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14.束の間の休息

「ふぅ…」


 キッチンにて水で喉を潤したところだ。

 その冷たさもまたいいが、味気なさを感じる。

 空のグラスを眺めながらつい考え込んでしまう。


(何か飲みたいなぁ…)


 水以外の飲み物が欲しい。

 今後もずっと水だけというのは厳しいだろう。

 飲み物とは重要なのだなと今思っているところだ。

 

 読書をする傍らに温かなお茶が添えられているのもいい。

 風呂上がりに水以外で身体を潤すのもいい。

 甘く暖かなもので心身を癒やしたい。


(あるかなぁ…)


 このキッチンを把握していないので可能性は残されている。

 塩のバリエーションは豊かなのに飲み物は水だけということはないだろう。

 本日粗方家の探索を終えたらキッチン内の把握に努めようと思っていた。

 だけど、他に気を取られたというか、重要度の高いものができたので自ずと後回しになったんだ。


(お茶だけでも探すか…いや、夕飯が先か…)


 思えば空腹である。

 だけど、一度飲みたいと思ったからなのかとにかく水以外を欲する。

 明日も書物を読むつもりだ。

 やはり何か飲み物をお供にしたいね。


(まぁ、通常であれば戸棚とかにありそうだよねぇ)


 そうして茶葉探しが始まった。

 キッチンの把握にも一役買うだろうと踏んで。


─────


───


──


 結果、茶葉はあった。

 しかも、選ぶだけでも楽しめそうなほどに種類が多い。

 茶葉だけではなく数種類のコーヒー豆も見つけられたのは嬉しい誤算だ。

 お茶の存在可能性は高かったのに何故かコーヒーに関しては低かった。


(不思議なものですねぇ)


 コーヒーがあると分かった今、無性にカフェオレが飲みたくなった。

 だけど、豆をどうすればいいのか分からず困っている。

 同じ豆なのに色が違うのは焙煎されているかいないかの違いだと鑑定で知った。

 焙煎されている豆を使い切ってしまった後はどうしよう…


(焙煎ってなんだ?フライパンでできるのかな?んなわけあるか。いやいや、その前に…)


 まず、焙煎済みの豆をどうすればコーヒに変えらるのかを考えるべきだ。

 粉にするのは分かっている。


(コーヒーミルはあるのだろうか…ハンマーで砕いてすり鉢でなわけないよねぇ)


 アホなことを考えながらそれらしき道具がないか探し始めた。


(え?マジっすか?)


 これまた何故その存在に気がつかなかったのかと思う代物がそこに。

 それこそあるとは思っていなかった。

 ゆっくりとそれに近づきながら鑑定を使用する。

 やはり見た目通りコーヒーメーカーと似通った機能を備える魔道具であった。


(えー、ほんとに?夢じゃない?)


 そう思うほどに想定外すぎる代物だ。

 仕組みなんて気にする前に身体は勝手に豆を投入している。

 コーヒーには詳しくないので棚の1番手前にあった豆を。

 カフェオレを作る機能はないので、ミルクを温めコーヒーと混ぜるのは手作業だ。

 だけど、今はそれを手間と感じない。


(楽しみだなぁ。早く飲みたいなぁ)


 棚で見つけたお砂糖も加え再度かき混ぜながらその時を待つ。

 こんな理由ならば早る気持ちを抑えるのも悪くない。

 湯気の立つそれを棚から取り出したカップに注ぎ一口飲めば…


「あつっ…」


 待ち時間を設ける必要があると知った。

 熱さにより味や甘味を上手く感じ取れなかったけれど、いくらかは口内の残っている。


(まだかなぁ…もういいかなぁ…)


 今度こそとゆっくり口に含めば…


(うんうん。これこれ)


 ほっと一息。

 まろやかなミルクの甘味の後にほんのりと覗くコーヒーの苦味。

 この豆にして正解だったようだ。

 いや、たぶん他の豆でも美味しいのだろう。

 ちょっと知ったかぶってみたかっただけなんだ。


(さてと…夕飯はどうしようかなぁ…)

 

 茶葉探しとカフェオレにそこそこ時間を使ってしまった。

 今から作るとなると腹の虫がうるさそうだ。

 それに、師匠からの言葉や書物の内容を受けたくさん心が揺れ動いたので疲れてしまった。

 手の込んだ料理は作りたくないね。


(簡単なもの…肉焼くか)


 煮るのも炒めるのも面倒なので焼くことにした。

 というわけで、魔道食料庫から取り出したのはミノタウロスの肉。

 おそらく牛肉のような味と思われる。

 生は怖いのできちんと火が通るように薄めに切っていく。


(あ、そっか。洗い物をしなくていいんだった)


 洗い物に手間と時間がかからないことを思い出し気分が上がる。

 キャベツの千切りでもしていれば調子が上がっただろう。

 しかし、今は肉を切り終え塩胡椒を振るだけの段階なので調子も何もない。


(あ、それなら早めに入れようか)


 食後の洗い物に時間がかからないとなると今からお風呂にお湯を溜めておこう。

 本日は湯船に浸かり心身を癒やしたいのでね。

 ササッと湯船のそばにある魔道具を起動してお湯張り開始だ。

 お風呂に入るんだと思うとまた気持ちは上向きになる。


(とはいえ、気分が上がってもソースを作る気力は湧かないなぁ…)


 キッチンに戻りフライパンを温めながら思う。

 ステーキソースを作るのは手間なので今回は諦めよう。


(玉ねぎたっぷりのとか美味しんだけどねぇ…)

 

 温まったフライパンに肉を置きながらソースに思いを馳せた。

 ジュワーッと肉が焼ける音でも顔は綻ぶというもの。

 スープは塩だけでも充分な美味しさに仕上がったのでシンプルな味付けのステーキ肉でも満足できるだろう。

 そのスープはまだ残っているので温め直してお供とする。

 白パンも添えて。

 両面をこんがりと焼いたお肉は食欲を刺激するね。

 相も変わらずキッチンの中央にある大きな調理台に並べ実食です。


「いただきます」


 ミノタウロスはやはり牛肉に近い味わいで違和感なく食べられる。

 特に筋張っているということもなく、美味しく頂けているね。

 本日は朝も昼も味付けがシンプルだったので明日は違いを出したいところだ。


(煮るだけ焼くだけというのも気掛かりだけど…)

 

 明日何を作るかは明日次第だ。

 気力や体力、心がどうなっているか予測不能。

 きっとしばらくは明日の自分を想像することが難しいだろう。

 それでも頑張ろうと心に決め食事を終えた。


(食器洗い楽ちんすぎ〜)


 数秒で洗い物を済ませ今度は洗面所へ向かった。

 それはもちろんお風呂に入る為。

 向かいながらもシャツを脱ぐという忙しなさよ。

 それだけ楽しみということだ。

 残る衣服もとっとと脱ぎ湯気に満たされた風呂場へ足を踏み入れた。


(おっと、マナー、マナー、いる?それ)


 雑にお湯を浴びた後、早々に湯船に身を投じた。

 私一人だけのお風呂なのだから好きにしていいでしょう。


(あ〜〜〜)


 暖かい湯に包まれるだけでどうしてこうも色々とほぐれていくのだろう。

 頭も緩むね。


「………」


 広い湯船を贅沢にも独り占め。

 手足を投げ出し瞼を下ろし微睡んでいても邪魔をされない。

 なんて贅沢なのでしょう。


「………」


 ほぐれた頭では多くのことを考えられないからこそ心を落ち着けられるんだね。

 このまま眠るのは危険と分かるのでそこだけ気をつけしばし身を委ねた。


─────


───


──


(いいお湯でした!)


 身も心もゆるゆるだ。

 いい気分で冷たい水を流し込み寝室へ向かう。

 なんと本日はちゃんとベッドで眠れる。

 またここで気分は上昇だ。

 本日意図せず場所を確認できたのは良かった。


「お邪魔しま〜す」


 先程はそんなこと気にしなかったというのになんとなく今は少しだけ気が引けた。

 とはいえ、踵を返す気なんて全くない。

 寝室に置かれた大きなベッドは見るからにふかふかで楽しみだったのだ。

 数名が眠れそうなほどに広く、これならばゆったりと眠れることでしょう。


(あ、待て待て)


 ベッドに向かう最中さなかに部屋にあかりが灯されていることに気がついた。

 これを消す方法を知ってから眠りたい。


(えぇっと…あ、あれかな?)


 振り返った先、扉の横にそれっぽい物が貼り付けられていた。

 縁取られた白銀の板は正方形で、その中央に青い魔石がひとつ。

 ひとまずそこへ。


(いや、よくぞこれをそれっぽいと思えたな)


 どう見たって電気のスイッチ感は皆無だ。

 照明に関わる何かとは思えなくなってきた。


(でもなぁ…)


 では、これはなんなんだとなるわけで、これに何かしたら何があるのやら。

 魔道具に関わるとしたら魔力を流せばいいのだと思う。


(何も起こらない…あ、消えた)


 触れて魔力を流しても何もなかった。

 どうしたものかと思う前になんとなく指で押してみれば部屋の照明が消えたんだ。

 しかし、ベッドのそばにある照明は灯ったまま。

 土台部分に魔石があるので押せば済むのだろう。


(ほらね)


 サッと近づきサッと終えた。

 昨日から続くあかり問題がようやく解決したね。


(あれ?暗くなったら勝手に灯る機能はどうなるの?)


 次から次へといい加減にしてほしい。

 思わず眉が寄ってしまうよ。


(そこはもういいや)


 もう布団に入りたくてたまらない。

 勝手に点灯せずとも、魔力を流せばつくでしょう。

 それが分かっていればいいさ。


(となると…?いいよね?やっちゃうよ?)


 一度はやってみたかった。

 ふかふかのベッドへダイブを。


(おぉ…)


 この身を易々と受け止める強さに感心しきりです。

 いそいそと布団に滑り込みこの身をふかふかで包んだ。

 柔らかすぎて眠れるか心配にもなったけれど、問題なかった。

 布団に包まれてすぐに眠気が襲ってきたから。


(本当にありがたい)


 この家があって良かった。

 そうでなければ今頃死んでいたことだろう。

 心より感謝申し上げます。骸骨様。そして、師匠様。

 おかげで明日も生きられます。たぶんね。

 微睡みの中で感謝を伝え眠りに入った。

 何故か月明かりは気にならなかったみたいだね。


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