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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
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第六話 天谷の闇 其の五

 翌日、昨日とは別の集合場所へと訪れていた。そこには神無とエリザがおり、無機質に寝ていた。昨夜は遅くまでこの都市を練り歩いていたのだろうか。


 中を歩くと、その音でエリザが目を覚ます。


「もう、そんな時間なのね」


「起こしてしまいましたか?」


「大丈夫よ、よく寝れたわ。大和は治安がいいから安眠できるのよ」


 忠陽は本当にこの二人がいる環境が過酷なんだと分かった。


辰巳(たつみ)から言伝を頼まれているわ。昨日の続き、魔力を手のひらに作りなさい」


辰巳(たつみ)?」


 忠陽は聞き慣れない名前だった。エリザも困惑していた。


「えーっと……。神無、あの子の名前は辰巳(たつみ)で良かったわよね?」


「ここでは伏見京介と名乗っている」


「そうなの? どうしてそんな面倒なことを」


 伏見の名前が偽名なのは聞いていたが、それが本当なのだと改めて忠陽は理解した。


「あのー。二人は伏見先生とどういう関係なんですか? ……もし、よければで」


「それは、伏見? に聞きなさい。人の過去というのは本人から聞かないといけないものよ」


 それから、忠陽はエリザに見られながら、呪力を手のひらに作り出す鍛錬を始めた。エリザにじっと見られるだけで集中できなかった。それを察してか、エリザは忠陽の頭を杖で小突く。


「集中しなさい」


「ずっと見られると何だが恥ずかしくて」


「……そうね。なぜ、私は貴方に協力しているのかしら?」


「僕に聞かれても……」


「それもそうね」


 エリザと会話をしていると自分の母親と話をしているみたいだった。


「あの、僕のやり方、どうですか?」


「どうって……ダメね」


 率直な意見に心が折れそうになる。恐る恐るだがエリザに尋ねてみた。


「ダメっていうのは、どこが、ですか?」


「そうね、全体的に」


 忠陽は肩を落とす。


 伏見のクタクタと笑う声が聞こえた。ここに来るまで本当に気配を感じられなかった。


「エリザ様、思春期の少年にそう言ってしまいますと、自信がなくなります」


「速かったわね。今の子はこういうのはダメなの? 先生という職業も大変だわ」


「そうなんですよ。褒めてあげればたまにつけあがるし、貶せば自信をなくし、保護者から怒られる。難儀な職業ですよ」


「あの……」


 忠陽は二人を見る。


「あ、無視してごめんなさいね。あなたのやり方を見ても、私も感覚でしか話せないものだから言っても参考になるのかどうか……」


「お願いします、エリザ様。我々以上に呪力の扱い方を知っている御方は居ませんから」


「そうなの? こういうのは先生であるあなたの方が上手だと思うけど。そうね、基本的なことなのだけど、あなた魔力をどう考えているの?」


「どうって……」


 忠陽は何を答えればいいか分からなかった。伏見を見ても、いつもの笑顔だった。


「呪術を発生させるための力です」


「それは違うわ。魔力はあなたの中にもあるものよ」


「僕の中にもあるもの?」


「そうよ。見なさい、これが魔力よ」


 そうすると手のひらに伏見と違いまばゆい光が現れた。


「この魔力はあなたの中にもある。生まれながらにして誰でも持っていて、あなたの体の一部よ」


「呪力が体の一部……」


 忠陽はそう感じられない。呪力はどこか遠く、自分のものではないようなものであった。それは呪術が嫌いだからかもしれない。祖父に出来損ないというレッテルを貼られ、(さげす)まれ、自分を否定されていた。だから、呪力なんてものを感じることはなかった。


 その助言を受け、忠陽は試行錯誤を重ねるも、呪力を手のひらに集めることはできなかった。


 次の日の昼休みに、忠陽は鞘夏に呪力をどう考えているかを聞いていた。


「私などがお答えできるようなことではありません」


 使用人としての答えだった。


 忠陽は放課後に伏見が指定した場所に訪れる。そこはビルの一室で薄暗いカビが生えてそうな埃っぼい場所だった。


 そこに居ないかのように二人は溶け込んでいた。エリザは寝ていたが、神無は起きていた。その双眸(そうぼう)に忠陽は引き込まれる。


「こんにちは」


 とりあえず、挨拶をしたが神無は黙ったままだった。


 返事はしないが、何か観察されているようで、忠陽は緊張した。


「あの、神無さんは、呪術は好きですか?」


 沈黙の空気が流れた。忠陽はそうだよなと思い、神無に背を向けた。


「呪術を好きという感情は必要なのか?」


 背中から聞こえてくる声に忠陽はすぐ振り返った。


 神無の瞳は忠陽を捉えている。黒く、飲み込まれそうな闇が反応してくれたことが唯々嬉しかった。


「ぼ、僕は。……呪術が、嫌いでした」


「今は好きなのか?」


「分からない、です。才能がないと言われ、自分を否定されるものだったのが、今や、この力のお陰で友達も、先生にも巡り会えた。あ、あなたにも……」


「よく分からん。俺にとっては道具でしかない」


「まさに呪術ですね」


 忠陽は笑っていた。視線を下に落として再び尋ねた。


「神無さんにとって呪術の秘奥とは、なんですか?」


 神無は再び沈黙していた。だが、今度は何か考えているように見えた。


「そんなものは存在しない」


 忠陽は驚愕した。体に雷鳴が走り、呼吸を止める。言葉が出ず、口だけが数度開閉していた。


「呪術は所詮道具に過ぎない」


「で、でも! 呪術師にとって呪術の秘奥を目指すのが在り方だと、その秘奥は無だと教わりました。神無さんはその無だと思います、思っています。だから、その、あなたにとって…、呪術の秘奥は、……何かな、と思って……」


「坊やにそんなことを聞いても無駄よ」


 背伸びをして起き上がるエリザに忠陽は視線を向けた。


「坊やは術士であっても、あなたたちように理想は目指したりはしない」


「どうしてですか? 呪術師にとってはなによりも優先されるべきものではないんですか?」


「それよ。坊やは探求者ではないわ。あなたが言う秘奥なんてものに興味はない。でも、あなたの好きか嫌いかには興味があったみたいだけど」


 忠陽は俯き、拳に力が入った。


「だったら……。呪術は、何のために、あるんですか……」


 震えた声で絞り出すように忠陽はエリザに問いかけた。


「生きるためよ」


 冷静な返答は凍てつく刃に似ていた。その刃は忠陽の胸に突き刺さり、心臓を止ようとしていた。


「僕の生徒をいじめんといてください」


 伏見はいつものクタクタとした笑顔で現れていた。


 エリザはその笑顔に、失礼しちゃうわと言い放っていた。


 伏見は忠陽に近づくと、忠陽は俯いた。そんな忠陽の肩を伏見は肩を叩いた。


「勉強になったやろ?」


 忠陽はようやく理解した。神無たちがいる世界と自分の世界は対面していても、隔てられた空間なのだ。


 呪力を手に留める練習は難航していた。忠陽が呪力を集めようとすると、拡散する。そして、何度もやっているうちに忠陽は呪力切れでへばっていた。


「この子にはまだ難しいんじゃないの?」


 エリザが伏見に助言するも、伏見はいつものヘラヘラした顔だった。


 忠陽はその言葉に反射的に立ち上がる。


「まだ……やれ……ます!」


 伏見は満足そうにやりぃやと答えた。エリザはその光景を見て、男の子なのねと言っていた。


 夕暮れ時には忠陽の呪力は底を尽きていた。未舗装のコンクリートは冷たく、そして天井を見上げると、無機質だった。


「今日はここまでやな。もう諦めるか?」


「底意地が悪い」


 エリザは伏見を睨んだ。


「何言うとんですか。これは愛のムチですよ」


「あなた、この子にはできないと思ってやらせてるんでしょ?」


「僕は生徒の無限大の可能性を信じとりますて」


 忠陽も薄々は気づいていた。だが、これは伏見が課した条件だ。それをクリアしないと彼らの足を引っ張ることになるのも分かっている。


「先生、僕は諦めません」


 忠陽は疲れ切った体に鞭を打ち、立ち上がった。


 一度自分で決めたことだ。そう簡単に諦めるわけにはいかない。伏見の言葉は一種の踏み絵でもあった。自分とは違う世界の存在であっても求め追い続けるのか。そう言われているような気がした。


 伏見は本当に底意地の悪い笑みを浮かべていた。その顔は忠陽が苦しむ姿を楽しんでいるようだ。


「ずっと、考えていた」


 神無が口を開いた。


「お前の問への答えは、俺は呪術が嫌いだ」


 三人の時間が停止した。


「この力は、人を不幸にする」


「坊や……」


 神無は立ち上がり、扉の前と立つ。


「でも、エリーが言うように、大事なのは、心の在り様かもしれない」


 神無は外へと出ていった。


「なんや、あいつ。急におセンチになりよって」


 エリザは無言で伏見を杖で殴った。


「何すんですか?」


「なんとなくよ」


 忠陽は無意識にエリザに尋ねていた。


「エリザ様、心の在り様とはどういう意味で仰ったのですか?」


「そう難しいことではないわ。あなたが力を使うにしても、その意思が邪なものであれば、聖なる力も邪なものなるということよ」


「僕の気持ち次第で効力が変わってしまうってことですか?」


「今はそう思ってもいいわ」


「はい……」

ナルトを見てて思ったのが、修行の回って、その世界観にも触れることになるんですよね。

それに修行だから相手に説明するから書く側としても説明ぽくていんですけど、ここで一つの設定虫が頭から出てくるんです。その設定っていいのか? そんな設定で後々大丈夫か? そのお陰で何度筆をおいてはということをしていました。

ある日、思ったんです。この世の中の摂理を人間が解けないように、あやふあやでもいいんじゃね?別に少しぐらい適当でもいいんじゃね?って。現にある程度の理屈しか書かないようしてます。そもそも呪術、魔術、神聖術は奇跡だけど万能ではない言葉の理由はここにあるんです。

子供の頃、魔法を使うアニメや漫画を見て、カッケーと思った。それは奇跡みたいなものであり、自分にできないものだからこそ楽しかった。その気持は忘れていけないのかと思い、極力書かないようにしようと思っています。それでも出るんですよ、私の中の設定虫。

いつも頭には虫除けスプレーをかけているのですが、この設定虫がいるおかげで、この作品をなんとなくで書けているんですよね。


Between the Notes

松田彬人

「僕らはみんな仲良しです?」を聞きながら

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