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17.魔法学 - 考察、検証

 森林破壊をしてしまった。

 ただ、水球を思い浮かべながら魔力を放っただけなのに。


 もう一度言うが、魔法は起こしたい事象を思い浮かべながら魔力を放出することで発動する。

 そこに放つ気はなかったなどは関係ない。

 思い描き魔力を放てばもうそれは魔法を生み出す第一歩。

 そうなってくるとイメージはしっかりと固めるべきで、そして、他の事を考える猶予を与えてはいけない。

 放つ魔法に一点集中する必要がある。

 それはなかなかに難しいのではないだろうか?

 それに、危険でもある気がする。

 たった一つのことだけで頭を満たすのは難しい。

 それを行いながら周囲を警戒するなどできないだろう。


(え?どうやるの?)


 こちらの思考に魔力を誘導するなんてことはできないだろう。

 しかし、浄化も鑑定も実行された。

 その際に何かしら水やら火やら頭の中のどこかにはあっただろう。


(放つ魔法と関連づけて考えるか否かとか?もう何?)


 魔法がこんなにも複雑怪奇だとは思わなかった。

 ひとつひとつ紐解きましょう。


 まず、まずは放つ魔力は最小限に。

 そこはやり方を知らないけれど、その意識を持つこと。


 続いて放つものについてのイメージを固めよう。

 まず、放たないこと。浮かばせるんだ。


(そう。それが無かったね)


 魔力を放つとしか考えていなかったから前進したのだろう。

 ここに、ここに置く。水の球を。

 目先ではなく、目の高さでありながら少々距離は空けた位置を見つめているつもりだ。

 あまりに離れすぎると距離感が掴めず曖昧になりそうなので自分が今確実に認識できる位置から選ぶこと。


(うんうん)


 生み出すのは水の球。

 まんまるだけど、そこまで形に拘りはない。

 球体と言うとまんまるのみとイメージするけれど、水のそれは揺らぎや歪みがあってもいいでしょう。

 水で球を作るのではなく、丸い容器に水が注がれたイメージの方が柔らかく済むのではないだろうか。

 大きさは怖いのでブドウぐらいにしましょうか。

 思い浮かべやすい丸の内のひとつがそれだ。


(リンゴじゃないよ?梨でもみかんでもない。ブドウね。ブドウ)


 頭に浮かんだブドウの大きさを変えてはならぬ。

 目を閉じては開く。

 同じ大きさを思い描けるか確認中です。


(そこにね?そこの丸を満たす水)


 水とは本来柔らかい性質を持つ。

 冷たいけれど、柔軟で、いや、柔軟どころか本来形取れるものではない。


(水だ。水。水をそこに)


 魔力を捉えた。ゆっくりと静かに動かし少しだけ、流す…


「はぁ…できた」


 思った場所に思った大きさの水の球が現れた。

 こんなにも安心するとは思わなかった。

 成功するとは大切なことなんだね。

 失敗から学び、考える。

 失敗に囚われ何もしなくなれば何も得られない。

 動く勇気も必要で、自分を信じられなくなった時こそ自分を信じなければ前に進めないわけで…

 失敗し自信喪失。それでも次に進むには自信喪失した自分から始まると。


(考えすぎです)


 自分はそれでいいかもしれないけれど、壊れたものは戻せないんだ。

 立ったことで少々見える角度が変わったけれど、その惨状に変化が見られるわけもなく、そこにまだ荒らされた形跡が残っている。


(どうしたらいいんだろう…)


 怒られたらもちろんできることはするつもりだ。

 しかし、できることが酷く脆弱に思う。

 壊すだけ壊して責任能力はないという身勝手な奴だ。

 そこに関して今モヤモヤしていてもどうしようもないね。


(うん)


 もう少し魔法についての理解を深めましょう。

 というわけで、また前を見据えたわけだが…


(まだあるのかぁ)


 私が出したブドウ一粒サイズの水球がまだそこに浮いている。

 先程森を駆け抜けた水の球はおそらく消えたというのに。


(衝撃で散ったのかなぁ)


 あれの源は魔力であり、素材は水だ。

 なんだか普通に散りやすそうだね。


(で、これはいつ消えるのだろう…)


 近づいて突いてみる。


「お…あら?」


 人差し指を通す最中さなかに何かが作用したのか浮く力が消えたみたい。

 形を保つ力も消え、ただの水として指を濡らす。

 地面に滴るものも水そのものである。


(水になったとは違う。元々水で…)


 やはり保つ力と浮く力が切れたか壊れたかしたと考えられる。

 もう一度同じ水球を出し同じように指を通せば繰り返された。


(んー)


 今度は足元の草を抜き、新たに生み出したブドウ水球に差し込んでみる。

 すると今度は保たれたままそこにあり続けるんだ。

 水球の体積の数割を他が満たせばとかなのだろう。


(あれ?水飲み放題じゃん)


 いいことに気がつけた。

 魔力を必要とするけれど、家にいなくとも水分を摂取できるのは心強い。

 人間が生きるに必要な大きな存在が手に入らなくて焦ることは少なそうだ。


(そこはいいとして…)


 生み出した水球に衝撃も何も与えなかった場合、消えることはあるのだろうか。

 おそらく私は魔法で火や土を出せそうだけど、それは残るものなのか…

 土はいいとして、火が残るとは大変なのでは?


(いや、消火すればいいのか。そのときは)


 とにかく、自然と消えることはあるのか確かめてみましょう。

 またブドウ水球を顕著させ様子を見ることにした。


……………


………


……


 同じく時を流すならば大きさを変えたものも出してみよう。

 そう考え大きさを変えた水球を5つ浮かべた。

 一番小さいのがブドウ水球。一番大きいのでバスケットボールサイズだ。

 とはいえ、明確な直径を知らないので大体だ。


(あ…)


 ブドウ水球が地に落ちた。

 前触れもなく落ちたそれは地面に当たり形を崩す。

 一部は草を濡らし、一部は地面に染み込んだことだろう。


(んー?)


 残ったままの他の水球をジッと見つめる。

 すると見えてきた。いや、感じ取れた。

 水に混じる魔力が少しずつ外周へと向かい、そのまま外へ。

 外気に触れてからはより散り散りになり、最後は散り消える。

 魔力は拡散する。そして、大気に溶け込むようだ。

 蒸発に似ていると思うのは今水を扱っているからだろうか。


(外側に向かう理由はなんだろう?)


 外から何か力が働いているのか、魔力が引き寄せられる存在や成分があるのか…


(あ…)


 水球にはまだ魔力が包容されていたにも関わらず、落ちたんだ。

 しかも少々のズレはあったが、4つ同時と言っても過言ではない。

 体積や重量が大きほど、保つのに必要な魔力も多くなる。かな。

 形を保つのにも浮遊にも継続的に魔力が必要か。

 森林破壊を思えば、衝撃によってその限りではなくなると。


(けど…)


 私が森に向けて放った水球は木々にぶつかっても壊れなかった。

 耐えられる衝撃量などがあるのだろう。


(それもイメージで変わるのかな?)


 ブドウ水球を2つ生み出した。

 片方は少し魔力を込めたつもりで、だけど、大きさは同等に。

 そして、待つこと数分後…


「おぉ…」


 魔力を込めれば強度が上がることが証明された。

 水の強度ってなんだって話だが、そこは置いておく。

 標準タイプのブドウ水球が先に地面に落ち、草を濡らした。

 もう片方が落ちたのはそれから更に数分後。

 そちらは地面に当たると同時にぷるんと跳ねて転がり今もそこに鎮座している。

 時間が経てば形を保てなくなり、地面に染みゆくことだろう。


(お…)


 しゃがんで突いてみればそれはまるで…なんだ?

 グミとゼリーの中間と言えばいいか…少々の弾力を感じた。

 どういうことなのか全く理解できない。

 しかし、水球だって訳の分からぬ存在で不思議現象だ。

 とにかく今は同じ大きさの同じものでも強度に違いを出せるんだと頭に入れておこう。


(土は?あれ?待て待て、あっぶな)


 考え無しに土の球を出すところだった。

 しっかりとイメージを固めること。

 それが大切です。


(泥団子と…土…)


 さつまいも掘りをしたときの畑を思い出す。

 まさかこんな理由であの行事を隅から隅まで思い出そうとするとはね。


(なんか泣きそー。いや、そんな場合ではないね)


 一度頭を振り、続いて泥団子と畑の土を思い起こす。

 大きさや範囲、場所や手触り、柔らかさや硬さ。

 当然全てを鮮明には思い出せない。

 だけど、出来うる限り思い出すんだ。

 そして…


(え、土って浮くの?あ、落ちた…)


 泥団子が浮いている姿に違和感は覚えないというのに、土が浮いた様子がおかしくて首を捻れば落ちてしまった。

 ドサッと音を鳴らしたのは土だけで、泥団子は宙で静止している。

 よく考えればそれも摩訶不思議な光景だ。

 しかし、今はそちらはいい。問題はただの土。

 一瞬浮いたのは確かだ。だけど、すぐに重力に則って地に降った。

 それは何故なのか…


(んー?)


 土を思い浮かべたものの単一という意識はなかったかもしれない。

 この範囲にモサッとという感覚のみで出し、浮かばせるという意識が曖昧だったか。

 浮遊を強く意識したのは泥団子にのみだったと思われる。

 本当に細かく汲み取るんだね。


(ということは…土も浮かばせることは可能か)


 それが分かれば簡単だ。

 ほらね。そこに土が浮いている。

 今度は顕著した途端に落ちるということはなく、宙に静止状態だ。


(あ…)


 泥団子が落ち、地面に当たって割れてしまった。

 本体の何かが消えた形跡はない。


(あ…水はきっと残る。それなら…)


 例えばコップに水を注げばその水が消えることはない。

 蒸発を抜きにしてだ。

 となると、この泥団子や畑の土もそうなのだろう。


(畑仕事が楽に…いや…)


 腐葉土や肥料を混ぜ込む作業があるだろうし苦労はそう変わらないかもしれない。

 だけど、拘りのないただの土が必要な時は簡単に手に入れられるね。

 そんな時があるのかは分からないけれど。


(泥団子は乾燥するとヒビが入るんだよなぁ…)


 どうにか長期間残り続ける泥団子を生み出せないだろうか…

 しかし、何をどうすればそんな代物となるのか分からない。

 水分量や土の性質が大きく関わる気がするので今は保留だね。


 さて、今度気になってくるのは火についてだ。

 あれは物質ではなく、現象。

 水や土とは何かが異なる気がする。

 酸素や枯れ木、燃料によって更に燃え上がることができるので、包容する魔力が減ったからと言って必ずしも消えるわけではなさそうだ。

 火に関しては考察を続けよう。

 本当に安全に試せる環境を整えられたと思ったときに触れた方がいい。

 軽はずみに使用し、何か過ちを犯した場合の被害は甚大だろう。


(うん。ダメです。火遊びは危険なの)


 正面に広がる光景を目に焼き付けながら己に語る。

 最初に選ばなくて良かったと本当に思う。

 あそこで選択を間違えていたら今頃どうなっていたことやら。

 慌てて大雨でも降らして二次災害?


(土で固めるぐらいならできるかなぁ…)


 私が作り出してしまった荒れた土道をどうにかしたい。

 植林は今の私には不可能。

 圧力をかける方法は分からないけれど、ぎゅぎゅっとした土を敷くだけでも変わるだろうか。

 気休めだけど、やるだけやってみよう。

 足を動かし地面の抉れ始めへ向かった。


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