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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
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29. 風を生む

 さて、植物の乾燥方法について考えましょう。

 そのお試しにカトレアの花弁を使う必要はない。

 庭に生える草で試せばいいのだ。

 そこは緑の絨毯とも言えるほどに草が敷き詰められているからね。

 試し放題だ!


(いいこと思いついたよね!自分はさ!)


 その前に風魔法を安全に使えるか試さねば。

 庭に座り込み胡座をかいて空を見上げる。

 そして、風を思い浮かべるんだ。

 魔力を放ってはいけないよ。


(風と言えば…)


 思い浮かぶのはあの暖かな風。

 初めて武器を振るったあの日、空を鑑定した後のこと。

 私を通り抜けた風は心地良く、記憶に残ったようだ。


(あの風なら問題ないよねぇ)


 この身で体験した。

 威力はなく、痛みなんて皆無。優しい暖かな風だった。

 風はいいね。目に見えないけれど、想像しやすいかもしれない。

 柔らかな風も強風も、風によってどのようなことが巻き起こるかも想像できる。

 問題はそのつもりで放ったとしてもその通りになるのかということ。

 頭の中のどれを汲み取られるか分からない。

 まだコツが掴めていないんだ。


 細部まで丁寧に組み立ててから魔力を放たないと。

 それをやらずともできることは知っている。

 本日自分が水魔法を使ったことに気が付けなかったのは顕現した水が想定通り過ぎて何も違和感がなかったから。

 だから、できると分かるのだけど、改めて魔法を使おうとするとあの日の森林破壊が頭をよぎる。

 困ったものだ。

 とにかく今はこの身で感じたあの柔らかな風を細分化し丁寧に思い浮かべるんだ。


(あの風をこの身にまた…)


「ふふふ」


 できた。確かに風を発生させることができた。

 思わず笑みが溢れるのはできた喜びと、単に風が心地良くてほころんだのだ。

 そしてまた同じ風を自分に吹かせる。


(うんうん)


 今度は森へ意識を向けながら頭の片隅を風で満たしてみる。

 頭脳をいくつかのエリアに分け、その内のひとエリアでだけ魔法のことを考えるように。

 そんな感覚を持ちながら意識の多くを森へ。

 感覚の後方にある風。魔力よ、そこだけ汲み取ってくれ。


「うん」


 また私に同じ風が吹いた。

 今度は別の風を吹かせてみようか。

 変えるのは…変えられるのはどこだろう?


(温度、勢い、規模、鋭さ?方向とか?)


 横殴りの風もあれば、ふわーっと一方向に流れていく風もある。

 痛むほどに冷たい風、真夏日に吹く風の微妙感。

 突風、熱風、竜巻、寒波。

 ドライヤーに扇風機、エアコンも風かな?


(風は種類がありすぎるねぇ)


 こうして考えてみると色々な顔があると気づく。

 今次々と思い浮かぶ数々の風の他にもあるのだろう。

 風を感じ記憶していきたいね。


(自然界にはない風の吹き方とかあるのかなぁ)


 なんて緩く考えている間にも自分は風を感じている。

 自分が生み出した風たちだ。

 てきとうに行なっているつもりはない。

 だけど、当初よりも堅さは解かれた。


(少しは魔法に慣れてきたかな?)


 息をするようにとはいかないまでも、当初と比べれば滑らかに魔法を使えていると思う。

 ここまで風魔法のみ試しているけれど、それによって身についたことは他の魔法を使う際にも役に立つはず。

 意図せず魔法の鍛錬になっているね。


(あ、そうだ、そうだ)


 ここへは植物の乾燥をしたくて来た。

 風魔法を試す際に対象を置いても良かった。

 草相手に行なえば乾燥に繋がっただろうに。


(一点集中すぎたかな?まぁ、慎重に魔法と向き合ったということで)


 気がついたところで植物乾燥試験に取り掛かろう。

 どうも私は無駄に考えてしまうようだ。

 本当に無駄が多い。


(やってみっかでいいのかなぁ。おっと、いけない。さっきの風ね?)


 胡座の間に生えている草の1本を引き千切り掌に乗せた。

 そこに小さな風を吹かせれば…


「飛ぶよね」


 間違えた。そこを考慮していなかったね。

 ふわっと掌から離れふわっと地に舞い降りたんだ。


「アホだ」


 今度は右手の親指と人差し指で摘んだ草に風を当ててみる。


……………


………


……


 草は指先でパタパタと暴れているわけだが、なんだか虚しい。

 おそらくこのままでもいずれ草の乾燥は成功する。

 だけど、多くの時間を消費するだろう。

 一体この姿勢を何分保てばいいのやら…


(んー、どうしたらいいのかなぁ)


 指先が少しずつ熱を上げている。

 まだまだ暑くはないけれど、長時間当て続ければ低温火傷ぐらいにはなりそうだ。

 箸やピンセットで挟み乾かすのもいいけれど、それを持ち続けるのはきつい。


(容器に入れたら…密封はダメ?ん?)


 私は好きな位置から風を放てる。

 それならば瓶の中にだって風を顕現させることができるのではないだろうか?


(え?そうだよね?違うのかな?試してみるか…)


「あ!」


 いいことを思いついた気がする。

 水の球を生み出せるならば、風の球だって可能なのでは?

 水の時は丸い水を思い浮かべた。

 風ならば丸い風?

 水は物質だが、風は違う。

 現象?空気の流れ?


(とか曖昧でも出せたんだ。いけるでしょ)


 そう思うと同時にこの身は勝手に立ち上がる。

 特に不満も何もなく、そのままイメージを固めていく。


(そこにね?そこに)


 視線の先に風を発生させるのだ。

 ぐるぐると巡る風。

 風で作られる球体であって、球体の中を風が巡るイメージでもある。


(大きさは…)


 小さすぎると逆にイメージが難しい。

 バスケットボールサイズにしましょうか。


(放たないよ?そこに浮かぶの。回る風が、パッと)


「うん」


 きっと今、満足気な顔をしていることだろう。

 災害が巻き起こらなくて安心もしている。

 頷きの言葉と共にほっと一息吐いたんだ。


(それにしても…)


 当然とも言えるのか、そこに浮かぶ風球ふうきゅうは周囲の風を取り込んでいるように思う。

 このままでは勢いを増していくかもしれない。


「おぉ…」


 ゆっくりと近づいてみれば私の前髪が揺れた。

 さわさわと私のおでこを擽り続けている。

 試しに草を放ってみれば、ふわっと手前に戻ってきた。

 予想通りだ。


(さて、どうしようか…)


「あ…」


 考え込んでいる間に風球が消えてしまった。

 徐々に勢いを落とし最後には…

 ということは、後半になると周囲から取り込むことで増す勢いよりも徐々に散っていく魔力の方が多くなるということかな?


(今は置いといて…)


 私は草を乾燥させたいんだ。

 しかも、できるだけ楽して。


「あ…」


(そうそう、容器の中に風を発生させるとか考えてたっけ)


 むしろなんで風球にすげ変わったたのか。謎だ。

 今度こそ容器ありきで挑戦しましょう。

 瓶か何かを取りに…


(…ただの球って作れないの?)


 ほんの少しだけ右足が浮き、すぐに降りた。

 水だ風だと魔法と言えばそちらが浮かぶけれど、私は鑑定も浄化も使えた。

 頭の中であれこれ考えただけで。

 魔法は起こしたい事象を思い浮かべればいいんでしょ?

 火や水や風だけが魔法ではない。


 目に見えない魔法だって存在していると知っている。

 それならば、火も水も風も使わない球だって生み出せるのではないだろうか?

 もう既に頭はそれを試そうと働き出している。


(透明な丸。ガラス玉のような何か。ただそこにポンッとね)


「よしっ!」


 思わず両手を強く握り締めた。

 嬉しさのあまり笑顔が咲くね。


(見えなくても分かるもんね。うんうん)


 この瞳には映っていない。

 だけど、そこにあると分かる。

 私が決めた場所に球体が現れたんだ。

 何故なのか身体の奥底からじわじわと何かが迫り上がってくる。

 決して悪いものではなく、感動に近いかもしれない。

 たぶん私は自分が思うよりも喜んでいる。

 歓喜に震えるだと言い過ぎだ。


(なんだろう…)


 見えない球体を見つめながら立ちほうける。

 この言葉がしっくりくるね。

 ぼんやりと立っている今も身体の内側で悪くはない感情が震えている気がする。

 その正体はなんだろう?嬉しいのは分かるけれど…


(分からないなぁ…)


 じっくりと考え答えを出したくてたまらない。

 だけど、やっぱり今は本来の目的からできるだけ逸れないようにしよう。

 まだそこにある透明な球をどう活用するか、どう活用できるのか考えなければ。

 たぶん感動したんだろう。それだけで済ませ先に進んだ。


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