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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第七話 誰そ彼、輝くは天と地と、祓い清め給ふは弓の姫 其の七

 由美子は鞘夏と別れた後、直ぐに神宮家が用意した天谷市の邸宅へと帰った。今は、食事を済ませ、使用人が入れた紅茶を優雅に飲んでいた。


 カップを右手につまみ、カップを傾けて紅茶を口に含ませる。その気品ある姿は絵になった。


「ただいま」


 その声で絵に黒いの絵の具が斜めに引かれたように、駄作に変わってしまった。


 食事室へズカズカと入り、野性味溢れる姿は景観を損ねる。


 由美子はカップを震わせながら、皿に置いた。


「兄さん、どうしてここにいるの?」


 八雲は近くにあった椅子に座った。


「軍の奴ら、邸宅があるならホテルはいらないだろうって、取ってくれなかったんだよ。まったく世知辛い世の中だ」


「だったら、自分のお金で取ればいいじゃない!」


 由美子の怒りに八雲は顔を背け、耳を塞いだ。


「そんなこと言うなよ。泊めてくれたっていいだろ?」


「ささっと、家に戻ってくればいいでしょ?」


「ヤダ。絶対帰んね」


「なによ、子供みたいなこと言って!」


「そうだ、ゆみ。明日の夜、街を案内してくれよ」


「どうして、私が?」


「だって、ゆみの方がこの島のこと知ってるだろう。それにこの前の事件の夜のことも教えてほしいさ」


 由美子はすっと怒りが消えていった。急に席を立ち、部屋を出ようとしていた。


「なあ、ゆみ? ゆみちゃーん?」


 無言のまま扉を開けて、八雲の静止を聞かずに出ていた。


 八雲は由美子を追いかけようとしたが、漆戸が立ちはだかった。


「なんだよ……」


「いえ、神宮の者ではないものに姫様の自室へお通しするわけには」


 八雲は顔を引き攣る。


「九郎、頼むよ」


「遠矢八雲ではお通しできませんな」


 八雲は溜息をつく。


「九郎……」


「姫様のお気持ちを少しはお考えください」


 八雲は頭をかく。


「何をだよ? 一応、こうやって顔を出してきてるじゃん」


「あの話しぶりは頂けませんな」


 好々爺のように見せているが、その実、八雲に対して相当な威圧を放っていた。周りは戦々恐々とする中、八雲はそれを平然と受け流していた。


「分かったよ! 優しくするよ!」


「兄君としてですかな?」


「そうだよ! ったく、名前が違うと言っても俺は俺だろ……」


「なにか言われましたかな?」


「何も言ってない!」


 漆戸は溜息をつく。


「この家に使え、五十余年。武様の嘆かわしい姿に、姫様の憤る気持ちが、この爺やにも、爺やにも分かりまする。あー、姫様、なんとお可哀そうな……」


「なに下手な芝居をしてんだよ。昔は容赦なく殴ってたくせ。これだから年寄りは……」


「今なんと?」


「うんうん、なんでもない……」


 八雲は笑顔で誤魔化す。


 漆戸に連れられ、由美子の自室の前に案内された。


 その扉は大きく、厚みがあり、城などよく見られるものだった。


 漆戸が扉を優しくノックをする。


「姫様。武様が参りました」


 由美子の返事はなかった。


「姫様、お開けします」


「入ってこないで!」


 扉の中からは由美子の涙声がする。


 漆戸は八雲をジロっと見る。八雲は首を振る。


「なあ、ゆみ。俺が悪かったよ、許してくれよ」


「いや、絶対に許さない! 兄さんも爺やもキライよ」


 八雲は漆戸を見るも、漆戸は首をふる。


「どうしたんだよ、急に。そりゃ、何も言わずに来たのは悪かったよ……」


「それだけじゃない!……なんで……私にだけ黙ってたのよ……」


「黙ってたって、何が?」


「神無兄さんのこと……」


 八雲も漆戸も困りながら深呼吸をする。


「九郎、あとは俺が何とかするから、下がってくれ」


 漆戸は扉から離れ、奥へと下がっていった。


 八雲は扉を開ける。


 扉を開けると、部屋は暗い。その中でも窓から差す薄暗い月明かりが天蓋ベットを照らしていた。ベットの上では顔に当てて啜り泣く少女が座っていた。


 八雲は月明かりを頼りにその少女への道を歩く。


 その時、暗闇から枕が飛んできた。八雲は避けなかったため顔面に当たってしまった。当たったあと、枕は床に落ちる。


「入ってくるなって言ったでしょ!」


 涙声の少女は他に投げるものを見つけては八雲に当てていた。


「やめろよ、ゆみ」


 八雲は枕を拾い、投げてくるものを防いだ。


「兄さんも、爺やも、お父様も、お祖父様もキライよ!」


「落ち着けって、ゆみ。親父とジイサンは嫌いなってもいいからさ」


 投げるものがなくなると、再び声を押し殺し泣き始めた。


 八雲はベットに近づき、何もしてこないのを確認してベットに座った。


 薄い光でも分かるが、由美子の頬には透明な光が見えた。八雲はそれを見て、俯いた。


「俺が悪かったよ、黙ってきたのは。でも、しようがないだろう? 俺だって突然の事だったし」


「嘘よ。本当は神無兄さんのことがあるから、会わないつもりで居たんでしょ……」


 八雲は心臓を掴まれる思いをした。


「図星じゃない!」


 由美子は泣きながら、八雲を叩く。その顔は目頭と鼻を赤くし、鼻水と涙でクシャクシャな顔だった。


「よせ、ゆみ……」


「皆は知ってたんでしょう? 神無兄さんが生きてるって! どうして私だげ教えてくれなかったのよ!」


 由美子の叩く力が段々と弱くなった。


「どうして……」


 由美子は叩くのを止め、俯く。


「アイツが生きてるって分かって、お前にどうできる」


 由美子は顔を上げた。


「決まってるじゃない! 神無兄さんが戻れる場所を与えるわ!」


 八雲は由美子から顔を背けた。


「どこにさ?」


「そんなの……暁の里がまだあるわ。それがダメなら神宮の本邸でも!」


「神宮が危うくなってもか?」


 由美子は俯く。


「だったら、神無兄さんは誰が助けるのよ。神無兄さんは私たちの家族と一緒じゃない!」


「アイツは暁一族だ。俺らの家族じゃない」


「そんな兄さん、キライ!」


 由美子はまた八雲を叩き始めた。


「止めろ、ゆみ」


「イヤよ、兄さんは神無兄さんのことがキライだからそう言うんた。爺やもお父様も、神無兄さんの方が好きだと思ったから家を飛び出したんでしょう!?」


「違う」


「違わない。兄さんは、神無兄さんのことが邪魔なんでしょう!?」


 八雲は由美子の叩く手を取り、由美子の顔を見て言った。


「違う!」


 由美子はその顔に怯み、手を無理やり引き剥がした。


 八雲は俯く。


「なあ、ゆみ。暁一族は滅んだんだ。もう、居ないんだ。お前まで暁一族の呪いに引っ張られるぞ……」


 八雲は奥歯を噛み込む。


 由美子はその姿を見て、小声で兄さんと呼びながら近づく。そして、服の袖をぎゅっと掴んだ。


「アイツが俺の前に姿を表したのは出雲戦役の時だったよ」


「どうして……」


「いつもの調子でさ、スカしたように現れて、俺達を挑発して、戦って……。何がしたかったのかよく分かんなくてよ……」


 由美子は黙っていた。


「でも、それはアイツなりの理由があることは知ってる。俺はそれがいつも気に食わないんだよ。今回も同じだ」


「神無兄さんは、この島に何かあるって言いたかったの? だから、わざと久遠を使ったの?」


 八雲は、由美子を抱き寄せた。


「さあ、何を言いたかったんだろうな? アイツは根暗で、無口で、陰険な奴だから俺には分からないよ」


 由美子は涙を拭い、笑ってみせた。


「もう。神無兄さんはそんな人じゃない。優しくて、芯があって、無口だけど、私の大好きな兄さんを必ず助けてくれる。そんな人よ」


「面倒を押し付けられてるだけだぜ」


「そんなこと無い。神無兄さんは、兄さんのことを信頼してるんだよ」


「ゆんも、そんなことを言ってたな」


 由美子は顔色を変え、八雲を突き飛ばす。


「急になにすんだよ?」


「あの女の話をするなんて最悪! まだ、あんな女のことか好きなの?」


「いや、今はそう言う話をしてないだろ?」


「大体、あの女のどこがいいわけ? 私、あの女が兄さんの彼女になることは絶対に許さない!」


「そういえば、ゆみと一緒にいた女の子、鞘夏…さんだっけ? どことなくゆんに似てないか?」


 由美子は怒り出した。また、八雲を叩き始めた。


「はあ!? どう見たら、真堂さんがそう見えるの? その目は節穴ですか?」


「落ち着け、ゆみ!」


 八雲は忠陽のことを思い出す。


「そういえば、賀茂の話を聞いた。あいつ、二重人格らしいじゃないか! それに、神無に自分の呪いを見てもらったらしい」


 由美子は動きを止めた。


「賀茂君を?」


「ゆみは、賀茂の二重人格は見たのか?」


「あるけど……神無兄さんはなんて言ってたの?」


「呪いを無理に解くと、賀茂の精神が壊れるってよ」


「神無兄さんが言うなら、そうなんだろうけど……」


 八雲はムッとなってしまった。


「でも、あの呪いは真堂さんも関係してるはずよ」


「そんなこと、賀茂も言ってたな」


 八雲はベットから立ち上がる。


「急にどうしたのよ?」


 八雲は近くにあった椅子に座る。


「なんでもねえよ。それで、あの鞘夏さんがどう関係してるんだ?」


「はっきりは分からないんだけど、学戦では鞘夏を傷つけて、自分の魔力に還元してたわ」


「なんだよ、それ。えげつないやり方だな……」


「性格も攻撃的で粗暴だし、私はあの男、嫌いよ」


「そうか? ゆみなら気が合うんじゃないか?」


「はあ? どうしてよ?」


「お互い性格が似ているから」


 由美子は立ち上がり、八雲をポカポカと叩いた。痛いという八雲の声を無視した。


「そういうところだよ」


「兄さんなんてキライ! いつも、いつも私をイジワルして。久しぶりに会ったんだから……優しくしてよ」


 由美子の叩く手を取り、抱き寄せた。由美子は黙っていた。


「ったく。お前は本当に甘えん坊だな」


「……お兄ちゃん。帰ってきてよ」


 由美子は八雲を強く抱いた。


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 八雲が由美子の自室を出て、広間に出ると漆戸が待っていた。


 漆戸は頭を深々と下げていた。


「別に礼をいわれるものじゃないよ。いつも、お前には苦労をかける」


 漆戸は頭を上げ、八雲の後ろに付き、一緒に歩いた。


「姫様は普段は気丈に振る舞われております。とはいえ、やはりまた子供。我々大人には話し難いこともありましょう」


「そうだな。それに来て、アイツのこともあったからな。本当は親父たちに言いたいんだろうけど、それは無理だな」


「お察しの通りでございます」


 八雲は足を止める。漆戸も足を止めた。


「ゆみは、友達はいないのか?」


「学校での交友関係は、家の名に恥じぬ立ち回りをされています」


「そうか。本当に友達と呼べるやつがいないのか……」


「はい。まだ、その塩梅が難しいようで。お父上や武様のように家名に泥を塗るような子ではこざいませぬゆえ」


「なんだよ。トゲがあるな、それ」


「ほっほっほ。男というものはそういうものでございましょう。そんな姫様でも、賀茂様には心を許しているようです」


 八雲はムッとした顔になる。


「あいつにか?」


「兄君としてはご不満ですかな?」


「別にそんなんじゃない」


「神無様や、六道の者に気に入られてるからですからな?」


「別にそんなんじゃねえって!」


「血は争えぬと申しましょう。お父上と同様、賀茂家には何かと御縁があるかもしれませぬ」


「今日、その賀茂の父親からゆみと同じように学友だったって聞いたよ」


 漆戸は不思議そうな顔をした。


「そうですか。あの忠臣様が……」


「どうかしたのか?」


「いえ、忠臣様が自分のことを話す人ではないと思っていたので」


「そうなのか? でも、あの人、抜け目ない人物だったぜ」


「それは昔からです。抜け目なく、穏やかで、口数が少ない忠臣様の性格が、お父上の無鉄砲で、頑固者な性格に合っていらしたのでしょう。ヤンチャばかりしていたお父様の尻拭いを、いつもされていました。私には、姫様と忠陽様が同じように見えてしまうのです」


「そうか。ゆみのせいで、胃が痛くならないように、何か送っておいてくれ」


「それは大丈夫でしょう。妹の扱い方は、あちらの方が一枚上手でございます」


 ほっほっほと笑う声が廊下に響く。

先日、八雲は神無のもう一人の人格として最初は作っていたという話をしていました。

ですが、由美子は初期設定から神宮の人間であり、神宮の長女として従兄弟の神無のことを「兄さん」と呼んでしました。

由美子は神無との実力差は天と地ぐらい離れています。そのことには由美子は知っていますし、それに劣等感を持っているわけではありません。何でもできる神無は尊敬する兄さんであり、初恋の相手、憧れでもあります。

一方、八雲はというと、彼の悪い性格も許し、何だかんだ甘えさせてくれる兄さんを家族として愛しています。

本当は女学校なんか入れて、女帝という感じすれば良いのでしょうが、女帝というよりは由美子はお姫様という方がしっくり来る性格なんですよね。それに、お胸がちょっと残念なので……女帝はー。

いつかは胸をイジる回を作りたい!いや作って見せる!

そう由美子に足りないものは、

ムネ・タイラとか無乳会長タイラーとか乳部・タイラーとか、神宮ゆみ平野とか

牛乳なんて飲んでるわよ!とか、バストアップのマッサージを絶え間なくやっているとか絶え間ない努力をさせて、

豊胸ドン! さらに倍!とか

乳部偽装させて、忠陽に鼻で笑われて、「やだ~、何か面白いこと言いましたぁ?(お前、なにわろとんねん)」とか。

そして、なによりもーーーーーーーーーーーーー!

速さが足りない!とか?

えっ、それ、なんてエロゲー?(死語)


四月は君の嘘ORIGINALSONG&SOUNDTRACKS 横山克

「私の嘘~piano solo」 を聞きながら

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