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三題噺もどき3

夕暮れ散歩

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくはちじゅうご。

 


 生ぬるい風が頬を撫でる。


 ようやく雨続きの日々が終わり、晴れ間が覗くようになった。

 今日の昼間は、暑すぎるくらいの日照で、家の中にいても暑かった。それに加えて、いまだ湿気が居残っているから、不愉快極まりない。

「……」

 何をどうあがいても涼が得ずらく、どうしたものかと疲弊してばかりになる。

 熱中症警戒アラートなるものも出ていると言うから、どうにかこうにか涼しくして室内で過ごしたところだが……このご時世電気代があまりにも高くて簡単にはうまくいかない。

 大人しく冷房でもつけておけばいいんだけど、そうすると生活が困難になる。

「……」

 とは言え、熱中症になって倒れては元も子もないので、最終的には冷房機器に協力を仰ぐしかないのだけど。冷房機器というか、クーラーだな。

 その前段階として、扇風機で何とか風の流れを作ってみて、涼をとったりしてみるが、無駄な努力に終わり。他にも諸々夏用にしてみるが、たいして効果もなく。

 泣く泣くクーラーをつけて、あまりの快適さに、その生活が手放せなくなる。

「……」

 それもこれも。

 外出している今は関係ないのだけど。

「……」

 いつの間にか日課となっていた、外出を兼ねた運動。

 ちょっと付近を歩きつつ、買い物があればそれを済ましたりする程度のもの。

 日中よりは多少涼しくなるだろうと思い、夕方のより遅い時間に家を出たのだが。

「……」

 それでもこの暑さなのか……。

 ジワリと汗が滲み、時折伝う感覚が背中を這い、ぞわりと気持ち悪さが走る。

 風があるから、まだましだとは言えるが、ジメジメとしているせいか暑さが倍に感じてしまう。

 時折すれ違う、散歩中の犬なんか、あまりの暑さに疲れ切っているようにも見えた。

 ただでさえ地面との距離が近くて暑いだろうに、あの体毛では考えたくもない暑さなんだろうか。きっとサマーカットとか夏毛とかにはなっているんだろうけど……見ているこちらが暑くなるほどに暑そうだと思うのは私だけではないような気がする。

「……」

 暑さのせいか、ぼんやりと霞む視界では、木々が赤く染まっている。

 紅葉の時期だったかと見紛う程に、赤く染まった木々が、並んでいる。

 いっそ、その方がまだ涼しい時期で、快適に散歩が出来たろうに。

「……」

 薄暮、薄暮れ、夕暮れ、日暮れ。

 刻一刻と空の色が変わるこの時間は、様々な言葉で形容される。

 特に夏のこの時間は、黄昏という言葉がしっくりくる。

「……」

 まぁ、実際は夏に限った言葉ではないのかもしれないが。

 黄昏―誰そ彼。

 それは、夕暮れ時、他人の顔の判断がつかないほどに暗くなり始めた頃。貴女は誰ですかと尋ねなければ、人かそれ以外かも分からなくなるような。

 蜃気楼の揺らめく夏は、更にいっそ分からなくなりそうだ。

「……」

 私の少し先を歩く影は。

 人か、それともそれ以外か。

 視界に映る木々は。

 陽によって染められたのか。

「……」

「……」

「……」

「……」

 うううん。

 あまりの暑さで思考が飛びすぎたな。

 このご時世にそんなこともあるわけがなし。

 歩く影は知らぬ他人だし、木々は夕暮れで染められているだけだ。

「……」

 なんとなく影が異様に長いように感じたけど。

 気のせいだろう。





 お題:紅葉・薄暮・犬

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