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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十一話 故に曰く、勝は知るべくして、為すべからず その三

 忠陽はビルの屋上で冷たい潮風を受けつつ、戦場を見渡す。廃屋のビルは無機質であり、かつ曇り空が冷たい風を助長させる。これも竹中が引き起こしたものだろうかと疑ってしまっている自分がいた。それは考え過ぎだ、鞘夏や由美子、大地たちとの楽しい時間がほしい自らの望みを邪魔したからとて、個人的な感情を挟んではいけないと自嘲する。


 空に式符をバラ撒く。ばら撒いた式符はカラスへと変化し、曇り空に舞い始める。そして、自らの存在をこの廃屋に溶け込ませ、移動を開始する。


 忠陽の式紙は現着し、その式紙の目を通して、状況を確認すると、三部隊のうち、一部隊目はほぼ壊滅状態であった。生徒の保護のために展開しつづける呪防壁が数えるのが面倒なくらい確認できる。


 東郷は二部隊目を包囲しようとしているが、翼志館の体育委員長が前線に立ち、大声を上げながら応戦しているのが分かった。


「会長、ちょっといいですか?」


「賀茂くん、少し待ってくれ……」


 竹中の声の様子から、慌ただしいように感じた。


 忠陽は東郷の包囲部隊右側面の後背近くまで移動すると、一旦足を止めた。


「済まない。祝園くんを説得するには骨が折れるよ。それで、なにかな? 賀茂くん」


「はい。あの体育委員長が前線に立って指示をしています。僕が奇襲をかけて、攻勢に転じられても意味がないなので、会長の方で撤退指示を出してもらえませんか?」


「絹張くんの方で撤退指示を出しているよ。戸次の方はあと少し時間がほしい」


 忠陽の顔は歪む。


「その間は、馬山くんが撤退しないと思ってるみたいだね」


「はい」


 竹中は忠陽の即答に笑う。


「分かったよ。第二部隊全員には、僕から戸次くんと合流するように指示する。勿論、馬山くんには一人で殿を頼もう。君は気にせず始めてくれ。でなければ、第二部隊は第一部隊と同じく全滅だ」


 忠陽はその指示を拒否する時間はないと思い、すぐに了承の返事をし、動き出した。


 竹中は嘆息し、体育委員長に通信を取る。


「聞こえるかい? 馬山くん」


 少しあって、体育委員長は大きな声で答えていた。


「なんだ、竹中!? 今、交戦中だ!!」


「第二部隊はすぐに撤退させるんだ」


「馬鹿なことを言うな! それでは第二部隊を大きく削られる! ならば、攻勢に出るべきだ!」


「その権限は君にはない。君に許されているのは一人で殿をすることだけだ」


「ナッ!!」


 体育委員長が動揺している間に、竹中は通信役に指示を出し、敵味方関係なく聞こえるように指示を出した。通信役は戸惑いながらも、全回線開いた。


「竹中だ。攻撃部隊の第二、第三部隊は後退し、戸次くんと合流せよ。殿は馬山くんが一人でやってくれる。それ以降は戸次くんとともに雷神作戦を行え。なあに心配はいらない。今は劣勢だが、戸次くんの指示に従えばそれを覆せる。各員は落ち着いた対応をされたし。以上だ」


 その報せは東郷の雲然(くもしかり)隊の攻撃を鈍らせるには十分だった。竹中の策略が動いていると思わせ、辺りに警戒を取るような行動を取り始めた。これは周藤であろうと同じ行動を取ってしまう。竹中の言葉が偽報であるかは周藤であっても、周囲の動きを見なければ分からないときが殆どだ。戦場ではその確証を取る猶予は極端にすくない。故に雲然(くもしかり)隊は眼の前の敵から意識削がれてしまう。


 そこへ雲然(くもしかり)隊の右側面後背の隊員に石礫が放たれ、複数の隊員の呪防壁が発動する。隊員は改めて、注視して見てみるも、そこには誰もいない。だか、頭上から石礫が降り注ぐ。


「敵しゅ〜う!! 後ろから敵襲!!」


 隊員が慌てて叫ぶと、右側面から部隊の半分が後背に備えて、構えた。


 だが、誰もそこにはいない。隊員は部隊長である雲然に連絡する。


「右側面部隊より報告! 後背より敵襲あり! しかし、敵、確認できず!」


 それを聞いた雲然(くもしかり)は、周藤や魯から敵が見えないのに攻撃をされたら忠陽と考えよと言われたとおりに、忠陽が居ると考えた。そして、すぐさまにそれを東郷の全部隊に連絡する。


「我、賀茂と接敵す。繰り返す。我、賀茂と接敵す!」


 周藤はそれを聞いて、ニヤリと笑みを浮かべる。


「攻撃部隊全部隊に通達! 今が時! 他に目をくれず、防御拠点に進め!」


 東郷の攻撃隊は防衛拠点に急ぐように行軍を開始した。


雲然(くもしかり)隊はそのまま敵攻撃部隊を引きつけよ。ただし、賀茂には攻撃には引き続き注意せよ。敵はさらに奇襲を掛けてくるはずだ。部隊が混乱しないようにしっかり手綱を引け!」


 雲然(くもしかり)が周藤の注言を隊員に伝達する前に、忠陽は正面後背にけしかけていた。それは一部の隊員の不安を煽っていた。


「うわぁ! 俺達も背後を取られた。このままじゃ挟み撃ちにされてしまう!!」


 情けない声は周りの隊員に伝播し、不安を掻き立てる。次第にそれは伝染病のように、簡単に隊員たちに感染し、不安が恐れへと変わったときには、部隊全体が恐慌状態に陥る。隊員は部隊長の雲然(くもしかり)の指示を聞かずに自分勝手に動き始めた。


「落ち着けー! 落ち着くのだー! 敵の狙いは我が隊を混乱させることにある。敵はたった一人だ!」


 その声は隊員の耳に入ることない。忠陽が掻き立てた不安は姿が見ない何かから攻撃されるという(もや)が掛かったものだ。それは幽霊に襲われているように気味が悪く、恐ろしい。隊員の殆どは見えている敵よりも何倍も恐怖を感じていた。


「左側面より、敵確認! 数、おおよそ二小隊!」


 雲然はその報を聞いたとき、やけに具体的であることが気になった。


「賀茂か!?」


「違います! 雷神の戸次です!」


「戸次だと!?」


 そのとき、雲然(くもしかり)は忠陽の行動の意味を理解した。忠陽の奇襲は戸次が来るまでの時間稼ぎだったということを。それに気づいたとてもう遅い。戸次は一人で一軍に匹敵するぐらいの力を持っている。そして、もうこの距離では雷神からは逃げられない。


 雷が空気を絶縁破壊する音が聞こえる。こちらに一歩また一歩と近づいてくる姿は、大きな体もさることながら、その身に纏いし、雷光がもともと無骨な顔を鬼へと変化させていた。


 雲然は息を呑む。そして、周りを見ると、恐慌状態がすっかりなくなり、目の前の鬼を見て、体を震わせながら留まっていた。


 戸次は軍配を振りがざす。


「かかれーーッ!!」


「おー!!」


 戸次の怒号とともに第三部隊の二小隊が声を張り上げ、突進する。さっきまでやる気もなく、防戦一方だった部隊とは思えないほど士気が高く、勇猛な戦士たちへ変わっていた。


 その様子を忠陽は外側からみていると、あの戸次という無骨な人物はどんな魔法使ったのかと想像してしまった。


 気勢を放ち、突進する翼志館第三部隊の二小隊は東郷の曇然隊を蹴散らしていく。


 戸次も前線の部隊に負けじと前で戦う。その戦いぶりは鬼神だった。彼が軍配を震えば雷鳴がなり、二、三人が一気に呪防壁が展開する。その攻撃の合間を狙って攻撃する者には、体から雷撃を放ち、倒していた。


 雲然は状況が不利と悟り、その場から後退を指示する。言葉上では後退を選んでいたが、それは撤退であり、戸次たちの追い打ちからなんとか抜け出せた。


 雲然が部隊の再編するときにはもう数えられるくらいしか人が居なかった。雲然は残った人間と互いに埃にまみれた顔を見ながら笑いあったという。

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