスープの素ってないっけ?中華スープの素はそれ?)


 分からないので魚介ベースのスープを作ってみよう。

 材料はなんとなくで選んでいくしかない。

 聞いたことのない名前や見たことのない食材が多いからね。

 ホタテに似ているけれど味や食感も同じとは限らないといったものも多い。


(炒めなくていいかな?あ…乾燥と粉砕できそうだねぇ)


 集めた食材を見て思った。

 素というからには本当は粉状が望ましい。

 そうならないか試してみましょう。

 まずは全てに浄化をかけまくる。

 衛生管理は徹底しないとね。

 まぁ、お腹を壊しても治せるから問題ない。


 そして、食材全てを個別に乾燥粉砕していく。


 ・スカラップ(ホタテを10倍大きくしたような貝)の貝柱

 ・レッドプローン(赤い大きいエビ)

 ・ブランタケ(きのこ)

 ・長ネギ

 ・生姜


(確か色違いもあったよねぇ)


 レッドプローンの色違いがあった気がする。

 魔道食料庫を探せば開いた段でちょうど見つけられた。

 もちろんそれも乾燥粉砕だ。

 ちなみに名前はグリーンプローン。


 粉状にした食材全てをひとつのボウルに入れる。

 そしてコーラルソルトとホワルペッパーを加え混ぜ合わせれば完成だ。

 魔力ミキサーが便利すぎて感動を覚える。


(味見をしてみようか)


 ティーカップにお湯を出し、完成した粉を極小匙1杯入れる。

 掻き混ぜればすぐに溶けたね。

 ゆっくりと口に含めば…


(磯の香りだ…)


 始めに広がったのがそれ。

 中華スープの素とは違うけれど、魚介類の旨味がギュッと詰め込まれていて美味しい。

 海鮮スープの素と名付けたこれをたくさん作っておこう。

 ほとんどの行程が魔力ミキサーで終えられるので一度作ってしまえば二度目以降は速攻で終わる。

 さて、メインに取り掛かろう。


(何がいいかなぁ…)


 メニューを考える間にトマトスープの味を整え完成させた。

 もうひとつの方もだ。

 そちらはスープのベースにちょうどいい仕上がりとなった。

 ブイヤベースとはこれかもしれない。


(あ、お風呂にお湯を張らないと…)


 ふと思い出したので風呂場へ向かった。

 浴槽が大きいので溜まるまでに時間がかかるんだ。

 事前にやっておかないとね。




***




(お風呂♪お風呂♪)


 浴槽の内側に向かって伸びる蛇口に似た魔道具は赤い魔石に魔力を流すとお湯が、青い魔石に魔力を流すと水が出る仕組みだ。

 しかし、この場にあるシャワーは違う。

 ハンドルを回さないと水は出ないし、それとは別に温度設定用の回しもある。

 何故そうしたのか気になるところだ。


「あれ?」


 浴槽のそばに来たところで立ち止まった。

 私は先程ティーカップにお湯を出した。


「あれぇ?」


(そりゃ、出せるか)


 温かい水をお湯と呼んでいるだけで、水は水だ。

 冷たい水と常温の水を出せるならば、お湯だって出せるだろう。

 何が言いたいのかというと、入浴直前に浴槽を一瞬で満たせばいじゃないかってこと。

 それならばこうして事前に一度足を運ぶ必要はないし、溜め忘れもない。

 溜まるまでの時間を待つのが嫌だからとなることもなくなるね。

 自分が好むお風呂の温度を知らないので、今日はなんとなくで出そう。

 次はそこからヒントを得て適温のお湯を出せたらいいね。


「なぁんだ…あれ?あの魔道具いらなくね?」


(ま、何か理由があるのかもねぇ)


 風呂場の出入口で一度振り返ったが、すぐに前を向き直しキッチンへと戻った。




***

 



(さて、今度こそ作ろうか)


 まず最初に挽肉は作れるのか試すところからだ。

 これまで使っていた魔力ミキサーでできることは知っている。

 塊肉がミンチされた肉に様変わりだ。

 それは既に今、行っている。

 いくつかの魔力ミキサーを出し、数種類のお肉を各々投入してね。

 私が試したいのは粗挽き肉を用意できるのかということ。


 ミンサーなるものがあるのは知っているが、仕組みをそこまで理解していない。

 塊肉を入れてハンドルを回すか、電源ボタンを押すかでしょ?

 しかし、それを用意できないから困っている。

 単純な考えだが、目の細かい網に肉を置き、上から押せばできるとは思う。

 但し、網はかなりの強度が必要だろうし、純粋に腕力もしくは重みが必要だろう。


「んー」


 自分の身体を見てみるが、力があるようには思えない。

 脚力や動体視力なんかは上がったが、あちらの成人男性と比べて腕力はどうなのか…


(圧をかける方法かぁ…もしくはミンサー)


 保留だね。

 今回は魔力ミキサーでズタズタにされた挽肉を使おう。


(まぁ、充分か。あ、種作れるじゃん)


 これまたいくつかの魔力ミキサーを生み出しまして、挽肉を適量入れる。

 そして、玉ねぎやら卵やらも投入。そして、塩胡椒。


(つみれもか…)


 なんか良さげな魚型の魔物を雑に捌き身をミキサーへ。

 以下あれこれね。

 つみれ、ハンバーグ、つくね。

 完成した種を全て成形するのは大変なので今回使わない分は種のまま魔道食料庫に入れておこう。


(いいね、いいね)


 挽き肉が用意できたということで、コロッケとメンチカツも作っていく。

 こちらはパン粉をつけるところまで済ませ食料庫へ。

 食べたいときは揚げるだけでいいので大変助かるね。

 パン粉がなかったので食パンを乾燥し細かくしたものを使った。

 例に漏れず乾燥粉砕でいけたね。

 せっかくパン粉を用意したのでトンカツ、白身魚フライ、レッドプローンフライも製作だ。


「あちっ…」


 さっそくレッドプローンフライを食したんだ。

 見た目は大きい海老フライだね。

 なんとも弾力のある身だ。プリプリを通り越してるね。

 しかし、美味しい。


(お…尻尾も美味しい…)


 その間に数種類の魚を切り身にしていく。

 腕前は…あれっす。

 一部ボロボロになってしまったが、使い道はあるさ。

 いつかあら汁でも作ろう。


(あとは…手で食べられるものが欲しいね)


 お米を炊きましょう。3度目の挑戦だ。

 前回は柔らかく仕上がったのでお水を少し減らしましょう。

 あとは、沸騰したら弱火にします。だ。たぶん。

 今ふと思っただけ。


(合ってる?さぁねぇ)


 土鍋でのご飯炊きができるようになってから炊き込みご飯に…

 出汁がないので保留だ。

 お米を炊く間にサンドイッチを作りましょう。

 とりあえず、茹で卵を大量生成だ。

 続いて食パンを食べてみる。

 想像通りと言っていいのか、少々ハードだ。

 日本のものと比べてというだけで、こういう食パンも存在していたと思う。

 但し、味わいはおそらくこちらの方が強い。

 濃いと言えばいいのか、味わい深いと言えばいいのか。

 シンプルながらもパンの味がハッキリとしているというかねぇ。

 トースターがあればチーズを乗せて焼きたかった。


(ん?魔法でできるのか?)


 それには火を扱うのだろうか?

 となると、保留だね。

 まだ火魔法は自分に早い。


「………オーブンで…」


 コンロの下に大型のオーブンがある。

 だけど、これで食パン1枚だけを焼くのはいかがなものか…


(今度でいいか)


 これから作るサンドイッチの方を食べたい。

 チーズトーストはすぐに作れるしいつかでいいさ。


(あ、千切りキャベツが確か…)


 以前包丁の切れ味に感動して野菜をたくさん切ったことがある。

 玉ねぎのみじん切りもあったことを今思い出したが、そこはまた放置だ。

 今回取り出すのはキャベツの千切り。

 サンドイッチに使いましょう。

 コロッケやトンカツをパンで挟む際のお供にね。

 メンチカツも合うじゃないか。

 千切りキャベツの存在を思い出せた自分を褒めたい。

 本当はソースも欲しいところだが、無いものは無いんだ。

 サンドイッチを作るに当たり、マヨネーズがないのも痛手だね。

 卵を生で食べるのがまだ怖いし、確か酢を見かけていないので作れない。

 バターはあるのでそちらで代用すればいいだろう。


 バターとスクランブルエッグというシンプルなサンドイッチだって美味しいはずだ。

 あとは、定番BLTサンドかな。

 ベーコン・レタス・トマトは相性抜群。


「あ…お米できたかなぁ…お?」


 なかなかの出来栄えではなかろうか…

 スプーンで掬い食べてみる。


「んー」


 少しだけ口角が上がった。

 完璧とはいかないまでもかなりそれに近づいたんだ。

 ほんの少しだけ柔らかいというだけ。

 これならば次回に期待できるね。

 それと、この柔らかさならばおにぎりは作れる。


「んー」


 今度は眉が下がった。

 海苔もなければ、具材も多くは用意できないから。

 マーレトラウトを塩焼きし、解していく。

 ふた周り大きくした鮭に似たお魚です。

 今回は塩おむすびと、鮭おにぎりの2種類だ。


(あ、美味しい)


 塩おむすびが思いの外美味しかった。

 なんだかほっこりするね。

 塩の質がいいのだろう。お米自体もきっとそうなんだ。


「美味しいなぁ…っ…」


 言葉が詰まる。

 故郷の味に触れた気がして涙が滲むのはおかしな話だ。

 こんなに質の良い塩とお米で作られた物を食べていない。

 それに、塩おむすびを食べた記憶が少ない。


(でも…)


 日本を思い出すに充分な逸品だ。

 涙を零さないよう何かを抑え込みながら食べるとはおかしな話です。


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