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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第七話 誰そ彼、輝くは天と地と、祓い清め給ふは弓の姫 其の四

 八雲は伏見に連れられ、校庭に出る。遠くでは炎が勢い良く燃え上がっていた。よく見ると、金髪の男が炎で前方にある土壁を薙ぎ払うが、土壁は溶けはしなかった。次の瞬間、ふっと翼志館の制服を着た男子生徒が現れ、十数個の石礫を放つ。


 八雲はその現れたかには驚いた。


「どうや。ええやろ?」


「お前のものじゃないだろう……」


 金髪の男は慌てていたが、後方回転をしつつ、距離を取る。そこに由美子が割って入り、石礫を長棒で薙ぎ払いながら壊していった。


 八雲は口元が緩む。


 そこに警棒を持った鞘夏が由美子に襲いかかっていた。由美子はうまく受け流し、鞘夏に反撃を加える。鞘夏が押され気味になったところで、由美子の頭上に電気を帯びた球が現れる。


 由美子はそれに気づき、直ぐに離れると、球から雷撃が放たれた。


 雷撃を交わしたのは束の間、由美子は金髪の男にぶつかっていた。


 そこで男子生徒と鞘夏は攻撃するのを止めた。


 二人は無様な姿がから立ち上がると、言い合いをし始めた。


「一人は他の学校なのか?」


「ああ。海風高校の悪ガキや。あの二人はよう衝突してるわ」


「まあ、ゆみは真面目だからな」


「辛気臭い社交界の奴を相手にするよりは楽しそうやで」


 伏見の答えに八雲は笑った。


「いきなり、なんや?」


「お前、本当に教師なんだなって、思っただけだよ」


「なんや、悪い気はせんな。そう言われたのは初めてや」


 伏見は笑いながら四人のもとへと歩いて行った。


「あなたね!何度言えばいいのよ!」


「そっちこそ、普通はあそこでスイッチだろ! ボンなら俺の呼吸に合わせてくれるぜ!」


 忠陽は笑顔で誤魔化しながら、前にいたら無理だなと考えた。


「はいはい。いちゃいちゃするな」


 二人は誰がだ!と声を合わせて、伏見に叫ぶ。


「変なところで息が合うな」


「なによ、今更来て! 何の用よ!?」


 由美子は伏見に突っかかる。


「君たちに、特別講師を連れてきたんや」


「どうも」


 八雲の姿を見て、由美子は数歩下がった。


「兄さーんん!!」


「よ、久しぶり」


 八雲は、手を上げて挨拶をした。


 由美子の兄と聞いて、忠陽は戸惑った。相手は神無とは似つかない人だった。むしろ陽気で、柔和に思えた。顔をよく見ると、確かに由美子と似ていた。神無と由美子が兄弟というよりもこちらの方がよっぽど信じられる。


 もう一人、戸惑っていた輩が居た。大地は由美子と八雲を見返し、あの夜に見た人物の脳内写真と八雲を照らし合わせる。


「あ、あ、あんた。こいつのアニキなのか?」


「ああ、そうだけど」


「いや、似てる。だけど、似てないじゃねーか!」


「何言ってるんだ、こいつ?」


 八雲は伏見に説明を求めるが、伏見も分かってはいなかった。


「いやいや、あんた偽モンだろ!」


 八雲に近付こうとする大地を、忠陽は止めようと後ろから服を鷲掴みして引っ張る。


「大地くん、落ち着いて!」


「落ち着いてられるかよ、こいつがあの兄さんだぜ!」


「たぶん、違うよ!」


 由美子が二人から割って入り、八雲に問い詰める。


「私が先よ! 兄さん、何でここにいるの?」


「何で、仕事だよ」


「仕事? なんの?」


「そりゃ、軍だろ」


 由美子はあっ、そっかと言いながら、胸を撫で下ろした。


「アンタ、軍人だったのか?」


「まあ、一応」


 伏見は、質問攻めの生徒を無理矢理引き剥がした。


「はーい、キミら、まず落ち着き」


 八雲と距離を取らせると、自己紹介を促す。


「えー、皇国陸軍第八師団特殊呪術連隊第一中隊所属の遠矢八雲二等陸尉でーあります。先の通り、ゆみは、一応俺の妹です」


 由美子は「何が一応よ」とビリビリしていた。


「お転婆だけど、カワイイ妹をよろしくな」


「余計な事言うな!」


 一同は笑っていた。


「なあ、あんた、神宮なんだろ? でも、さっき遠矢って言ってなかったか?」


 八雲は頭を掻いた。


「あー、俺は親から勘当されてるんだ。だから、別の名前を名乗ってる」


 大地は興味なさそうに返事をしていた。


「グラサン先生とは知り合いなのか?」


「伏見とは子供の時からの知り合いだよ」


「なあ、グラサン先生のガキの頃はどんなだったんだ?」


 八雲は考え、嫌な奴だったと答える


「このクソガキが。いじめたりなかったみたいやな」


 伏見の口調はいつも忠陽たちに向けられるものとは違うものだった。


「冗談じゃねーよ。五歳の新嘗(にいなめ)祭のとき、お前のせいで、オヤジに俺がどれだけ絞られたか。忘れてねーよな?」


「あれは、俺やのうて、(じゅん)やがな」


 伏見は不敵な笑みを浮かべた。それを八雲は疑っていた。


「昔話をするだけ、俺らも大人になったちゅうことや。さて、僕はまだ仕事があるさかい、後はよろしくな。英雄様」


 伏見は八雲の肩を叩いて、校舎へ戻っていく。


「ちょっと、待てよ。よろしくって何すりゃいいんだよ?」


「生徒四人を相手にして、軽く捻ればええやん」


 伏見は振り返って、そう言い、再び校舎へ戻っていく。


 八雲は四人を見る。鞘夏以外はやる気スイッチが入ったようだった。


「あのさ、流石に四人は無理くない?」


「兄さんだったら、大丈夫じゃない?」


「あのな、ゆみ―」


「兄さん、言い訳をする度かっこ悪いですよ」


 綺麗な笑みを浮かべる由美子を見て、八雲は溜息をつく。


 その瞬間を狙うかのように炎を放ち、攻撃していたのは大地だった。


 炎が消えると、八雲はそこには居なかった。


 由美子は一番後ろにいる鞘夏の後ろに圧縮した空気を放つ。空気は地面を抉っただけだった。


「まだ、やるとも言ってねえだろう、ゆみ?」


 八雲は由美子の後ろに居た。その動きに忠陽と大地は武者震いをする。


「そう? 兄さんに勝てたら、家に帰ってきてもらうわ!」


 後ろにいる八雲に当てるように、由美子は振り向いて、風の刃を放ったがそこには八雲は居なかった。


 由美子は直ぐに最初にいた場所を見る。忠陽たちも由美子に釣られるように見ると、そこには八雲がいた。


「腕を上げたか? ゆみ。感覚では俺を追えてるな」


「だって、兄妹ですもの」


「ったって、本当は見えてないだろ。なあ、もう止めにしようぜ」


「そうね、兄さんが家に帰ってきてくれたら、ね!」


 由美子はまた風の刃を放つ。放った瞬間には八雲は由美子の前に立って、頭に優しくチョップした。イタッと可愛く由美子は声を漏らす。


「い、や、だ」


「捕まえた!」


 由美子は八雲の手を取ると、引き付け関節を決めた。


「あーギブギブ!」


 わざとらしく叫ぶ八雲に由美子は技を解き、蹴り飛ばした。八雲は地面に無様に倒れた。


「真面目にやってよ!」


 由美子の切実な思いに八雲は立ち上がり、服についたホコリを払う。


「分かった、よ」


 よ、と言うときには由美子の前現れ、格闘戦に入っていた。八雲は容赦なく、由美子の顔を狙う。由美子は身体強化をし、その拳を受け止める。八雲は続けて、二撃、拳で腹部を殴ろうとするも、由美子は防いだ。八雲は防がれたのを見て、一旦距離を取る。


「そういや、お前はスカートだろ? 大丈夫か?」


 それをお構いなしに由美子は八雲に近づき、右足の上段回し蹴り。それが八雲に避けられると、遠心力を使って、後ろ回し蹴りを繰り出す。それを紙一重で八雲は躱す。


「タイツぐらい着てるわよ!」


「なら、安心。そこの二人は見てるだけか?」


 大地は顔をしかめて、八雲に近づき、大振りの拳を繰り出す。八雲は簡単に躱し、反撃の一撃を顔面に食らわせる。


 大地は仰け反るも、直ぐに前のめりになり、もう一度拳を突き出す。だが、そこには八雲はおらず、大地の側面から蹴りが飛んできた。


 その一撃はこの前の中山の蹴りよりは軽く、手を加えられているのが分かった。


「そんな戦い方じゃあ、俺を倒せないぞ」


「何してんのよ。その程度なら来ないでよ」


 由美子はそう言いつつ、八雲に拳で二撃牽制し、いなす八雲の腹部を脚で突く。腹部に当たる瞬間に八雲は後方に飛んで、受け流した。


 その飛ぶ瞬間を狙って忠陽は石礫を飛ばす。八雲はその石礫を空中で自分に当たりそうな石礫を壊して、着地した。


「戦いにおいて必要なのは呪術じゃない。まずは格闘だ」


 そう言うと、八雲に消えた。


「賀茂君!」


 八雲が現れた時、忠陽には対処できる間合いではなかった。その尋常ならざるスピードは神無と違うものを感じた。


 八雲が殴ろうとした瞬間に鞘夏が警棒を取り出し、その拳を叩き落とす。鞘夏はそのまま八雲を突こうとしたが、八雲は反対の手のひらで警棒を押し出し、払った腕で肘打ちをする。


 鞘夏は肘打ちをくらい、後退るところに、八雲は追い打ちをかけるが、忠陽が生成した土壁により邪魔される。


 由美子は弓矢を生成し、放っていた。矢は途中で2つになり、八雲の左右から攻め立てる。


「パーマ!」


「指図すんな!」


 大地は炎を前面に最大出力で出した。


 2つの攻撃は互いにぶつかり、爆発する。


 その爆発の煙が晴れたとき、八雲は居なかった。


 由美子がその気配に気づいたとき、八雲は大地を殴り倒しており、次は由美子へと向かった。


 由美子の目の前へと出た瞬間、あらぬ方向から石礫が飛んできた。


 その咄嗟のことに石礫に対応せざるを得ない状況だったため、由美子に対して隙を作る。由美子はそれを逃さず、弓を消し、格闘戦に持ち込む。右足での側頭部を狙った蹴りを放ち、それを腕で防がれたら、強引に蹴り入れながら体を浮かせてからの左後ろ回し蹴りへの切り返しを行った。八雲は左後ろ回し蹴りを紙一重で交わし、腹部に突きを放ち、帰り打ちにした。


 八雲は気配を読む。だが、忠陽を全く見つけられなかった。


 忠陽が光の玉を放った瞬間、八雲は動き出し、直ぐに忠陽の眼の前に現れ、関節技を決めた。


 その痛みに忠陽は悶絶すると同時にそのやり方が由美子より荒々しいと思った。


「その隠業はいいが、術者がもっと戦いを知らなければダメだな」


 八雲は関節技を解き、忠陽を開放した。


「なんだお前ら、これだけか? 桜花学校の連中のほうがまだガッツがあるぞ」


「冗談じゃねえ。おれはまだ負けてね!」


 大地は炎を片拳に纏い、格闘戦に持ち込む。八雲は殴りかかってくる炎を避けつつ、カウンターとして大地に的確に顔と腹部、脇腹を叩いていく。そして、大地が大振りになって体制を崩したところを重い一撃を大地顔面に放つ。


「お前が一番、弱い」


 大地はそのまま立てなくなった。


「自分勝手、変に戦いなれてるせいで自信過剰、そのうえ喧嘩殺法。どれもこれも中途半端」


 その後、伏見が戻ってくるまで四人は八雲にみっちりしごかれていた。服は砂埃と汗で汚れており、体は擦り傷があり、立ち方から打ち身もしてることが容易に分かる。


 その姿に伏見は不意にも笑ってしまった。


「何笑ってんのよ!」


 由美子は伏見を睨む。


「いや、ボッコボコにされたんやなと思うて」


「そうよ。なんか文句ある!?」


 由美子はそっぽを向いた。


「相変わらず、手加減ができへんな、お前」


「何言ってんだ。これでも手加減したほうだぞ」


「いや、宮袋くんに対してはえげつないわ」


 大地の顔は腫れ、青タンができかかっていた。


「しょうがないだろ? こいつイノシシだし」


「お前にそっくりやな」


 由美子も大地の顔を見て、笑った。


「笑うな……」


「皆、取りあえずは保健室に行くで」


 保健室で手当をしてもらうとき、八雲は養護教諭にかなり怒られていた。その姿を伏見はクタクタと笑う。


 八雲の目は自然と鞘夏を追っていた。雰囲気だけがどことなく、知り合いに似ている。


 その鞘夏が忠陽を手当している姿を見て、昔を思い出す。幼い夏の暑い日、道場で神無との試合で何度も戦っても勝てなかった。鍛錬が終わると離れで少女に手当をしてもらう時間がやけに幸せだったあの頃を。


「もう無理しちゃだめだよ」


 八雲は男は戦わないといけないんだと強がる。


「そっか。がんばってね!」


 明るい笑顔に何よりも可愛かった。


「どうやった?」


 伏見の言葉で現実に戻される。


「どうって、何が?」


「目ぼしい奴はおったか?」


「居なかった。戦える状態じゃない」


「ここは桜花(おうか)学校とはちゃうからな」


「だったら、聞くなよ。……あの男」


 八雲は忠陽を顎で指す。


「妙な術を使ったな」


「忠陽くんか?」


「ああ。気配が完全に読めなかった」


 伏見はニタリとしていた。


「なんだよ、その顔……」


「神無でも、精霊術を使わなければ見つけられんかった」


「へっ! 俺は簡単に見つけられたぜ!」


「どうせ、攻撃に反応してやろ? かくれんぼなら確実に捕まえられへんよ。彼はまだまだ発展途上やけど、面白なるで」


「お前が気にいる言ってた奴はアイツか。俺はあの火を使うやつの方が伸びると思うぜ」


「海原一佐もそう言っとったで」


「そうだろ? あいつは戦い方を教えればものになる」


「それなら神無は忠陽くんを押すやろな」


「はぁ!? なんでアイツが出てくるんだよ!」


 八雲は大声を出していた。周りの視線が向き、八雲は平然を取り戻そうとした。


「なんでだよ?」


「それは自分で確認したらどうや? まさか神無が感じたことをお前が見逃さないやろ?」


 挑発的な物言いを、八雲は平然を装い言葉を返した。


「そんなの、分かってるに決まってるだろ」


 治療が終わると、もう夕暮れになっていた。


 校門から各々帰路へつこうとしたとき、八雲は忠陽と大地を呼び止めた。


「おい、お前ら。放課後って言ったら買い食いだろ? ちょっと付き合えよ」


「兄さん!」


「なんだよ、ゆみ。お前も行きたいのか?」


 由美子はそっぽを向く。


「まあ、そういうことだ。今回は男だけで行こうぜ!」


 そう言いながら、忠陽と大地と肩を組む。


「ゆみ、その子を頼むよ」


「えっ? ちょっと!」


「男同士の下品な会話に女の子を一緒にするわけには行かないだろ? それにもう夜なるから車で送っていけよ」


 三人は坂道を歩いて下っていく。


 由美子はため息をついた。そして、鞘夏を見る。無表情のまま、鞘夏は立っているだけだった。

 遠矢八雲という人物は、初めは神無のもう一つの人格の時の偽名でした。その構想は今はボツ案となっているのですが、元々神無という存在は忠陽のように二つの人格があり、一つが本来の寡黙な神無の性格と、もう一つが遠矢八雲という陽気で社交的な人間でした。まあ、今も詰めが甘い設定なのですが、子供の頃に考えた設定なので、かなり無理があったですよ……。それはそれなりに妄想で楽しんでいましたが(笑)

 ある時、この遠矢八雲という人格を軸にストーリーを作ると、神無とは違った面白さにあることに気づき、だったら、イケメンにして、ハーレム状態の主人公にしてみろということで考えたら、本当にハレーム主人公みたいな感じに出来上がったのが今の八雲のベースです。基本的には女性には優しく、男には容赦がない正義感丸出しの男なのです。軍人という身の起き方をしたため、かなり容赦のない性格になってしまいました。本当にこれで良いのかと思いつつ、精一杯書いているつもりです。


Re:CREATORS Original Soundtrack 「God of ink」を聞きながら

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