第九話 演習 一日目 その十三
忠陽が拘束された後、由美子は大地と朝子と連絡を取り、何とか連携を取ろうとしたが、二人は単独行動を押し通し、蔵人とアリスによって返り討ちにあう。それを見て、由美子は自身の腕輪を外し、降伏した。
その後の休憩中に一回目の演習の件で、由美子は朝子と大地と口論し始めた。
「だから、てめえが合わせろよ。安全な場所から狙ってるんならさ」
「貴方ね、合わせるのも大変なのよ。特に、アンタみたいに敵に張り付かれると、巻き添えになるじゃないの!」
「それでいいんじゃないの? 戦うことしかない猿なんて早々に退場して貰えば」
「なんだと? てめえなんて金髪の女に良いようにされてんじゃねえか!」
「あんな緻密な魔術を使われたら、対応が後手になるのは当たり前でしょ? それよりもアンタ、あのツンツン頭に力負けしてんじゃん!」
「だから言ってるでしょ! 連携をしないと倒せない相手なのよ!」
「煩いわね、お姫様! 大体、アンタは安全な場所だからそう言えるのよ!」
忠陽と鞘夏は三人のやり取りを黙って見ていた。
すると、控室に伏見と藤が入ってきた。
三人の言い合いを見て、藤が間に入り、三人宥める。
「止めなさいよ。身内で喧嘩してもしょうがないじゃないの!」
「藤ちゃん、コイツらともう私組みたくない!」
「それはこっちが言いたいセリフだぜ!」
藤は大地と朝子に詰め寄られ、勢いに負けてしまう。
「二人共、落ち着きなさい。それに仲良くしないと一緒に戦えないでしょ。ね、伏見先生?」
「別に。仲ようせんでもかまへんよ」
ヘラヘラしながら伏見は吐き捨てた。
藤はもうお手上げ状態になってしまう。
「忠陽くん、戦いとしてはこの五人の中でもええ感じや。ただ、目の前の相手だけに囚われてる。少し周りも見えるようにしたほうがええで。それと、今度は戦わんでええから、式を使って敵全員の位置を味方全員に連絡することをやってみようか」
「えっ、はい」
忠陽は突然のことで困惑した。
「前に教えたかくれんぼのことを覚えているな?」
伏見の問に忠陽は頷いた。
「ホンマは索敵しながらも目の前の敵も見てほしいんやけど、初めから無理やろう。だから、まずは基本に立ち返って、索敵と潜伏や」
「はい。分かりました」
「姫。もう遠距離の攻撃は見飽きた。次は近距離での戦い方を見せてみん。あの女もそうおもっているはずや」
由美子は少し考える。
「わかったわ」
「さて、二回目の演習は一人でも倒してくれな」
伏見は部屋から出ようとすると、藤が静止した。
「ちょっと待ちなさいよ。それだけで良いの? もっと連携とか、さっき上で二佐が言っていたことを伝えるとかしなさいよ」
「藤君、そんな小難しい事、僕が覚えているわけないやろう」
伏見はヘラヘラと笑って部屋から出ていった。
「京介!」
藤は伏見の背中に罵声を浴びせるも、扉が閉まると同時に遮られた。
「藤ちゃん……。あの女、なんて言ってたの?」
「えっとね……。まず、宮袋君は戦場なら真っ先に死ぬタイプだって。勇猛と蛮勇を履き違えるなって」
大地は頭を掻く。
「次に、氷見さんは浮ついた今どきの女だって。戦場に私情を隠せない人間は足元を掬われる」
朝子は舌打ちをする。
「そして、真堂さん。主人の足を引っ張ってる。真堂さんの動きで大体の賀茂君の居場所が分かるみたい」
鞘夏は胸の前で手を合わせ、震わせた。
「評価できるのは神宮さんの狙撃と賀茂君の戦い方、それに二人の連携。ただ、賀茂君の戦い方は気に入らないと言ってたけど……」
「なにそれ。私達三人は評価にも値しないってこと?」
藤は息を吸う。
「ごめん。そうだと思う。上から見ていても、ここの部隊の人たちは賀茂君を真っ先に狙ってるの。その理由は戦う姿を見ていても分かるし、端的に言うと氷見さんや真堂さん、宮袋君は後回しでもいいって感じに見える。神宮さんが狙われないのは、神宮さんが狙われにくいようにその都度位置を変えて、相手の攻撃が狙われにくいようにしたりしてるからなのよ」
「藤ちゃん先生……理由は分かったけどよ……何で、ボンが狙われやすいんだよ?」
「上から見ていても、賀茂君を戦うと目が離せないの。何をしてくるか分からない。下ではそれが脅威に感じるんだと思う」
大地は手を力強く握った。
「休憩は終わりだ。二戦目、始めるぞ」
スピーカーから良子の声が聞こえた。
「みんな、仲良くね。みんなで連携して一人でも多く倒して!」
藤は笑顔でそう言い、部屋から出ていった。
二戦目は結局、連携も出来ず、由美子がアリスに対して善戦はするも、他は一方的にヤラれていくだけだった。
忠陽は伏見に言われた通り、隠れながら索敵を行っていたが、同時に索敵と潜伏を行うことの難しさを知る。相手を探すときに平助に逆探をされ、それを撒くために隠形をずっと使い続けるが、平助の索敵能力は高く、すぐに居場所を特定してきた。それに逃げるのが必死で仲間の支援なんてできる状態ではなかった。
単純な力の差を全員が感じていた。