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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城


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第十話 神宮としての戦い

 忠陽は運搬ボックスから出ると、廃墟群が立ち並ぶのが見える。天候が曇りでもあってか、不気味にも感じた。そして、なぜかいつも以上に心音が大きく聞こえる。


「賀茂くん、索敵お願い!」


 由美子の指示どおり、忠陽は式符を空にばら撒き、大量の烏を生み出す。烏は空に撒い、その目を借りて、敵の位置を確認する。


「安藤先輩がベータフォー。母里先輩がデルタシックス。僕の方向に向かってる。竹中先輩は……」


 忠陽は他の式の目で見ようとした時、目眩がした。その式が地表へと落ちていくのが分かる。忠陽は、思わず声を上げ、すぐに感覚を切った。


「賀茂くん!? 大丈夫?」


「大丈夫……。でも、おかしいんだ。索敵ができない」


 それと同時に辺りに霧が立ち込めてきた。


「霧……。賀茂くん、霧が見える?」


「うん、見えるよ」


「鞘夏、氷見さんは」


「どうなってるのこれ?」


「はい、確認できます」


 由美子はその時点でヤラれたと思った。何かは分からないがチームとしての目を塞がれた。


「賀茂くん、すぐにそこから移動しなさい。私は今イータセカンドに居る。鞘夏は?」


「アルファセカンドにいます」


「氷見さんは?」


「私はイータセブン……霧が濃くなってるんだけど……」


「四人とも落ち着きなさい。皆で一旦合流をしたほうがいいわ。全員、時間を掛けてもいい。まずはゼータファイブを目指して合流するのはどう?」


 藤が全員に呼びかける。それに各自が分かったと返事をする。


「藤ちゃん、これって……」


「外じゃあ、霧になってないよ」


 典子が作戦室に戻って来た。


「十中八九、竹中くんの策略ね」


 観戦会場でもまばらに声が上がる。


「この霧は何でしょうか。確かに天候はよく有りませんが、さっきまで演習場付近で霧が出ていることなんてこと有りませんでした。一体どういうことでしょう」


 総将は自分の剃り切れなかった顎髭を触る。


「まあ、術だろうな……」


「そんなことは会場の人間も分かってる」


 総将の指摘に八雲は眉間に皺を寄せる。


「そ、そうですね。佐伯三佐は誰のだと思われますか?」


「恐らくは竹中だろうな」


 周藤(すどう)(おろか)は頷いた。


「天野川流兵法の奇門遁甲式占術の陣を使うと思っていた。だが、これはそれには当たらない。天候を操る術は有るが、天野川流にそういうものがあるとは聞いたことがない。恐らくはオリジナル……。結界術に近いものだな」


「では、今のところ、その術が正確には何なのか分からないというわけですね」


「ああ」


「会場の皆様もこの竹中選手が仕掛けた術が何なのか、考えてみましょう」


 由美子は藤の言う通り、ゼータファイブを目指していた。霧は濃くなり、一ブロック進むにも周りを警戒して進まなければいけない。由美子がちょうどゼータフォーに差し掛かったときに、呼びかける声が聞こえた。


「さあ、由美子くん、術比べといこうか」


 由美子は長棒を作り出し、とっさに構えるもその声がどこからしているのか分からなかった。


「どうしたんだい? 君の浄化の力を使ったらどうだい?」


 由美子は口を閉ざし、周りを警戒する。


「出来ないということだね」


 その瞬間、魔銃が放たれる音がした。由美子はとっさに呪防壁を作り、急所を守り、弾を遮った。


「僕だけが一方的に話もつまらない。この独白には呪いなんて込めていないと保証するよ」


 由美子はそれでも黙ったままだった。


 急に突風が吹き、由美子は目にゴミが入らないように目を塞いでしまった。その後、ゼータファイブ向かったが、葉に呼び止められる。


「由美子、そっちの方向に行くと戻っちゃうよ。反対だよ」


「えっ?」


「だから、そっち方向はゼータスリーに行っちゃうよ」


 由美子は周りを見る。だが、霧で辺りの視界が見えず、そして建物も似たものしかなく、何が正しいのか分からなかった。由美子が言われた通りに反対の方向を目指すとまた葉に呼び止められる。


「その方向はイプシフォーに行っちゃう。南の方角だよ、由美子……」


「葉さん、その南の方角が分からないの……」


 藤はその異変に気づき、忠陽たちの動きを見る。


「氷見さん、あなた、元の位置に戻ろとしているわ」


「そんなことないよ、藤ちゃん。私ずっとまっすぐ向かってるよ!」


「ちょっと、止まりなさい。神宮さん、今の話聞いた?」


「はい。方向感覚が狂ってます……」


「これって……」


「竹中先輩の術中に嵌まっていますね……。賀茂くんが式で索敵できなかった理由は方向感覚を狂わせられていたから……。賀茂くん!」


「たぶん、妖術に近いものだと思う。でも妖術は人間には出来ないよ。だったら、これは……」


「結界術……なら!」


 由美子は長棒を消し去り、弓の弦を引く。弦は音を鳴らし、周囲の霧が晴れるのが見えた。だが、次第にその霧に包まれていく。その中で由美子は辺りを見回すと、自分がチーム臥竜の面々に囲まれていることに気づく。


「うん、君の浄化の力を確認できたよ。一ブロック以内だね。それでも凄い力だ。流石は神宮。でも、分かってる思うが、君は僕らに囲まれている」


 由美子はすぐに走り出した。それを逃さず、銃弾が由美子に襲いかかる。由美子は呪防壁を展開するも、腕に当たり、弓を手放してしまった。そこへ伸びた水刃が襲いかかる。由美子は長棒を作り出し、その刃を受けるが、その威力は強くそのまま壁に叩きつけられる。壁際で見えたは母里の剛撃一閃だった。


「悪いな、神宮。それでも俺は勝つために戦う!」


 母里の剛撃は壁を壊し、由美子を建物の内側に吹き飛ばす。安全のため、由美子の呪具が呪防壁を発動した。


 呪防壁の中で由美子は息を整える。その一撃は重く、呼吸をするのにもやっとだった。


「神宮さん! 神宮さん! どうしたの、神宮さん!」


 藤の呼びかけに由美子は苦しいながらも答えた。


「き、聞こえます。四人に、囲まれました。私は、時間の、問題です……」


「神宮さん、今どこにいるの!?」


 由美子は忠陽の声が頼もしく思った。


「来ちゃ、駄目。相手は、完璧に、私達を分断させている。私に構ってないで、自分の身を守りなさい」


「何言ってのよ! どこに居るかを教えなさいよ」


「教えても無駄。敵は方向感覚を狂わせてる。私のもとにはたどり着けない」


「巫山戯んな! あんた負けを認めるの!?」


「鞘夏……賀茂くんをお願い。あなたなら、辿り着けるでしょう?」


「……はい」


「神宮さん!」


「氷見さん」


「次はあなた。できるだけ、一人でもいいから減らしなさい。捨て身よ。見えたものから潰しなさい!」


 由美子は呪防壁が解けると、深呼吸をし、眼の前にいる母里を見据える。


「いい眼だ。そういう眼は好きだぜ」


 由美子は再度弓を作り出した。


「この距離で遠距離攻撃が効くと思ってるのか?」


「私を……誰だと思っているんですか?」


 母里は首を傾げる。


「私は神宮よ! あなた達に簡単にヤラれるつもりは、ない!」


 由美子が弦を掛けると同時に、母里は槍を振り下ろしていた。


「陣風!」


 弦の音が広がると周囲の霧が晴れる。それ同時に母里に目掛けて急激に風が吹き荒れ、渦を撒いて母里を吹き飛ばす。


 母里はその攻撃を受け、呪防具の呪防壁が発動する。


「兵介、何やってるのよ!」


 母里のフォローのため、由美子がいる建物に近づこうとする。


「馬鹿野郎! 今、あいつに近づくな!」


「閃電!」


 また、弦の音が聞こえ、辺りの霧を晴らす。それとともに黄色い無数の矢が母里たちに襲いかかる。絹張は水の盾を作りだし、防御しようとしするも、その矢は電気を帯びており、絹張を感電させた。声にならない痛みが走り、絹張の呪防具の呪防壁を発動させた。


「おいおい、これは……」


 安藤は由美子の後ろに回りながら、息を飲む。


「虎の尾を踏んだみたいだね」


 竹中は由美子の勇姿に見惚れていた。


「す、凄い! 凄いぞ! 神宮選手! 形勢を逆転したか!? 自身の呪防壁を一度発動させてるが、立て続けに母里選手と絹張選手の呪防壁を発動させた」


 観戦会場でも声が上がる。


「あれ、キレてるな……」


「キレてる?」


 八雲の言葉に麻希は反応する。


「まあ、ここで終わるなら所詮、神宮もそこまでだったというわけだが、さすがに簡単には終わらないな」


 八雲は苛立ちを覚える。


「おい、それは俺に対しても喧嘩を売ってんのか?」


「当たり前だろう」


「あのお二人とも、今は喧嘩は……。で、ですが、依然として神宮選手は四人囲まれています。危機的状況は変わりませんが、何故神宮選手は逃げないんでしょうか?」


「逃げても意味がないからだよ」


 八雲は端的に答えた。


「で、でも、逃げて味方と合流すればまだ勝ち目がありますよ?」


「八雲の言う通り、この場合、逃げても意味はない。相手に囲まれている時点で、八雲妹の負けだ。それは本人も分かっている。だが、このゲームではチーム全体の負けにはならない。それなら取る方法は一つ。相手の数を減らす」


「もう、ゆみの中では何も考えなくていいから、逆に戦いやすいだろうな。眼の前の相手を一人でも多く倒せばいいんだもん」


「な、なるほど……。神宮選手は暴れたい放題やってもいいってわけですね?」


「お! いいね、それ。ゆみに似合ってるかも」


「だな……」


「はい?」


 麻希は二人の意見に疑問を持った。


「で、お前はあの術は何か分かったのかよ? 弦の音でワンブロックぐらい霧が晴れるってことは術なんだろう?」


「恐らくは石陣八陣だろうな」


「石陣八陣?」


 麻希は首を傾げる。


「ってことは陣ってこと?」


「ああ。だが、霧は補助的な天候術だろう。それでもこれほどの規模であれば術者としては一人前と言える」


「石陣八陣ってなんだよ? そもそも、石ねえじゃん!」


 総将は舌打ちをする。


「お前が質問してどうする……」


 麻希は苦笑いしていた。


「その石陣八陣って何ですか? 佐伯三佐」


「石陣八陣というのは古来中華で使われた陣立ての一つだ。その効果は方位を失わせる」


「方位? 東西南北の方位ですか?」


「そうだ。氷見と賀茂が動いているのに未だに同じエリアから動けていないのはそのせいだ」


「そうですね、氷見選手、賀茂選手は同じエリアから動けていません。真堂選手だけは動けているので、確実に方位を見失っていないようですが……」


「真堂か……」


 八雲の反応に麻希は気になり、質問する。


「何かあるんですか?」


「いや、なんでもない」


「あの、佐伯三佐。先程、遠矢二尉が仰っていましたが確かに石は有りません。なのにその陣が使えるのですか?」


「石なら似たようものがある。建物だ」


「鉄筋コンクリートですか?」


「ああ。竹中は石陣八陣の故事に習い、あの建物を石陣とし、そこに八つをポイントとして陣を立てている。食えないやつだ」


 総将の言葉に周藤と真は頷く。


「なら、どうすればいいのでしょうか。八つのポイントを壊すというのが正解でしょうか?」


「その通りだ。だが、これだけ建物が立っていれば、すぐにポイントを移せば、壊す意味が無くなる。故にやるべきことは――」


「眼の前の敵を倒すだけ!」


 八雲の回答に総将は頷いた。


「由美子、一旦退こう! 今なら、逃げられるよ!」


「そんなの意味がない。私ができることは一人でも多く減らすことよ!」


 朝子は後ろに安藤が回っているのに気付いた。建物から出て、すぐに天井に弓を向ける。


「そうはさせないぜ」


 安藤は由美子に弾丸を放つ。その弾丸は由美子を包囲するように広角に広がった。


「流星!」


 由美子は天高く矢を打ち上げた。それと同時に、霧を晴らし、弾丸さえも消してしまった。


「おいおい、そんなの無しだろ!?」


 ちょうどそのときに母里と絹張の呪防壁が解けた。


「皆、建物中に入るんだ!」


 竹中の無線で、母里は動こうとしたが、絹張が電撃で痺れて動けないのが見えた。


「何やってんだ!」


 母里は絹張を抱えて、建物中に入ると、空から無数の矢が降り注ぐ。


「うそでしょう……」


 その技の多彩さに絹張は呆然とするだけだった。


「しっかりしろ! 勝つんだろ!」


 母里にそう言われ、絹張は首を振る。


「神宮由美子は!」


「こっちだよ!」


 隣の建物でコンクリートが割れる音がする。


「おいおい、こいつやべえぞ。近接戦闘までできるのかよ!」


 安藤は銃を持ちながら、由美子の近接戦闘から逃げていた。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 由美子が繰り出す拳はさっきまでの試合が始まる前までの優雅な女の子が繰り出すものではなく、その気迫には殺意が込められている。


「亮! なんとかしてくれ! こいつ、手に負えなくなるぞ!」


「そうだね、陣立てを切り替えよう」


 竹中は手で一拍し、更にもう一度手を一拍すると竹中から円形の紋様が広がり始める。


「さあ、奇門遁甲の陣で行くよ」


「助かる」


 安藤は無線で竹中にお礼を言うと、銃を捨てて由美子に向かった。


「残念だ、由美子くん。その攻撃は凶と出た。君の攻撃は当たらない」


 安藤は紙一重で避け、由美子の顔にカウンターで殴りつけた。由美子は頭がグラッとし、意識を失いかけたが、背後で母里の気配に気づき、すぐに動いた。母里の剛撃を間一髪で避けた由美子はふらつきながらも、建物から出ようとした。


「絹張くん。そこの位置は吉と出た。君の攻撃は絶対に当たる」


 絹張は水で無数の弾を作り出し、放った。放った瞬間、由美子は現れた。


 由美子は咄嗟だったが、眼の前に呪防壁を展開する。散弾の数は多く、呪防壁ごと由美子を通りへと押し出した。


 そこにはニコニコと笑っている竹中が居た。


 由美子はその男に嫌悪し、睨みつけ、弓を作り出す。


「やはり、君を最初に潰して正解だ。ここまで戦えるとは思っていなかったよ」


「見くびらないで貰えますか。神宮の名はそんなに安くない」


「さすがは名家だよ。その言葉すら君たちを強くする概念呪術というわけか」


「たかだが、千年近くの技に、私たちの術が負けるわけない」


「だが、君はもう包囲されている。石陣八陣を今は解いているが、君は僕の奇門遁甲の陣に入っている。きみの攻撃は誰にも当たらない」


「当たらない? そんな誰が決めたんですか?」


「この世界だ。それを知らないわけないだろう?」


 由美子は小さく笑い、徐々に高らかに笑った。


「たかだか占いごときあやふやな術で、私達の術が負けるとでも思っているの?」


「お前!」


 絹張は近づこうとする。


「絹張くん、君は彼女に近づいたら駄目だ」


 絹張は足を止める。


「だが、君はもう終わりだ。僕らの位置は吉と出た。君、攻撃は僕らには当たらない」


「下らないわね、あなたの術。所詮、痛みを羨わないまやかしの術よ。今回は私が負けたのは認めてあげる。だけど、私達の術は! あなたの術なんかに負けない!」


 由美子は弓を引き、竹中に向ける。


「残念だが、その位置は凶だ。僕らには当たらない」


 由美子の射形に絹張だけは何か悪寒を感じた。あれだけ豪語することもさりながら、どうしても彼女の言葉が気になっていた。それは私達の術ということだ。それに絹張は動かされていた。


「お前はいい女だ! だが、今回は俺達が勝たせてもらう!」


 母里は槍を振りかぶる。


「悪いな、神宮。俺達には俺達の戦い方があるんでな」


 安藤はスペアの銃を取り出し、由美子に向けて放った。


「さて、由美子くん。これでようやく詰みだ」


 由美子は目を閉じ、暗闇の中で自分が放つ矢が竹中に当たるイメージを強く刻む。再度、目を見開く。そこにはさっき自分が描いたイメージが現像となっていた。


「喰らいなさい!」


 由美子が矢を放った時、荒々しい弦の音が響き渡る。その音はこの島中に轟く勢いだった。


 弦の音を聞いた安藤と母里はその轟音に動きが止められてしまった。


「言ったはずだよ。その矢は僕には届かない」


 矢の速さは人が見えるものでなかった。その中で、竹中の前に絹張は立ち、自分の呪力を最大限に作った呪防壁を張った。その呪防壁は一瞬にして貫通し、さらに絹張を守るための呪防具の呪防壁をさえも瞬時に貫通する。そこで弾道が逸れ、竹中までには至らなかった。


 由美子はその事実に唇を噛む。そして、体制を整えた母里の剛撃一閃を由美子は防御せず、呪防具が呪防壁を張り、その攻撃を受け止めた。由美子は戦闘不能状態と判定された。

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