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15.魔法と魔力紋

 本日も陽の光の眩しさに意識が浮かぶ。

 うっすらと開いた目には青空が映った。

 昨夜は色々なことに気を取られカーテンを閉め忘れてしまったようだ。


(まぁ、暮らしは進んだよねぇ)


 昨日はソファーの上で目が覚めたのだから。

 それに引き換え今日は真っ白なふかふかに包まれ始まった。

 カーテンの閉め忘れなんて可愛いものだ。

 なんて考えながら意識は半分夢心地…


(このまま……あ、そうだ!)


 本日の予定を思い出し勢いよく身を起こした。

 なんと本日は魔法について学ぶつもりなんだ。

 まずは座学から。というより、読書だ。

 そこから始まるので本日中に実技まで持っていけるか分からないが、魔法について学べると思うだけで心は躍る。

 ウキウキしている場合ではないと分かりながらもね。


(ま、楽しみがあったっていいじゃないか)


 苦しいだけでは思考も視野も狭まるというもの。

 勝手に心躍るならばそのままに。

 それがいいと思います。


(うんうん)


 心が晴れたところでサッとベッドから降り髪を手櫛で整えながら扉に向かう。

 身支度なんて歩きながらで充分だ。

 寝室を出るまでに浄化まで済んでしまうお手軽さよ。

 こんな晴れた日は布団でも干そうかと思いそうなものだが、そんなことは頭から抜けている。

 当然だね。

 既に魔法を使っていることにも気づかないほどに魔法学へ意識が向いているのだから。


(うんうん。これがいいんだよねぇ)


 本日は裸足で歩く心地良さを感じる余裕もあるようだ。

 穏やかに歩いたかと思えばキッチンに入るや否やササッと準備に取り掛かる。


(本のお供は何にしようかなぁ)


 とにかく先に進みたくて朝食はすぐに食べられるパンと果物を選んだ。

 悩むことなく選ばれたそれらを口に含みながら考えるのはこの後に用意すべき飲み物について。


(カフェオレもいいけど…)


 あれはなんとなく癒やしのものという感じがする。

 心落ち着ける代物であり、味わって嗜みたい。


(となると紅茶かなぁ。確か種類が豊富だったけど…)


 コーヒー同様詳しくはないので困ったものだ。

 気になって仕方がないのでパンを口に放り込みながら茶葉が並ぶ棚に向かった。

 扉を開き鑑定をかけて大まかな味を知っていく。

 その間に食事を進め食器洗いまで済ませた。


(今日はこれにしよう)


 小鍋でお湯を沸かし、食器棚から茶器を取り出し、紅茶を煎れる。

 丸みのあるポットのなかで琥珀色が徐々に広がっていく様子を見るのもなかなかに心落ち着くと知った。

 それと空のティーカップを持ってリビングへと向かう。

 本日読む本は昨日何の気なしにリビングのテーブルに置いたので今もそこにあるんだ。

 適度な硬さを持つ革張りのソファに腰掛け紅茶を注ぐ。

 まずは一口嗜んでから読み始めましょう。


(んー、いいねぇ)


 自然と肩の力が抜けていくのを感じながら魔法書を手に取った。

 これまた紐で綴じられた書物だけどもう本と呼ぶんだ。


(あ、またこれか。まぁ、お茶があるから許せるね)


 本日も前後の単語と照らし合わせながら読み解くことになる。

 まだこれは読みやすい方だと既に思う。

 それに苦笑いを漏らしながら読み始めた。


──────────


 魔法は起こしたい事象を思い浮かべながら魔力を放出することで発動する。

 体内の魔力を感知し動かせるようになって初めて魔力の放出が可能となるそうだ。


 例え同じ魔法でも使用者によって違いが出るそうだ。

 火球だとすれば、形・大きさ・質量・スピード・色などに違いが出るということ。


 魔法名は特に決まりがなく、火球・火の球・ファイヤーボールなど人によって呼び方が違うようだ。

 なので同じ魔法名でも効果が違う場合があり、混乱を招く原因となっているらしい。

 汚れを落とす“浄化”もあれば、瘴気を払う“浄化”もあるのだとか。

 事象ごとに定義を定め分類するのは非常に手間がかかるので誰もやりたがらないのだろう。


 体内に蓄えられる魔力の総量は個体差があり、それは身体の大きさと比例しない。

 体内の魔力が極端に少なくなると体調不良を起こし酷ければ昏睡状態に陥る。

 これを“魔力欠乏症”と言う。

 魔力が完全に無くなると死に至る場合もあるのだとか。

 その為、魔法を使う際は残りの魔力量を気にしながら行使する必要があるそうだ。

 酸素と似たようなものだろう。


 魔力には魔力紋という指紋のようなものが存在する。

 人や魔物など、生物の魔力紋はひとつとして同じものは無く、例え双子でも異なるそうだ。

 但し、しゅの紋という紋があり、ある程度は種分しゅわけができるとのこと。

 全く同じDNAではないのに親子関係を証明できるように、とある種の紋の特徴の一部を持っているなどで判断できるのかもしれない。

 種の交わりが少ないほど見極めは簡単になりそうだね。

 どれだけ他の種の血が混じっているかどうかということだ。


 生物だけではなく、植物や鉱物にも魔力紋はある。

 そちらの場合は個体差というものが無いようだ。

 桜とたんぽぽの魔力紋は全く違うけれど、3本並ぶソメイヨシノの魔力紋は一致するといった具合だ。

 おそらく同じ桜でもソメイヨシノと八重桜では一致する部分もあり違いもありなのだろう。

 もしかしたら植物の紋などが存在するのかな?

 そこは追々学んでいこう。


 さて、あたかも魔力紋は見ようと思えば見れるかのように感じるが、そうではない。

 重要になってくるのは魔力感知力だ。

 魔力感知を鍛えれば感知できる範囲が広がる上に、魔力紋の識別までできるようになるとのこと。

 昨日散々考えたおかげか、言いたいことを少しは読み取れた。


 魔力紋に関しても“見る”ではなく“感じ取る”だ。

 視認できるものではなく、頭に思い浮かぶとも違う。

 感覚でしかない。


 魔力紋を認識すること。そこから更に識別できるようになること。

 つまり、魔力溢れる中から一箇所に集う魔力に気づき、魔力によって描かれている模様を事細かに感じ取る。


──────────


 ここまでは理解した。

 しかし、分かったところで難易度は計り知れない。

 そこに到達する方法が分からないからだ。

 何が必要で何を行えばいいのか分からないでは、待ち受ける苦労もかかる時間も予測できない。

 一体どれ程の努力が必要なのかも不明。


(なんとか身につけたいなぁ…)


 自分の周囲にどのような生命体がいるか分かるようになれば心強すぎる。

 策を練る時間も心構えをする時間もできるということ。

 食料調達という点においても大きな助けとなるだろう。

 何処に何があるか分かるなんていいことでしかない。

 魔力感知を鍛えることで範囲が広がるというのも大きな利点である。

 とにかく、魔力紋の識別が可能になることを目指すのは安全という観点からはいいことだ。


「はぁ…」


 読み終えた紙束をテーブルにそっと置き長く息を吐いた。

 魔力感知を鍛えるにはどうすればいいのか糸口が掴めない。

 かろうじて思うのは魔力を感知しようと常に意識することか。

 魔力感知を常時発動と言えばいいか…


(それは…ストレスなのでは?)


 この身で常に情報を受け取るとは常にストレスがかかり続けるということ。

 昨日は少しでも感知の負担を減らしたいが為に視覚から得ない方法を模索したというのに…


(慣れれば逆に心地いいとかありえる?)


 今はまだあちらの世界での感覚が強すぎる時だ。

 魔力を違和感と思ってしまう時。

 この世界やこの身体に慣れることで受け止め方に変化が見られるかもしれない。

 そこに関しては様子を見るしかないね。


(まず、一度やってみようか)


 魔力感知を発動する方法も分からないけれど、意識をすれば今よりも感知できる量や範囲が変わるのか否か。

 あれこれ考えるだけでは何も掴めない。

 何かを行いそこから考察を進めるやり方がいいだろう。

 試してから考える。しばらくはその繰り返しかな。


(となると…外の方がいいかなぁ)


 ここだと壁が隔たりとなるかもしれない。

 まず、現時点でどれだけ感知できるか把握するには外の方がいい気がする。

 カップに残る紅茶を紅茶を飲み干し立ち上がった。


(楽しみになってきた…)


 ついでに魔法を試してみようかだなんて考えたから、途端に高揚感が湧き上がってきたんだ。

 真剣に取り組めと言い聞かせる自分と、少しぐらい楽しんだっていいじゃないかと語る自分がいる。

 どちらも悪くない考えに思うから困ったものだ。


(けどなぁ…)


 この高揚感を抑える方法が見つからない。

 ワクワクするなと言う方が難しいだろう。

 だって魔法なのだ。

 夢に見た魔法。本やゲームの中にしか存在しなかった不思議現象。

 それを自分が使えるとなるともう心は躍りまくりだ。

 魔法らしい魔法を使い、実感したいんだ。

 私は魔法使いなのだと。


(いや、まぁ…)


 鑑定や浄化は既に使っている。

 それだって立派な魔法なのだが、どうも魔法を使った感が薄い。

 画面の中で繰り広げられる鮮やかで美しい、格好良さもある魔法が頭を占める。

 どうしても目視できる魔法を魔法と認識してしまうようだ。


(ま、いいでしょう)


 憧れるのは悪いことではない。

 だけど、軽はずみな行動を取らないこと。

 魔法を使うとは何か丁寧に学ぶべきだ。

 そこすら知らないと自覚を持つこと。

 あまりにもワクワクが止まらないからこそ何度も何度も冷静ぶって言い聞かせた。

 心落ち着いてほしいものですねぇ。


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