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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第九話 皇国陸軍第八師団特殊呪術連隊第一中隊 その二

 忠陽たちは迎えに来た皇国陸軍の車に乗り、空港から十数分で基地の入り口に着いた。

 

 基地は湾岸部近い場所にあり、入り口からも軍艦が数席ほど見える。


 中に入ると湾岸部から遠ざかるように、車は島を取り囲む山の方へ近づく。


 この島の山は要塞の防壁にも見え、傾斜はかなり急なものである。その壁に近づいていくと、綺麗な庁舎が見えた。


 伏見は感嘆の声を上げる。


「プレハブ小屋が綺麗に建て替えられてるな」


「ああ、昔の庁舎をご存知でしたか。二年前に建て替えられて、今や設備も充実していますよ」


 一行は男の案内で庁舎に入り、まず案内されたのが、特殊呪術連隊第一中隊の事務室だった。部屋は整然としており、塵一つ見つからない。


 その奥に中隊長室があり、男はドアをノックする。


 男はつばを飲み込み、深呼吸をして声を出した。


「葛城二佐、伏見教諭他六名をお連れしました!」


 緊張している男の声に、由美子も何故か背筋を伸ばしていた。


「入れ」


「失礼致します!」


 男は機敏に扉を開け、忠陽たちに中に入るように指示をする。


 広々とした中に一人の女性が机で書類に片付けていた。短い黒い髪、目は獲物を捉えるかのようなギラつく瞳、細身の体ではあるが筋肉質であり、鍛え抜かれた体なのが分かる。そして、誰が見てもその威厳は只者ではないことが分かる。


 忠陽はなんとも言われない恐怖を感じた。それを見て、案内人の男の緊張感、そして由美子が背筋を伸ばすほどの理由が分かった。


 女性は筆を起き、机に両肘を突き、手を組んだ。


「私が、皇国陸軍第八師団特殊呪術連隊第一中隊の中隊長、葛城良子だ」


 その言葉と眼光に伏見以外は背筋が伸びる。良子は全員に一瞥すると、再び話し始める。


「今回の件は、天谷の呪術統括部からの書面と八雲から話を聞いている。学校間呪術戦対抗試合と言ったか……。それを桜花(おうか)で行っている選抜試験の技術を流用し、学生個々人の成長度合いを研究するのだったな……」


「つきましては、選抜試験で使用する呪具の被験とその調整のためそちらの隊の協力を要請します」


「え、そんなの聞いてないぜ、グラサン先生!」


 大地は大声を上げる。


 良子は鼻で笑う。


 大地は良子に恐怖を感じ、口を閉じた。


「相変わらずだな、そのやり口。気に入らない」


「気に入るも何もないでしょう。軍人なら上層部の命令をきかんと」


 伏見は不敵に笑う。その光景に藤は不安がよぎる。


「私は了承していない。断ることはできる。貴様も知っているだろう、我々は暇ではない」


「暇でなかったら、わざわざ迎えまで寄越して、話をする必要もないでしょうに。よっぽど暇なんやろうな」


 良子は席を立ち上がった。自らのホルスターから銃を取り出し、スライド引いた。


 その音に伏見以外は戦慄する。


「キサマの思惑はどうであろうと、私はキサマたちが嫌いだ。だから、受ける必要はない」


 銃口は伏見の眉間を狙っている。


「普通、子供の眼の前で銃を抜くんか?」


「私は軍人だ。人を殺すのが仕事だ。それもこの国の敵をな。キサマらはこの国の不要な存在だ」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。さ、さ、先程、正式に呪術統括部の方から依頼は来ているとお、仰っていましたよね。だったら、問題はないのではないですか? そ、それに私も伏見先生と同じく子供の前で銃を抜くのはどうかと……ひぃー」


 藤が怯えながらも反発するが、良子の眼光ですぐに引いた。


「伏見? 今はそう名乗っているのか?」


「まあ、色々とありまして……」


「くだらん、あの女の差金か?」


「まあ、そんなところや」


「りょ、りょ、良子さん。まずは銃を収めてください。今回は神祇庁からの正式な依頼だと思いますので」


 由美子が引きつった笑顔で良子に言う。


 良子は伏見から銃口を外す。


「ゆみ、お前までこの男に洗脳されているのではなかろうな?」


「ち、違います! ……ここは、私の父の顔を立てると思って。ね?」


 良子は少し考え、弾倉を抜く。それからスライドを引き、弾を出す。再び、弾倉入れると、銃をホルスターにしまった。


「命拾いしたな、伏見。ゆみに感謝しろ」


「ええ、そのために連れて来てるんや」


 伏見と良子以外、深い溜め息を吐く。


 良子は椅子に座り、資料を見る。


「呪具の調整と言ったが、調整するのは誰がする?」


「呪術統括研究都市から研究員が。先に来てるはずや」


「本日、〇八三◯に庁舎に到着。八雲二尉の案内で第二演習場にて現在調整中であります!」


 男が声を張り上げた。


「そうか。そう言っていたな。その子らは被検体か?」


「そうや。天谷でよりすぐりの一年生や」


「ふん。ゆみ以外はぱっとしない。一応、名前だけは聞いておこう」


 伏見は手で自己紹介をするように促す。


「み、み、宮袋大地です!」


「お前が宮袋か。ゆみにチョッカイを出しているらしいな。度がすぎるなら、私の手で教育してやる。それを肝に命じておけ」


 良子は獲物を刈り取りような形相だった。その殺気は伏見に向けていたものと同じであり、大地は本能で喰われると理解し、背筋を伸ばし、恭順を示すように返礼した。


「氷見、朝子です」


「貴様は天谷の港湾事件に関わった女だな? 後で話を聞きたい。私の元に来い」


「は、はい……」


「賀茂――」


「知っている。父からもよろしく頼むと言われている。だが、ゆみには相応(ふさわ)しくない。今回で貴様の性根を叩き直してやるつもりでいるからそのつもりでいろ」


 大地のように敵意はないが、その脅迫に忠陽は黙ってしまった。


「良子さん!」


「ゆみ、お前のことは分かっているから必要ない」


「そうじゃなくて、さっきから変な事言ってる。もう、そういうのは止めてください」


「それを決めるのは私だ。お前じゃない」


 伏見はクスクスと笑っていた。


「真堂鞘夏……です」


「ゆみのこと、これからもよろしく頼む」


 良子は優しく言った。鞘夏は頭を下げて返礼した。


「さて、貴様らは研究都市のために来ているわけだが、ここは軍隊だ。貴様らの都合は聞かない。だから、貴様らはこれらから我々とともに生活をしてもらう。当番などは免除するが、起床、就寝時間、食事や訓練などは我々と行動をともにするように」


 藤でさえ、衝撃的な言葉だった。


「分かったら、返事は!」


「……はい」


 忠陽のみ返事をした。


「分かったら、サーイエッサー。返事は!」


 良子から放たれた強烈な威圧に藤も含め、六人全員が声を揃えて言う。


「サー、イエッサー!」

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