第九話 演習 一日目 その十四
二回目の演習が終わると、時刻は夕暮れと指していた。良子の指示で演習が終わり、宿泊をする隊舎に案内させ、そのまま八雲隊とビリー隊と夕食をともにする。
夕食は大地以外お通夜かと思うぐらい静かだった。箸の進み具合を遅く、食べるのもままならないぐらい疲労しているが伺える。
藤はそれを見て、心配をしていた。
就寝時間になる前に伏見は会議室に四人を集めた。
「グラサン先生、こんな時間に何だよ? まだ何かやるのか?」
伏見はいつもヘラヘラとした顔だったが、何か呪具を持っていた。
「何よ、それ……」
朝子は怪訝な顔をする。
「これは、君らの呪力量を計測する呪具や。姫……」
由美子は渋々前に出てきて、呪具に手を置き、呪力を数秒流しこむ。
呪具についた表示器が数値を表す。
「まあまあやな」
由美子は伏見を睨む。
「次、忠陽くん」
それから呼ばれるごとに呪力を流し込んでいき、各自に数値が確かめていた。
「さて、呪力量が一番大きいのはやっぱり姫やったな。それに続いて、宮袋くん、鞘夏くん、忠陽くん、最後に朝子くんや」
「伏見先生!」
「そう怒らんでもええやん。これは重要なことでもあるし、全員で共有してほしい情報や」
「グラサン先生、呪力量が多いと単純に強いってことでいいのか?」
「ちょっと違うな。呪力量が多いというのはそれだけスタミナがあるちゅーうことや。それが単純に戦闘力に繋がるわけやない」
藤は少し安堵した。
「じゃあ、なんで調べさせたのよ」
朝子はご機嫌斜めだった。
「ここから分かることは継戦能力の目安が分かる。戦闘で呪力を使えば使うほど、呪力量が低い方から戦えなくなる」
「なんだよ、やっぱり単純に数値が高ければ強いって意味じゃねえか」
伏見はため息をつく。
「ほんなら、君は朝子くんよりも長く戦闘せなあかんのに、結構早ようにやられてるやん」
大地は、苦虫を噛み潰す。
「話を戻すと、君らに知ってほしいんは互いの呪力量とその運用の仕方や。由美子くんの呪力量が十として、忠陽くんが五だとしても、由美子くんが消費量二の呪術を使い、忠陽くんが消費力一を使えば同じスタミナになる。だけど、忠陽くんがもっと消費の少ない呪力を使えば継戦能力は伸びる。呪力量が少ない人間には少ないなりの戦い方があるちゅうことや」
朝子は鼻で笑う。
「詭弁じゃない。それでも呪力量が多いに越したことはないのでしょう?」
「それはそうや。でも、最後にモノを言うのは呪力量やない。意志や」
「笑えるわね。アンタがそんな言葉をいうなんて」
「神宮さん!」
藤が声を荒げる。伏見はそれを止める。
「今日、僕が言いたいことはそのことやない。君らはそのレベルまで来てへんからな」
由美子の顔が歪む。伏見はそれを見て、薄ら笑う。
「八雲隊は規格外として、君らが戦ったもう一つの隊で呪力量が多そうなのは誰や? 鞘夏くん」
伏見に指名されたが、鞘夏は無言のままだった。
「……忠陽くん」
忠陽は考えるが、直接相手にできたのは平助のみだった。戦闘の中でも彼が特に呪力量が多いというわけではなかった。
「……分かりません」
「宮袋くん」
「あのボスの子供か?」
「朝子くん」
朝子は少し考えるもわからないと回答する。
「姫」
「アリスっていう人よ」
「正解や。彼女は姫よりも呪力量が多い」
伏見はニンマリ笑う。その顔が由美子は腹正しく思う。
「おい、姫さん。なんで分かるんだ?」
「その姫って止めてくれない?」
「だって、グラサン先生が言ってるんだからいいじゃねぇか! で、なんでだ?」
「見えるのよ。呪力量が」
「なんで見えるんだよ。てめえ、天才か?」
「見るようにしてるのよ! あんたにだって出来るわよ!」
「マジか! 俺にもできるのか!?」
「ええ出来るわよ」
「だったら、教えろよ!」
「イヤ」
「なんだよ。ケチな姫さんだぜ……」
由美子が肩を震わせているのが忠陽には分かった。
「宮袋くん、姫はケチな奴やから教えへん。後で僕が教えるさかい、今は話を進めるで」
「本当か? 絶対だぜ」
大地は喜んでいた。
「さて、女術士の呪力量を多いは分かったが、それが重要やのうて、女術士以外の隊員は僕が見ても、朝子くんと同等、それ以下ということや。あのいけ好かん狙撃手なんてそうや」
そのいけ好かんという言葉に、お前が言うなと、全員が心で発した。
「アイツなんか呪力は無いに等しい。でも、君等以上に戦える。それは経験だったり、技術だったりであるが、単純な呪力量の問題は関係ない。要は戦い方の問題や」
「でも、先生。僕ら軍人ではないです。あの人たちと同じように戦えというのは……」
忠陽は難色を示す。
「最終的にはそうなって欲しい気持ちはある。だけど、それには時間が足りん。でも、その取っ掛かりはもう君と姫がやったやないか」
「それは…」
忠陽は口籠る。
「たまたまでもアドリブでも、今の君らであれだけできれば上出来や。そのためにも君らは他の人のことを知らなあかん。忠陽くん、一戦目。君はなぜあんな大掛かりな呪術を使ったんや?」
「神宮さんの指示だったからです……」
「なぜそれを受け入れたんや?」
「神宮さんなら狙撃で当ててくれると思ったから……」
「なら、何でそう思ったんや?」
「それは……神宮さんの狙撃を何度か見たことがあるから……」
「狙撃は外すとは思わなかったんか?」
「神宮さんは堅実だからそんなことは珍しいと思います。二戦目のはじめの狙撃は僕がお願いしたものだから、外れましたけど、神宮さんは次に広範囲に渡る矢の雨を出していました。あれが最初に放てていれば戦況は違ったかもしれないです」
「ありがとう。連携に重要なのは相手の技やクセ、戦い方を知る事や。どんなに仲良くても、それを知らん限り連携はできへん」
「それなら、俺とボンならもっと上手くやれるぜ」
「君の場合は忠陽くんやから上手くいってるんや。他の人なら合わせようとはせんやろう」
「なんだと!?」
大地は立ち上がりながら、伏見を睨みつける。
朝子と由美子はクスクスと笑った。
「朝子くん、姫。君らも笑ってられる立場やないで。自分の力に自信があることはええ事やが、連携をせな、ここにいる連中には勝てへん」
「別に……勝つ必要はないでしょう?」
朝子は伏見の目を見ずに呟く。
「僕はかまへんよ。君らのプライドが許せるならな」
由美子、大地、朝子は嫌な顔をする。
伏見はヘラヘラと笑っていた。
それを見て、忠陽は伏見の術中に嵌っていると悟る。
一日目がやっと終わりました。
合宿が七日あったとしたら、一番長いのは三日目か四日目でしょう。
この三日目、四日目をどう越すか。どう過ごすかによって秋先の成長は変わってきます。
でも、人間は楽になりたいもので、甘い誘惑が訪れるんですよね。
ついつい昼寝をして、体が怠ける。
そして、午後練習は死ぬ思いをする。
さて、忠陽たちはどのように過ごしていたのでしょうか(笑)