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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第七話 誰そ彼、輝くは天と地と、祓い清め給ふは弓の姫 其の十壱

 四


 天谷市は不気味なものを持っている。これは外から来た人間が言った言葉だ。


 中央街は明るく、人気があり、何処にである繁華街だが、住宅街に足を運ぶとそこは静寂ではなく、人が死んでいるのかと思うような静けさだったからだ。


 忠陽と大地はその静けさの中を二人で歩く。


「そんなに落ち込むなよ?」


 忠陽はため息をついた。


「だって、妹に触っただけで、ゴミを払うようにしてだよ、触れないでくれる、って言われたんだよ」


 忠陽は悲痛な気持ちを大地に述べていた。


「そういうお年頃なんだろ?」


 大地はニタニタと笑っている。


「あれは、事故だよ! 不可抗力だ!」


「分かってるよ。そのうち、元通りになるさ。……で、どうだったんだ? ラッキースケベは」


 大地は忠陽に肩組みながら聞いた。


「言わない」


 忠陽はそっぽを向いた。


「硬いこと言うなよ。お前の女、ムッチャプロポーションも良いしな……」


 大地の顔は下世話な男の顔、そのものだった。


「鞘夏さんは、僕のか、か、彼女じゃないよ」


「そんなこまけーことはどうでもいいんだよ!」


 忠陽は少し黙った。そして、そっぽを向きながら顔を赤くしながら言った。


「……肌がひんやりしていて、柔らかくて……いい匂いが…した」


 大地は肩組を外し、急に猿のような奇声をあげ、腰を振った。


「このエッチスケッチワンタッチめッ!」


「だから、不可抗力だって!」


「感じてる所は感じてるんだろ?」


「だから―」


 大地は肩組をし直し、忠陽の言葉を遮る。


「ボン! こいつはな、男としての性だ、業だ!」


 大地は肩組を外して、見ない夜道へと進んだ。


「いいか、男ってモノはな、いい女が居たらチューしたいんだ。彼女にしてぇーんだよ。例え、それが使用人との恋であろうともそれがいけない法律なんてのはナイッ!」


 大地は立ち止まり、忠陽の方を向く。


「そんな法律があったら、無視してしまえ!」


 大地は月を見た。


「漢ってモノは、愛を確かめるために、女を抱くんだ……」


 キザな声とポーズで大地は忠陽を諭す。


「じゃあ、大地くんは高畑さんにそうしてるの?」


 大地はズッコける。


「なんで、典子が出てくるんだよ!?」


「だって、そういうことでしょう!?」


 大地は忠陽に近づく。


「バカヤロウ! アイツは……アイツは……幼馴染だ」


「とか言って、好きなくせに……」


 忠陽は呟く。


「なんだと……」


 大地は忠陽に(たわむ)れていた。二人は笑いながら、攻防戦を繰り広げているときに、大地の携帯のメール着信音が鳴った。


 大地は戯れるの止め、携帯を取り出し、メールを見る。


「エーメンからの定時連絡だ。中央街は異常無しみたいだな。だったら、おれたちはこのまま東区に行ってみるか」


 忠陽頷く。


 東区は木造一戸建ての住宅が多い地域である。この地区は家族向けに販売された土地であり、その殆どは公務員や、この都市限定で行う建築、保守事業者の家族が多かった。


 天谷市は建造されて十年は超えている。それでも、まだ未開発地区はあり、そして塩害による定期的な保守整備が必要だった。そのためか、陸地よりも安定した仕事量があり、この島に永住を考える人間も多かった。


 夜になると、人々は家に帰って来ている。家から明かりが灯っているというのに、辺りに静けさを感じるのは変だと忠陽は気づく。


「大地くん、この辺りはいつも、こう静かなの?」


「まあな。俺の家の周りもこんなもんだ……。それがどうかしたのか?」


「いや、家から音が聞こえないなんて普通じゃないよ」


「そうなのか?」


「京でもこういう家から音ぐらいは漏れ出るもんだよ。何か防音材でも使われてるのかな?」


「京の家は古いからじゃないのか」


 大地は笑っていた。それを見て、忠陽は、ここではこれが普通のなのだと、言い聞かせた。


 東区に来て、十数分経った頃、忠陽は何か寒気を感じた。セントラルビルで筋骨隆々の体をした魔を発していた漢と同じ気配が近くで感じる。


「大地くん、やっぱりちょっとオカシイよ」


 大地は鼻で笑った。


「なんだよ、ボン? 幽霊でも出そう怖いのか?」


「そうじゃないよ。妖気を感じるんだ」


「妖気って……おいおい、ボン。お前、マジで幽霊の類を信じてるのか?」


「妖魔は実在するよ。この前の化物だって、妖魔だよ」


 忠陽は拗ねていた。大地はそんな忠陽と肩を組む。


「俺が悪かったよ。お前を信じる。で、その妖魔は何処にいるか分かるか?」


 忠陽は式符を取り出し、呪言を唱える。すると、式符は燃え、青い火の玉となり、彷徨い動く。


「なんだ、これ?」


「感知器みたいなもの。妖魔って、人間と見分けがつかないんだ。だから、妖気をこの火の玉に辿らせるんだ」


「すげーな、ボン!」


「でも、万能じゃないけど……」


 火の玉はフラフラと右往左往しながら進んだ。その動向を大地は固唾を呑んで見守っていたが、直ぐにその挙動自体がおかしいことに気づく。


 火の玉は急に家の塀にぶつかるも、ピンボールのように跳ね、反対側の塀へと向かい、またぶつかる。


「おい、あれ大丈夫か?」


 大地は忠陽に、率直に言った。


「ごめん……」


 それから、二人は火の玉と一緒に歩いていた。火の玉はゆっくりとピンボールように跳ね返りながら進んでいく。二人はその動向をじっと見つめていた。


 火の玉を出して、数分後、火の玉は徐々に火の勢いが増してきた。


「ボン!」


 その一言で忠陽は頷く。


 火の玉の挙動が変わり、真っ直ぐに進むようになり、速度を上げた。


 二人はその火の玉を追うために、小走りになった。徐々に火の玉は速度を上げ、二人は走っていた。ついに、火の玉は銃弾のような速さになり、忠陽たちが見失ったときに、前方から弾ける音がした。前方の暗闇が見えるようになる距離まで近づくと、浪人笠を被り、黒の羽織と水色の小袖を着た男が、棍を持ちながら立っていた。


 その男の目の前には、水色の病衣を来た少女が倒れており、首か肩から血を流していた。


 二人はそれを見て、力が入り、構えた。


 エーメンから聞いた噂の人物であることは間違いない。ただ、その男の噂には人を殺しまわっているというのもあった。


 相手はこちらに動揺することなく、静観していた。その佇まいから、大地は強い奴と思った。だから、忠陽に聞いた。


「どうする?」


「どうするって……」


 大地は忠陽の顔を見なくても、言いたいことが分かった。


 大地は相手を威嚇するように炎を出す。それに対して、浪人笠は棍を構える。

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