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2-8

 前夜は嵐の天候だったけど、翌朝は太陽が顔を出していた。


 海辺でも室内でも、美男子からの誘いは、マリーヌを惑わせた。

「君には夕日が似合いそうだ。どう? 浜辺を二人で」

「君に似合うドレスを見つけたんだ。街でのショッピングでも」

「女性をより美しくする美容素材を使った料理があるんだ。食事の時間をご一緒に」

 アクシアスラグーンの利用者となったマリーヌには、さらに男性の熱い視線が送られた。逆ハーレムは続いていたのだ。

 未だに、これほどモテることが不思議なマリーヌだった。



 海底探査チームも今まで以上に本格的な活動となった。公子の援助で新しい船も用意された。ディアスをリーダーに、新しく雇われた船乗りが数人探索メンバーになっていた。

 船から大きな網が引き上げられると、大理石の像の一部が網にかかっていた。ライオンの上半身に羊の角。かなり古い彫刻と思われる。

 ウォーと、探索メンバーが歓喜した。


「海底の泉が湧き出したことで海中に浮かんできたのかも?」

 ディアスが推測で言う。

「この辺を詳しく探る必要があるな」

 メンバーの意見だった。



「夕日が綺麗」

 マリーヌはフェルンと浜辺を歩いた。

 アプリコットの夕日が二人の頬を染める。

 男性と二人、ロマンティックだとマリーヌは思う。でも、恋人同士の感覚ではない。謎を秘めた男性に心を奪われてはいけない。傷つくだけだから。マリーヌの心は信頼と警戒心の狭間で揺れていた。


「あなたは誰?」

 マリーヌの唇が小さく動く。囁くような声を、フェルンの耳元へ届けてみた。神話の時代から、なにかが続いている。壊れたものを修復したいとか、失くしたものを取り戻したいとかいう強い願い。この土地に関係する人達は、きっと神の魂を受け継いでいる。そんな気がする。


「なにを隠しているの?」

「僕の秘密を知りたいかい?」

 封印を解くカギを遠くから見せつけられた気分。はっきりとは見えないけど謎を解くカギがある。でも、うっすらとした輪郭しかわからない。


 やっぱり知りたい。フェルン……あなたって……。その男性の横顔は夕日によって橙色に染まっていた。


「もう少し待って、すべてを話せる時がくるまで」

 そう言ってフェルンはマリーヌの視線から目をそらした。心の内を探られたくない。そう思えた。


「海からの風が気持ちいいね」

 マリーヌは自然な口調で言った。

「もう少し歩こう」

 風は寄り添う二人の頬をかすめて砂浜を流れていった。


 港の端は岩場になっている。遠く沖合にはヨットの帆がカラフルに揺れていた。

 マリーヌが港を歩いていると船が出発した。出力の高そうな探査船だった。

「お~い」

 船から手を振っているのはロッペンだった。


 人魚を探しにいくんだわ。


「がんばってぇ」

 マリーヌも手を振った。マーメイドの存在が明らかになってロッペンはなんとしてでも捕獲したい考えだ。その意気込みが感じられた。


 ただ、伝説を解き明かすためとはいえ、マーメイドを捕まえてよいものだろうか? しかも伝説は、女神との関係も匂わせている。この活動が、すべての人の幸福につながってほしい。

 マリーヌは、そんなことを思いながら岩場に到着した。


 打ち寄せる波が岩にあたって弾けた。赤いカニと白いカニが生息している。人の気配を感じるとカニは一斉の水中に身を隠した。

 その場所には、ディアスが待っていた。隣に女性の姿。長い髪を束ねて眼鏡をかけている。


 誰だろう?

 マリーヌが近づくと、海面からしぶきがあがった。


 黒い背中?

 ん!? なに!?


 イルカだった。


「メスのミュールよ」

 その女性は綺麗な声で言った。

「紹介するよ」

 ディアスはイルカの調教師、セレンを紹介してくれた。


 セレンが海に向かってパンパンと手を叩く。

 イルカのミュールが海面から顔を出した。

「かわいい」

「頭を撫でてみて」

 マリーヌはセレンに言われてミュールに手を伸ばした。ミュールは鳴き声を出して喜んだ。


「このミュールが神殿探しの切る札になる」

「え? イルカが?」

「このミュールは特殊な種のイルカで、夜間月の光を浴びると背中が光るんだ」

 説明を聞き、マリーヌはディアスに不思議顔を見せた。



 時折空が紫色に煙る季節。この土地では珍しいことではない。民によっては不吉だと霊媒師のもとに向かう者がいたり、病が治る前兆だと喜ぶ者いる。エメラルドグリーンの海も赤紫と色を変えるのもこの時期の光景だった。

 サーファーにとっては、海水の色などどうでもいいらしく、いつものように波に乗っている若者も多い。海から上がると髪の毛が紫に変色しているが、淡水で洗い流せば元に戻る。


 そんなレッドパープルの海に浮かぶ島、ブライトン島近くでディアスのチームの船が碇を下ろしていた。セレンはミュールに手で合図を送ると近寄って来た。


 潮風が気持ちいい。

 その船にマリーヌも乗っていた。


 かつては第三の宝島と噂され大陸からの訪問者が多かったブライトン島。それが単なる伝説だとわかり、静かな島となった。島の上空では大海鳥が羽ばたいている。


 セレンの指笛でミュールが海底に潜ってしばらくしてからだった。


「なにかをくわえている!!」

 ミュールは海底でなにかを探し当てたようだ。

「腕?」

 マリーヌは真白な腕を見て一瞬ギョッとした。指が折れてなくなっている。


 セレンは、その腕を船に引き上げた。


「人の手?」

「まさか、彫刻よ」

 ミュールがくわえてきたのは、石像の一部だった。


「神殿の一部を発見したのか?」

 ディアス自身も手に取り確認した。


「たぶん、いや間違いない。沈んでいるはずの神殿にあったものだ」

 長い間海底に会っても、表面のツヤが消えず水も弾くという当時の特殊素材。さらに神の残魂の力か、彫刻は生きているように新鮮だった。


 わぉぉーー メンバーが声を上げた。


「この近くの海底を集中的に探索しよう」

 ディアスの提案にセレンも頷いた。


 街はいつもと同じ、南国の香りが漂う。この地が伝説に近づいていることを知る人は少ない。アイスクリームを片手に無邪手にはしゃぐ子供。腕を組み仲良く散策するカップル。


 探索は何日も続いた。


 その日、海はエメラルドグリーンの輝きを取り戻していた。


 何頭ものイルカが一斉に海中に潜っていく。


「今日こそは……」

 船では探索チームが見守っていた。


「大丈夫?」

「ミューズがきっと願いを叶えてくれる」

 セレンがマリーヌに言った。


 はっ!


 ミューズがなにかをくわえている。

 セレンが手に取った。やはり石像の一部、今度は足の部分だった。


 次々に海面に顔を出すミューズの仲間達。


「みんななにかをくわえている」

 マリーヌもイルカから石像の一部を受け取った。


 どのイルカも彫刻の破片のようなものをくわえていた。

「この欠片をつなぎ合わせたら、なにかがわかるかもしれない」

 すべてのイルカから破片を回収すると船は港に戻った。

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