第十話 チーム美周郎戦 その三
大地は運搬ボックスから出て、空を見上げる。空は快晴、雲一つない澄み渡ったものだった。大地は笑みを浮かべる。これからやることは由美子のお墨付き。それも敵を倒しても構わないと言われた。今、大地の胸は楽しさで一杯だった。
「おっしゃ! やるぜ!」
大地は辺りを見回す。前方には周藤の影が見え、後ろに甘利の姿が見えた。
「おい、姫さん。たぶん、ゼータスリーに周藤ってやつ見つけた。ほんでもって、俺の担当は俺の後ろにいる。行ってきていいよな?」
「構わないわ。甘利さんはあなたに任せた。倒して来てらっしゃい」
大地の口角が自然と上がる。
「行ってくるぜ!」
大地は走り出す。後先のことは考えない。とにかく今は自分の役目を全うする。
由美子は全体を見回した。自分の位置から北に亜門、南に黄倉、東に周藤が居る。囲まれる形だが、そんなのは関係ない。
「氷見さん、どこの位置にいるの?」
「アルファセブン、たぶんみんなとかなり放れている」
「黄倉さんがガンマシックス辺りにいると思うから、黄倉さんを目指して頂戴。合流は後でも構わない」
「居た! でも、黄倉先輩よりあんたたちに合流したほうがいいんじゃない?」
「必要ないわ。私は今から周藤先輩に向かう。それに釣られて、亜門さんも黄倉さんも合流すると思うから」
「黄倉先輩が甘利先輩と合流する可能性があるんじゃない?」
「そのためにあなたが黄倉さんを追うのよ」
「はあ?」
「氷見さん!」
藤から朝子に通信が入る。
「分かってるよ、藤ちゃん……」
「賀茂くんはどこ?」
「イプシワン。周藤さんと亜門さんが見える」
「なら、周藤さんに奇襲。最序盤だから、成功させたいわね」
「そうだね。やれるだけ、やってみるよ」
「お願いね、賀茂くん」
由美子は走り出す。その足はいつもより軽かった。髪もいつもより纏まりがいい。兄である八雲が髪を解いてもらったときのことを思い出し、笑みが溢れた。
「みんな、行くわよ!」
鞘夏は楽しそうな由美子の通信を聞いて、笑みが溢れる。その姿を見た藤は驚いた。いつも無表情な鞘夏が笑うことが珍しかったからだ。
由美子は魔術で脚力を強化し、周藤へと走り出す。周藤もそれに気づいているのか、二ブロック先だというのに自らの術を展開し、炎を繰り出す。炎はほんの小手調べというように小さな術式で火球を八つ作り出す。由美子はその火球を気にしなかった。一つ、二つ、三つと由美子に当たらないにしても、地面に当たり、爆散し、その場所の土を掘り起こす。由美子は足場を取られることなく、小さな欠片に魔力で強化した足を乗せ、反動を作り、前へと進む。その魔力の使い方とさらにスピードが上がることを周藤は驚く。由美子が近距離戦に入った瞬間、自身の身体に炎を纏わりつかせ、防御態勢に入る。由美子はそれを気にすることになく、殴りつける。その威力に周藤は顔を歪ませた。身体は後方へと押され、呪力を足に集中し、踏みとどまった。
「神宮選手、周藤選手にまっすぐ向かい、殴りつけた!! 周藤選手は炎を纏わりつかせて、防御態勢を取るも、押されてしまった!」
会場から驚きの声が上がる。
「呪術だけはなく、体術にも心得があるとは流石と言うべきか……」
周藤は炎を消し、体制を整えた。
「褒め頂きありがとうございます。ですが、その魅了の力が無くなるまでその顔を殴って差し上げても構いませんが」
周藤はその物言いに苛立ちを覚えつつ、自分に冷静になるようと言い聞かせる。
「令嬢というもにはお転婆な奴が多いというが、これはじゃじゃ馬と言えるだろうな」
「仰るとおりですが、何か?」
由美子は再び、間合いを詰めようとしたとき、周藤は印を結び、さっきよりも濃密な呪力で周囲に炎を発生させる。
「私は拳で語るようなことは好まない。さあ、呪術比べといこうか」
「それなら、私よりももっと上手な人が居ますよ」
周藤は後ろからかすかに漏れた呪力の殺気に気づく。そこから石礫が飛んできた。忠陽の攻撃だと判断はできるが、その姿を見えない。周藤は自らの炎を出力上げ、石礫を溶かす。
「その程度の攻撃が当たると思うのか?」
周藤は由美子の方へ向き直ると、由美子は弓を引いていた。その弦音が響き渡ると、周藤が纏っていた炎が消え、忠陽が姿を表す。その瞬間、忠陽から風の刃が放たれる。その速さに周藤は防御態勢を取れることもなく、周藤が見つけていた呪防具が危険と判断し、呪防壁を展開した。
「速くも周藤選手の呪防壁が発動した!」
芹子はその光景に目を瞠り、叫んだ。
「ほら見ろよ」
八雲のドヤ顔に総将は苦い顔をしながらも、言い返した。
「今のは呪術戦だろうが」
周藤が呪防壁で身動きが取れない中、由美子は側面から殺気を感じる。亜門があと数十歩に迫っており、刃がない鉤鎌刀を構えていた。由美子は弓を消して、長棒を作り出し、その攻撃を受けようとしたが、周藤が亜門に叫ぶ。
「亜門、それは誘いだ!」
亜門は後数歩の所で動きを止め、すぐにその場から動く。周藤の読み通り、姿を消した忠陽から石粒でが放れたれていた。それを見た亜門は深く息を吐き、周囲を警戒する。
「流石ですね、周藤さん」
「嫌な連携だ。君と賀茂の連携はチームの中で最も厄介な連携だとわかっていたが、間近で見るとここまでとはな」
「それなら、もう一度受けて頂けませんか?」
「それはできない相談だ」
由美子は空中からの影が大きくなることが分かり、空見上げる。そこには筋骨隆々の黄倉が空高く舞い上がり、自分の身長の半分くらいの長さで、専用武器としか言い表せないほどの太い自慢の棍棒を叩きつけようとしていた。
「もらったぜ、神宮!」
由美子は魔力で強化し、その場から離れようとしたが、亜門が先に動いており、逃げ道をなくそうとしていた。
忠陽は由美子の援護のため、亜門に石礫を放つ。亜門の足止めは成功するも、周藤に居場所がバレてしまった。
「そこか、賀茂!」
周藤は広範囲の炎を放ち、忠陽が亜門と黄倉に近づけないようしていた。
亜門は足止めされたが、それは一時的な事ですぐに由美子へと向かっていた。由美子は呪防壁を頭上へと展開し、亜門に対しては呪術を放とうとしていた。そこへ由美子の身体に鞭が巻き付く。巻き付いた鞭は由美子の身体を引っ張り、亜門と黄倉から由美子を取り上げた。
「なんだ、それは!」
黄倉は怒りを放つ同時に、由美子が作った呪防壁ごと、地面を叩き割る。地面には地響きが走り、亜門でさえもその場に転げていた。
「黄倉先輩!」
「おう、すまん、スマン! つい怒りのあまり……」
黄倉は鞭に引っ張られた方向を見ると、そこには朝子が居た。
「ごめん、遅れて。黄倉先輩、かなり速くて追いつけなかった」
「もっと優しく助けてよね!」
由美子の怒りに朝子は口を尖らせる。
「神宮さん、今のは褒めるべきよ!」
「そうだよ、由美子! 朝子、ナイス!」
「そうです、ゆみさん」
「鞘夏まで!!」
朝子は由美子を鼻で笑った。その姿が由美子には腹正しかった。
朝子は周りを見ると、賀茂姿見えないことに気づく。
「賀茂は?」
「ここにいるよ」
忠陽は亜門から少し放れた距離にいた。
黄倉は自分の拳をぶつけ、歯を見せる。
「ようし、三対三だ。これから楽しくなりそうだな」
「賀茂が姿を消していたら、周囲に注意しろ」
「分かってますよ、周藤先輩!」
周藤たちは構えた。
「周藤さんから一点は取ったわ。こっちが優勢よ。各自、事前に話した通りやるわよ」
朝子は迷わず、総将から貰った警棒を抜く。
「分かってるわよ。指図しないで」
「二人共、もう少し仲良く……」
「煩い! 分かってるわよ」
「賀茂くん、一々言わないでよ!」
忠陽は口を閉ざした。その光景を見て、黄倉が大笑いする。
「賀茂、てめえ、尻に敷かれてんな」
「ですね。賀茂、お前大変だな!」
「欣司、亜門。そう言ってやるな。相手はかなりのじゃじゃ馬だぞ。あれで賀茂は上手くやっているほうだ」
その言葉に由美子も朝子も頭に血が登りそうだった。
「あの……二人共……」
「分かってるわよ。冷静にでしょう!?」
「挑発だとしても、その言葉、後悔させてあげるわ!」
朝子と由美子は周藤を睨んでいた。
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