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2-2

 蒸気船なんて……。

 セフィードの港には、客船が停泊していた。

 レバロンは大きな船体を見上げて説明した。

 その客船は、黒の船体に赤紫のラインが入った印象的なデザイン。沈まない客船と呼ばれるバンテックサロン号。

 ラバルト海の大嵐でも沈まなかった船で、設計者のヒューラック技師は、そのことがあって教科書にも載るようになった。この船はそれほど有名な客船だった。


 すでに乗船は始まっている。紳士淑女が世話役を連れて乗り込む光景はいつものことだった。


 レバロンの背後に女性の影。スーツケースを持っている。

「旅のお供をするミレンです」

 ショートヘアーで活発そうな女性だった。彼女も案内役(クリスチャー)なのだろう。

「マリーヌ様ですね。広域行政案内役協会から派遣されてきました。よろしくお願いいたします。」


 広域行政……って、国々が結んだ協定? 自由に行き来するための共通の制度でもあるの? マリーヌは疑わしく思った。が、この世界ではまだまだ知らないことが多いことも事実。今回はこのクリスチャーに頼るしかなさそうだ。


 船が出港した。

 港でレバロンが軽く手を振っている。

 ご無事で……そんな唇の動きをした。



 航行する客船、上空を羽ばたく海鳥の鳴き声。

 マリーヌの客室は3等級の安い部屋だった。

 不思議に思う。エレガントスイーツなんて、高級な部屋をイメージしていたのに。


 デッキに上がると、ミレンが若い男性と親し気に話している。レバロンの送り込んだ謎の多いクリスチャーだ。油断できない。そんな思いで歩み寄る。

 なかなかハンサムな男性。マリーヌの嫌いなタイプではなさそうだ。

「そではまた」

 マリーヌの姿を見て、男性は去っていった。


「今のは?」

 ミレンに訊ねた。

「旅のお客様のようです」

「知り合いではないの?」

「ええ、たまたま海を見ていましたら」

 男性とすぐに親しくなるなんて……やはり、ただものではないか?

 マリーヌは、ミレンをじっと見てしまった。

「なにか?」

「いえ、ところで、私の部屋って3等級の部屋なのね」

「お気に召しませんでしたか?」

「だって、いつもなら令嬢としての待遇で旅を任されていたから」

「なにもお聞きになっておられないのですか?」

「え?」

「この旅で向かう先は、海の綺麗なバカンス地です」

「それは聞いているけど」

「マリーヌ様は、バカンスで訪れる貴族や富豪の御子息のお世話役なのです」

「お世話役というと……」


 嫌な予感もする。


「お相手ということです」

「まさか、不特定の男性に身を捧げろとか?」


「それはご心配なさらずに。マリーヌ様はお客様の宿泊先で雑務などをこなすお仕事を……」


 それって、メイドってこと?

 今回は、他人の身の回りの世話係、つまり仕事をさせられるということ?


 これもレバロンの仕掛け? ……詳しい説明もなく私を送り込んだのね。眼鏡の裏に隠された光の意味がわかりかけた。きっと、さらに深い事情を抱えた旅になるのだろう。

 マリーヌは、レバロンの顔を思い浮かべて、金づちで頭を殴ってやった。



 メインディッシュは、焼き魚かぁ~

 マリーヌは、3等の食堂で質素な食事をした。


 バレンシアのパスタが食べたい。

 食後、そんな気分で、デッキを歩いた。


 んん?

 先ほどの……。

 ミレンと一緒にいた男性が、水平線の写真を撮っていた。

「それは?」

 声をかけてみた。

「やぁ」

 こちらを見た。近くで見るとやはり綺麗な顔立ち。

「なにを?」

「写真を撮っているんだ」

 異世界のカメラは、銅製の小さな箱にレンズがついた簡単な構造のようだった。

「この写真機は、ありのままの風景を紙に残してくれる優れものでね。ラフィード国の闇市で手に入れたんだ」

 とマリーヌにレンズを向けた。

「ちょ、ちょっと、恥ずかしい」

「また改めて、被写体を頼むよ」

 と写真機をお腹の辺りまで下ろした。

「僕はフェルン、こうして旅の記事を書いて新聞社に持ち込んでいるんだ」

「私はマリーヌ、海の綺麗な街があると聞いてこの船に」

「バカンスで有名なマリンビュールの街に行くんだね。僕と一緒だ」

 マリーヌが微笑みを返した時だった。


あっ!


ん!


 フェルンがレンズを海へ向けた。

「シャッターチャンス!!」

 大きな魚が海面を飛び跳ね、大きな水しぶきが上がった。

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