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つっくれーるぞー!




 太陽が直上に差し掛かり、地面を明るく照らす。

 ほとんど花を散らしている桜に哀愁を感じながら、筋骨隆々のオネェ、カマンボーは渡り廊下の自販機にてブラックコーヒーを購入していた。


 大きい身体を屈めて自販機の口からコーヒーを取り出し、身体をくねらせながらプルタブを開けた。


 珍しく1人のため目線の置き所がなく、周囲を見回してみればカマンボーにとっては少し話題になっている黒川翔斗が目に入った。


 大きな体を小さくしながら茂みの影から見てみれば、校舎の壁にスマホを置いてダンスの練習をしているようだった。

 ジャージを身につけて、指先から爪先まで力を込め且つ流麗に身体を回らせる。


「とっても…力強いダンスねぇん…」


 カマンボーはそのダンスに見とれ、思わず声を漏らした。

 その声はしっかりと翔斗の耳に届き、ダンスを止めてしまう。


「だれ…って、カマンボーか。何の用だ?」


 翔斗、結衣、カマンボーのクラスは様々な才覚が入り乱れる魔境のような教室だがその中でも才覚を誇ることなく自分のアイデンティティだけを誇るカマンボーはクラス内で一種の清涼剤と化しており、クラス内で孤高な存在として扱われる翔斗も邪険に扱うことはない。


「ご、ごめんなさいね?さっきそこでコーヒーを買ったのだけれど目に入っちゃったわぁん」

「そうか…どうだった。俺のダンスは」


 その問いかけにカマンボーは目を丸くしながらも口元を緩めて答えを出す。


「とっても力強くて表現したいことがすぐに分かるダンスだったわよ」

「…そうか」


 その答えに反応らしい反応も示さずに翔斗はスマホをポケットにしまってからタオルで汗をふき立ち去ろうとする。

 その様子に、思わずカマンボーは質問を投げかけた。


「ねえ、翔斗ちゃん。昨日の教室でのことなんだけど…」


 昨日の出来事、と言えば結衣の「ダンスよりもゲームの方が楽しい」という発言のことだろう。

 翔斗もその事に思い当たったのかバツが悪そうに頬をかいたあとにカマンボーに対して質問を重ねる。


「…なあ、カマンボー。あいつ…七世のダンスを見たことあるか?」

「え?…いや、見た事はないわねん…ダンスが好きなのは入学式前のアイスブレイクのときに聞いた事だし…」

「いいか。ヤツは天才だ。俺のダンスなんて、ヤツの前では霞む」


 自分を卑下しながら、それでいて誇らしげに頬を持ち上げる翔斗。

 その目は心なしか輝いているように見えて、察しの良いカマンボーは気付く。


「…そんな天才が、ダンスを捨てるような真似をしているから腹が立ったのねん?」

「…腹が立った訳じゃない。…あのダンスが見れないと思うと悲しくなっただけだ」


 そんな翔斗の飾らない言葉にカマンボーは目を見開いた。


(勘違いしちゃいそうだったけど…翔斗ちゃんってば、素直なのね…)


「ねえ、翔斗ちゃん」

「ん?…ちゃん付けはやめろ」

「翔斗ちゃん。結衣が楽しいっていうゲーム。気にならない?」


 その質問に、翔斗はしばらく答えを返せなかった。


◇ ◇ ◇


「鍬、かんせーい!!」


【石鍬】

完成度 : 高


:完成!

:ついに!

:畑が!


「つっくれーるぞー!!」


 テントの傍ら、切り株の目の前で完成した鍬を眺めている。

 ナナイは今まで作った現時点でのレギュラーメンバーを切り株の上に並べる。


【石製片手斧】完成度 : 高

【石製伐採斧】完成度 : 中

【石鍬】完成度 : 高


「よっしゃ、それじゃ、堀り棒でまずは耕すね」


 そう言ってナナイは掘り棒をアイテムボックスから取り出し当然のように肩に乗せる。


:なんで?!

:鍬で良くない?

:わざわざ木の棒で掘るの?


「木の棒やめろ!」


 だがナナイにも言い分はあるようで。


「壊れるまで使うもん!!」


:そうじゃない

:どんだけ時間かかると思ってんだ

:石器時代長いんだよ…!


「あーしが何も考えてないように見える?!」


:ああ!

:見えるよ

:焚き火事件を忘れるな


「あーしが脳死で道具を使うように見える?!」


:ああ!

:見えるよ

:樹木の破壊者さんを忘れるな


「うがあああ!!」


 今まで犯してきた事件を突きつけられる形でリスナーに詰められるナナイ。

 頭を抱えて叫ぶがリスナーを納得させる理由は確かに存在する。


「いい?!いくら完成度が高いって言ってもそれは石器の中での話でしょ?!」


 今までの懸念事項をナナイはリスナーに投げかける。


:まあ、うん

:そりゃもう

:完成度の高い石器が完成度が劣悪の鉄製道具に勝てるとは思わんね


「あくまでも石器!壊れる可能性は少なくしたいんだよ?まずさ、土に紛れてる小石とか取り除いた方がいいでしょ?!」


:それはそう

:正解

:すまんかった

:だが遅い

:棒だぞ

:範囲見てもろて


「……」


 ナナイは本拠地に定めた土地を見回す。

 まず、どう考えても棒ごときで地面を引っ掻いて小石を取り除いて…なんてやってたら1週間以上かかるなんて素人でも予想が着く。


:壊れてもさぁ

:作り直せばいいじゃん


 作り直せばいいじゃん。という言葉が反芻される。

 石ナイフで頑張って作った柄。

 打製技術を余すことなく注いだ鍬の頭。

 

「ぐぅ」


:あ、ぐうの音でた

:ぐぅ


「くぅっ……そう…そうだよ。作り直せばいい!!」


 どれだけ愛情を注いでいようが所詮は石器なのだ。

 そんな悲しい事実をナナイは受け入れたのであった。



◇ ◇ ◇



「って言っても、なんのゲームなんだ?」

「なんとかオンラインっていう…VRゲームって言ってたかしら?」

「……わっかんねぇ…」

「石器時代からやり直してるらしいわねぇ」


 あまりに希薄な手がかり達にさすがの翔斗とカマンボーもどう探せばいいのかすら判然としていない。


「つっても、最近話題になったろ?…えーっと…フルダイブVR?」

「ゲームの中に入れるってやつね?」

「それでいて石器時代?…からやり直せる自由度って言ったら…」


『ゲートイデア・オンライン』


 国内外問わず凄まじいシェアを誇るゲームで、正式リリースから1ヶ月弱の今現在ですらVRゲームの顔とされるモンスタータイトル。

 出来ないことはなく、人それぞれのプレイングができるという評判。

 そして、結衣は石器時代???をやっているらしい…


「…値段は…高ぇ…が…」

「あらほんと…でも?」

「…仕方ねぇ…バイト増やすか…」

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