2-9
太陽が水平線に歩み寄る時間。まもなく周囲がオレンジ色に染まる頃。
アクアラグーンの敷地にある大きな倉庫には人々が集まった。
いつもは小型ボートが保管されている倉庫で、スペースが広い。この場所で石像の修復が行われようとしている。
様々な分野の人々が集まったので初対面が多い。
その中にはルシード公子とフェルンもいた。
挨拶も簡単に済ませた。ここでは身分や職業など関係はない。目的を一つにし集まったメンバーの熱い思いだけがそこにあった。
ただ、マリーヌはこの時、特別な雰囲気を感じた。
二人にオーラがでている。
この二人って……? 初対面じゃないの?
「君は……」
「セレンです」
少し離れて見ていたマリーヌ。フェルンの瞳にはセレンだけが映っているように思えた。
見つめ合う二人。唇に動きはないけれど、会話をしているような雰囲気。
無色透明で、遠く彼方から惹かれ合うような絆? そう、二人の間の空間で、目には見えない絆が存在するような感じがしていた。
ガン!
はっ!!
石像の修復が始まり、物音でマリーヌは二人から視線を外した。
公子の手配で一流の修復職人が集められた。徐々に組み立てられる石像。破片を貼り合わせ、不足分は別の素材で補強していった。
組み立てると玉座に座る人物。古代の偉大な人物には違いないが。
「国王か?」
「国王ではない」
職人達の会話に力が入る。
その人物が膝元で抱く獣。角のある獅子に似た獣。それは神使いの聖獣、アルパス。
「アルパスを抱いているということは、ラルフの前神・パルトロス座のフドルフ」
その時、セレンの瞳がエメラルドグリーンの輝きを放った、その瞬間をマリーヌは見逃さなかった。
マリーヌは同時にフェルンにも視線を送った。その様子に変化はなかったが、フェルンの瞳は、フドルフ像とセレンを意識しているかのようだった。
「フドルフ神の像が沈んでいたとすれば」
「やはり海底神殿は存在する」
ディアスが大声で言った。
ルシード公子の別邸では晩餐が行われようとしていた。貴族が集まり華やかな夜会が始まる。
「もう少しお近づきになりたいですわ」
公子へのアプローチは何人もの令嬢から注がれた。
マリーヌもその場にいた。
伝説につながれた二人? 私と公子の間にも絆が。
ルシード公子こそが、幻の王子?
そんなことはないか。
「ワインでも」
使用人が立っていた。
「ありがとう」
ワインを手にし、マリーヌは公子から目を離した。
フェルンの姿もあった。周囲を気にして誰かを探しているようだった。
「探しているのは、セレン?」
マリーヌが声をかけた。
セレンは神殿の眠る海底がわかった後、姿が見えなくなった。
セレンを探している? その問いかけにフェルンは黙っていた。ただ否定しないことでマリーヌはフェルンの気持ちを理解していた。
「役割が終わったのかな?」
フェルンが小さな声で言った。
んん?
「あなたとセレンの間にはなにかがあるのね?」
「もう君にも真実が見えてくる頃なのかな?」
フェルンが透き通るような落ち着いた瞳でマリーヌを見つめた時、そん時だった、扉の外が騒がしくなり、行政部の職員が駆け込んできた。
大陸南部を支配するレガール国の捕獲船団がマーメイドを奪いに来た。
「なにぃーー」
その場にいたロッペンの声が大声を上げた。
「先を越されるのか? いやそんなことはさせない」
と言いながら、焦りを隠せない。
「行こう!!」
「え?」
マリーヌはフェルンに腕を掴まれた。




