第六話 天谷の闇 其の三
三
忠陽の中にある神無への憧れの灯は、数日経っても消えることはなかった。むしろ、激しさが増していく。
その変化に、鞘夏は気づいていた。行動や言動ではない。鞘夏にしか分からない何かがそう告げている。
鞘夏はその憧れを完全に把握している訳ではない。だから、主人にどう接すればいいのかが分からなかった。それと同時に、その変化にある感情が生まれつつあるが、自分の中で表現する言葉が選び出せなかった。
主人はいつものように親しくなった友人と稽古に励んでいる。その時でさえその感情は生まれなかった。
「どないや?」
相も変わらず、気配を消しながら背後から現れるこの男が鞘夏は嫌いだった。
「忠陽くんに変わったことはないか?」
鞘夏は黙っていた。
伏見はそれを気にすることなく、忠陽の鍛練を見ていた。
忠陽達の鍛練が終わり、忠陽は伏見がいることに気づいた。意を決して、忠陽は伏見の元へ駆け足で近づいた。
「先生、ちょっと、話があるんですが…」
「ここでなんやし、別のところで話、聞こうか」
忠陽は伏見と二人で人気のない場所へと移動した。
「先生、先生の仕事を―」
「ダメや」
伏見は忠陽の言葉を遮った。
「どうして、ですか?」
「生徒を危険な目に合わせられん。当たり前のことや」
「分かってます。でも、僕は昨日の子みたいに攫われる子を助けたいんです!」
「嘘やな」
忠陽は言葉を失った。
「僕相手に嘘ついても、見破られるのは当たり前や。嘘は呪術の基本やで」
「僕は…」
「別に嘘ついたからって、怒らへん。でも、君には似合わへんな。嘘に簡単に色が付いてしまう」
忠陽は俯いた。
「神無か……」
その言葉を聞いて、忠陽は顔を横に反らしてしまった。
「気持ちは分かるな。昔な、君があいつに持っているものを、あいつの父親に持っていたことがある」
忠陽を見る伏見の片目には自分を投影していた。
「でも、それは無理や。僕らはあいつらとは違う。それに気づかんと僕のように体の一部を失ってしまう」
伏見の片腕は忠陽の肩に叩く。
「僕は自分の生徒に僕のような思いはさせたくないねん」
伏見の笑顔は何かを隠すために作る嘘なのだと、忠陽は初めてその事に気づいた。
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忠陽は夕食の後、自室に戻った。
ベットに横になって、天井を見上げる。自分の中の灯は揺らいでいた。先生の言葉でこんなにも揺らぐものだったのかと、自嘲した。
神奈に対しての憧れは呪術師としての性だ。
厳しかった祖父の言葉を思い出す。
「呪術師の在りようとして最高なものは無だ。すべては無により生じ、無に帰る。術比べや術の開発よりも、我らは無の極地を目指さなければならん」
その意味が少し分かったような気がする。無は通常知覚できない。人間の言葉上のみ認識ができ、あやふやで矛盾をはらむものだ。それ故にその無へと至ることは、存在すら無くすことだ。
だが、自分が出会った存在は限りなくそれに近い存在だった。おおよそこの世ではあり得ない事象を目の当たりにし、それが無だと言えた。忠陽の中でもその存在を理屈では表せない。ましてや、何故そこ存在するのかさえも。自らの血が、業が、本能がそう告げているのだ。
喉から手が出るほど触れたい無の極地。やはり簡単には諦めきれない。
忠陽は財布と鍵を取り出し、リビングへと行く。だらけた妹と、家事に勤しむ鞘夏。
「ちょっと、コンビニ行ってくる」
「いってら~。あっ! アイス買ってきて! シラナイッケ」
「分かったよ。鞘夏さんは、何かある?」
「いえ、私は…」
「そんなに遠慮しなくても」
「では、トリノジェラートを」
「うん。分かった」
忠陽は平静を装い、家を出る。その姿を鞘夏は心配そうに見つめていた。
夜の静寂の中で、自らの足音が鳴る。柔らかく小さな音は弾むように聞こえた。
忠陽は近所のコンビニを通り過ぎ、人気のない学区へと歩いた。
静けさが不気味さを増長させるような建物は平常通りだった。辺りには不審な人間はいない。昨日の今日で、同じ場所に現れる輩ではないと悟った時、忠陽は今日の探索を辞めた。
次の日の夜、忠陽はコンビニに出かけると言い、夜の町へ出る。流石に鏡華も不審感を抱いていたが、問い詰めようとはしなかった。
昨日とは違い、忠陽は天谷市の港湾を探索した。港でもガントリークレーンなどがあるコンテナの岸壁ではなく、小型漁船の船場を訪れていた。コンテナの岸壁は、常に港湾関係の人がいることもあり、人目につきやすい。この前のように人気のが少ない場所でしか人を襲わないという読みであったが、今回もはずれのようだ。
ベタつく潮風は忠陽の体にぶつかりながら通り過ぎていく。防風林や防風壁の遮るものがない風がこんなにも嫌らしいものだとは思わなかった。
防波堤の先にある灯台に登り、忠陽は天谷市を見渡す。
この都市の中央にあるセントラルビルが不気味に思えた。この都市のシンボルでもあるが、夜にそびえ立つ摩天楼は何か魔を感じる。昼間にそう思わないのは、太陽という存在がすべての魔を払っているのかもしれない。
それは事象として説明できた。夜は現世と幽世が繋がりやすい。理由はなぜか解明はされていないが、そういう事象が現実に観測できる。本当は、この世で論理的に説明できるのは少ないのかもしれない。
忠陽は帰路へつく。明日はあの摩天楼にいってみようと決めた。
翌日の夜、外へ出るときに鞘夏に呼び止められた。呼び止められたが、鞘夏は何も言わず黙ったままだった。
「鞘夏さん、どうかした?」
「いえ、呼び止めて申し訳ございません。いってらっしゃいませ」
深々とお辞儀をする鞘夏の顔は髪で見えず、忠陽は明るく返事をした。そのお辞儀は扉が閉まった後でも続いていた。
「彼女でもできたのかな~?」
玄関から死角の場所から鏡華の声が聞こえた。
鞘夏がリビングへと戻ろうとしたとき、鏡華が興味なさげな顔をしながら、鞘夏を静止した。
「ねぇ、あんたなんか知ってる?」
「いえ、特には……」
「そう。私はあんた以外で、まともな奴なら応援するけどね」
鏡華は満面な笑みをしながら言った。
「私など……」
「私など? あんた何様のつもり? お祖父様に気に入られていたからって、使用人風情が陽兄と釣り合うとでも思ったの?」
「申し訳ございません」
鞘夏は頭を下げた。鏡華は無機質に動く人形を見て、舌打ちをした。
「そういうとこも嫌いよ」
鏡華はそう吐き捨て自室に戻っていった。
忠陽は、セントラルビルから数百メートル離れた場所で、この不気味な摩天楼を見上げた。二棟にも一棟にも見える建物の中層階から下は、まばらに電灯が点いている。まだ、灯りがあるというのにこの不気味さは異様に思えた。
大和皇国の首都である京と似ていると忠陽は感じた。京は今では幽世が具現化することが珍しくなり、巷では心霊現象などと言われている。その昔、百年前ぐらいの京は現世と幽世が交わっていた。その姿は絢爛豪華、人と精霊も妖魔の垣根がなく、交流が盛んであったという。祖父はその事を嬉々として話していたことを思い出した。
「よいか、この世などはどうでも良い。我々の目指す先は幽世の先にある、人が観測できない場所だ。昔の京はそういう場所に近かった。人の世でもなく、精霊の世でもない。すべてが交わり、京だけの世だった」
忠陽は記憶の音を止めた。
「呪術なんて…」
奥歯に噛みしめる。自然と手にも力が入っていた。自分がしていることに気づいたとき、苦い顔をしながら笑った。
「結局、僕もお祖父様と一緒というわけか」
忠陽は祖父が嫌いだった。記憶の中の祖父は忠陽の才能のなさに怒り、貶していた。賀茂家の長男として産まれ、家を継ぐ宿命を受けた自分に呪術の才能を求められるのは当然であるが、その圧迫は並大抵のものではなかった。
「所詮、蛙の子は蛙か」
祖父が父と自分に対して吐き捨てた言葉を今でも忘れていない。
「僕だって……産まれたくて産まれたわけじゃない……」
その言葉も隠すように隠形をしながらセントラルビルに向かった。
セントラルビルのエントランスは警備員が立っていた。忠陽は悟られないように建物は死角を探し始めた。建物を一周し、もう一周しようとした時に白髪の袈裟を着た大男が忠陽を呼び止めた。
忠陽はその声を聞いた途端に背筋が凍った。気づかないほどの男の気配の消し方はレベルが高いことがすぐにわかった。そして、何よりも近くで感じる大柄な体躯から発する魔は、人間でないことが容易に想像できた。
「キサマ、ここで何をしてる?」
忠陽は言葉が詰まる。大男の魔が増大し、それに萎縮していた。
ゆっくりと詰め寄る大きな体に忠陽は後退る。
「団十郎、その方に手出し無用よ」
際どい服を着た妖艶な体をした女が、忠陽の後ろから現れた。大男は動きを止め、忠陽は二人に挟まる形となった。
「お久しぶりです。忠陽様」
お辞儀をする女の艶やかさに、忠陽は自分の置かれた現状を一瞬忘れてしまった。
「あ、あなたはどなたですか?」
「忠彰様にお世話になっていた者です」
「祖父にですか……」
「ええ。忠陽様、こんな時間に何をされているのですか?」
「ちょっと、通りかかって」
「そうですか。でも、子供がこんな夜更けに外を出歩くのは危ないですよ」
女は、忠陽に肌を密着させてきた。背中には柔らかいものが当たり、忠陽は赤面しながら、女から離れた。
「……初なんですね。お姉さん、燃えちゃいそう」
年上だからの余裕なのか。しかし、忠陽の中では違和感を覚える。忠陽が恥じらうの見て、指をくわえている。性癖かとも考えたが、自身の奥にある何かが危険であると告げる。
伏見の言葉が脳によぎる。僕よりも強い奴。それが、忠陽をこの場から逃げること促した。
「すいません。僕はこれで」
「お待ちなさい」
女の声が忠陽は体にねっとりと纏わりつき、鳥肌が立つ。
「時間も遅いですし、タクシーで帰った方がよいかと。最近、物騒になっていますし……」
「いえ、歩いて帰れます」
「そう。何かあったら、ここに戻ってきください。私が送って差し上げます」
その笑みは不気味で、蛇に睨まれたようだった。
「ありがとうございます」
忠陽は足早にその場から離れていった。
「よいのか?」
大男が口を開いた。
「いいのよ。彼は必ずここへ戻ってくる。最初は頼り無さそう感じだったけど、以外に冷静だった。私、手を出しそうになっちゃった。ねぇ、治めるの、手伝ってくれる?」
指をくわえながら、女は男を求めた。
大男は鼻であしらい、セントラルビルへと戻っていった。
「あら、いけずね。でも、あなたはそうでなくては面白くないわ」
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忠陽は二人から見えない距離になった瞬間にがむしゃらに走り出した。二人への恐れからか、息が上がり、肺が潰れそうになってもできるだけ遠くに行きたかった。逃げろと反芻する声は止まず、忠陽を追い詰めていた。
ふと、意識が戻ると、どこか分からない公園で休んでいたのに気づいた。公園のベンチで汗だくになり、顎から雫が落ちる。地面に落ちた雫が穏やかな空気を波紋をつくる。そこでようやく平常心を取り戻せた。
あの二人のことを思い出す。大男は袈裟から何かの僧であることは確かだが、その本質は三十郎とは違った。法力ではなく、魔を感じた。もしかすると、妖魔に近いかもしれない。女は表面的なものとは違い、どす黒い何かを持った存在に感じる。総じて、会いたくない存在であり、この都市にあんな二人がいることが怖かった。
「ちょっと、いいかな?」
どう見てもチンピラみたいな金髪の男が話しかけてきた。
「君、学生さん?」
忠陽は答えなかった。
「分かってるって。君みたいな人いっぱい見てきたから。ここの学校、疲れただろ? 毎日毎日、呪術。君たちは学生だっていうのに戦わさせられて、学校自体も順位を付けられて。俺はさぁ、そんな君たちを救いたいんだ」
人の心に寄り添うに言っているが、本質はそうでないことが容易に読み取れた。
「なぁ、良いところがあるから、ちょっとついて来いよ。楽しいぜ?」
忠陽は金髪の男が言われるままについて行った。この男の先には先生たちに繋がる道があると思って。
連れられて訪れた場所はディスコクラブだった。夜中というのにダンスミュージックに体の芯に響く音に合わせ、踊る人間が沢山いた。その多くは学生だった。
金髪の男が忠陽の耳元で叫ぶように言った。
「どうだろう? スゲー盛り上がってるだろう!」
忠陽は無言のままでいた。
「まあ、楽しんでいってくれよ! ブラザー!」
忠陽の素っ気ない対応に金髪の男は不満そうにしていた。金髪の男はホール奥へと消えていった。
忠陽はホールを一通り歩いた。ホールにはクネクネとした渡り橋があり、反対側へといけた。そこには男女が抱擁を交わしていた。忠陽はそこで一人、橋の上から俯瞰してこのホール全体を見回していた。
いろんな学校の校章が見え、それほど抑圧されたものが彼らにはあり、ここで発散させたいかと思った。そんな中で翼志館の校章が見えた。それを見ると、翼志館でも例外ではないのだと悟った。自然とその女子生徒へと歩き出していた。なけなしの正義感を奮い立たせ、女子生徒が不幸な道へ行かないようにするために女子生徒の肩を叩いた。
「あの、ここはあまり良くない場所だ。すぐに帰った方がいい」
「君、賀茂くん?」
忠陽は戸惑った。忠陽は眼鏡をかけた女子生徒を全く知らなかった。
「どうしてここに居るの? ちょっとこっちに来なさい!」
女子生徒に腕を捕まれて、忠陽は渡橋まで連れて行かれた。
「賀茂くん、こんな所でなにやってるの! 京介、いや伏見先生は知ってるの?」
「えっと、何で君は僕のこと知ってるの?」
「誤魔化さないで、私の質問に答えなさい! って、そうか。こんな格好をしてたら誰か分からないわよね」
女子生徒は眼鏡を外して、改めて顔を見せた。
「私よ、藤よ」
忠陽は大きな声を上げるも、音楽でかき消され、周りには聞こえていなかった。
「ふ、ふ、藤先生なんですか?」
「そうよ。先生の格好できたら入れてくれないでしょ?」
「全然気づかなかった。その制服は……」
「自前よ」
その姿を見ても、年の割には高校生に見えた。むしろ先生の格好より可愛く見え、制服というアイテムが恐ろしいと思った。
「今、年の割にはとか思った?」
藤の顔は引きつっていた。
「それよりも賀茂くん、ここに来たのは伏見先生の命令なの?」
「いえ、あの………」
「その様子じゃあ、違うみたいね。どうしてこんな所にいるの?」
「その………伏見先生の力になりたくて、つい」
「つい?………伏見先生には許可を得てないって感じね」
「はい」
「その気持ちは嬉しいんだけど、あなたは学生よ。そんなことしちゃいけないわ」
「すみません。でも、先生こそどうしてここに?」
「えっ、私? 私は、その、あの、なんていうのかしら、生徒たちの安全ために……」
忠陽はもう一度、藤の全体像を見た。その意図に藤は気づいた。
「違うわよ! けしてそんな趣味はないわ」
「いえ、そんな意図は……。でも、似合ってますね」
「そ、そうかしら? もうこの歳じゃあ着れないかなって思ってたんだけど……京介が言うように意外に着れるじゃん。って、何言わせてるの!」
「僕は別になにも言ってませんよ」
藤は咳払いをした。
「制服を着て、ここに居るのは伏見先生の案だったんですね」
「そうよ。昔からこういうことをやらせるのよ」
藤は憂鬱な溜め息をついた。
「まあ、私が学生だった頃は伏見先生も今よりももっと冷たかったし、手段を選んでなかったからね。生徒なんてただの駒としか考えてなかったわ」
「なんか、僕には考えられないです」
「そうでしょ? まあ、私の扱いは変わらず雑なんだけどね……」
「そうなんですか?」
「普通、教え子に潜入調査なんてさせる?」
「信頼じゃないんですか? 僕にはそうさせてくれませんでした」
「そう言ってくれると、嬉しいんだけどね」
藤はまた溜め息をついた。
「たまに思うんだよね。伏見先生って、私のことどう思ってるかって……」
「藤先生って……」
藤はハッとなった。
「いや、違う違う!私は伏見先生のことはなんとも思ってないんだからね!私の扱いが雑だからそう思っただけで……」
藤は深い溜め息をつき、しゃがみ込んだ。
「なんだろう、もう帰りたい」
忠陽はどうしたらいいのか分からず、愛想笑いをした。
「居た居た! なんだ、お前、もう女ができたのか?」
金髪の男は下卑た笑みを浮かべた。
「彼女、この子を借りていくぜ?」
藤は忠陽の耳元で声をかける。
「だめよ。かなり怪しい」
「でも、藤先生。あいつらについていかないと伏見先生が欲しがってる情報が手に入らないです」
「それは私たちの役目。生徒のあなたがすることじゃない……ちょっと!」
藤先生の静止を聞かずに忠陽は金髪の男に近寄った。
「いいのか? 彼女、怒ってるみたいだけど?」
「彼女じゃないです。それより行きましょう」
金髪の男は目が点になった。
「そ、そうか。そうならいいけどよ」
金髪の男に連れられて入ったのはトイレだった。そこには骨格がずっしりした漢と眼鏡をかけたインテリ系の男だった。
金髪の男はインテリ男に目を合わせると、その横にたった。
インテリ男が眼鏡の位置を直しながら話した。
「えっと、君、高校生?」
忠陽は頷く。
「ふーん、そう。こいつから聞いたんだけど、学校が嫌になったんだって?」
忠陽は答えなかった。
「いいよ、喋んなくて。このクラブに来てる連中は大抵そういうのが多いから。これ、あげるよ」
インテリ男に渡されたのは錠剤状のものだった。
「一度、試してみなよ。頭がすっきりするぜ」
「これはなんですか?」
「ただの薬だよ。君たちの悩みを和らげる」
「違法ドラックじゃないんですか?」
「違うよ。試供品。ストレスが溜まった人間に対して有効性があるかどうかの。企業もさ、色々あってね、金額を抑えたくて治験をやってるってわけ。大丈夫! なんか体調が悪くなったらその会社ご面倒を見てくれることになってるから」
そうやって人を攫っているのかと忠陽は思った。
「その企業の場所を教えてください」
「あん? なんで教えなきゃいけないの?」
「この薬が危なくないか確かめるためです」
インテリ男は舌打ちをした。化けの皮が剥がれたようにチンピラの顔になった。
「おい、ケイ。なんだこいつは?」
「いえ、あのー」
インテリ男は金髪の男のみぞおちに一撃を加えていた。
「ダイ、その男を捕まえろ」
骨格がずっしりとした男は忠陽を捕まえようとするも、忠陽はその前に呪符を取り出し、弱い雷撃を加えていた。骨格がずっしりとした男は怯んでしまった。
「ちっ、正義感が丸出しじゃねぇか。面倒くさい奴を連れてきやがって」
インテリ男がナイフを取り出し、構えた。構えから見ても扱いに慣れた人間だった。低い姿勢を取り、ナイフを突き出していない。
忠陽は出口へと駆け、トイレから出た。男達も追ってきたが、忠陽は他の客に紛れ、外へと出た。それでも追ってくる男達を忠陽は人気のない裏路地へと引きずり込んだ。
「なんだ、もう逃げねぇのか?」
インテリ男が笑みを浮かべて言った。
「逃げる必要はない」
呪符を取り出し、男達に投げつける。無数の石礫が、男達へと向かっていった。
金髪と骨格がずっしりした男が逃げ惑う中、インテリ男だけは壁を走り、忠陽へと近づく。
忠陽は呪符を投げ、雷撃を呼び出すも相手は容易に躱した。
「ここは外だぜ? 投げる方向がわかりゃ簡単に避けられる」
インテリ男が笑いながら忠陽に近づく。忠陽は焦り、呪符を取り出すもその距離では術を発動するよりも速く、インテリ男のナイフが刺さるイメージを呼び起こす。
インテリ男がナイフを出す瞬間に「伏せなさい」と女性の声がした。
忠陽は声の言われるとおりに伏せた。忠陽の後ろから魔力の塊が通り過ぎ、インテリ男へとぶつかった。インテリ男はぶつかった衝撃で後ろに飛ばされた。それを見た仲間の二人は逃げだした。
忠陽は後ろを振り返るとそこには夜の中でも一際目立つ制服姿の藤だった。
「もう、無茶をして!」
藤は敵に警戒しつつ、忠陽の前に出た。インテリ男が立ち上がらないのをみて、振り返り、忠陽の怪我ないかを確認した。
「怪我はないの?」
「はい」
「危ない所だったのよ。賀茂君! 君、分かってるの?」
「あ、はい」
「こういうことは私たちの役目よ。学生であるあなた方やることじゃないわ!」
「すみません」
「怪我なかったから良さそうなものを……」
藤は溜め息をついた。
「どうして、こんなことをするの? 何かあるの?」
「なんとなく、彼らがやってることが許せなくて」
「なんとなくじゃあ、暴力と一緒よ。あなたのその力はそんなために使うものじゃない。呪術師は人を助けることも出来るけど、人を殺せることだってできるのよ」
「はい」
「伏見先生を呼ぶわ。待ってなさい」
藤が携帯を取り出そうとしたとき、忠陽は藤の後ろに動く影に気づいた。
「藤先生、危ない!」
藤が振り返った瞬間に笑いながら襲いかかるインテリ男が顔が見えた。藤はその刹那に自分の死を予感し、「京介」と言葉を発した。
ただ、その刃は藤には届かなかった。インテリ男が危害を加える前に、神速とも呼べるスピードで神無が現れ、倒していた。
藤も何が起こったのか分からず、その場に気が抜けたようにしゃがみ込んだ。
数分後に伏見が合流し、忠陽達はインテリ男を連れて場所を変えた。
そこで、伏見が初めに行ったのは、忠陽への平手打ちだった。
「伏見先生」
慌てて藤が伏見に駆け寄る。
「君をぶつのも二度目やな」
忠陽は俯きながら頷く。
「彼はあなたの手伝おうと思ってのことよ、何も引っ叩く必要はないじゃない」
「それは嘘や」
藤は動揺した。
「君は藤くんのことも危険に晒したんや」
「それは私が油断したからで……」
「藤くんは黙っとき。これは僕と彼の問題や」
「お止しなさい。あなたの個人的な感情を含んだ説教は、その子には通じないわ」
伏見はエリザを見て、黙った。
「ねぇ、あなた。私たちに関わることがどれだけ危険か分かってるわよね?」
「はい。伏見先生からは聞いています。先生では守り切れないって」
「そうよ。それでもあなたは私たちに関わりたいの?」
「はい」
「そう。なら、そうしなさい」
伏見は戸惑った。
「エリザ様、ちょっと待ってください」
「ただし、自分の身は自分で守りなさい」
「彼にはそんなこと-」
「お黙りなさい。この子が自分で決めたことよ。それに口出しできるほどあなたにはこの子を守れる力があるの? 庇護ができないのならあなたが指図できる権利はないわ」
伏見は唇を噛んだ。
「坊や、それでいいわね?」
神無は黙ったままだった。
「そう。分かったわ」
藤は神無が返事をしていていないのに分かったのかと突っ込みたかった。
「で、でも、教師である私からも彼を危険にさせるのは辞めて貰いたいなぁ、なんて……」
藤は怯みながらも意見した。
「お嬢ちゃん、私たちに関わった時点で危険なのよ。あなたも例外じゃないわ」
「えっ、私も! どういう事よ、京介!」
「いや、君にも関わらせるつもりはなかったやけど、この状況やし」
「それって、どれくらいヤバイことなの?」
「まあ、世界レベルやな」
「世界レベルってどういう規模よ! あたし、まだ人生楽しんでないんだけど」
藤は狼狽え始めた。
「この五月蝿いのを何とかしなさい。話が進まないわ」
エリザは伏見に言った。
「さっきからね、あんた偉そうにしてるけど、何様のつもり? どこかのゴスロリ様ですかぁ?」
藤はエリザに詰め寄る
「いや、藤くん。この方に逆らうのはやめとき。エリザ様、一旦ここで別れましょう。この子らは僕が連れて行きますんで、二人はその男を連れて行っていってください」
「分かったわ」
神無はインテリ男をかかえて、一瞬にして消えた。
「待ちなさい、あなた」
エリザは藤を呼び止めた。
「まだ、何かあるんですか?」
藤は攻撃的に言った。
エリザは持っている杖で頭を小突く。その瞬間、藤はうつろな目をし、意識が朦朧としているようだった。
「私たちに会ったこと、今日ここで話したことは忘れなさい。そうね、あなたを助けてくれたのは、あなたの思い人よ」
藤はかろうじて「はい」と答え、そのまましゃがみ込み、寝始めた。
「暗示をかけておいたわ。どこまで効くかは分からないけど」
「いえ、ありがとうございます」
「その子を大切になさい」
エリザは去って行った。
「僕らも行こうか」
伏見は藤を背負い、忠陽も帰路へとつく。
痴女もといエロエロクイーンより、藤ちゃんの制服姿がみたいです。みたいの!藤ちゃんの制服姿を募集します!
冗談はさておき、藤ちゃんの反応ってかわいいですよね。私がわざと書いているわけではなく、本当にそう言うです彼女。
でも、藤ちゃんも昔は殺伐としていたんですよ。今みたいに可愛くは……グフゥ……。
いや、あの頃の藤ちゃんも可愛かったよ。当然ですよもう。
そりゃエロエロクイーンなんて……グエェ……。
あの変なことを言うと二人に殺されそうになるので、もう止しておきます。
「ねえ、変なこと言っているけどわかっているわよね?」
「私がこのお子様より劣るとはどういうことかしら……」
まままままずは、そのぶぶ武器を、収めて、ね?
ひぃいいいいいいいい
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土屋憲一
「EX 最終戦闘」