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大切にしてるのぉ!!




 礼園高校。

 そこは様々な生徒が集まるサラダボウルのような高校である。

 様々な生徒が集まれば、様々な集団があり、それは部活という形に纏まることもあれば、別の形に変わることもある。

 ただ、確かなのはカーストという単純な階級でまとまることが無いということだ。


「やっぴー!おはよう!諸君!」

「おはよう!結衣〜」


 結衣が教室に入ると、甲高い…いや、野太い声が結衣を出迎えた。


「おは〜、カマンボー!」


 カマンボー。

 そう呼ばれた男は筋骨隆々の肉体を揺らして結衣に手を振る。

 本名、蒲田 燕二。

 彼は中学の頃、ラグビー部の主将として部を頂点に導いた功績がある。その辣腕は界隈を超えた評価を得ることになり、彼に着いたあだ名は【鬼将の女傑】

 そんな彼がなぜカマンボーなんぞというあだ名を付けられるに至ったかは彼のみぞ知るところである。

 何故ならカマンボーは自称だからだ。

 どんな過去があろうと結局は愉快なオネェなのである。


 教室に入るとオカマが最初に目に入る。

 そんな教室が校内にひとつあると言うだけでどれだけ個性が豊かなのか推し量れるというものだ。

 それも強キャラオネェだ。面白い高校なのだとニュアンスだけは理解していただけたと思う。


「あらぁん?もしかしてぇん。寝不足かしらぁん?」


 結衣の目の下にはうっすらと隈ができていた。

 どう考えてもゲームのせいだがカマンボーはそれを知らない。

 そしてそれを隠すほど結衣はカマンボーと仲が悪い訳でもない。


「そうなんよ〜…何とかオンライン?っていうVRゲーム最近やってるんだ〜」

「あら珍しい!結衣ってばゲームよりダンスってタイプじゃなかったかしらん?」


 実際、知り合った当初はダンスをまたやりたいと結衣自身が話しており結衣もダンスをするものだと思っていた。

 だが運命の出会いを果たしてしまったのだから今更ゲームを辞めるつもりもない。

 何故なら園芸部に入る条件がゲームで畑を作りそれを見せることだからだ。


「これがさー!ダンスよりも楽しいんだよね!!」


 そう、結衣が言った瞬間、ガタンッと音が鳴る。

 クラスの目線のほとんどがそちらに向けば、黒髪黒目、右耳にピアスを付けた刺々しい雰囲気の男が机と椅子を蹴飛ばしながら立ち上がっていた。


「ダンスよりも…ゲーム…だと…?」

「あ、あー…翔斗くん?な、なんて…?」


 イラついたように小声でブツブツ文句をいうが、不幸なことに結衣には聞こえなかった。

 そして、翔斗と呼ばれた男は静かに爆発した。


「チッ…」


 鋭い目線を結衣にぶつけてから、教室を出ていった。


「あら…どうしたのかしら…彼…?」

「ほ、ほんとに…どうしたんだろう…?」

「…あ」


 カマンボーはなにか勘づいたが、本人が気づくべき事案であることをすぐさま察知して何も言わない。


「あー、そんなことよりも、ゲーム?で何してるのかしらん?」

「石器時代からやり直してる!唆るぜぇ!これはァ!」

「え?今なんて?」



◇◇◇


「…帰ってきた…」


 相変わらずのワイルドスタイルの結衣、いや、ナナイは伐採斧を片手に生まれ落ちた。

 マイフェイバリットウェポンならぬ、ツールを見ながら口をニヨニヨさせて今日は何をしようか考える。

 

「伐採は…多分結構時間かかるよね〜…」


 斧をブンブン振ってから、思い付く。


「あ、配信配信。忘れてた〜」


 配信結晶を取り出して、配信を開始する。


『【MMOで伐採!】木こりになるんだッ!』

#ギャル #ドワーフ #サバイバル #バッカロア湖

総視聴者数 : 106人


「みんなー!こんばんは…?こんにちはー!サバイバル系配信者のナナイよーん!」


:わこつ!

:ついに来た!

:これからって時に切りやがってお前!


「いや、だってさー!…これから伐採するんだよ?」


 若木とはいえ、それなりの太さを誇る樹木に目をやったあと、結晶もそちらを向く。


:…確かに、どれくらい時間がかかるか未知数っすね

:現実どおりなら結構時間かかりますねぇ

:これを石器で伐採かぁ…


「と、いうわけで、今日一日これの伐採に費やすと思って頂こう!!」


 斧を構えた直後、思い出したようにリスナーに質問する。


「…現実と同じようにやったらどんぐらいかかる…?」


:わからん。

:わからんが

:誰かが寝る


「…リスナーの誰かが寝落ちするレベルで時間がかかるってことね…」


 そうなる前にどうにか伐採したいところだが、これまでの経験が邪魔をする。


「…ウッドデストロイヤーはこの傷を残して砕けたんだよね…」


 ハンドアックスで伐採するのは無茶な話だが、今回手に持っている斧がウッドデストロイヤーのように砕けてしまえばナナイは立ち直れない…かもしれない。


:また作りゃいいじゃない

:壊れたものを改良して作り直すのもいいんじゃない?

:それが醍醐味ってもんよ


「でもものは大切にしたいでしょうがっ!!」


:それはそう

:草

:だが石器

:石器時代を抜け出すためにも早く伐採しろ


「……う、うん」


 言われてから正気に戻る。

 そういえば自分は文明人だ。

 石器時代で満足するべきではないのだ。

 縄文時代の人間には勝ちたい。せめて。


「よっし!壊れたら作り直すのみ!せーぇのっ!!」


 カーンッ


 衝突音。

 ハンドアックスが刻んだ傷をより深くする。


:…おい、日和ったろ

:腰が入ってない

:伐採斧で手斧の傷を少し深くする程度って…


「…悪いィ?!君たちが作ってないものをあーしは作った!大切にしてるのぉ!!」


:こーれは永世石器時代ですわ

:石器生活たのしんでもろて

:石でも食ってろ


「それは違うでしょ?!ああもう!わかったよ!!」


 これまでとは違う本気。

 気炎を滾らせて、本気で斧を振るう。


「フンッ!!」


 パカァンッ

 

 先刻とは比べ物にならない衝突音が響き、斧頭が中程まで若木に埋まる。


「…フン」


 斧を抜き取って、また叩きつける。

 先程つけた斜めの傷と交差するように傷をつけた。


 ミシリ、と音がして樹木の傷に沿って一部分が欠ける。


「…この凹みを大きくして木が倒れるようにしていくんだよね?」


:見たとこそうだね

:やればできる子ナナイ

:頑張れ


 気の遠くなる作業。

 やるしかないので、やる。

 やらなきゃ終わらないという格言もあった気がするのでナナイはひたすらに斧を振る。


 木が倒れるのを期待して。

 ただただひたすらに斧を木に叩きつけた。



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