2-1
異世界は幾重にも次元が交差する未知なる空間に存在する。
時空間をまたぎ、別世界から異なる神の息遣いが聞こえていた。
エメラルドグリーンの海。時折高波が岸壁にぶつかり弾け飛ぶ。
海の輝きが白壁を神秘の色に染めていた。その神殿の中が騒がしい。
「大変ことになった」
「ラルフ様の不貞が……」
「妻、エルラード様の耳に……」
神々に使える従臣達に動揺が走った。
宝石のような輝きを放つ海面。そんな海が見える丘で、ミシュレーヌ座の女神・ラルーシャは悲し気に佇んでいた。ハリケオス座の神・ラルフが背後から抱きしめた。
「これで最後にしよう」
「首筋に……額に……髪に……触れた時の唇の感触、あなたから受けたキスの余韻がまだ私の体内に潜んでいる」
その横顔は、思い出に浸っているようだった。
「時の流れを自由にできる力があるのなら、何度でも愛しさとともに、あなたと触れ合いたい」
ラルーシャのセクシーな横顔が、ラルフを快楽の扉へと誘いかける。
その時……。
天空が真っ黒な雲に覆われた。
これは!!
ラルフは慌てた。
暗黒の空から雨が降り注ぎ、ラルーシャの頭上に降り注ぐ。
「痛い!!」
その雨粒は針のようだった。
空が明るくなる。
眩しいと感じてすぐ、光をまとい、エルラードが出現した。女王の気品を携え、ラルフの妻として、浮気相手を威圧してきた。
「エルラード」
ラルフは妻の名を呼んだ。額に汗がにじむ。
「よくもわたくしを裏切りましたね」
「違うんだ」
「言い訳は聞きたくありません」
「お許しください」
ラルーシャは頭を下げ懺悔した。エルラードの怒りが収まるはずはなかった。
「おまえには夫をかどわかした罪の償いが待っている。覚悟はできているわね」
「待ってくれ」
ラルフはラルーシャを守ろうとするが、エルラードの力が増している。浮気をされた妻の怒りは、神の力を増幅させた。
ヒャーーー
「ラルーシャーーー」
ラルーシャの悲鳴とラルフの叫びが重なり空中を駆け巡った。
「海の底で反省するといい」
正義心をもつはずの神も、時として心を乱し魔力を操る。その力は怒りと重なることで強大に発せられる。
ラルーシャの体は、深海の神殿に移送された。
その神殿は深海からエメラルドの海を守護し、いつしか再び地上に出ること望んでいるという。
マリーヌの住む世界にも朝日は昇る。
マリーヌの一日は、バレンシアの朝食で始まる。フライパンで丁寧に焼いたパンケーキは何層にも重なり、その間にベリーのクリームが挟まっている。
今 日の飲み物は、チョコラティエという初めてのホット飲料。 ミルクとシュガーを加えて飲むとわずかな苦味で美味しさが増す。
久しぶりにクリスチャーのレバロンが来ていた。
「バカンスはお好きですか?」
相変わらず、唐突な質問をするレバロン。
「どういう意味?」
「海の綺麗な街からお誘いがありまして」
「また、恋とミステリーが交差する旅へのお誘い?」
「それは行かれてからのお楽しみということで」
レバロンは眼鏡の向こうで瞳を光らせた。
「断る理由もないでしょ」
「ではご準備を」