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30.乾燥粉砕は魔力ミキサーで

(これは何でできてるんだろう?)


 視線の先にあるはずの透明な球。

 その成分というものがあるのか、何によって形取られているのか気になる。


「………」


 目を閉じても開いても変わらない。

 自分の魔力が球状となり宙で静止しているように思う。

 仮にそうだとすると、純粋に魔力で形取られているということ。

 果たしてそれは容器としての役割を担えるのだろうか。

 物質という感じがしないので望みは薄いかもしれない。


(待って。何がしたいんだっけ?)


 私がやりたいのは草の乾燥だ。

 仮にあれが丸い容器だとしたら草を入れられないではないか。

 中に草を入れ、内部で風を発生させ、そして、取り出す。

 これができなければ意味がない。


(んー?)


 おもむろに近づき指で突つこうとしたら指が通ってしまった。

 球は壊れていない。

 膜が厚いシャボン玉に人差し指を通しているような感覚だ。

 そんな体験をしたことはないけれど、言葉で説明しようとするとこうなる。

 魔力はもっと実体のないものと思っていたので驚きだ。


 指を引き抜いても穴開きのままとはならず。

 指によって開いたはずの箇所は周囲の膜が寄り集まることで閉じられた。

 この膜ならば中に入れられる植物もあるだろう。

 あまりにもふにゃけた草だと膜に当たれば曲がってしまいそうだ。

 というわけで、早速足元の草を抜きそっと差し込んでみた。

 途中から草のお尻側を指の腹でゆっくり押していけば…


「うん」


 草は透明な球の内部に潜入した。

 全身が中に入ったと共に下に落ち、今は球体の底で横たわっている。

 この目には草が浮いているように見えるね。


「おぉ…」


 そこに何かが浮いているとは正しくファンタジー。

 なんだか感動するね。


(えぇっと…この中に風ね。うん)


 草が動き出した。

 いや、風に弄ばれている。

 しかも球体の中でだ。

 外に出ることはないという特典付き。


「あ…」


 眺めていたら風が膜を破壊した。

 内部の風圧は透明な球の魔力拡散を後押ししたんだ。

 風の活動範囲を決めていた球が消え、風の範囲が広がることで勢いは落ち、最後には消えた。

 草はグルグルされていたところをいきなりふわっと押し上げられ、そしてゆっくりと落下。


 魔力で形取られた球は衝撃や圧に影響されやすいのかもしれない。

 やはり魔力とは物体よりも柔な部分がある。

 これが土でできた球体だったなら、あの程度の風圧ものともしないのだろう。


魔力球まりょくだまは脆い?とは違うか…)


 ブドウ水球すいきゅうに続き新たな呼び名の誕生だ。

 “マリョクキュウ”だと言いにくいのでね。

 というのを頭のどこかで考えたのだろう。

 思考は淀みなく流れ次に続いていく。


 地面に落ちている草を拾い上げてみると当初より乾燥していることが分かった。

 先程宙に浮いていたこれは風によっていくらか乾いたということ。


 魔力球が消えてしまったのは包容する魔力の拡散と内部からの風圧によるもの。

 摩擦なども関係するだろう。


 拡散して消えるまでの時間を伸ばすこと。

 内部からの衝撃にもう少し耐えられるような魔力球であること。

 その2つはもうできる。

 同じ大きさの魔力球を生み出すことに変わりはないが、意識して魔力を多く使えばいいんだ。

 しかし、そうすることで生じる問題がある。

 おそらく草が侵入できなくなるのだ。


 試してみればやはり通すのに先程より慎重さを必要とした。

 今度は複数の草を上からかけてみた。

 一部風に取り込まれ球体の内部に収まったがほとんどは外周の風により外側へ。


(後から強度を上げることはできるのかな?)


 まず、何も考えずに魔力球を生み出す。

 そして、草を差し込み押し入れる。

 そして、魔力球に優しく優しく手先を当てながら魔力を込める。


(この魔力球にこの魔力を馴染ませるんだ。スーッと、ジワーッと)


 別の草を抜き取り差し込んでみようとしたけれど、そう簡単にはいかなくなった。

 魔力球に魔力を追加し強度を上げることができたということ。


(成功だね!)


 うんうんと頷く。

 見えない球体の内部をグルグルと回る草はいずれ乾燥が為されるだろう。

 しかし、どこまで乾かせばいいのやら…


(水分量0%ってありえるのかな?)


 とにかく限界まで乾かせばいいか。

 なんて考えながら草を追加していった。


(差し込みめんどくせー)


 手を使うことなく全てを魔法で済ませるのが理想だけど、今の自分が少し時間をかけたぐらいではできるようにならないだろう。

 せめて手間をひとつでも減らしたい。

 一本一本草を入れていく作業をどうにかしたいところだ。


……………


………


……


 どこに焦点を当てるでもなく熟考すること数分?

 大気に流れる魔力をぼーっと感じながら、森に生物の気配を感じながら、植物乾燥の効率化について考えた。


 顕現させるは球体ではなく、半球体。

 要は透明なガラスボウルのようなものを用意する。

 もちろん魔力製。

 そして、そこに複数の草を入れる。

 上から逆さまにした半球体魔力を被せる。

 仕上げに内部で風発生。


「うん」


 今は順序立てて行なったので作業速度が遅かったけれど、慣れればササッとできるようになるだろう。

 草の乾燥開始までにかかる時間はいずれ数秒になる。

 けど…


(待ち時間が発生するのは仕方がないか…)


 もう少し膜の強度を上げ、風の勢いを強めるのもあり。

 その他にも効率化は図れないだろうか…


(あ…この後粉砕が出てくるんだよね?)


 この行程で同時に行えないだろうか…

 成功すれば正しく効率がいい。


(粉砕か…)


「あー」


 内部で風が起きている魔力球の中に風の刃を発生させてみたんだ。

 中心から外に向けて放たれた小さな刃は想像以上に鋭かったのか膜を破壊してしまった。


(外に放ったらダメでしょうが)


 これに限るね。となると…


(刃を回転させればいいのか)


 そう。ミキサーのように。

 その瞬間ピコーンと鳴った気がした。

 いい案を思いついたときの効果音だ。


(ミキサーを考えた人は天才か!)


 見知らぬ方へ尊敬の念が募る。


(しかもあれって蓋付きじゃん!)


 円柱状と言えばいいのか、それに刻みたいもの、もしくは砕きたいものを入れ、蓋をしてスイッチONだ。

 実在する刃を用意することはできないが、風の刃を上手いこと回転させればいい。


(ん?あ、別に風でなくてもいいのか)


 上部が閉じられていない円柱を魔力だけで顕現できるならばミキサーの刃だってできるはず。

 しかも、風の動きを決めてから発生させることができるなら刃を回転させた状態もできるはず。


(私は天才か!)


 というのは言い過ぎだし、調子に乗っているが、試す価値はある。

 上面だけ嵌め込まれていない魔力の円柱を生み出しまして、草を投入。

 そして、透明な円盤を上にピタッと。

 隙間があってはいけません。

 コルクを嵌めるようにググッと押す必要はなく、ピッタリサイズをそこに現すだけでいい。

 最後にミキサーの刃を…


(どんなだっけ?)


 スムージーすら作れるミキサーの刃は下部で回っていたと思う。

 所持していなかったので曖昧だが、たぶん合っている。

 中に入れるものが氷や果物、野菜など重量のあるものならばそれでいいのだろう。

 しかし、草となると話が変わってくる。

 液体も投入するならば草だって上手いこと攪拌されるだろうが、今回は乾燥が目的なのでそうもいかない。

 となると、刃の形を考えた方がいいだろう。


(えぇっと…草刈機…)


 あれは一枚刃であり、刈る為のものだから違う。

 スパンと切るのが目的なんだ。


(あれを縦置き…なんかもっとこう…螺旋階段…そう、それだ!)


 1本の棒を中心に螺旋階段のようにグルリと刃が回り込む。

 角度はよく分からないのでとりあえず、なんか鋭い感じで。

 薄手の刃は外側…螺旋階段で言えば手摺りに向かうにつれ薄くなっていくイメージ。

 たぶん曲線の刃を作るのは大変なのかもしれないけれど、想像するだけでいいので簡単だ。

 これで上手くいかなかったら考えようというのも簡単にできる。

 コストはかかっていないし、時間もそれほど使わない。

 労力だって大したことはなく、誰に迷惑をかけるでもない。


(やってみよう)


 刃を生み出せば乾燥粉砕が始まるところまでは用意できていたのですぐに試せる。

 頭の中にあるこの螺旋状の刃を回転させた状態でそこに。


「おぉ…」


 思わず声が漏れる。

 もの凄い勢いで草が散り散りになり、数秒後には粉となって内部で暴れ始めた。


「ということは…?」


 草の乾燥粉砕ができた?


「え?ほんとに?え?やだぁ…」


 感動でプルプルする。

 頬に手を添えながらミキサーを眺める私はまるで主婦。


(には見えない、見えない)


 外見を考えろって。まぁ、考えなくていい。

 そこはどうでもいいとして…

 もっとたくさんの量を一度に行いたいならば強度を上げればいいだけか…。

 しかし、そのつもりでミキサーも刃も生み出したのに、実は本体が脆かったでは危険だ。

 そこは気をつけよう。


(いや…)


 回転させた状態の刃だけがそこに現れても風が吹き荒れることはないだろう。

 そばにいる者が急に風を感じたとかその程度で済みそうだ。

 気をつけはするものの、そこまで怖がることでもないね。

 やっぱり考え過ぎなのだろうけど、危険があるかもと気づけるのはいいことだ。

 そこは維持したいところだね。

 何はともあれ、植物の乾燥粉砕は可能になった。

 これにて終了かな。


(いやいや…)


 魔石があったね。

 どうやらまだ検証は続くようだ。


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