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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
27/66

27.魔力欠乏症の治療と薬について

 体内に蓄えられる魔力の量(内包量)には個体差がある。

 容量は個々によりけりってこと。

 内包量は成長と共に増加していくと確認が取れているそうだ。

 しかし、死ぬまでずっと増え続けることはなく、成体となれば止まる。

 その理由は分かっていない。


 魔力が著しく減少すると体調に乱れが見え始める。

 身体機能が上手く働かなくなるのだ。

 これが魔力欠乏症の第一段階。

 私の予想ではきっかけは2つ。

 体内の魔力が内包量の数割を切る、もしくは、一気に大量の魔力を使用することで発症する。

 おそらく第一段階に入ってしまえば昏睡状態まで勝手に行ってしまうのだろう。

 なんとか放出を止められれば第二段階に入ることはないのだろうが、止めるが難しいんだ。

 実際私はそうだった。

 混乱する間もなく意識が沈むに至った気がする。

 痛みと不快感でいっぱいで、途中からは魔力が外へ出続けていることすら分からなくなっていた。


(うん)


 実体験をもとに理解を深めたと言えよう。

 そう考えると悪くない体験だった。

 生きているから言えることだね。


(さて…)


 魔力欠乏症を避けるにはどうするか…。

 残りの魔力量を気にもせず魔法を連発するだとか、包容量を考えず大きな大きな魔法をブワッと放つだとかしなければいい。

 それと、魔力操作を行わない。だ。


 私は3つ目を諦めるつもりはない。

 となると、再度魔力欠乏症になったときのことを考えておくべきだ。


 治癒と回復魔法では魔力が回復することはないと読んだことがある。

 では、魔力を回復するにはどうすればいいのか。

 その答えが書に記されている。


 方法は4つ。

 復元魔法の使用・魔法薬の使用・他者からの受け渡し・大気中に漂う魔力を取り込む。


 1つ目。無し。

 欠乏症の第一段階に入った時点で魔法を行使するのは難しい。

 そんな余裕は無い。

 仮になんとか僅かに余裕ができたとしても上手くいくかどうか。

 既に魔力は放たれているわけだし、発動はするのかもしれない。

 だけど、魔力を回復したところで出続けるならばイタチごっこだ。

 故に欠乏症に陥った際の策としては不適合。


 2つ目。あり。

 しかし、使えば減るのが問題だ。

 新たな入手が難しい代物。


 3つ目。無理。


 4つ目。選択の余地無し。

 というのも、これについては自分の意志でどうこうできるものではない。

 おそらく自分は自然治癒が為されている。

 他の人や生き物がどうなのかは分からないけれど、私は魔法を使えば時間と共に魔力が回復していく。

 空気を吸い込み肺に酸素を届けるように、この身体は大気から魔力を得て生命維持の糧としている。

 しかし、呼吸と違い二酸化炭素が排出されることはない。

 大気から取り込んだ魔力は体内を巡る流れに乗るんだ。

 魔力吸収を行なっている感覚が常にあるわけでない。

 意識を向ければ気がつけるというもの。

 これも呼吸と似た点だ。


 さて、魔力欠乏症に陥った際にこれが役に立つのかというと、どちらとも言えない。

 そのときは通常時より自然回復量が減るだろう。

 身体機能が上手く作動しないでは大気から取り込む力も弱まる。

 全く回復しないよりはいいのだろう。

 だけど、外に出ていく量が回復量を凌駕する状況ではいずれ…

 魔力が枯渇するまでの時間が少々伸びるだけ。

 その短時間が重要だったとなる日が来るのかどうか…

 なんにせよ、危機的状況を打破する為の策として自然治癒が選ばれることはない。

 となると、期待を持てるのは1つだけ。

 

(魔法薬が必要だ)


 あの苦しみのなか薬を飲むだけの余裕があるかは分からないけれど、そばに置いておいて損はない。

 飲めないかもしれないけれど、飲めるかもしれないんだ。

 二度目の発症であれば自分に何が起きているか分からず混乱することはない。

 次はそれが省かれた上で症状と対峙することになるから、初回よりも余裕はあるかもね。

 何はともあれ、魔法薬について学びましょう。


 始まりは書物からだね。

 これまでにその単語を見かけたことはある。

 想像することは可能で、それ以上知ろうとしてこなかった。


(まぁ、まだこっちに来たばっかだしねぇ)


 この世で生きるのにおそらく重要そうなことだろうと学べていなくて当然の時期だ。

 自分はよくやっていると思う。


(さてと…あ…)


 以前あれこれ取り出し積んだ書物たちのなかにあった気がする。

 それなのにまだ目を通していないとなると馬鹿だねぇ。

 テーブルに積まれたままのなかから探し手に取った。

 それと、魔法薬に関する本が他にもないか探しましょう。


 数分後には良さそうなものをいくつか見つけられた。

 それを持って作業部屋へと向かう。

 見つけた書物は現物を前に読み進めようと思ったからだ。

 実はあちらの棚には魔法薬が並んでいる。

 あまりにも馴染みすぎて背景と化していたけれど、なんであれに意識が向かなかったのかな。


(まぁ、物がありすぎて気は逸れに逸れるか)


 魔法のときと同様、足取りが軽い。

 ワクワクしてしまう自分がいるんだね。

 楽しいとも思えない分野の本を読むよりは遥かにいいだろう。




***




 さて、作業部屋にやってきた。

 ガラスが嵌められ戸棚を開き煌めく薬へ手を伸ばす。

 栄養ドリンク程の大きさなので持ちやすく、つい色々な角度で見てしまう。

 封はコルクでしっかりとされているようで逆さまにしても零れないんだ。


 小ぶりな瓶に収まるのは水色の液体で、優しい光を放ちながら揺れている。

 眩しさはなく、ただただ美しい。

 瓶が透明な理由が分かる。

 透明でないと美しさを霞ませてしまう。

 そして、純粋に内容物を識別できるようにだね。

 だって色違いが数種類あるから。


 棚にある全色を1本ずつ取り出し部屋の中央に置かれた大きなテーブルに並べていく。

 この家に遺されている薬を使用するのも選択肢のひとつとしてある。

 だけど、自分で作れるならば作りそれを活用したい。

 この家や島にある材料で賄えたらいいなぁ。

 そう簡単に作れるとは思えないけれど、ものは試しだ。


(やってダメなら考えよう)


 半分に折った厚紙に挟まれる紙束を手にしながら近くの丸椅子に腰掛けた。

 何を始めるにしても知識は必要だ。

 

──────────


 魔法薬とは魔力を内包する薬のこと。

 無魔力の薬は含まれないが、そのような薬は見つかっておらず、分けなくてもいいんじゃない?が、師匠の意見だ。

 薬を製作する上で必要となってくる素材には魔力が含まれている。

 そして、魔力そのものも材料となるようで、それらで作られたとなれば自ずと…ということのようだ。


 魔力を帯びる草花を魔草花まそうかと呼ぶ。

 それぞれ、魔草まそう魔花まかとも。

 野草と呼ばれる魔力を帯びない草は、いくつもあるようだが、それらのみで薬を作れやしない。

 少なくとも師匠にはできなかったそうだ。

 もしかしたら昔々にでも無魔力の薬が存在していたのかもしれない。


 話を戻そう。

 この世にはポーションと呼ばれる薬がある。

 今私の前に並ぶのがそれだ。

 あくまで薬の一種ではあるものの、人が魔法薬と言えばそれはポーションのことを指す。

 それだけ代表格ということだね。


 ポーションには種類があり、それぞれで効能が違う。

 色で見分けることができので早々間違うことはなさそうだ。


 治癒ポーション…水色、病に効く

 回復ポーション…赤色、怪我や欠損に効く

 魔力ポーション…緑色、魔力回復

 解毒ポーション…紫色、解毒


 この他に石化解除、麻痺回復などの状態異常に効くものもある。

 

 それぞれ下級・中級・上級・特級の4種類あり、上に行くほど効果は高い。

 また、同じ階級の薬でも品質によって効果に差が出るそうだ。

 品質は下から順に“E・D・C・B・A・S”の6つ。

 階級の他に品質でも分類されているので少しややこしいが、質に差が出るのは薬に限らずよくあることだ。


 階級は色の濃淡で、品質は透明度で見分けられるようだ。

 色が濃いほど階級は上がり、透明度が高いほど高品質となる。


──────────


 比べてみたくて戸棚から新たに薬を取り出した。

 既にテーブルの上に並べられている薬と濃淡や透明度が違いそうな物を選んで。


 隣に並べればその違いが分かった。

 一目瞭然とまではいかないまでも、同じ水色のはずなのに色が違う。

 しかし、透明度に差があるようには見えない。

 どれもこれも美しく透き通っている。

 薬そのものが持つ淡い光は透明感を引き立たせるね。

 実に幻想的で魅入られる薬だ。


(魅惑の薬じゃないよね?)


 試しに薄い赤色の薬を鑑定してみた。

 直前の疑問を解消したくてではない。


────────────

【下級回復ポーション】


 品質:S


 切り傷、打撲、ささくれなどの軽傷を治せる。

────────────


 次は1本目よりも色が濃い赤を。


────────────

【中級回復ポーション】


 品質:S


 切り傷や刺し傷、内臓の損傷、骨折など中程度の怪我を治せる。

 多数または広範囲の怪我や損傷の際は効果が薄くなる。

────────────


 詳細なようで曖昧だ。

 これは品質が変わっても同じ内容なのだろうか?

 下級の高品質と中級の低品質では何が違うのだろう?


 あまりにも気になったので低品質のものを鑑定してみようと思ったのだが、見つけられなかった。

 躍起になって探す程でもないので一旦保留だ。

 続いて製作に関することを読み解こう。

 

──────────


 ポーションの材料は種類や下級によって違ってくる。

 同じ種類だとしても下級と中級では材料が違うということだ。

 しかし、共通して必要な材料というものがある。 

 それは、浄化された水・魔石・魔力の3つ。

 作り方の流れは基本的に同じで、浄化された水にその他の材料を加え混ぜるだけ。

 違うのは素材の処理方法や水の温度。

 水温まで気にしなければいけないとは驚きだ。

 階級ごとに適正な水温というものがあるらしい。

 外れたら酷ければ失敗、軽ければ質の低下。

 そうは言っても製作中に一定を保てるものなのだろうか…答えは書かれていない。

 品質に関わるものは水温の他にもたくさんある。

 魔石・素材の品質、不純物・魔力の含有量などなど。


──────────


 薬作りとはそう簡単なものではないのだと思いました。

 足を組みながら視線を書物からポーションに移す。

 少し目の保養ができたところで読み終えた内容に軽く目を通していく。

 今度はかなり気楽にね。

 

(大体は理解できたかな?)


 後は製作に取り掛かってから考えよう。

 幸いにもこの室内にものは揃っていそうだ。


(いや、雰囲気的にね?)


 薬を作れそうな場所と思うだけであり、確信があっての言葉ではない。

 喉が渇いたのでブドウ水球を口に含んでから動き出した。

 揃えるべき材料や道具が書かれていそうな書を片手に。


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