第十一話 横に連ねず、縦に合わさる その二
「賀茂くん、まずは座ろう」
忠陽は頷き、魯に案内されるまま、来客用のソファーに座った。
「本来なら周藤さんが卒業してから、動きたかったけど……。流石は竹中さんと法西くんだ。僕の意図をどこまで分かってるんだい? 教えてくれないか」
「法西さんは、今回の学戦の目的は翼志館と東郷のパワーバランスを整えるためと、言っていました」
「そうだね。今の翼志館は三年生が抜けたとしても頭が一つ飛び出てしまう。その理由は分かるよね?」
「それは、まだ判断できません。東郷の戦力を聞いてないので」
忠陽は魯の口からその理由について言わせたかった。
「君は意外に慎重だね。周藤さんの前で僕の意図を話さなかったのは褒めてあげるけど、僕だって人間だ、怒らないわけじゃない」
静かな怒りを感じた忠陽はそれに対峙する。
「最近、余計な情報を与えて、たっぷり絞られた経験をしたので、迂闊にはこちらの情報を話せません。それに、これは取引です。周藤さんの前では言いませんでしたが、もし、魯さんの意図が僕らの考えたものであるなら、竹中先輩からもさっき言った以外で取引をしてきていいと言われてます」
魯は竹中から取引という言葉と聞いて、怒りを鎮め、冷静になろうとしていた。その時間は長く、忠陽が乾いた口のせいか、喉に絡まった痰を飲み込み、そして手遊びするくらいの余裕はあった。
「いいよ、僕の意図を話さそう。でも、まずは岐湊の動きからだ。それを渡してほしい。僕の意図を話せば、今更、東郷の戦力なんて必要ないでしょう?」
忠陽は話していいのか、自分の中で問いかける。
魯はさっき周藤が卒業したときに動きたかったと言っていた。それに岐湊の情報を要求していることから、同盟の件は確実である。
忠陽の中で今、岐湊の情報を与えるのは自分の利があるかという欲が出てしまった。それが忠陽を惑わせる。
「どうしたんだい、賀茂くん」
「魯さん、一つ追加していいですか?」
「追加?」
「岐湊の情報は話します。だから、魯さんは竹中先輩の条件を聞いて、竹中先輩が何を考えてるか意見をください」
「君が周藤さんの提案を断ったじゃないか。なぜ、僕に聞くんだい?」
「周藤さんは竹中先輩とライバル関係です。竹中先輩を倒したいという気持ちが強いですが、魯さんはそんな柵はない。だから、率直な意見を聞けると思いました。僕の目的は竹中先輩が何ようしようとしてるのかを知りたいんです。竹中先輩は必ず僕らを、神宮さんを巻き込むつもりです」
「神宮……」
魯は目を細めて、考えていた。忠陽がもう一度唾を飲み込んだとき、口を開いた。
「僕に柵がないわけじゃない。僕だって周藤さんの背中を見てきたんだ。竹中さんに対して何もないわけじゃない。それでも良ければいいよ。ただし、君の意見も欲しい。竹中さんは君に少なからずとも敵視されながらも、君を使っている。側にいる君の意見は貴重だ」
「それなら、喜んで!」
魯は忠陽の即答に目を丸くし、その後笑った。忠陽は首を傾げる。
「ごめんよ。君が嬉しそうに、すぐに答えるもんだから」
「そ、それは……」
「でも、君の今日のやり方は、竹中さんのやり方を真似ている。気づいてるかな?」
忠陽は口を閉ざしてしまった。
「悪かったよ、賀茂くん。なりふり構わない君らしいと、言えばいいかな。さて、岐湊の情報を教えてくれないか?」
忠陽は頷き、口を開く。
「岐湊は、新たなる統治方法を作ろうと、考えています」
忠陽は魯の反応を見ながら話していた。
「その統治方法は、北区の自主独立の精神に合うように、武さんたちが居なくなった後は各校で統治させるつもりです」
「それでは烏合の衆になってしまうのじゃないか?」
「それに関して松前さんたちは気にしていませんでした。むしろ、切り取れたとしても構わないようです。松前さんたちが引き継ぎたいのは岐湊が統治するということではなく、各校が独立自治の精神を持つことです。そうすれば、例え主任理事が変わったとしても自分たちで学校運営を行う。もし、それが脅かされるのなら、反乱を起こすでしょう」
「なるほどね。北区らしい精神でだね」
「この方法は海風高校で行っている運営を参考にしているようです」
「海風高校を? あそこの生徒会長は――」
「はい。でも、今は以前より周りからの評判が良くなっています。神宮さんのおかげで、海風高校は独立自治を目指しています」
「神宮由美子か……」
魯は不満そうな顔をしていた。
「どうかしたんですか?」
「神宮の狙いを教えてくれないかい? そこまでする必要はないと思うんだけど……」
「海風高校の生徒会長が錯乱したとき、僕らはその場に居ました。そもそも東郷はその事を知っていましたよね?」
魯は表情を変えなかった。
「神宮さんはただ、あの時のように誰かが薬物に手を染めて、誰かを傷つけるのを、させないためじゃないでしょうか」
忠陽は語気を強めていた。
「そうだね……。そうだ……」
魯は遠い目をしていた。
「でも、君が僕の計画を理解しているなら、それはまた練り直さなきゃいけない。僕は君たちと同盟を組み、岐湊切り取るつもりだった。君が言っていたとおり、表向きはパワーバランスを均衡に保つためと周藤さんに説明してね。周藤さんだって、僕の意図を気づかないわけはない。それを明確にしたのは君だよ、名探偵くん」
魯は今までにない冷たい笑みを浮かべていた。
「竹中さんの取引、それは条件付けで受けようじゃないか」
「まだ、何も話してませんよ……」
「ここまでの話で分かるよ。海風高校を譲り渡す、でしょ? 切り取りは勝者に決定権がなく、敗北者にある。なんとも不条理なやり方なんだろうね。僕らは取引に応じても、君たちに実力で勝っても、貰うのは海風高校なんだ」
忠陽は黙っていた。
「賀茂くん、竹中さんに伝えておいてくれよ。僕は神宮由美子が生徒会長になるなら、翼志館とは手を組まない。絶対にだ。その時は岐湊とともに翼志館を攻める」
「そんな!!」
忠陽は無意識に立ち上がっていた。
「じ、神宮さんは、生徒会長になるつもりはありません!」
「君たちがそう思わないでも、今回僕らが勝ってば、絹張さんの力を疑問視する人は出てくる。僕らが負ければ、神宮の実力が称賛するものが出てくる。そこに海風高校の統治モデルを広めれば、さらにカリスマ性が生まれる! そうなれば、誰もがより良い為政者を選ぶだろう。その時、もう、竹中さんの計画を阻止することはできない」
「だったら……!!」
忠陽は反論しようとしたが、魯が言うとおりだと気づく。なら、ならと自問自答する中で、勝ち負けではなく、引き分けにすることができないかと考えた。
「引き分けにすることは……」
「今更、周藤さんたちに引き分けろなんて、言えると思うかい? 賀茂くん、君にできることは僕の意志を竹中さんに伝えるだけだ」
忠陽は奥歯を噛み締め、そして拳を力一杯握りしめる。
「賀茂くん、少し感情的になったのは謝るよ。岐湊の新たな統治方法、神宮による海風高校の評判、そして君たちの学戦リーグの優勝。すべてが悪いタイミングで重なった結果だ。これは必然じゃなく、偶然なんだ。竹中さんにはそこまで人を操る力はない。だけど、その偶然を一つにして、今回の学戦を利用し、神宮という神輿を担ぎ上げることはできる。それが、竹中さんが今回書いたシナリオだよ。君が悪いわけじゃない」
「どうにかできないんですか?」
「僕には何もできない。神宮を生徒会長にすれば未だかつてない勢力図に書き換わるだろう。東郷は彼女がいる間に負けを認め、この学戦も終わる可能性が出てくる。僕が生徒会長である限り、それを阻止するのが僕の義務だ」
魯は忠陽の顔を見る。忠陽が苦しそうな顔をしていることに気づいた。
「どうして、そんな苦しそうな顔をしてるんだい?」
「僕は、会長が何かをしてくるというのは分かっていたのに何もできなかった……。それに神宮さんに何もしてやれなかった……」
「君はどうして神宮が生徒会長になるのが嫌なんだい?」
「僕は、神宮さんが弱みを見せられない理由を知っています。神宮さんは、ただ弱みを見せないじゃ、ないんです。見せると、彼女を狙ってくる奴らが多すぎるんです。神宮という名は、それだけ僕らなんかが考えているより、重いんです。だから、僕は、少しでも、神宮さんが楽しい学生生活を、送れるようにしたかった。それが、僕に唯一できる、恩返しです」
魯は忠陽を見て、目を細める。
「魯さんは、学校は楽しいですか?」
魯はその問いに答えない。
「神宮さんは今までにそう思ったことなんてないんだと思います。それに神宮さんの未来は僕らみたいに人並みの幸せを得られないかもしれない……」
「どうして、そう言えるんだい?」
忠陽は魯を見ると、魯は真剣な眼差しでいた。
「神宮に聞いてみるといい。君は自分の思いと神宮の思いを一緒にしていないかい?」
魯は立ち上がると、生徒会室の扉を開ける。
「帰るんだ。もうこれ以上話しても意味はない」
よくよく考えると、タイトルってその一、その二ってつけてますけど
「横は連ねず、縦は合わさる」は出落ち間満載じゃないですか(笑)
その一の段階で、もう東郷と同盟しませんって言ってるんですよね・・・。
詳しくは、渡邉先生のキングダム解説のURLまで
https://youtu.be/TN2C6sMeXX0?si=KIAtvhAEmRbTJBsn&t=1135
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