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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第九話 演習 一日目 その三

 一方、大地は周りを気にせず、全力で走っていた。


 前に進めば、敵に見つかる。敵と戦えば自分の力量を試せる。


 その考えが心を弾ませ、楽しくなる。


 負けたとしても死ぬわけではない。


 そのことが些末な事を気にせず果敢に挑むことを促した。


 大地は目で加織を捉えると一旦止まる。相手がどう動くかを確認すると、両拳に付けた鉄甲を突き合わせて、笑っていた。


 大地はそれを挑発ととり、ゆっくりと間合いを詰めるように歩き始めた。


「にっししし。ここは通さないぞ! 奏ちゃんは私が守る」


 大地は加織の後ろを見ると、奏がいることに気づく。


「そんなの関係ねえ。俺は目の前の敵を倒すだけだ」


 加織は目を輝かせた。


「奏ちゃん、奏ちゃん! この子、カッコイイこと言った。あー私も考えとけば良かったよぉー」


「加織ちゃん、目の前の敵に集中!」


 加織は笑顔で頭をポリポリと掻き、正面の大地を見た。


「えへへ。奏ちゃんに怒られちった」


「そうかい!」


 大地は加織目掛けて炎を放つ。


「ふん!」


 加織は掛け声とともに、その炎を殴り、霧散させた。


「おいおい。そんなのアリかよ?」


「何が?」


 炎を殴り、霧散させるなんて聞いたことも見たこともなかった。その荒技に大地は戦慄する。


「もう来ないの? だったら、私から、行くね!」


 加織は胸の前に両拳で防御体勢をしながら前進する。


 大地にはそれが壁のようにも見えた。


 加織は足を急に止め、止めた反動の運動エネルギーを体のバネに変換しながら地面に拳で叩く。


「土竜爆砕波ッ!」


 大地は咄嗟に防御姿勢を取るも、加織から大地まで続く道が消えていっただけだった。


「あれ?」


 加織は目が点になり、首を傾げた。


「奏ちゃーん、地面がウワッてならないよー」


「何やってるのよ、地面は作り物よ!」


「あっ、そうか!」


 加織は大地が目の前にいる事を気にせず、近くにあった大岩まで走っていった。


 大地は何も言わず、その顛末を見守った。


 大地からすると、加織は大岩で隠れ見えないところから声が聞こえる。


「じゃあ、気を取り直して、行くよ!」


 加織は今度は大きく振りかぶり、大岩に拳を与える。


「岩砕石礫!」


 大岩は砂のように崩れ、霧散していった。


「あれ? 岩がバァーって飛び散らない」


 大地はそれを見て、コイツは天然だと確信した。


「加織ちゃん! その岩も物体じゃないわよ、もう!」


「あっ、そうだった! ごめん、奏ちゃん。えへへへ」


 加織は可愛らしく頭を掻いていた。


「でも、どうしよう? 奏ちゃん。直接攻撃を当てるとあの子、死んじゃうよ……」


「うーん。闘気を放つとかは?」


「あ、それいいね!」


 加織は大地には振り返り、構えた。


「じゃあ、いくよ!」


 加織はそこから正拳突きを放つ。放ったと同時に光弾が現れ、瞬時に大地のもとへ届く。


 大地はどうせ何も起きないと油断をしていたせいで防御が間に合わなかった。だが、自動的に呪防壁が働き、その光弾を防ぐも衝撃が強く。呪防壁を貼ったまま後ろの岩の塊まで吹き飛ばされ、貼ったままの呪防壁が岩にめり込んでいた。


 一瞬のことで理解が及ばず、呪防壁が解けたあと、大地は岩にめり込んだ跡を見る。それを見て、鳥肌が立つ。呪防壁がなかったら、死んでいたかもしれない。そう思わざるをえなかった。


 大地は近づかれないように、そして、自分を守るように炎を周りには発生させる。その炎は猛々しく燃え上がり、大地が加織に対して抱いた恐怖にほからならない。


「オッケェー! もう一発デカイのいくよぉー!」


 大地は炎の一部を集め、加織に対して放つ。


 加織は大地向けて掌底打ちを放つ。


「金剛掌底波ァ!」


 加織が放つ手の形は大地が放った炎を飲み込み、大地の周りには発生させたの炎を突き破った。


 闘気の掌底は、自動的に発生した呪防壁ごと岩に衝突する。その衝撃は凄まじく、岩をも砕き、さらに大地を更に後ろの岩壁さえも破壊し、大地の作り出した呪防壁にヒビを入れた。


 大地は呪防壁に頭を打ち付け、脳震盪を起こし、気絶する。


 岩壁すぐに霧散したが、もし本物であれば壊れた岩壁が更に大地を襲ったに違いない。


「加織ちゃん、やり過ぎ……」


「あははは。やりすぎちゃったんだぜ……」


 加織は誤魔化しながら肯定した。


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 展望室では加織が放った闘気の掌底を威力を見て、藤は立ち上がっていた。


「宮袋くん!」


「落ち着け、あの男は無事だ」


 良子の冷静な顔に藤は苛ついた。


「手加減を知らないんですか? 貴方達は!」


「お嬢さん、そいつは違うぜ。加織は手加減しないんじゃなくて、出来ないんだよ」


「はあ? 意味がわかりません。運が悪ければ死ぬところだったんですよ!」


「藤くん、落ち着きいや。こんなことで一々反応してたら、精神が持たへんで」


「伏見先生、あれ以上があるってことですか? 私はあの子達を親御さんから預かってる身ですよ? 正気じゃないわ!」


「伏見、その女を黙らせろ」


 良子は眉間にシワを寄せる。


「藤くん、親御さんには事前にこうなる事を伝えてる。僕も馬鹿やない、それぐらい許可は得てる。もう一つ。生き死にの戦いならあそこに居る全員は体験しとる」


「はあ!? どういうことよ! 京介、貴方、何させてるのよ!」


「僕やない。自ら選んだんや。港湾事件、妖魔の出現、彼らは自分で戦うことを選んだんや。僕が忠告しても、忠陽くんや宮袋くんはもう聞く気はないやろう。なら、死なんようにしてあげるのが僕の役目や」


「でも、京介―」


「嫌ならここから去れ。私はこいつと同意見になるのは不本意だが、私達にできることは死なないように育てることだ。そのためには死ぬ思いをして貰う」


 藤は良子を睨みつけるも、良子は殺気で返した。藤は手を震わせながら戦っていた。


「ね、姐さん。抑えて、抑えて。民間人相手にそんなムキにならなくても……」


 ビリーが間に入るも、お互いに一歩も引く気がない様子だった。


「お、朝子くんが動いたな……」


 藤はガラスに張り付き、朝子を探した。

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