第31話 取引
「い、いったいなにが……」
「目の前が光ったと思ったら、屋敷が……」
俺の障壁魔法によって使用人は無事のようだ。木端微塵となった屋敷の残骸の中から何人かの人族が顔を出す。
「ここか」
そして俺は屋敷の残骸の中に足を踏み入れ、気配察知スキルで魔族の反応があった場所の真上に立つ。どうやらこの下に地下室があるようだ。
「ふん!」
黒雷電によって屋敷を破壊したおかげで、隠されていた地下室への入り口らしきものが現れた。
地下室の入り口を単純な腕力で無理やりブチ破って奥へと進む。
「だ、だれ……」
「……もう大丈夫だ。助けにきたぞ」
地下室の牢屋に入れられていた魔族の女性は10代半ばくらいで、ネコミミと尻尾が生えている。こちらの世界では獣人のような種族も魔族となるらしい。
身体中には殴られたらしき青あざが多数あり、服も着ていない状態だった。可哀そうに……だいぶ痛めつけられていたようだ。
金属製の牢屋を無理やりねじ曲げ、女の子を助け出す。以前に人族の街で俺用に購入した服を羽織らせてあげた。
「この子を頼む」
「はっ!」
魔族の陣営から一緒についてきてもらった回復魔法が使える魔族の女性に、捕らえられていた女の子を託す。かなり傷付けられてはいたが、命に別状はなさそうだ。
リーベラは向こうで何かあった時のために、先ほど保護した魔族達の側にいてもらっている。
「さて、これはどういうことか説明してもらうとしようか?」
「も、申し訳ございませぬ! どうやら違法に魔族を奴隷として所有していた不届きな者がおったようです! おい、さっさとその者をひっとらえよ!」
「ひいいい!」
目の前で自分の屋敷を吹っ飛ばされた上に、領主の命により取り押さえられる太った貴族。あの子をずいぶんと手荒く扱っていたようだし、完全に自業自得だな。
「ま、魔王様! ど、どうかお許しを!」
先ほどまで対等に話そうとしていた領主が、大きな貴族の屋敷を一撃で吹き飛ばした黒雷電の威力を見て敬語になって頭を下げた。
まあそりゃそうだろうな。あれほど巨大な屋敷を一撃で吹き飛ばすのはあのジルベの力でも難しいだろう。
「……許してやろう。どうやら貴殿は知らなかったようだしな」
「はっ、ありがたき幸せ!」
……態度が変わりすぎだが、むしろこっちのほうが話を進めやすいからいいか。
「さて、我らの同胞がいる場所がもう一箇所あるが付き合ってもらおうか」
「はい、もちろんでございます!」
そしてこの貴族の屋敷と同様に、もう一箇所気配察知スキルで魔族の反応のあった場所があった。
「ここだな」
ふむ、どうやらこの大きな建物は奴隷商のようだ。中にはたくさんの気配が感じられる。
俺についてきているのはこの街の領主と補佐とその護衛が10人ほど。先ほど保護した魔族の女の子と魔族陣営にいた3人。
そして全身を禍々しい鎧に包んだ俺が先頭にいるわけだから、ものすごく目立っている。
「さて、今度は我の手を煩わせてくれるなよ」
「はっ! しばらくお待ちください!」
あの人さっきまで威厳のありそうな領主だったよな……こちらが本気で街を潰せるほどの力を持っていることを察したのだろう。
これからも人族の街から魔族を救うためには同様のことをしなければならないので、やはり魔王としての力を見せつけることは必要になりそうだ。
しばらく待つと、どのように交渉したのかは分からないが、領主達は3人の魔族を連れてきた。これでこの街にいる魔族は全員救出したことになる。
とりあえずこれからはちゃんと街の中をすべて確認しないと駄目だな。違法で魔族を奴隷にするようなあくどい輩もいることがよくわかった。
「それでは約束通り、ここにいる人族を解放するとしよう」
この街に捕らえられていた魔族は全部で25人。中には青あざどころか、火傷やひどい傷跡を負っている魔族も大勢いて思うところはあったのだが、それは魔族側も同様だと納得するしかない。
「残りの兵士どもはすぐに解放するとしよう」
「か、感謝いたします!」
リーベラ達と合流し、ここにいた領主の息子を含んだ残りの人質10人を解放する。あとは先ほどの戦場に土魔法で作った土壁に閉じ込めている人質を解放すれば、人質交換は無事に終了だ。
「だがその前に貴殿にひとつ忠告しておくとしよう」
「ち、忠告でしょうか!」
「今回の争いは我の存在を知らなかったということで許してやる。だが、次はない。もしも次に魔族の集落に攻めいってくるのであれば、容赦なくこの街ごと消滅させてくれようぞ」
「し、消滅!?」
これが俺の脅しや冗談でないことはすでに相手もわかっているだろう。……まあ脅しなんだけれどな。
「そしてもうひとつ、これは忠告ではなく取引である。今後我が同胞を見つけた場合は保護をしてもらいたい」
「ほ、保護でございますか!?」
「そう、保護だ。街の近くではぐれた同胞がいたり、奴隷として売られていた場合にはそれを買い取って丁重に扱ってほしい。もちろん取引であるがゆえに対価も渡そう」
「は、はあ。対価でしょうか……」
「我の最終的な目的は人族との共存だ。いずれはこの街とも良い関係を築いていきたいと思っている。もしも貴殿が我が同胞を国から隠れて保護してくれれば、その対価はしっかりと払おう。例えば魔族領にしかない価値のあるものなどな」
「ほ、ほう!」
領主の目の色が変わった。そう、これはある意味チャンスでもある。今は人族と魔族と戦争中で、まともな商取引なんかはしていない。
ここで魔王の俺が現れて人族と魔族の力が拮抗すれば、魔族領との取引は必ず行われるはずだ。事前に魔族とパイプが繋がっていれば、それは大きなアドバンテージとなる。
恐怖によるムチだけではなく、アメもちらつかせるという考えだ。
「そちら側から手を出してこなければ、こちらからこの街を攻めるようなことしない。他にもこちらが人族を保護した場合には少しずつではあるが、そちらの街に引き渡すと約束しよう」
「な、なるほど! 保護ですね、かしこまりました!」
「うむ、よろしく頼むぞ」





