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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十一話 上兵は謀を伐つ 其の次は交を伐つ その一

 九


 学戦で翼志館は東郷に敗北した。


 忠陽は結局、二つの防衛拠点を奇襲し、防衛部隊を混乱させることに成功した。その状況を戸次に報告し、周藤部隊へ向かったが、辿り着くことなく、学戦は終了した。


 自分が選んだ未来がなんだったのか、忠陽の中で靄がずっとかかったままだった。


 翼志館は学戦の結果を受け、属校から一校、東郷に割譲することになった。翼志館が選んだのは海風高校であった。それは誰もが規定通りと思っていた。


 一週間後、由美子は忠陽と鞘夏を連れて、海風高校へと訪れた。翼志館の重要書類の回収と翼志館からの属校脱退手続きはスムーズに行われた。


 手続きが終わった後、由美子は生徒会長代理に深々と頭を下げた。


「申し訳ありません。私の力が足りないばかりに」


 生徒会長代理は慌てふためく。


「止めてください。貴方に感謝しても、恨むことなんてできません」


 生徒会長代理は急に肩を落す。


「本当はこのまま、翼志館……ううん、神宮さんの元には居たかったというのが本音です。ですが、私達の学校は弱くてどうしても譲渡するカードとして使われるのは当然です……」


 生徒会長代理は顔を上げ、由美子の顔を見て、慌てて明るい笑顔をした。


「でもでも、神宮さんのおかげで私達は私達らしさというのを見つけられました。本当に感謝しています」


 由美子は苦笑いしていた。


「また、翼志館が勝てば、私達は翼志館に属することになるかもしれません。その時はどうか宜しくお願いします」


「そうは成らないと思います」


 はっきり言う由美子に忠陽たちも驚いた。


「どどど、どうしてですか?」


 生徒会長代理は由美子に聞く。


「私が魯さんにこの学校がいかに有用な学校であるかを伝えています。内政面では皆さん一人一人がその結果を見せています。おかけで薬物事件が嘘だったように地域でも良い評判を得ています。武力においては宮袋くんの存在です。今回、彼には自分の学校を守るために一仕事してもらいました。単独で防衛拠点の撃破、本拠地への攻撃……。これからの東郷としてはあなた達を手放す理由はありますか?」


 忠陽は由美子の言葉を聞いて、自分を恥じていた。


 神宮さんは結果がどうであれ、この海風高校にとって良い選択を取れることをしていた。それに比べて自分は……。


「次は戦うときは敵になるかもしれませんが、それでもここにいる私たちと友好を結んでくれると嬉しいです」


 由美子の笑みを見た生徒会長代理は、その可愛らしさに胸を高鳴らせたのだった。


 帰り道、由美子の誘いで【ゐゑ】に寄り、店の定番であるコーヒーとチーズケーキを堪能した。


「ねえ、賀茂くん。竹中会長はどうしても私を生徒会長にしようとするかしら」


「たぶん……」


 由美子は天井に視線を向けて、何かを考えていた。


「どうかしたの?」


「やられぱっなしは癪よね――」


 わざとらしい言い方だが、忠陽はその言葉で大体の意図を理解した。


「分かったよ、神宮さん。僕は何をすればいい?」


 由美子は意地悪な笑みを浮かべ、答える。


「私、まだ何も言ってないんだけど」


「そう? なら、僕は何もしなくていいんだね?」


 由美子は眉間にシワを寄せ、隣にいる鞘夏を見る。


 鞘夏はコーヒーを一口飲み終えると、はっきりと言った。


「今のは、ゆみさんが悪いです」


 由美子は鞘夏にも(たしな)められ、頬をふくらませる。


 その顔を見た忠陽と鞘夏は思わず、笑ってしまった。その笑いを止めるように由美子は大声を上げる。


「とにかく! あの会長に乗せられて生徒会長になるのは嫌よ。どうせなら、誰もが認めてくれないと」


「ゆみさん、それは無茶です」


「なんでよ、鞘夏!?」


「二年生は絹張先輩に票を入れます。全員は無理です」


「なら、一年と三年くらいは――」


「会長なら三年生全員の票を神宮さんに入れるんじゃないかな?」


 忠陽の指摘に由美子は眉間に皺を寄せる。


「もう! そんなことぐらい分かってるわよ。なら、どうしたら勝ちと言えるかしら?」


 由美子は忠陽と鞘夏に聞いた。それには忠陽も鞘夏も難しい顔のまま、互いの顔を見合った。


「また、どうしたの? 困りごとかい?」


 立尾が忠陽達にコーヒーサーバーを見せた。


 立尾が三人にコーヒーを注いでいる間、忠陽は翼志館の現生徒会長が次期生徒会長に由美子させるよう暗躍しているという話を立尾にした。


「そうなんだ〜。でも、由美子ちゃんは生徒会長になってもいいんでしょう? だったら、勝つ必要なんてないじゃない」


「そうなんですけど……。その人からはい、どうぞって渡されても、私は嬉しくないです! どうせなら、あの人が悔しそうな顔を見て、受け取りたいです!」


「悔しい顔か……。要するに由美子ちゃんは相手をぎゃふんと言わせたいんだね?」


「そうです!」


 由美子は満面の笑みを浮かべる。


「賀茂くんの話を聞いている限りだと、今はその会長くんのシナリオ通りなんだよね? それこそ全票取るか、会長さんのシナリオを壊すぐらいじゃないと、由美子ちゃんの要望を叶えるのは難しいね」


 立尾はニコニコと笑いながら言った。


「シナリオを壊すか……」


 忠陽はそう呟く。ただ、今のシナリオはこれまで起こった偶然を竹中が方向性を与えただけだ。それと同じく方向性を与えてあげれば会長のシナリオは崩れるのだろうかと忠陽は考えた。


「でもさ、賀茂くん、その会長さんはなんでそこまでしようとしたのかな?」


 立尾の問に忠陽は即答する。


「学校のためだと思います。神宮さんが生徒会長になれば、今の会長よりも影響力がありますから」


「さすがだね、由美子ちゃん。だけど、賀茂くん、俺は君たちぐらいの歳の子が国家のためだとか、会社や学校のためだと言ってる人を見ると、無理をしてるじゃないかと思うんだ」


「無理?」


 忠陽が立尾に聞き返す。


「そう。それか嘘を付いているか」


「嘘……」


 由美子が呟く。


「だって、君たちの歳くらいなら、世間体の事を考えず、遊んでいい歳だ。中には、そうできない人もいるかもしれないけど、俺はそんな子を見たら、かなり甘やかしちゃうかも」


 立尾の意図に気づき、忠陽は苦笑いする。


「俺はなんとなく、その会長さんが学校のためじゃなくて、他の何かのために由美子ちゃんを生徒会長にしようとしてると思うよ。もちろん、由美子ちゃんなら自分の後を任せられる前提だけど」


「何かのために……」


 忠陽は呟く。


「由美子ちゃんはとっても優しい人だからね、俺は由美子ちゃんなら楽しい学校にしてくれると思ってるよ」


 由美子は立尾の言葉に頬を赤らめて、俯く。


 その様子を見た忠陽と鞘夏は互いに顔を見合わせ、笑いあった。


 立尾はコーヒーを注ぎ終わると、奥の方へと戻っていった。


「神宮さん、僕はてっきり学校のために神宮を生徒会長にしたいんだと思ってた。でも、立尾さんがいうように他の意図があるのかな?」


「それは……」


 由美子は言いかけて、鞘夏を見る。鞘夏は由美子の視線に俯いた。忠陽は二人のやり取りを見て、首を傾げる。


「どうしたの? 二人とも……」


「何でもないわ!」


 誤魔化すように由美子は大声を上げる。


「は、陽様……。もしかすると、竹中会長も大切な人を守るために、ゆみさんを生徒会長にするのではないでしょうか……?」


「大切な人? 会長に?」


 忠陽の疑問に鞘夏は頷く。


「私は竹中会長がそこまで冷徹で、理性的な人間だとは思えません。決勝戦、結界術を使ったときは明らかに感情的な行為でした。竹中会長が学戦リーグで優勝を目指したのは自分のためではなく、残される絹張先輩のためではないのでしょうか?」


「絹張先輩のために!?」


 忠陽は鞘夏と由美子を何度も見返した。二人の表情が変わらないことに忠陽は愕然とし、不意に溜息が出た。


 竹中があまりにもひねくれていると忠陽は思った。その事を真っ直ぐに相談すればこんな事にもならなかっただろうに。


「神宮さんは、どうしたいの?」


「私? ……」


 由美子は鞘夏を見る。鞘夏は何も言わず、由美子を見つめ返していた。それを見て、由美子は深呼吸をする。


「私は二回もあの男に負けてるの。今度は負けたくない!」


「正直、もう会長が作った舞台装置は動いている。今更、配役を変えるなんて難しいよ。あの人は学戦リーグのときからこのシナリオにすることを決めていたんだ」


「そうね。賀茂くんの言うとおりだわ。戸次さん、あれほどの力を持っている人が学戦リーグに出ないのが不思議だったけど、もしかすると、会長との話がついていたのかもね。でも、本当に何もできないのかしら?」


 由美子は不敵な笑みを浮かべる。


「どういうこと?」


「私はね、会長や賀茂くんが思っているほど良い子じゃないわ。使えるものは使うし、汚い手だって使う。どんなときでも勝たなければ意味がない」


 忠陽はその言葉が破れかぶれ出ているのではないかと不安に思う。


「だから私は、賀茂くんが私に必要だと言った人を使ってみるわ」


 忠陽の脳裏には法西の顔が浮かんだ。


「毒をもって毒を制す」


「それは……」


 忠陽は危険だと言おうとしたが、それでは前のようにやり込められるだけだと思い、口を閉ざした。


「ゆみさんなら、きっと成し遂げられます。私はそう信じています」


 鞘夏の一言に忠陽は驚いた。今までならそんなことをけして言わない。忠陽はそのことで観念し、口を開く。


「そうだね、神宮さんならやれるね。でも、僕たちだって一緒に戦うよ」


「当たり前じゃない。賀茂くんはこき使ってあげる」


 いつもより幼く見える由美子の満面な笑みを見て、忠陽も鞘夏も笑った。


「できれば、お手柔らかに頼みたいね」


 立尾は三人が笑う姿を見て、妻には内緒で何かサービスをしてあげたいと思っていると、その隣で立尾の妻は笑みを浮かべて、チーズケーキを切り分けていた。

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