第十一話 故に曰く、勝は知るべくして、為すべからず その二
学戦の開始を告げるブザーが鳴り響く。
その音と同時に由美子は自分の軍を前進させる。部隊の中で二人、斥候として切り離し、先に前線へと送り出す。それと同時に大地は予定通りに単独で動き始める。
これは翼志館としては予定通りの動きであり、作戦と違う行動を起こしていたのは翼志館の他の攻撃部隊三軍だった。
他三軍の動きは、当日予定していた指揮官の高坂が体調不良になり、代わりにあの体育委員長が勝手に指揮を取り始めたのが原因だった。体育委員長は急に予定を変更し、まず三軍を集結し、それから東郷の防衛拠点に行軍を開始しようとしていた。
当初の予定であれば、由美子の部隊による索敵情報をもとに、相手の攻撃部隊との鉢合わせ、無用な戦闘を避け、由美子の後を追う予定だった。これは敵攻撃部隊が由美子率いる攻撃部隊との無用な接触を避けるとの竹中の読みである。それから由美子の部隊に防御拠点を攻めさせ、他の敵拠点から由美子を止めるために人員を割かさせた後に、手薄になった敵拠点を各部隊で一斉に攻め、叩くという安藤の作戦案だった。
後日、周藤は盤面で翼志館の他三軍の動きを確認して、見るに耐えないと吐き捨て、常識はずれの行軍が東郷の雲然が率いる攻撃部隊一軍との遭遇戦に繋がったと振り返っていた。
他の三軍は集結し、体育委員長の号令のもと、前進していた。
「進めや進め! 諸共に!」
上機嫌な体育委員長に伝令がやってきた。
「神宮部隊より伝令! 貴軍進行方向に敵確認。迂回されたし。以上!」
体育委員長は顔歪め、急に不機嫌になる。
「あの小娘め! まだ俺に指図するのか! 伝えよ! 我が部隊の前方には勝利の道しか見えずとな!」
伝令はそれを聞いて難色を示し、その場に立っていた。
「何をしてる。お前の役目を果たせ」
伝令は不服な顔をしながらその場を去った。
「近頃のやつは、先輩の言うことを聞けんのか」
体育委員長は周りにいる二年生や一年生をイビっていた。体育委員長が見ているところでは苦笑いするが、殆ど人間は見えないところで舌打ちをし、同じ三年生でもウンザリしているものが多かった。
「伝令!」
さっきの伝令役とは違う人間がやってきた。
「さらに神宮隊より進言あり! 重ねて進言す。貴軍進行方向に敵確認。周囲は遮蔽物があり、三軍合同による攻撃は不利!」
「あの生意気な小娘め! 俺を差し置いて一軍の将を任せられたのは、家の名前のおかげだ! この間から散々馬鹿にしおってからに! 貴様にできることが俺に出来ないとでも思っているのか!!!」
体育委員長は真っ赤な顔しながら、怒鳴り声をあげた。
「報告!」
三軍の前方にいた一年生が息を切らして、体育委員長のもとへ走ってきていた。
「今度はなんだ!」
「前方に敵を発見! 数は一部隊と思われます!」
体育委員長は目を見開いた。
「なぜ、前方に敵がいる!」
「わ、わかりません……」
「あいつらは馬鹿なのか!? 数を考えろ。我が軍のほうが圧倒的ではないかッ!!」
「……」
「ええい! サッサッと対応せよ! ここで一軍を破れば味方の防衛部隊への援護ができるというもの! 貴様たち気勢を上げ、一気に押しつぶせ!」
「そ、そ、それが……」
「何だ、はっきり言え!」
「我が軍はビル群に囲まれています。さらに、縦に伸び切っており、実際に攻撃をできる部隊は数えられるほど……」
「なに!!?」
体育委員長はその状態に驚愕した。そこへ、息を切らした前列から違う報告用員がやってきた。
「報告!」
「なんだ!?」
「前列部隊が横撃を受けています!」
「なに横からだと!?」
「はい! 我が部隊の側面です! ビルとビルの間に敵部隊を配置され、敵から包囲される形となり、前列は混乱状態です!」
「そ、そんな、馬鹿な!」
体育委員長は後ずさる。
「体育委員長!」
報告用員は指示を催促するように体育委員長を見ていた。その目を体育委員長はまともには見られずにいた。
「た、た、退却だ……」
「お前、何言ってんだ! こんなに伸び切った部隊をどうやって退却させる!? それこそ総崩れをするぞ!」
三年生が体育委員長を叱責する。
「ええい! 負けているのは前列だけだ! 中間と後方部隊が残っていればいいのだ!」
それには誰も否定できず、後方の部隊から転進を開始した。
この状態はすぐに竹中の耳入り、竹中はすぐに絹張に対応を迫った。
「そんな……攻撃部隊を三軍は、高坂くんじゃないんですか?」
「どうやら、馬山くんが仕業らしいね。高坂くんは腹痛を催して、医務室で休んでいるみたいだ。指揮を取っていない。馬山くんは殊の外、由美子くんに敵愾心を向けていた。どうしても手柄を上げて、優位に立ちたかったのだろう」
絹張は悔しそうな顔をして、考える。
今から対応するにしても、任せられる人間は数えるぐらいしかいない。そのまま放っておけば、三部隊は確実に崩壊する。かといって、それを神宮由美子に任せるというのは……。
「ここは、戸次くんに任せるとしよう」
絹張は竹中の答えに唇を噛む。
「戸次くんの代わりは高橋くんに任せればいい。彼は守勢が得意だからね」
「はい……」
絹張は悔しそうに竹中に答えた。
竹中は絹張に戸次と高橋に指示を出すように伝え、通信を切った。その後、賀茂と通信を図った。
「聞こえるかい? 賀茂くん」
「……はい」
「不測の事態が起きてしまった。君にも協力をしてほしい」
「なにが起こったんですか?」
「攻撃部隊の三軍が遭遇戦で混乱状態になりつつある。その事態収集に戸次くんを送るが、現着するまでには時間がかかる。その間に、君には敵部隊の足止めするため、奇襲してもらう」
「そんなので足止めできるんですか?」
「見えない敵から攻撃を受ければ周りに気を配らなければいけない。そう思わせるのが狙いだ。そうなれば、動きは鈍くなる。君がいつもやっていたことじゃないかな?」
忠陽は返事をするのが嫌だった。
「賀茂くん、その部隊の後背、両側面と三回攻撃をしてくれたまえ。その間に戸次くんは現着してるだろう」
「その後はどうするんですか?」
「その後は、当初予定通りに敵拠点に奇襲をかける」
「あの……」
「なんだい、賀茂くん?」
「それも敵の注意を反らすためですか?」
「いや、防衛部隊にはあまり効果的ではない」
「なら、なぜ……」
「僕は将来のために布石を打っているだけだ。どうするかは君次第だよ、賀茂くん」
忠陽はその答えに不満を持ちつつも、竹中の指示には従う事にした。
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