第十話 好敵手と書いて友と呼ぶ。
十六
決勝リーグ三日目、午後。学戦リーグ最終戦の最後となるこの日、観戦会場は立ち見で溢れかえり、また運営委員会が作っていた第二会場、野外会場も満員状態であった。運営委員は本会場を翼志館、岐湊高校、並びに出場選手の関係者を優先にし、それ以外の観戦者は抽選という形を取っていた。その抽選会場も一喜一憂し、大盛りあがりを見せていた。
周藤は観戦会場で竹中の姿を見つけると、自分のチームを引き連れて、竹中の隣に座った。
「開始、一時間前だというのに騒がしいな」
竹中は周藤に声を掛けられ、嬉しそうにしていた。
「めずらしいね、君が僕の隣に座るなんて」
「ああ。今日はお前たちに勝てたからな。お前の悔しそうな顔を見たくて仕方がなかったんだ」
絹張がぎょっとした顔になり、即座に周藤を睨みつける。
「絹張……」
隣に座っていた安藤が絹張の肩を掴む。
「僕はさすがだとしか言えないね。黄倉くんの盾を崩すにはやはり力が足りなかった」
「お前の占いとやらはあまり当てにはならないな」
「そのための魯くんだろう? よく、僕の術を研究していた。だけど、そのお陰で改良すべきところがあるのが分かって良かった」
「負け惜しみを」
「それはそうと、絹張くんと母里くんのコンビはどうだったかな? 君を倒すには充分な力を持っていたと思うが」
「まあまあだな」
「そうか、そうか! 気に入ってくれたのか! なんせ、今回はうちの生徒に君が狼狽する顔を二度も見れたんだ。これは勝利に勝る美酒と言ってもいいだろう」
周藤は顔を歪める。
「だが、それで命運を分けたと言ってもいい! お前たちの最大火力である母里を俺が倒したおかげで、黄倉を倒せるものが居なくなった」
「そこは迷ったんだが、君は護と戦うのに慣れているだろう? それに絹張くんと母里くんを成長させたかった。君みたいな高いレベルの術者と戦うのは早々にないからね。確かに僕らには由美子くんがいる。だけど、身内と戦うにはやはり情というのがあってね――」
「情だと? よく言ったものだな。だったら、一日目に神宮たちに負ければ良かっただろうに」
「それは譲れないよ。君だって同じだろう?」
周藤は返す言葉がなく、悔しがっていた。
「それにあの作戦は間違えじゃなかった。絹張くんと母里くんは君をきっちり倒した。君の言う通り母里くんが倒されてしまったのは痛かったが、あのときそれを気にしても意味はない。護も甘利くんをきっちり倒してくれたしね」
「そうであれば、一番の原因はお前だということか」
「そうだね。あの戦いで一番の敗因は僕だ。僕が生き残っていれば勝ちの目はまだあった。今回は君にではなく、魯くんに完敗といったところだ」
竹中の楽しそうな顔が周藤は腹ただしく思った。
「甘利先輩、あの二人、仲が良いんですか?」
亜門は首をかしげて甘利に聞いた。
「見りゃ分かんだろう。めっちゃ、仲良いだろう!」
甘利の回答で、黄倉と魯は吹き出し、笑っていた。
「周藤先輩があんなに手球に取られてるのを見るなんて初めて見たんすけど、それでも会話の中身を考えるとこの二人に仲がいいよなって……」
「そうだね。あの二人は本当に好敵手と書いて、友達だからね」
虎鷹は亜門に言っていた。
「あの二人、意外に似た者同士じゃないんですか?」
黄倉が大声を出して、笑う。
「亜門、それ以上言うな。笑いが止まらんくなる!」
母里も安藤も亜門の言葉が聞こえていたのか、静かに笑っていた。
周藤はそれを苦々しく思っていたが、深呼吸をし、平生を装いながら、竹中に尋ねる。
「午前の結果で俺達のチームとお前たちのチームは得点数は同じ三点となる。午後の部の結果が引き分けだった場合、全チーム三得点となる。その場合のことを考えているのか?」
「考えてはいるよ。……それよりも君の本当の心配事は別でしょう?」
周藤は返答をしなかった。
「――結局、この大会で君も僕も、真を倒すことができなかった。君が本当に心配しているのは、その真を由美子くん達が倒せるかってことだよね?」
周藤は竹中を見ることはせず、メインモニターに映し出されている両チームのメンバー表をじっと見つめている。
「本来なら由美子くんが取るべき作戦は引き分けに持ち込むべきなんだ。そうなると、第一回目にして優勝チームが決まらないというお粗末なことになってしまう。委員会は優勝チームを選ばなければいけないが、彼らの評価はどのチームでも同じだろう。そこで僕や君は運営委員会に全四チームでの戦うことを提案する」
「よく分かっているじゃないか」
「だけど、由美子くんはそんなことを考えていないよ。彼女が引き分けを選んだのはチームエーメン戦のとき、宮袋くんが勝手な行動を取り、その後が危ぶまれたときだけだ。さすがに僕らの前でチームエーメンに負けることはしたくなかっただろうからね。それ以外は確実に勝ちを狙いにいっている」
「なら、勝つ自信があるというのか?」
「由美子くんはそう教育されていないよ。自信とかじゃない。勝つためにどうすればいいか。最後までそれを考えに考える。本当は、僕の予想では由美子くんたちは君たちに負けると思っていた。だけど、彼女は勝ったんだ」
周藤は深い息を鳴らしながら、黙っていた。
「僕はね、僕や君が真を倒すのが想像ができない。それはこれまでの戦いでそういった固定概念が染み付いたのかもしれない。だけど、由美子くんならそれが想像できるんだ」
「何故だ?」
「彼女は僕の概念呪術を壊したんだ」
「それなら魯も同じだろう」
「魯くんは破ったんだ。壊したとは違う。僕はあの時、初めて術者として敗北を知った。怒っていた彼女に言われたよ。たかだが、千年近くの技に、私たちの術が負けるわけないってね。ハッタリだと思うだろう? でも、彼女は僕の奇門遁甲の陣を真正面から一人で壊したんだ。だから、僕は由美子くんが真を倒すイメージができる」
竹中は笑顔でいたが、周藤にはその顔から悔しさが滲みでていることを察した。
「それは神宮一個人だろう。これはチーム戦だ」
「君ももう分かっているはずだよ。あのチームは一癖も二癖もある。僕があのチームのリーダーだったら、ここまでは来れないよ」
「確かにな。氷見や宮袋は俺の言う事など聞かないだろうな」
両チームの全員が頷いている。
「由美子くんはそれをそれなりにまとめている。だけど、一番厄介なのは彼女じゃあない」
「賀茂か」
「彼は冷静に自分ができることをやっている。だけど、彼の感情が高ぶったときの爆発力は他の誰よりも大きい。彼は魯くんよりも先に僕の術を破ったんだ。癖のある人間が多くて、気づきにくいが、本当にあのチームを支えているのは彼かもしれないね」
「神宮も同じようなことを言っていた……」
周藤は由美子に言われたことを思い出し、笑う。
「俺もお前も、もしかすると賀茂にやられたというわけか……」
「そうかもしれないね」
竹中は嬉しそうに笑っていた。
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