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第5話 オッサンの再就職は難しい


「やっぱり夢じゃないんだよなあ……」


 目が覚めて目に入ったものは昨日泊まった宿の天井であった。昨日の魔王召喚という馬鹿げた出来事がすべて夢であることを少しでも期待した俺が馬鹿だった。


 というよりも疲れていたとはいえ、こんな状況で我ながらよく普通に眠れたものだ。オッサンはだいぶ図太い生き物なのである。


「さあて、これからどうしたもんかねえ~」


 それほどおいしくない宿の朝食を食べてから宿を出る。とりあえずまずはこの街をぐるっとまわって、これからどうするかを決めるとしよう。



 

「……う~ん、やっぱり魔物を倒してその素材を売るのが一番マシかあ」


 街をまわって、金を稼ぐ方法を考えていたのだが、やはり異世界ものの定番である冒険者になって金を稼ぐという方法が一番マシのように思えた。


 この街はだいぶ大きな街のようで仕事もいろいろとあったのだが、35過ぎのオッサンを募集している求人はほとんどない。求人があったとしても、経験者だけで未経験者は不可のものしかなかった。


 ……どうやらこちらの世界でもオッサンの再就職が難しいのは変わらないらしい。どうにも世知辛い異世界である。


 そうなると年齢に関係なく素材を買い取ってくれる冒険者になるのが一番マシっぽい。くそっ、魔王のスキルの中に生産系のスキルがあればよかったのになあ。


「元の世界の知識を使って稼ぐにしても元手もないし、とりあえず日銭を稼いでくるとするか」


 いわゆる知識チートをするにしても元手や人脈は必要だろうし、実際にお金が手に入るまで結構な時間がかかるだろう。


 魔物の素材は冒険者でなければ多少割安になってしまうが買い取ってもらうことが可能だ。冒険者になるかは置いておいて、日銭を稼ぐならこれが一番手っ取り早い気がする。


 ……しかし冒険者にはなりたくないなあ。元の世界で暮らしていたみたいに、ほどほどに働いてたまにうまい飯を食べるくらいの生活でいいんだよな。この歳になるとオッサンはあまり高望みしないのである。




「さて、とりあえず森までやって来たのはいいが、どうすっかね……?」


 街から出る際は例のチェックはなかったので、すんなりと街から出ることができた。もちろん所持金が少ないので、武器や防具なんかは買わずに丸腰である。


 門番の人が何度も警告してくれたのだが、問題ないと伝えて街を出てきた。本気で丸腰の俺を心配してくれていたようだし、門番の人は良い人のようだ。


 ちなみに俺が元の世界に帰還するための魔鋼結晶は街では売っていなかった。どうやらそこそこ高価な代物らしい。まあ何をするにせよ、金は稼がないといかんな。


「さてと……この気配察知スキルが使えるんだよな。よしっ、周辺にいる生物がレーダーみたいに分かるぞ!」


 気配察知スキルを使おうと意識すると、頭の中へと周辺にいる生物の現在地が浮かび上がってくる。大体の大きさも分かるが、小さな生物は除外することもできるみたいだ。しかも結構な範囲までわかる。


「とりあえず、まずはこっちのほうだな」


 近くにいるそれほど大きくはない生物の反応のほうへと向かう。


「モオ~」


 そこにいたのは黒い色をした牛だ。魔物なのかはわからないが、牛なら素材か食材にはなるだろう。


 ふう~。いくぞ、覚悟を決めろ。


「ウインドカッター!」


 ズバッ


 相手はこちらに気付くことなく、俺が放った風の刃により、一撃でクビが切り落とされた。


 切り落とされた首からは赤い血がドクドクと流れている。生き物を殺すとはこういうことだ。


「その命、ちゃんともらうからな……」


 当然だが大きな生き物を殺そうと思って殺したのはこれが初めてだ。やはり心の中で少しくるものはある。


 俺にできることはこの奪った命を最後まで使うことだな。この命はすべて遣わさせてもらうとしよう。簡単な料理くらいはできるから、素材は売って肉はもらうとしよう。


「とりあえず空間魔法で収納してと……」


 空間魔法によってアイテムボックスのように物を収納することが可能だ。こっちの世界では収納魔法が珍しいかもしれないから、街に戻ったら適当な場所で取り出して、買取所に持っていくとしよう。


「さて、もう一体別の魔物を探しに行くか」


 もしかしたらこの魔物の素材は売れなかったり、食べられなかったりする可能性もある。もう一体くらい探しに行くとしよう。




「こっちはイノシシ型の魔物か?」


 牛型の魔物の血の匂いが酷かったので、少し歩いて別の場所へ移動する。そして魔物を探そうとしたところで、気配察知スキルを使う前に、少し先にイノシシ型の魔物がいることに気付いた。


「よし、イノシシなら素材にも食材にもなりそうだ。こいつも倒させてもらうとしよう」


「フゴ!」


「おっと!?」


 先ほどと同様にウインドカッターで倒そうと思っていたところ、向こうのイノシシがこちらに気付いた。


「フゴオオオオ!」


 音か匂いかは分からないが、何かの理由で木の陰に隠れていた俺の位置がバレたらしい。そしてイノシシがいきなりこちらに向かって突進してきた。急いで魔法を展開しようとする。


「あぶない!」


 こちらが魔法で応戦しようとしたところで、いきなり俺とイノシシの間に人が割り込んできた。


 危うく割り込んできた人ごと風魔法で斬ってしまうところだった。


「ブモオ!?」


 割って入ってきた男は冒険者らしく、ロングソードを振り下ろした。イノシシと交差したと思うと、ドスンッとイノシシが血を噴き出して倒れこむ。


 どうやらたったの一撃で、この大きなイノシシを倒してしまったようだ。


「危ないところだったね、大丈夫かい?」


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キャンプ場
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