第十話 チーム美周郎戦 その二
演習場、平地A。皇国陸軍庁舎近くにある演習場だった。今回試合数の関係上、もう一つ演習場が必要なため、皇国陸軍から借り受けた場所であった。
作戦室では大地はいつもどおり行儀悪く座っていた。何も言わず、本予選最終戦を出なかったというのに悪びれることもなかった。むしろ、忠陽たちはそのことを責めるということはしなかった。これは眼の前の問題がより大きいこともあったが、今更大地に言っても仕方ないというのもある。
「それじゃあ、始めるわよ」
由美子の呼びかけに忠陽たちは頷く。
「今日の作戦は、各人が一人倒すことになるわ。まず、それぞれ自分の相手を覚えて頂戴。私は周藤さん、氷見さんは黄倉さん、賀茂くんは亜門さん、そして、宮袋くんは甘利さん。この中でタッグを組むことになるのは私と氷見さんと賀茂くんになるわ。宮袋くんはあなたが好きな一対一をして貰う」
大地は手を上げる。
「なあ、なんで俺だけなんだ?」
「簡単よ。甘利さんが、あなたと同じタイプだからよ」
典子や忠陽、藤も笑っていた。
「笑うな!」
大地は腕組みしながら机に足を乗せた。
「そう、不機嫌にならないで。甘利さんを遠ざけるのは相手チーム一番のアタッカーと周藤さんの炎術の連携を引き離すためよ。あなたは私達の中でタフだし、ちょっとじゃあそっとじゃあヤラれない。あなたは私達の盾でもある」
大地はそう言われ、満更でもない様子だった。
「あなたが踏ん張っている間に私達は周藤さんたちから優位を取る。優位を取るためのウィークポイントは亜門さんよ! そこは氷見さんと賀茂くんが連携して、相手の隙を狙ってね」
忠陽と朝子は頷く。
「姫さんは周藤ってやつ専属か?」
大地の問に由美子は頷く。
「なんだよ、結局は美味しい所は自分で持っていくんだな」
「こら、大地!」
典子は声を上げる。
「じゃあ、代わってくれる? 私はどっちでも良いけど」
「止めときなよ。あんたはお姫様みたいに頭がいいわけじゃないんだから」
「なんだと、てめえ!」
朝子の挑発に大地は立ち上がる。
「だいたい、このぐらい挑発に乗るんだから無理よ。相手は炎使いで拳法レベルは達人級、それに頭も良い。真正面で向かっていくと簡単にヤラれるわよ。相性が悪いに決まってる」
大地は朝子の一言に悔しながらも引き下がった。
「ありがとう、氷見さん。私の気持ちを代弁してくれて」
由美子の一言に大地はさらにつまんなそうな顔をした。
「正直、私でも周藤さんに勝てるかは分からない。私達三人は状況を見つつ、動きを変える必要があると思うわ。宮袋くんには負担を強いるのは申し訳ないと思っている」
作戦室内に重い空気が流れる。
「おい、姫さん。一つだけ言っておきたいんだが良いか?」
「なに?」
「別に、倒してしまっても良いんだろう?」
由美子は微笑む。
「ええ。一向にかまわないわよ」
忠陽は手を上げた。それに皆が忠陽を見る。
「何? 賀茂くん」
「神宮さん、僕もいいんでしょう?」
作戦室には楽しそうな空気へと変わっていった。
観戦会場は満員御礼であり、第二会場、野外ともに立ち見席が置きている。今回は昨日、チーム臥竜との一戦を聞きつけ、島中の生徒たちが押し寄せているらしい。試合はまだ始まっていないというのに、ガヤガヤと騒然となっていた。
その会場を見て、鴨沢芹子は満面な笑みを浮かべていた。身長は一六〇センチ前半と女性としては高身長かつスレンダーな体系で、モデルをしてても可笑しくない存在だった。その長い髪をかき分けて、会場を一望する。
『この会場の盛り上がりは自分を売り込むチャンス! 一瞬でもいい所を見せれば、それは次に繋がるパフォーマンスとなる。ここでやらず、いつやるの、芹子? 今でしょ~う!? 私の一言でこの会場を魅了させてやるのよ!』
芹子は立ち上がり、人に媚びるような可愛らしい声を出した。
「ふぁああああああい! それじゃあ行くよ? いつでも皆は?」
会場ではまばらに声が返ってくる。
「あいらぶ、セリちゃ~~~ん!」
芹子はその盛り上がりに、苦笑いをしながら、いつものルーティンを進める。
「プリズマの愛されキャラ、セリちゃんこと鴨沢芹子でぇーーす」
芹子を褒め称える声が聞こえてくる。芹子は負けじと会場に聞く。
「うわぁあ! すごい! 皆、芹子に会いたかったですか~??」
会いたかったと帰す人間がまばらに居た。
「会いたかった。本当に会いたかった? 今日は私のライブじゃないけど、私は、今日は私のライブに来てくれたと思ってます。だから、会場の皆は私のことしっかり見逃さないでね☆」
甘えた声に会場の一部の人間が芹子の方を向く。
「よろしくお願いしま~~す」
芹子は笑みを浮かべながら、座る。
その姿に総将は苦い顔をしていた。
「それでは、昨日に続きますが、解説者のお二人をご紹介します。奥の方から皇国陸軍第一師団、第一呪術特科大隊、第二中隊長の佐伯三佐でぇぇーす!」
総将は頭を下げる。
「私のお隣に座っているのが、皇国陸軍第八師団、特殊呪術連隊、第一中隊、第一小隊隊長の遠矢八雲二尉です♡」
「どうも!」
「今日はお二人に昨日に引き続き、解説してもらいますが、ごめんなさい♡」
総将はそのぶりっ子ぶりにこのような人間がいるのかと疑うくらいだった。
「お二人を含め、この会場の皆が芹子押しになるかも……」
「うわぁ。それは凄い! 俺も鴨沢さんの押しになるの?」
八雲はわざとらしく返答をする。
「芹子って呼んでください。そのときは許してください、ね♡」
八雲はそのわざとらしさにも可愛さが感じられ、朗らかな顔をになる。総将は反対にため息をついていた。
「それでは今回の対戦相手と場所を紹介したいと思いまーす」
芹子は端末を使い、メインモニターに演習場平地Aを示した。
「場所は皇国陸軍の演習場を借り受けた平地A。私達学生には馴染のない場所になります。ただ、ほとんど遮蔽物はなく、戦いが始まったと同時に敵が視認できます。そのため、チーム同士の地力が反映される場所でもあります」
次に芹子はメインモニターに対戦チーム同士のステータスを示す。
「対戦カードは東郷高校生徒会長、周藤選手率いるチーム美周郎と、一年生だけで構成され、決勝リーグまで勝ち残ってきたチーム五芒星。チーム美周郎は学戦でも一線級でもある炎術使いの周藤選手、その右腕として活躍する黄倉選手、この大会でも物理アタッカーで上位の能力値を叩き出している甘利選手と、優勝候補筆頭のチームでもあります。昨日のチーム武帝との戦いでは、最終的に引き分けとなってしましましたが、攻撃特化のチーム美周郎と防御特化のチーム武帝ならでは戦い方を見せていました。解説をされていたお二人からしてチーム美周郎はいかがでしょうか」
八雲は総将を見る。総将はため息をつきながら、話しだした。
「学生レベルという意味ではチーム美周郎はこの大会で一、二位の攻撃力を誇るチームなのは確かだ。昨日は負けない戦いを意識していたせいか、その攻撃力に翳りが出ていたことは否めない。相手が防御特化のチームの場合、攻撃側の不利がある。一番は攻勢の限界点だ。攻撃はいつまでも続くわけではない。その部隊のスタミナが有り、それが切れてしまったら、敵側は専守防衛から積極的な防勢へと転じ、戦力を削るために攻撃側へ逆に攻撃を行う。昨日はそれを狙われてしまったという感じだったな。最初に魯を失ったことは大きい。相手のチームが強い分、周藤や黄倉は眼の前にいる人間に集中する必要がある。その中で全体的なことを管理できる魯が落とされたのは痛いところだったが、黄倉の鉄壁のお陰でなんとか持ち直し、早期に松前を倒したことでイーブンに持っていたのは良かった」
「まあ、その後は互いの意図が裏目に出て、最終的には周藤と武が残ったわけだけど、お互い、勝ちを意識してか間合いの取り方が鬼ごっこみたいになっていたけどな」
八雲がつまんなそうに言った。
「それは仕方ないだろう。だが、そこから互いの決着点を理解し、引き際が潔かったのは良かっただろう」
「そんなものか?」
「お前はもう少し全体的な事を考えろ」
芹子は二人の様子に苦笑いしていた。
「続きまして、チーム五芒星ですが、一年生だけのチームとしては大躍進のチームです。運だけかと周りに言われているチームでも有りましたが、昨日はチーム臥竜戦でもあと一歩というところまで来ていました。お二人からしてチーム五芒星はいかがでしょうか?」
「何と言っても、俺の最オシであるゆみがいるからな!」
「確か、神宮選手と遠矢二尉は御兄妹でしたよね?」
「ゆみちゃんは可愛いぞ。みんな、押してくれな!」
総将はまたため息をつく。
「そういうことを聞いてるんじゃないだろう。チーム五芒星は他の決勝リーグに進んだチームと比べて爪の甘いチームでもある。だが、決勝リーグを進んだチームの中では一番ポテンシャルを秘めているチームだ。昨日はチーム臥竜の竹中の策略に完全に嵌まった状況の中で、あれだけひっくり返すことができたのは良い点だろう。攻撃力としてはチーム美周郎と比べても遜色はないだろう」
「ということは、今回の戦いは、血と汗が混じる肉弾戦になるかもしれませんね?」
「必ずとは言い切れない」
「何故ですか? 攻撃力が強い同士の戦いだと想像してしまいますが……」
「チーム美周郎は各人が持っているもの攻撃力が高いが、チームが五芒星は限定的な要素が絡んでいる。八雲妹は遠距離、単独的な行動であれば恐らくはこの大会でトップクラスだ。だが、周りに味方がいると味方の攻撃も半減させる可能性を秘めているから、昨日みたいな戦い方はできない」
「おれのゆみを悪く言うな!」
総将は無視しながら話を続けた。
「賀茂はその攻撃力は他人に依存する。隠密性はこの大会でトップクラスだろう。不意打ち、罠による攻撃を得意とするが、一対一で戦うとその力は半減する。今回のチーム戦で最も狙われやすい存在だ」
「確かになー。賀茂の場合、自分の味方の攻撃に対して合わせることによる追加攻撃だったり、不意打ちを前提とした攻撃が多いからな」
芹子はその言い方に悪意があるように感じた。
「氷見はその攻撃力が安定しない。体調にも寄るんだろうが、安定した甘利や黄倉に対してはキツイ戦いを強いられるだろう」
八雲は頷いていた。
「それではチーム五芒星はこの前みたいな防御陣地を作成するかもしれないのでしょうか?」
「それはないだろうな。恐らく、チーム五芒星は打って出るだろう」
「そ、そうなんですか? で、でも、それだと勝ち目はないのでは?」
「防御陣地を作ることはいいだろうが、今回、相手には周藤のような強力な術者がいる。だから、防御陣地はすぐに壊される。また、黄倉はチームとしての盾になる。黄倉を盾として戦えば陣地での有利が少なくなり、時期壊されるだろう。それを考えると、チーム五芒星に残ったのは打って出るだろうことしかない」
「先ほどは肉弾戦に対しては必ずしもそうはならないと仰っていました。打って出るというのは肉弾戦になると私は思うのですが、他に何があるのですか?」
「呪術戦だ」
「呪術?」
「今回のチーム美周郎のチーム表を見ると、魯の代わりに亜門を入れた物理特化型になる。チーム五芒星に一つだけ優位が有るとしたら、呪術くらいだ。恐らく八雲妹は周藤を抑えることに専念をすることになる。これは両者の既定路線だろう。他の仲間がいかに戦況を優位にもっていくかが重要だ。その場合仕掛けるのは肉弾戦ではなく、賀茂と宮袋を中心とした呪術戦が一番いいように思える」
「そうか? 俺だったら、宮袋は甘利にぶつけてやるぜ。あいつらは肉弾戦でも必ず勝てる」
「なら、聞くが、そのとき氷見と賀茂で黄倉と亜門をどうやって倒す?」
「賀茂がなんとかするだろう。あいつにはなんかしてくれるっていう感じがあんだろう?」
「お前な……」
「お二人の解説は気になるところですが、お時間になりましたので、カウントダウンに入りたいと思います」
芹子は苦笑いしながらもカウントダウンに入る。会場も一緒になって声を出し始めた。
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