第十一話 無私の中に私欲を見る その一
忠陽は魯に言われるままに部屋を出た。それから校舎から出ようとしたとき、忠陽は女教師に呼び止められた。
「賀茂くんじゃない! どうしたのよ、こんなところで!?」
「藤先生……」
ショートボブのグラマラスなボディは、忠陽の様子がおかしいことに気づき、ゆっくりと近づく。
「どうしたの? 元気がないわね」
「いえ、ちょっとありまして……」
「そう。それよりも、学戦の偵察で忍び込んできたの?」
「あ、いえ……」
「まぁいいわ。ちょうど私も出るところだから、一緒に出るわよ。隠行をしないで学校をウロつかれるのも困るし」
「いや――」
「いいから、ついてきなさい!」
藤に迫られ、忠陽は両手を上げた。そのまま藤の指示に従い、隠行で駐車場まで一緒に移動する。そこには浅黒い肌に白い歯が煌めく、炎の体育教師、宗丈尚がいた。
「藤先生、速く行きましょう。遅れ……!!」
宗は何かに気づき、忠陽の方向を凝視する。そして、忠陽の姿を視認する。
「賀茂くんじゃないか! どうしてここに?」
忠陽は隠行を解き、苦笑いして、挨拶した。
「近づくまで気づかないとは、さすがだ……」
宗は感嘆しつつも、体が警戒を解こうとはしていなかった。
「宗先生、まずは車に乗りましょう」
「ああ。今の時期、周藤くんあたりに見つかると、あまりよろしくないな」
「いや、宗先生、この子、多分会ってると思います。わたし、生徒会室前で会いましたから……」
「なんと……。いやはや大胆だな……」
忠陽は褪せた笑いをする。
忠陽と藤は、宗の愛車であるスポーツ系の車に乗り込む。宗はエンジンを掛け、空ぶかしを一度だけ鳴らし、車を動かした。
「で、賀茂くん。どうして、あそこに居たの?」
藤の言葉から少し棘が見られる。
「そ、そのちょっと取引に来たんです」
「取引?」
「えっと……。僕の目的は竹中先輩の目的を知るためなんですけど……」
「知ることはできたかい?」
宗はバックミラーで忠陽を見た。
「はい……」
忠陽が言いにくそうにしていると、藤が叱咤する。
「もう、シャキッとしなさい!」
「藤先生……」
宗は藤に抑えるように声を掛ける。
「その様子だと、何かあったみたいだね」
「……竹中先輩は神宮さんを生徒会長にする気なんです」
藤はそれを聞いて、安堵する。
「なによ、いい話じゃない」
忠陽が黙っているのを見て、宗は察する。
「君は、神宮くんを生徒会長にしたくないんだね」
「はい。神宮さんにはもっと普通の生活をしてほしいんです……」
「それは神宮くんがそう言ってるのかな?」
「いえ……」
「なら、君の思いだ」
「はい」
「神宮くんに聞いてみるといい。君の思いは分かるが、本人の意思が重要だと、私は思うよ」
「そうですね。ただ、魯さんには、もし神宮さんが生徒会長になったら……」
忠陽はバックミラーに映る宗を見る。目を見ると甘い顔貌にキリッとした目が微笑み返しており、同盟の話をするか迷ってしまった。
「魯くんがどうしたんだい?」
「魯さんは、僕ら翼志館と、戦うと言っていました」
「なによ、いつものことじゃない」
藤の反応に宗は楽しそうにしていた。
「そうだな。そうすると、我々も忙しくなるね、藤先生!」
「どうしてですか? いつも通りですよ」
「神宮くんが生徒会長になると、かなり存在感があるからね。他の勢力からすると、厄介な相手だ。ここは合従なんてことして、連合戦なんて案が出てくるかもしれないね」
「連合戦? たしか、一度ありましたよね? 手続きにもかなり書類が必要だったような……まさか!」
藤は忠陽を見る。
「藤先生、まだ決まっていないよ。それに生徒たちが決めたことだ。僕らが口出すことではないよ」
「宗先生!」
宗は楽しそうに笑っていた。
「宗先生も手伝ってくださいよ! 私、一人でやるのは嫌ですからね!」
「わかってるよ、藤先生。できるだけ、頑張るよ」
藤は頬を膨らませていた。忠陽は頬を膨らませた藤を見て、可愛らしいと思った。その視線に気づいた藤はすぐに頬を凹ませた。
「賀茂くん、もし同盟とか、連合戦なんてことがあるなら速く言ってね。私にも心の準備があるから」
「藤先生、賀茂くんたちは受ける側だ。魯くんに言った方が良いだろう」
「それもそうですね。もー、魯くんはー!」
宗は藤の反応を見て、苦笑いしていた。
「賀茂くん、君を送るのは翼志館でいいかな? それとも神宮邸がいいかな?」
忠陽は、今行くべき場所は由美子のところではないとはっきりしていた。
「翼志館でお願いします」
「分かったよ。藤先生、ついでだ。伏見先生に連絡を取るんだ。一緒に委員会に行こうじゃないか」
藤は眉間にシワを寄せる。
「たぶん、乗らんって返ってくると思いますよ……」
「なら、賀茂くんを乗せて、向かっていると伝えてくれ」
藤は嫌そうな顔をしながら、携帯で伏見に連絡を取り始めた。それをよそに宗は忠陽に話しかける。
「賀茂くん、僕の教え子がすまないね。でも、彼なりに思ってのことだ。私は師として彼の思いを尊重する」
「僕はただ、竹中先輩の策略に神宮さんや鞘夏さんを巻き込みたくなかっただけです。魯さんが悪いわけじゃありません」
「人の思いは人の数だけある。そして、必ず意見はぶつかる。お互いその意見を交わし、より良い答えを見つけるために、人は智慧を手に入れたかもしれない」
「僕にはそれが本当なのかよく分かりません」
「それでいいさ。今は、君ができることをやり遂げなさい。そして、人の思いと自分の思いが違うことを、理解できるようになりなさい。その先に君らしい答えが待っていると思うよ」
「ちょ―!!」
藤が大声で叫ぶ。
「どうしたんだい、藤先生?」
「伏見先生に電話したら切られました……」
宗は楽しそうに笑う。
「駄目だったかな?」
「はい。誰が乗るか、だそうです……」
忠陽は伏見の返事に苦笑いした。
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