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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
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28.魔法薬を作りたい

 明くる日。

 そう。明くる日になってしまった。

 書を解読し、熟読している内に翌日の昼間頃になってしまったんだ。


 というのも、素材の扱い方についての内容が膨大すぎて。

 ひとつ知れば、では、他のは?と連鎖してしまった。

 そうして次々と読み進めてしまったというのもあるが、文字の解読に困難を極めたからというのもある。


 昨日は椅子から立ち上がり書を開いてすぐにまた腰を落とした。

 そこから動くことなく本日を迎えたが、眠気は襲ってこない。

 半日以上かけたわけだが、素材の扱い方については全てを読むことが叶わなかった。

 しかし、素材の扱いに気を使うべきなんだと理解できたのでいい。


 料理であれば、人参を横向きで保管しようと縦置きで保管しようと完成した品の質に差が出ているのか確認が取れないし、気にならない。

 しかし、薬となると品質向上は欠かせない。

 いかに粗悪品から遠ざかるか、いかに最高品質を目指すか。

 その考えを持つか持たないかで大きく差が出ると思えた。

 素材選びから始まるんだね。


 なんて思うとまた次々と読み進めたくなるわけで、しかし、ふと空腹を感じたのがきっかけで一区切りつけた。

 そうしてキッチンへと向かう途中で鍛錬のことを思い出し、すぐに外へ方向を変えたんだ。

 玄関に武器を預けていたことを褒めたいね。


 なんだかんだ久方ぶりの外に思えて不思議だった。

 まだ二度目の鍛錬なので辿々しかったことだろう。

 自分の行いに疑問を抱きながら真面目に取り組みました。

 そして、シャワーで汗を流し、水を飲み、パンと果物で朝食を済ませたのです。

 おそらく昼食ではない。


 そうしてまた作業部屋へと戻り新たな書を手に取った。

 それはポーションの製作手順が記された本だ。レシピ本とも言える。

 大まかな流れはこれまでの情報から分かったが、具体的な手順ややり方をまだ知らない。

 素材の扱い方を見るに、乾燥や粉砕、擦り潰し作業、根を流水に晒すなど製作に取り掛かる前段階もある。

 その辺のことを絡めながらの説明が欲しいところだ。


「ん?終わり?あれ?」


 材料は書いてある。

 分量については疑問が残るものもある。

 葉っぱ1枚と言っても重さは均一ではないだろうし、乾燥粉砕する以上、毎回毎回同じ重さにできる気がしない。

 とかね。


 それより問題なのは乾燥粉砕方法の記述がないことだ。

 それだけではなく、冷たい水とは一体何度なの?

 “魔草花を乾かす”、“粉々にする”、“魔石を砕く”、“綺麗な水(冷たい)に入れ掻き混ぜる”

 これで完成まで持っていける方はおられるのだろうか…


 紙を2本の指で擦り、紙同士がくっついていないか確かめても新たな紙は現れない。

 裏返してみても透かしてみても意味を為さなかった。


「あれぇ?」


 首を傾げながら書庫に赴き魔法薬製作方法が記されている書はないか探してみた。

 見つかった書に目を通したが、そちらは全滅。

 道具や考え方など、材料と作り方に関係のない内容ばかりであった。


「ふぅ…」


 全てを託そう。

 その言葉が頭をよぎった。

 師匠がまだ見ぬ弟子へ向けた手紙のようなものに含まれてい言葉。

 こういったことも含まれているのかもしれない。

 薬のレシピとは本来大衆に晒されるものではなく、師から弟子へ繋ぐもの。

 もしくは、薬学学科のように学べる場所に通い修めなければいけないとか。

 師匠が学び知り得た貴重な知識と経験すら託そうとしたのかもしれない。

 そうする理由は分からない。

 何かをしてほしいのか、何かを期待していたのか、はたまた…


(んーっと…)


 師匠には師匠がいるのか気になってきた。

 もし、そうならば簡素な文章が多いことにも納得できる。

 師から学びながらメモを取り、それがそのまま残っているだとか、この単語さえ書いておけば思い出せるとかね。

 今はそこを深掘りする時ではないね。

 現状を見よう。

 できれば本日中に製作に取り掛かりたいと思っていたのだけど、雲行きが怪しくなってきた。

 ひとまず材料と道具を揃えてみようか。

 しかし、想定通りと言えばいいのか、なかなかスムーズに事は進まなかった。


 これまた師匠が記した書を頼りに必要な道具類を揃えようと思ったのだが、それは難しそうだ。

 書を開いて軽く目を通してそれを悟った。

 師匠が記したそれはきっと情報が少ない。

 曖昧だったり、分かりにくい文章も多く見られ、他の書物も参考にした方がいいと思った。

 器具らしき絵のそばに書かれた文章はきっと説明する気がない。

 こういうところに性格が垣間見えるんだね。


 しかし、魔法薬を作る際、頭に入っていた方が助かりそうだ思える内容もあったので、不要な書というわけではない。

 扱い方を知った上で読めば納得できる文章などもあったしね。

 あくまで情報が足りなさそうというだけだ。

 偉そうな言い方になり申し訳ないけれどねぇ。

 それはさておき…


(無いなぁ…)


 材料は無事に見つけられたが、それを扱う道具が揃わない。

 師匠の書と別の作者の書を照らし合わせながら室内を隈なく探したつもりだ。

 素材は棚、木箱、机の引き出しなどあちこちに入っていたので取り揃えるのに苦労した。

 魔道食料庫と同じく中の空間が広げられ多種多様の素材が大量に入っていたから。

 大量に遺されていることは大変嬉しいが、分類されずにどこにでも入っていたので喜びだけでは終われない。

 ここまでしても道具の全ては見つからなかった。

 師匠が書いている以上なくてはならないものかと思ったのだけど…

 抱える2つの書に視線を落とした。


 厚手の装丁は少々草臥れているが、ボロいわけではない。

 年季が入りいい味を出しているんだ。2冊ともね。

 ここまで残しておいて作ろうとしなかったとは思えない。

 この家に残されている薬は師匠が製作したものだと勝手に思っていた。

 そのことに気づいた今も考えは変わらない。


「んー」


 現在テーブルの上に並べられているのは材料の他に天秤とミスリル製の調薬鍋。

 そして、柄の長い木べら。

 これでどうやって薬を完成まで持っていくのだろうか…

 鍋と言うからには火を使うのではないのか?


(あれ?あれを使うの?)


 視線の先にあるのはカセットコンロによく似た道具。

 ガスボンベを装着する箇所はない。

 私が知るそれよりも薄型ではあるが…


(むしろなんであれをカセットコンロに似てると思ったのだろう…)


 答えはつまみがあるからだね。

 それはいいとして、薬製作に使われる道具としては載っていないことを考えるとおそらく使わない。


(あ、そうだ。火加減なんて書いてなかったもんね)


 水の温度がどうたらと書くならば火加減についても触れるはず。

 記述がないということは火を使わないと思っていいだろう。

 なんて考えながらふらりと歩み寄ったのはポーションが並べられている棚に隣接する棚。

 ふと数多く詰め込まれた空き瓶が目に留まりそれを取りに向かったんだ。

 頭には無かったが、完成した薬を入れる容器が必要だと気づいたのでね。

 そういえば、素材探しの際、内容物の羅列のなかにあったか。


(んー)


 さて、どうしたものか…


(一旦、作ってみる?なんとなくで)


 成功するとは思えない。

 その前提でやってみるのもありかもしれない。

 あまり素材を無駄にはしたくないけれど、モヤモヤしたまま諦めるのも後に引きそうだ。


「うん」


 初回ということもあり、下級製作から始めてみよう。

 私が必要とするのは中級魔力ポーションだけど、いきなりそれに手を出すのはきっとよろしくない。

 仮に失敗したとき無駄になる材料の種類が少なく済むしね。


「乾燥粉砕とは…」


 手に取ったのはカトレアの花弁。

 私が必要とする魔力ポーションに使われる材料の一種だ。

 色は白でなければいけない。色の指示まであるのかと驚いたものだね。

 書を読むに、これを乾燥し粉砕する必要があるのだと思う。

 それとおそらく魔石も?


(あ…飴みたいに溶けるとか?)


 ビーカーのようなものに魔法で水を出し、そこにポチャンと入れた。

 小さな魔石は時間と共に溶けていくのか様子を見よう。

 これはしばらく放置だ。

 その間にカトレアの花弁の乾燥粉砕について考えよう。

 材料は、浄化された水・魔石・魔力・カトレアの花弁のみなので乾燥粉砕ができれば大きな前進となる。

 逆に解決できなければ薬製作に取りかかれない。


(天日干し?どれぐらい?)


 そうなってくると製作に入るまでに数日かかってしまう。

 本来はそのようにするのかもしれないが…


(いや、本来のやり方とか知らんわ)


……………


………


……


(魔法だ!)


 魔法で乾かせばいいのだ。


(そうだ、そうだ)


 まだ魔法が近しいものではないのですぐにその考えに至らない。

 きっと私ならではなのだろう。

 そうと分かれば外へと直行だ!

 未知なる魔法を使うのに室内では恐ろしい。

 また何か甚大な被害を出してしまうかもしれないから。

 もちろん最善の注意を払い行うつもりだが、何があるか分からないのでね。


(あ、水出してたわ…)


 無意識の内に魔法を使っていたね。

 まぁ、いいでしょう。

 足取り軽く玄関まで向かったところで一度足を止めた。

 鍛錬前にも行なったが、外に出る前に深呼吸。

 己を落ち着かせる為ではなく、ここを抜ければ危険が高まることを言い聞かせる為にだ。

 忘れてはいけない。

 危険と隣合わせの世界であることを。


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