第九話 演習 一日目 その十二
忠陽は銃声が聞こえた瞬間、木に隠れ、式を二匹放つ。放たれた式は忠陽と同調し、周りの状況を伝達する。
二発目が鳴ると、一匹の式が運良く銃撃で光る場所が見え、忠陽はそのおおよその場所を特定できた。そして、もう一匹の式を着弾される場所へと向かわせる。
「神宮さん、聞こえる?」
忠陽は念話で話しかける。
「ええ、聞こえてよ」
「西の方角の大きな木の上、僕の式を放ってるけど、そこを狙えるかな?」
「分かったわ」
数秒後に弦音が鳴り響き、その後に爆発音と風圧がやってくる。
「ごめんなさい。木には当たらなかった。でも……」
二回目の弦音が鳴り響く。すると、無数の矢の雨が降り注いだ。
忠陽は式で確認すると、ビリーが木から飛び降りて移動するのを確認し、追いかけようとしたが、矢の雨に辺り、式が霧散した。
「痛ッ!」
忠陽に外傷のない痛みが襲われる。
「えっ! も、もしかして、まだ式を待機させてたの?」
「う、うん。僕の判断ミスだよ」
「そ、そうよ。私のせいじゃないから……ね……」
「大丈夫、神宮さんのせいなんかしないよ」
忠陽はもう一匹の式の視覚と同調する。すると、鞘夏が呪防壁で拘束されており、そこに平助を確認した。
「鞘夏さんがやられた。僕の近くまで来てたみたい」
「鞘夏……」
由美子はため息をついた。
「賀茂君、その場所から離れなさい。多分、貴方の位置もだいたい把握できていると思うわ」
「うん、そうするウッッッッ!」
もう一匹視覚共有をしていた式からの痛みが戻ってくる。
「賀茂君、どうしたの?」
「もう一匹の式もやられた。こっちに向かってるみたい」
「援護、しましょうか?」
「いや、いいよ。今来ている人はかなり身のこなしが軽い。僕が相手を引き付けているから、大地君と氷見さんを援護して」
「わかったわ。頑張って」
忠陽はその場所から走り出す。隠形で気配を消すわけでもなく、ワザと相手に自身の位置を知らせるように呪符を使って罠を仕掛けていく。
今回の場所は森林で忠陽がいつも使用している土系統の呪術が使える。足止めになるかは分からないが、連鎖的に土の隆起する呪術や石礫が発生するように仕掛けていった。
数分間、走っては罠を仕掛けと繰り返しているうちに、最初に仕掛けた呪術が発動するのを感じた。
忠陽はそこから動くのを止め、木に隠れて、隠形を開始した。次第に気配は周りと同化していく。
息を整え、小刀を取り出し、相手を待つ。
呪力の罠が発動する音が近くなる。その足取りは一行に止まる気配はない。だが、近くまで訪れた時に、ピタッと呪術が発動するのが止まる。
辺りには静寂が訪れ、木々が揺れる音だけが鳴り響く。
忠陽はその木々の揺れる音だけが鳴り響くことに違和感を感じ、動こうとした瞬間に後ろから気配を感じる。振り向いた瞬間、平助が忠陽に掴みかかろうとしていた。
忠陽は小刀に呪力を込め、振り払う。
平助は後ろに飛び、後方転回をしながら、苦無を三つ、四つ投げる。
鋭い速さで飛ぶ苦無を忠陽は慌てて避けた。
苦無はすべて木に刺さり、ジジジと音を鳴らしていた。
忠陽はその苦無を見ると炸裂札が付いていることに気づき、急いでその場から逃げ去る。
苦無は爆発し、木を倒す。
その間に平助は忠陽に接近し、苦無を持ちながら近接戦を挑んできた。
忠陽は小刀で応戦しようと構え、平助を突く。平助はそれを苦無で受けた。
「おいおい、普通、そこは斬るんじゃないのか?」
平助は忠陽の脇腹に蹴りを入れる。
忠陽はその蹴り受けて、怯むが良子ほどの威力ではなかったため、すぐに小刀で平助を切りつけようとした。
平助はすぐにまた、後方転回をしながら、距離を取り、苦無をまた三つ四つ投げつけた。
忠陽はすぐに呪符取り出し、地面に押し付け、土を隆起させ、土壁を作り出す。
平助が投げた苦無は土に刺さるも、炸裂札が起動し、土壁を壊した。
壊すのを確認すると同時に、忠陽が右に逃げ出すのが見えたので、その方向に苦無を投げつけるが、当たらず、木に刺さり、爆発した。
「お互い、決め手がないね……」
忠陽はその言葉に違和感を覚える。
平助は後ろの袋に手を入れると導火線付きの小さな玉を取り出し、導火線を自らの手甲こすりつけ、火花を与え、点火した。
それを忠陽に投げつけるとすぐさま煙が周りを覆う。
忠陽は呪符を数枚ばら撒き、風の呪術を発動させる。周りの空気を乱流させ、煙が晴れ始める。
その時に平助はもう一度、近接戦闘を仕掛けてきた。忠陽に対して、拳の連撃と蹴りを与えた。
忠陽はそれを受けるがダメージは少ないが、それを受けて怯んだ演技をしながら、手元の呪符を取り出す。地面に手を付きながら呪符を覆い隠し、膝を付いた。
平助は動きを止め、攻めて来ようとしなかった。
「その手を退けな。じゃないと、俺は攻めないぜ」
忠陽は気づかれていたことに驚かなかった。むしろ、それでも呪符に呪力を込める。
地面が隆起し、槍衾のように平助を襲う。
平助は後ろに下がりながら、土の槍に炸裂札が付いた苦無を投げつけ、土の槍を破壊する。
後ろに下がった平助が地面に足を付けた瞬間に、周りの木に貼られた呪符が発動し、平助に石礫が降り注ぐ。
平助は受けることを覚悟したが、石礫が来る前に忠陽へ六つ程苦無を投げつける。
忠陽は新たに土の壁を作り防御体制を取る。
苦無は爆発し、土の壁を壊した。
平助は追撃のように苦無を投げた。その苦無は忠陽には当たらず、忠陽の後ろにある木々を壊していった。
その時、石礫は平助に舞い込み、呪防壁は発動させた。
無数の石礫を受けた衝撃で平助は座り込む。
「へへへ、なるほど。お前、嘘をつくのが得意なんだな」
「得意じゃないですよ……」
「そうか? それだけやれれば十分だと思うぜ。呪術師っていう連中はどうして嘘つきばかりなんだろうな」
「さあ……僕には分かりません。あなたは呪術師じゃないように見えますけど」
「俺か? 俺は忍びだ」
「忍者……」
「忍者っていうと、何かかっこ悪くないか?」
「よく分かりません」
平助は立ち上がり、服についたホコリを払う。
「知っているか、賀茂。呪術師は嘘つきだが――」
銃声が鳴った。
忠陽の呪防壁が自動的に発動した。銃弾が忠陽の頭部あたりの呪防壁に命中し、大きな衝撃を与える。
「忍びも、嘘つきなんだぜ」
平助の顔は意地悪な顔をしていた。
忠陽は自身を拘束する呪防壁を見て、深呼吸をする。
「時間、稼げたかな?」




