表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/38

34.薬に魅せられた

 さて、今は深夜と呼べる時間。

 だけど、またもや黒髪の青年は気がついていない。

 今の彼はその辺のことが頭から抜け落ちている。

 すっかり薬作りに夢中なんだ。


─────


 無事に魔力ポーションを完成させることができた。

 このまま本命である中級に取り掛かりたいところだけど、もう少し解明に努めたい。

 不明点を多く残したまま進むのは良くない気がするんだ。

 材料に限りがあるならば失敗の可能性を減らしておくべきだね。

 階級が上がるほどに必要な材料は増えていくから。


 自ら完成させた下級魔力ポーションを中心に考えていこう。

 出来上がったポーションは品質Bという結果が出た。

 品質はF・E・D・C・B・A・Sの6つに分けられる。

 何故Aの次がSなのか。そこは放棄する。

 薬製作になんら影響が出ない箇所なのでね。


 品質Bがいいのか悪いのか分からない。

 最初からBとはなかなかの滑り出しだと思うものの他の方が作ってもこの辺りになるのかどうか…。

 時と共に質が落ちるからこそB以下の品質というものが出てくるのかもしれない。

 これまたそこはどうでもいい。

 他の人の滑り出しがどうであれ、私が作ったポーションの質は上から3番目だったという事実。

 となると、上の質を目指したくなるのだが、いかんせん何が影響してこの質となったのか分からない。

 改善しようにもそこが分からないではねぇ。


 今分かっている品質低下の要因があるのでそこを見直してみようか。

 同時に不明点も書き出そう。


 ・水温を気にしなかった。

 ・どの材料においても分量が不確か。

 ・何がどうなった瞬間に完成となるのか不明。

 ・魔力の加え方に問題あり?


 こんなところだろうか。


「んー」


 既に魔法薬製作にまつわるノートと化している紺色のそれに視線を落としながら唸る。

 書き出せそうなことが他にもありそうだが、今はここでペンを止めてもいいだろう。

 手にしていた万年筆に蓋をしてテーブルに置いた。


(不確定要素が多すぎるなぁ)


 改めて整理するとより一層分かりやすくなった。

 だけど、品質向上を目指さないという考えはない。


(何をすればいいのかなぁ。単純に考えて、試行錯誤の繰り返しかなぁ)


 このポーションを基準にしようか。

 初めて作った薬の分量や作り方を基に、ひとつだけ何かを変えて製作する。

 そしてまた基から別のひとつを変えて製作。

 それを繰り返し、どこで品質低下となるのか、何が品質を下げる原因となっているのか解明していこう。

 道のりは長いだろう。だけど、今私の心はワクワクしている。

 解明改善するのも楽しそうだ。


 とはいえ、情報が少なすぎるのは問題だ。

 あまりにも取っ掛かりが掴めないでは困難の中の困難だと思う。

 現時点で情報を増やせないだろうか。


(綺麗なことしか分からないなぁ)


 あとは緑色の煌めく液体だということ。

 魔力を回復できる薬だということ。

 品質はB。


 この魔力ポーションの情報だって少なすぎる。

 いったいどれほどの量回復できるのやら。

 なんとなく不安が残るから下級ではなく中級をそばに置いて魔力操作の鍛錬に取り掛かろうと思った次第だ。

 だけど、明確に回復量が分かった方が安心できる。


(鑑定でいけないかなぁ)


 もっとこのポーションのことを知りたい。

 魔力回復量は?水量は合ってる?

 温度ってどうすればいいんだろう。

 品質は分かったけど、どれがどれ?

 美味しいのかなぁ…


 なんてあれこれ考える。

 脳内は自由奔放と言えるだろう。


────────────────

【下級魔力ポーション】


 品質:B


 魔力を1.6割回復する。


 《材料》

  魔力:++

  魔石…品質:C

  カトレアの花弁…品質:B

  聖水…品質:A、水温:+5℃

────────────────


「………もう師匠と呼びたい」


 思わず目元を覆ったが、変わらず情報は提示されたままなんだ。

 私が困っていれば手を差し伸べてくれる方だ。

 ちょっと甘やかしすぎとも思うけれど、私は甘んじて甘える。


「何言ってんの?」


 パッと顔をあげればそこには煌めく薬が静かにおられた。

 未だ室内の照明は落とされたままで、だからこそより存在感を強めている。


(頭おかしくなってる?自分)


 何にでも気が向くどころか、物によっては重鎮扱いというか…


(いや、なんでもいいだろう)


 先程も似たようなことを考えたけれど、今の自分が何を思い何を考えたっていい。

 何を支えとし励もうとするかは自由だ。

 誰に迷惑をかけるでもない。


(やめだ、やめ。まず薬作りのことにもっと集中しないと)


 身を正し、改めて考えていく。

 鑑定様に感謝を向けながら。


「えぇっと…」


 今も脳内に置かれたままの鑑定結果は答えに近すぎる内容に思う。

 水温とは完成間際にその温度となっていればいいのか…などといった細かい疑問は出てくるが、検証内容はかなり絞られる。


 魔石の品質選びはあまりにも雑だったと気がついた。

 しかし、振り返れば勝手にいくらか選んでいたのだとも。

 なんとなく綺麗そうな石を選んだ。傷や欠けが無いか気にしてもいたようだ。

 無意識の内に選ぶことはしていたものの、厳選とまではいかない。 


 この鑑定を利用すれば魔石の品質を見定める目をいくらか養えるかもしれない。

 それを繰り返せばいずれ…いや、薬を作り終えてからではなくとも品質確認は可能だ。

 野菜や果物のはパッと出てきていた。

 今後は選ぶまでもなく正解を手に取れるということだ。

 何故か自分は虚しさを覚えている。


(なんで?)


 おそらく努力で身につけたかったのだろう。

 時間をかけて目を養い見ただけで品質を見極められるようになりたい。

 手でもいい。この指で触れて差を感じられるようになりたい。

 なんだかそれが出来るとは凄いことに思う。

 凄い人になりたかったんだね。


(やってみようか)


 優先すべきは薬の完成。

 そのときは質選びに鑑定を使用し、より高品質な物を作る。

 それとは別に品質の見極めができる人を目指してみよう。

 しかし、その際にも鑑定を頼ることになるのは燻りがあるね。

 だけど、それ無くして行うとはどうすればいいのだろうか…


 どれを高品質と呼ぶのか答えを知らないことには難しいと思うんだ。

 質のいい宝石とは傷がなければいいのか、透明度や気泡の有無や…

 どのような生地をいいと定義するのか…


(鑑定頼りか…結局。まぁ、そんなもんか)


 おそらく世の中の鑑定人は高品質とは何か答えが出ているところから始まるよね。

 極端に言えばシミや破れはダメとかさ。

 色にくすみのある宝石はいいとは言えないとかさ。


(人による部分もあるよね?)


 ここでは鑑定が出した答えをいい物と決めればいい。

 今はやらないけれど、魔石を品質ごとに分け見比べればAとBの違いが見えてくるのではないだろうか。

 鑑定はどこを分類する際の判断材料とするのか知っていこう。

 そうなってくると魔石以外も気になってくる。

 となると今度は植物や食材の質も…


(膨大だなぁ…)


 合間合間に行うのがいいかもしれない。

 なんとなく薬の材料となる物を優先しようか。

 どれもこれも気兼ねなく気楽にね。

 鑑定を頼らずの見極めができなくたって命には関わらないだろうから気まぐれにね。

 やるべき事だけ探してそれだけ行なうのは心が疲れるから許してください。


 というわけで、薬を製作する際は必ず鑑定で品質を確認すべし。だね。

 そういえば、分量については魔力のことしか分かっていないか。

 ひとまず、分量は基準と変えずに製作してみよう。

 変えるのは、魔石の品質かな。


─────


───


──


 ミスリル製の匙を伝わせ魔力を注ぎながらゆっくりと掻き混ぜていれば…


「うん」


 2つ目の薬が完成した。瓶入れ前の段階だけどね。


────────────────

【下級魔力ポーション】


 品質:B


 魔力を1.6割回復する。


 《材料》

  魔力:++

  魔石…品質:B

  カトレアの花弁…品質:B

  聖水…品質:A、水温:+5℃

────────────────


「うん」


 こうなると思っていた。

 1本目のと違う箇所はたったひとつだけ。

 魔石の品質がCからBへ。想定通りだ。

 これならば失敗作となり材料を無駄にすることもない。

 だからいくらか気楽に検証を重ねられるようになった。


(しまった…)


 製作前に水の温度を確認しておけば良かった。

 そして、完成した薬との温度差を感じられれば善し。

 とはいえ、温度の差を感じ取れるとは思っていない。

 指で確認することしかできないのでね。

 魔力がそこまで減っていないというのに飲んで確認というのは躊躇われる。

 水温計のようなものはなく、今のところ温度確認はこの肌でしかできない。

 どうせ自分が飲むのなら、しっかりと浄化をかけた指を差し込むのも許せる。

 できれば行いたくない気持ちはあれど、品質向上の為ならば我慢しよう。


(合間にやることが増えていくなぁ)


 日々の中で温度というものを気にしてみようと思ったのだ。

 それはきっと水温管理や水温察知の力を鍛えられる。

 このコップの表面はこの冷たさとか、葉っぱの温度とは…とか考え実際に触れる。

 それを積み重ねることが悪い方向に向かうとは思えない。


(これが2本目ねぇ)


 なんとなく窓の手前のスペースに2本を並べた。

 背景は外がぼんやりと浮かび上がってはいるものの黒。

 正方形の窓枠もいい味を出している。

 数が増えれば並べられなくなるね。

 とりあえず、今はここに飾っておきましょう。

 持ち歩く準備も必要かもしれない。


(あれ?そういえば見えにくいなぁ)


 それなのに材料を手に取れるとは不思議なものだ。

 分量の計測に支障をきたすかもしれないから灯りは点けた方がいいのかもしれないと今になって思う。


(どうしようかなぁ…もっと匙1杯を鍛えるか)


 すり切りたって微妙な差が出るだろう。


「あ…」


 扱うのは粉だ。

 ギュギュッとするのとしないのとでも分量に差が生じるだろう。


「そっかそっか…奥が深いなぁ…」


 なんて様々脱線しながらも動き考え続けた。

 どれもこれも薬製作に関連することだが、並べ立てれば摩訶不思議。

 一貫しているとは思えないだろう。


 そうして色々なことに手を出しては試行錯誤を繰り返した。

 数日間もね。

 たったわずかな期間で1冊のノートはすっかり文字で溢れた。

 しかし、まだまだ白紙のページも多いから大丈夫。

 何かに取り憑かれたように薬製作に精を出していたね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ