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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十一話 忠陽の教訓

 忠陽を連れて、竹中が向かった先は北区にある倉庫街の一角だった。そこは潮風で建屋が風化していた。それを見る限りは人の気配が極端に少ない場所であることが分かる。この辺りの倉庫は(ちまた)では不良のたまり場になっていると聞く。忠陽は周りに警戒しつつ、歩こうとした。


「そんな必要はないよ。ここはエーメンのテリトリーだ。星くんには事前に連絡している」


 竹中に言われ、忠陽は警戒を解いた。


 それから数分ほど倉庫街を練り歩くと、人の気配が多くなってきた。その姿を確認すると、倉庫管理の作業員ではなく、学生服に銀色の装飾が見えたり、私服姿だがその図体がやけにデカく、ダボッとした着こなしの、いかにも素行の悪いように見える連中が多くなった。


「会長……」


「大丈夫だ。君は学戦リーグの優勝者だ。毅然(きぜん)とし給え。でないと、興味本位で手を出してくる」


 竹中は笑みを崩さず、忠陽に言った。


 忠陽たちが、錆びれたトタン屋根で高さが五メートルくらいありそうな建屋に着くと、学戦リーグで戦ったことがある大男が出迎えた。


「プリンス、待ってる」


「ありがとう」


 竹中は礼を言うと、建屋の中へと入っていった。


 倉庫の中は地面がコンクリートを打設されており、ボロボロになっている箇所もあるが概ね綺麗だった。頭上には移動式クレーンがあり、倉庫としての面影を残している。殺風景な場所であったが、まばらに人が居るため寂しくはない。その奥には(とう)でできた網目のカウチの玉座が簡易的に(しつら)えてあった。その玉座には上下白のシャツとパンツに、金色の獅子髪をした男が寝そべっていた。星玉嗣(おうじ)、エーメンの首領である。


 玉嗣は忠陽を見るなり、飛び起きた。


「賀茂っちじゃん!!」


 玉嗣はすかさず忠陽に飛びつく。忠陽はなんとも言えない心持ちになった。


「どうしたの? こんな所で! 俺とお話に来たん? それとも戦いに?」


「あ、いえ……」


 忠陽は密着されながら飛び跳ねる玉嗣に困っていた。


「星くん、取り敢えず落ち着こう。賀茂くんも困っている」


 玉嗣は竹中に言われ、一旦、つまんなさそうにゆったりと玉座に座った。


 玉嗣が手を振ると、男二人が忠陽たちにホコリ被ったパイプ椅子を出した。それを見た玉嗣は忠陽に椅子を差し出した男に近づき、殴る振りをする。


「チィガッァウ!!」


「スミマセン! プリンス!」


「賀茂っちにはもっと良い椅子を用意しなさい。学戦リーグの優勝者だよ?」


「ハイッッ! プリンスッ!」


 教育された男は忠陽に玉嗣と同じ籐できた腰掛け椅子を忠陽に用意し、丁寧に座るように勧めた。


 忠陽は竹中を見る。竹中はいつもの笑みで座るように勧める。忠陽は申し訳なそうに座った。竹中はパイプ椅子のホコリを払い、座る。


 玉嗣は退屈そうな顔をして、竹中に問う。


「で、何の用よ、亮ちん」


「法西くんの居場所を知りたい」


「コウチョクの居場所? そりゃ教えて上げてもいいけど、タダとはいかないよ」


「ああ、いつも通り取引だ。君の要望は何かな?」


 玉嗣はひとりの男を手招きし、手を出す。すると、男から携帯を玉嗣に渡した。玉嗣はブツブツいいながら携帯を操り、何かを見つけ出すと、忠陽たちにその画像を見せる。


「この人、知ってる?」


 その画像の主は黒髪の長髪で、横髪が肩に垂れていた。後ろ髪は垂髪(すいはつ)であり、中華系特有の髪型である。小さい丸いサングラスはその人間をずる賢いように見せ、その肌の白さや顔形から美男子であることが伺える。


「いや、知らないね」


 竹中はそう答えたが、忠陽は息を呑む。


「そっか。なら、今回は諦めて」


「ふむ。かなりの難題のようだね、星くん」


「まぁね♪」


 星は楽しそうに返事をした。


「一つ、話を聞かせてくれないか? もしかすると力になれるかもしれない」


「関わんないほうがいいよ。結構ヤバイ人みたいだから」


「ここで簡単に引き下がるわけにもいかないからね。僕も賀茂くんも来年の生徒会に法西くんを取り込もうと思っている」


「ェッ! ウソッ!!」


 玉嗣は立ち上がる。


「賀茂っち、本当!?」


「僕は生徒会うんぬんではなくて、今後の神宮さんに必要な人材だと思って……」


「えっ? 次の生徒会長、由美子ちゃんで決まり?」


「いえ、絹張先輩です」


紫苑(しおん)ちゃんかぁぁ……」


 玉嗣は溜息を吐く。


「何かあるんですか?」


「いやさ、紫苑ちゃんに、俺嫌われてるからさぁ、色々協力してくんないだろうなぁと思って。そこの何考えてんのか分かんない奴も大概だけどさ、紫苑ちゃんは潔癖すぎるんだよねー」


 忠陽は苦笑いした。


「そこんとこ、どうなのよ? 亮ちん」


「絹張くんは良い子だよ」


 玉嗣は疑いの目で竹中を見ていた。


「なら、由美子ちゃんは?」


「由美子くんも良い子だ」


「ほらね?」


 玉嗣は忠陽に同意を求めながら、玉座に座った。忠陽は笑うしかなかった。


「賀茂っち、諦めたら? 紫苑ちゃんが生徒会長なら、コウチョクと馬が合わない。由美子ちゃんならいいかもしんないけど」


「どうしてですか? 僕はそんなに変わらないと思いますよ。神宮さんだって、会長を毛嫌いしてるみたいですし」


 玉嗣はそれを聞いて、大いに笑った。


「賀茂っち、言うね。本人がいるのに!」


 忠陽は間違いに気づき、竹中の顔を伺う。竹中はニコニコと笑っていた。


「賀茂っち、大丈夫だよ。亮ちんはそんなことで怒りはしないよ。根には持つけど」


 その方がよっぽど嫌だと忠陽は思った。


「賀茂っちへの答えはね、紫苑ちゃんが信じてるのは亮ちんだけなんだよ。だいたい、亮ちんと馬が合ってるのが可笑しいのさ。亮ちんはコウチョクと同じペテン師だよ」


 忠陽は頷きたかったが、敢えてしなかった。


「真面目で、潔癖な紫苑ちゃんとは相性は良くないはず。でも、上手く行っているのは紫苑ちゃんが盲目になっていると思うんだよねー。亮ちんがやることは間違いないって」


 玉嗣は竹中を見て、悪戯な笑みを浮かべる。


「一種の呪いかな?」


 忠陽は玉嗣の笑みに寒気がした。


「で、でも、それが神宮さんと上手くいく理由とは――」


「由美子ちゃんはさ、しっかり損切りができる。例え、味方であっても、目的のためには切り捨てる。うちと戦ったときがそうじゃん。あと、茉莉花ちゃんを倒したとき、感情的なものを切り捨てるように訓練されてる」


「それは……。でも、神宮さんだって、感情的になることだって――」


「そりゃあるだろね。でも、由美子ちゃんはできるだけ、それを割り切ろうとしてるでしょ?」


 忠陽はここに来る前に竹中のアドバイスを聞き入れていた由美子を思い出す。


「コウチョクはね、自分に戦闘力がないことを理解してるから、やり方は容赦がない。言い換えれば善悪がないんだよ。学戦リーグの心理戦なんておこちゃま。目的を果たすために、人を欺き、騙し、確実に敵を倒す。その為だったら、犠牲は厭わない。由美子ちゃんは好き嫌いじゃなくて、それが必要なことを知ってる。紫苑ちゃんにあるのは好き嫌いだけなのさ」


 忠陽は合宿のとき、軍人であり、昔、神宮家に仕えていた葛城良子が由美子に言った言葉を思い出す。


 心の中に一匹の冷酷な化物を飼うこと、例え仲間が死のうとも、例え家族を自分の手で殺そうとも、毅然とし、仲間には勝利の道を指し示す、それが、由美子が歩もうとする道。


 その時は厳しいことを言われていると思った。だか、それが今はなんとなく、お前は引き返せという優しさだったのでかもしれない。


 懇親会のとき、忠陽は良子から呼び出され、言われた。


「賀茂。ゆみがもし倒れたら、すぐに私か八雲に連絡を入れろ。それと……。それと……お前だけは、最後までゆみの味方で、いてくれないか?」


 それは由美子が歩む道がとんでもなく辛いものになると暗示してのことだろう。それと同時に葛城良子からの忠陽への信頼の言葉だと思った。


 忠陽とて、ずっと側に居るわけではない。だが、高校生の間は由美子の味方であり続け、そして由美子の未来のためにできることをしようと考えたときでもあった。


「そこんとこ、どう思っているのかな? りょーちん!」


 竹中はいつものように笑っていた。


「その情報は取引の一つとして考えていいかな?」


 玉嗣はヘラヘラとしていたのに、このときだけは苦い顔をした。


「安くは売らないわけね。でも、いいよ。答えてくれたら、コウチョクに電話して、会いたいか聞いてあげる」


「ああ、構わないとも。それと、さっきの人物に対して、僕が一枚噛もうじゃないか」


 忠陽は止めようとしたとき、玉嗣が乗ったと大声を上げる。


「でも、ちょいマチコ。コウチョクにも同じことを聞いてみる。僕ちんに最も利益がある方に付くのだぁー。あ、それよりもまずはさっきの答え、ちょーだい♪ デンワはそれからなりぃー」


 竹中は諦めの笑みを浮かべ、返答する。


「そうだね、概ね、星くんが考えている通りだ。絹張君には法西くんは使えないし、使わない。だが、由美子くんは賀茂くんが勧めれば法西くんを使うだろう」


「なーんで、賀茂っちが出てくるのさー」


「知りたいかい?」


 竹中は不敵な笑みを浮かべる。


「ちぇえ!!」


 対価を要求されていると気づいた玉嗣は悪態をつき、携帯で電話を掛けた。


「もしもし、もしりんこ! こちら、星のプリンスなりぃー!」


 星は巫山戯(ふざけ)ながら話していた。


「コウチョクちゃーん、また悪さでもしてんじゃないの? ……あっ、そう。してない。でもでも、ぼくちんの情報網にはビビットビぃート、キャチィーしてるよー。……あー! 待って待って! 切らないで! 切っちゃうと、目の前の人に居場所を教えちゃうぞい☆」


 玉嗣は忠陽たちに舌を出しながら、バカな顔をして、獲物が連れたことを報告した。


「あんさー、今、亮ちんと賀茂っちが来てるわけ。賀茂っちって分かる? ……あ、そうか。やっぱり分かるよねー。ほんで、コウチョクの居場所が知りたいから教えろって言って来てるの。条件次第では教えるんだけど、コウチョクさぁ、俺の仕事を手伝ってくれたら、教えナイン! どうする? チョッパやー」


 玉嗣は竹中に手の形で煽っていた。竹中は相変わらずニコニコしていた。


「なるなる、りょっ! ほんなら、明日でも話をしよう。ちょっと面倒くさい相手でさー、手段とか考えてランねぇーちゃん。うん、よろ――」


「ちょっと、待ってください!」


 忠陽が大声を上げた。


 玉嗣はあんぐりとした顔で忠陽を見ていた。


「星さん、待ってください! 僕、その人と会ったことがあります……」


 玉嗣は携帯を耳から少し遠ざけて、冷たい顔をした。


「賀茂っち……嘘だったら、どうなるか分かってる?」


 その目は獲物を見定める獅子のようだった。


 忠陽は息を呑んで答えた。


「その人の名前は(りゅう)秀英(しゅうえい)、一度だけ話したことがあります……」


「どういう関係?」


「知り合いの知り合いです。でも、はっきり言って、僕の知り合いの人とどういう関係は知りません。僕が会ったのはたまたまで……伏見先生と話していた所で偶然――」


「また、あいつか……」


 玉嗣は憎いやつを睨むような目をした。携帯を耳につけ、話し始める。


「コウチョク、残念。賀茂っちがいい情報を持ってるみたい。かなり絞り取れそう。悪いけど、居場所を教えるね」


 玉嗣は相手の返事を聞く前に通話を切った。


「それで、賀茂っち、色々と聞きたいんだけど。俺らに貸しを作っておくのもいいと思うんだ。その情報で、俺らは賀茂っちにはVIP待遇するよ。いつでも訪ねてくれれば知ってる情報を渡す。言ってる意味、分かるよね?」


 玉嗣の言葉に反応して、エーメンの構成員が忠陽たちを囲む。


「賀茂くん、情報は人によって価値が違う。これがいい例だ。相手にとって良い情報を与えるときは特に慎重に。相手によっては手段を選ばない人間もいる」


 竹中は周りを見回した。


「そうだね、これは僕の教えではなく、君の教訓とするんだ」


 忠陽は息を呑む。


 忠陽は竹中の助言を受け、与える情報を精査した。忠陽がエーメンに与えた情報は伏見が警戒するほどの要注意人物、中央街で中華料理屋を開くこと、商売の邪魔するものは全て排除すること、そして、父である忠臣と会いたがっていたこと。


 与えなかった情報はこの劉秀英と軍上層部との繋がりだった。この情報を与えてしまえば、エーメンは軍部とも敵対しかねない状況であり、この街で抗争が始まってしまうと思った。それはなんとしても避けたかった。


 玉嗣からはその目的と危険の度合いを図れる情報と見なされたのか、法西の居場所だけは対価として貰えた。


「賀茂っち、今回は亮ちんもいるからサービスだよー。次はもっとちゃんとした情報がほしいな♪」


 無邪気に言う玉嗣が忠陽は恐ろしかった。


 エーメンから解放されると、太陽が天谷を茜色に染めようとしていた。建物がその茜色を染まるのを見た忠陽は不気味な感覚に襲われる。


「賀茂くん、交渉としてはまずまずといったところだね。星くんが言うように君が何かを隠していることは分かる。恐らく、由美子くんのお兄さんたちと関係しているのだろう?」


 忠陽は思わず顔色を変えてしまった。


「いや、悪かった。聞くのは野暮だね。僕が言いたいのは交渉のテーブルでは常に冷静さを見失いことだ」


 竹中は忠陽の肩に優しく手を置く。


「さて、賀茂くん。法西くんに会うのは君一人で行き給え」


 忠陽は驚いた。


「君が得た情報だ。それに君が法西くんを必要としている。僕が行くと法西くんは警戒するしね。君が彼に協力を得られるように試みるんだ。結果は気にしない。君ができることをやってくるんだ」


「会長……」


「なに、大丈夫。僕はね、君は僕の代わりになれないが、君は不思議な縁を持っていると思っている」


 忠陽は竹中の顔を見ると、いつもの通りの笑顔だっだが、何故か心強かった。


「気休めかもしれないが、占いでは君が行く方角は吉と出ているよ」


「ありがとうございます、会長」

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