第十一話 故に曰く、勝は知るべくして、為すべからず その四
大地は燃え盛る防衛拠点を見て、ため息を吐く。一人で突っ込んだはいいが、ここまで簡単に防御拠点の一つを破壊できるとは興ざめもいいところだと思った。
さっきまで生きのいい事をほざいていた防衛部隊の隊長も大地の力を見て、仰天し、地べたに座っていた。他の隊員はチラホラと呪防壁が展開しており、その視線は大地に向いている。
「こんなものか……」
大地は吐き捨てるようにその場を去ろうとした。
「ま、ま、待て!」
防衛隊長は震えながら、立ち上がり、大地の背中に警棒の切っ先を向けていた。
「俺は弱いやつを痛ぶる趣味はねえ」
「舐めるなー!!」
防衛隊長は殴りかかる前に炎で遮られ、防衛隊長は驚き、尻もちをつく。
「姫さんとの約束は守ったし、さて、本拠地でも向かうかな~」
大地は楽しそうな笑みを浮かべ、右肩をぐるぐると回しながら、東郷の本拠地に向かっていった。
その報せを聞いた魯は朝子に迫る。
「君はどうする? 宮袋くんと戦いたいかい? それとも神宮かな?」
「なによ、その二択。よく分からないんだけど……」
「いや、かつての仲間と戦うとなると、やはり気持ちの整理が必要だ。それは君が選ぶといい、氷見さん」
「そもそも選択肢なんてないでしょ。あんたの頭の中じゃあ、私たちがお姫様でしょう?」
「そうだね。意地悪をしてごめん」
魯は苦笑いしていた。
その会話が終わると、魯は刃のない短刀を抜く。
「少しばかり速かったようだ。でも、問題はない。氷見さん、準備はいいかな?」
由美子が率いる部隊が灰色のビルの間から現れた。
「準備なんて、散々させられたじゃない。後はやるだけよ」
「そうだね。今回の狙いは時間稼ぎだ。でも、神宮をやれるならやってくれると有り難いね」
「分かってる」
「さて、神宮由美子。間近で君の戦いを見せてもらうよ」
*
忠陽は戸次が雲然隊を押し返すのを見て、すぐにその場から離れた。予定通り、各拠点への奇襲をするために、再び隠形をし、移動を開始した。そこへ竹中から通信が入る。
「賀茂くん、移動しながら話をしよう。由美子くんが魯くんと戦闘を開始した。君は由美子くんが攻めている防御拠点には奇襲をかけなくていい。他の防御拠点に奇襲を掛け、その反応を戸次くんに報告してくれ」
「……分かりました」
「それと宮袋くんが拠点を一人で落としたらしい。流石だね、これで海風高校に箔が付いたことになる」
「会長、その言い方、いい気分にはならないです」
「それは悪かった。以後、気をつけるようにしよう。戸次くんに報告したら、次は周藤くんのところに向かってくれ」
「そんなの無茶ですよ!」
「無茶でもやってみるんだ。君の言う通り、こちらに戻って来るのに、かなり時間がかかる。その間、防御拠点が持たないかもしれない。ただ、君が間に合えば、それだけ勝算は高くなる。周藤くんの頭の中じゃ、君は戻ってこないと思っているからね。だが、それを君が成し遂げれば、周藤くんの呪防壁を一度ぐらい展開する事できる」
忠陽は不満を持ちながらも、返事をした。
「東郷のどこかの部隊は高橋兄弟と接敵する。その部隊が周藤くんであることを祈るが、それは難しいだろうね。彼だって弱いところから狙う。周藤くんがまず攻めるのは不破くんだろう。予備兵力をこういう使い方はしたくなかったが、祝園くんの部隊は防衛に回ってもらうよう指示している」
忠陽はその言葉を聞いて意外に勝つための算段をしているのだと驚いた。
「賀茂くん、その間は意外だということかな? 僕だって、それなりにはやるつもりさ。後が面倒になるからね」
「だったら、勝てばいいんじゃないですか?」
「勝てる見込みは少ない。馬山くんのお陰で攻撃部隊の数が少ない。護の作戦は由美子くんの火力で相手の人員を由美子くんに引き付けさせるというのが狙いだ。だけど、魯くんはそうしないだろう。由美子くんに対してぶつけるのは魯くんが用意した東郷の精鋭二部隊だ。そうすれば、他の拠点の人員をそのままにでで、由美子くんをその場に釘付けにできる。戸次くんを援護に回すのもいいが、それでは一か八かの丁半博打だ。それよりも戸次くんに他の二拠点を落とさせた後に挟撃を加えた方が良さそうだ。幸い君のお陰で攻撃部隊は1軍半ぐらいの戦力は残った。これを一部隊として再編し、戸次くんに指揮させ他の二拠点を攻め落とさせる。だが、由美子くんと一緒に魯くんを挟撃するには時間がかかるだろうね。本拠地は言わずもがな黄倉くんが待っているだろう。さすがの宮袋くんでも黄倉くん相手であれば攻め落とすのは難しいし、戸次くんを回しても、攻めあぐねるだろうね」
「冷静なんですね……」
「君には教えたはずだよ」
「感情的になるな」
「そのとおり。本来君に引き分けという選択肢を残すはずだったんが、アクシデントはつきものだ」
「それも会長の仕業、じゃないんですか?」
「馬山くんまで操れたら、それは神の領域じゃないか? 彼は、君みたいに素直じゃない。直情的で粗野で、短慮だ。ああいう手合はこちらの思い通りに動いてくれることが少ない。勝手にさせて置くほうがいい。その方が被害少ないからね」
「だったら、なんで体育委員長にしたんですか?」
「僕に任命権があったらすると思うかい?」
忠陽は今までの会話からそれはないと分かった。
「それぐらい高圧的な人間だ。だが、これで彼の言うことは誰も聞かなくなる。時期的には遅かったが……」
忠陽の式紙は相手の防御拠点を見つけた。忠陽は一旦足を止め、視覚共有をその式紙に絞り辺りを見渡す。竹中が言った通り、防衛部隊は一部隊おり、数が減っている様子はない。
「会長、防衛拠点を見つけました。会長の予想通りです」
「そうか。賀茂くん、攻撃は一回だけだ。それでいい。その後は――」
「次の防御拠点へ移動する」
「ああ。それと……この言い方は良くないが、ここから君の選択権を委ねるよ。今ここで引き返せすか、防御拠点に奇襲をかけるか。一つは目先の勝利、もう一つは未来での勝利を得られる。君はどちらを選ぶ?」
確かに言い方が良くない。ただ、それを感情的になって答えるのは良くない。今必要なのは、自分にとっても由美子にとっても何がいいかだ。
確かに今戻れば、自軍の防御拠点を守りきれるかもしれない。だが、今回勝ち負けに関係なく、竹中は由美子を生徒会長に据えるだろう。由美子には生徒会長なる覚悟がある。だが、生徒会長になったとして、本当に今まで通りの生活ができるのだろうか。
もう一つ竹中から与えられた未来。防御拠点を奇襲して、なんの意味がある? それが本当に未来で勝利を得られるものなのか、疑問の余地がある。
どっちを選んでも、忠陽の中で良い未来は見えない。
「賀茂くん、健闘を祈るよ」
忠陽はその言葉を聞き、奥歯に力を入れる。
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