第十一話 横に連ねず、縦に合わさる その一
七
忠陽が東郷高校の生徒会室に訪れると、翼志館と同じように資料まみれだった。周藤はその中にいるから不機嫌なのか、それとも忠陽が訪れことに苛立ちを覚えたのか。忠陽はその両方だと感じた。
「一応聞いておく、賀茂。ここまではどうやって入ってきた」
「え、隠行をして……」
黄倉が吹き出し、静かに笑っていた。
「魯、俺の記憶が正しければ、明日は学戦だったな?」
魯は頷く。
「それで、賀茂。お前は何をしに来た? この忙しいときに! しかも敵対勢力に堂々と!!」
忠陽は竹中を見習い、周藤の凄まじい圧力を苦笑いで受け流した。
そもそもこの圧力をまともに受けてしまうと負けてしまう。それは由美子とのやり取りで身に付いた。ここは一つ、悪い気はしているが、こちらも引けない状況であることを忠陽は周藤に示した。
その戦術は周藤の苛立ちを少しは抑えることができたのか、それ以上のことは言ってこなかった。
そこへ黄倉が助け舟を出す。
「そんなに怒んなよ、色男。普通ならここで帰るだろうが、こいつはまだここにいる度胸はあるみたいだ。話でも聞いてやろうぜ? 大将」
「欣司、余計な口を出すな……」
「一年生、一人で来てんだぜ? その度胸を買ってやらねぇと、また女男って言うぞー」
「うるさいッ!」
魯はケラケラと笑っていた。これが東郷での通常運転なのだろうと忠陽は思った。
「それで、賀茂くん。何の用かな?」
「えっと――」
「おい、魯! 俺はまだ――」
「いいじゃないですか、周藤さん」
周藤は少し迷っているようだった。
「公朗、分かってるんだろ?」
黄倉が優しく周藤に言うと、周藤は息を鳴らし、魯に手振りで許可を出した。
「賀茂くん,、話していいよ」
「単刀直入いうと、取引を、しませんか?」
忠陽は足と手と喉奥が震えていることが分かる。口も妙に乾いたように感じ、気が気でなかった。
「取引?」
魯は首を傾げる。
「はい。僕が教えてほしいのは、東郷の戦力です。代わりに――」
「お前は本気で言っているのか?」
周藤の鋭い目つきに忠陽は全身に鳥肌が立つ。
「キミ、キミィー」
「茶化すな、欣司!」
「周藤さん、賀茂くんは言いかけてましたよ。まだ喋らせて上げましょう」
周藤は仕方なく、真一文字に口を閉じる。
「賀茂くん、その代わりに何を取引の材料にするんだい」
「翼志館の戦力と……」
忠陽は魯を見て、口を開く。
「岐湊の今後についてです」
魯の口角がゆっくりと下がるのを忠陽ははっきりと確認した。
「それになんの価値がある? 取引というのは互いに益があって、成り立つ。お前たちの戦力など、もう頭に入っている」
周藤は冷静に答えていた。
「確かに周藤さんには価値がないものだと思います。でも、魯さんは岐湊の情報を欲しいと思います」
周藤と黄倉は魯を見る。魯はいつも以上にすました顔をしている。二人は何か気づいたようだが、あえて魯を問い詰めず、周藤は忠陽を問い詰めた。
「お前の目的はなんだ? 何がしたい?」
「僕は、会長……竹中先輩が、何をしようとしているのか、知りたいです。会長は僕らを何かに巻き込もうとしています。それから身を守りたいんです」
「なるほど。それで、何故こちらの戦力が必要だ? 竹中なら十分に理解しているはずだ」
「きっかけは今回の学戦です。先日、竹中先輩と一緒に来た後、僕は竹中先輩から魯さんの目的を調べろと指示を受けました。僕も竹中先輩の目的を知るためには、魯さんの目的を知るのが一番だと思い、動いています」
「それでは竹中の策に乗っていると見えるぞ?」
「はい。残念ながら掌の上です。竹中先輩はそこで一人の人間に助力を求めろと言ってきました。それが法西さんという人です」
「法西? 欣司、知ってるか?」
「いや」
魯が口を開く。
「緑興高校二年、法西孝直。岐湊の勢力に居たとき、彼はその智謀で周りを動かして、武さんや、星くんを襲っていたようです。それで武さんとエーメンは手を組み、彼とその一味を制圧したそうです」
周藤はその一言に興味を湧いていた。
「武が星と手を組むか……。どんな奴だ? 強いのか?」
「周藤さんが期待しているほど、強くありません。実際、彼は武さんたちとは直接戦わず、闇討ちや罠を主流とした作戦を組み立るのが役目です。ですが、その謀略は竹中さんに匹敵するほどと聞いています」
「ほう、そいつは会ってみたいな。すまない、賀茂。その法西はなんと言った?」
「それは……」
忠陽は周藤を見て、言い渋っていた。これは内容が魯の目論見を明かすことになると同時に、立場を危うくする可能性があったからだ。
「いくつかアドバイスを受けましたが、それが本当なのか分からないものです。だから、自分で確かめるために各勢力を聞いて回っています」
「お前が戦力を知りたい理由は分かった」
周藤は笑みを浮かべながら、その鋭い目を忠陽に向ける。
「だが、賀茂。俺を使うという選択肢があるぞ。どうだ?」
忠陽は思っても見ない申し出に驚き、唾を飲み込む。
「竹中の鼻を明かすと比べれば、お前の取引など安い」
忠陽は翼志館と東郷が、同盟できない理由が分かった。
「それは流石に……。一応僕も翼志館なので」
「なぜだ? お前は俺達にも翼志館の戦力を教えるのだろう? 今やっていることは翼志館への裏切りと変わらんだろう」
「できれば、竹中先輩の件は内々で処理したいです」
周藤はため息をつく。
「つまらんな……」
周藤は立ち上がった。
「まあいい。魯、あとは任せる。お前が決めろ」
「いいんですか?」
「竹中も法西という男もお前の意図を察して、こいつを動かしている。それに、これはお前の戦いだ」
魯は嬉しそうに返事をしていた。周藤はすました顔し、黄倉に呼びかける。
「行くぞ、欣司」
「分かってんじゃねぇか、色男!」
黄倉は周藤の背中を叩く。それが強かったのか、周藤は咳き込み、黄倉を睨みつける。
「悪い悪い!」
不満そうな顔をしながら周藤は部屋から出ていくと、黄倉はその後について、部屋から出た。
忠陽と魯は二人から取り残されたように見えた。
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