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呪賦ナイル YA  作者: 城山古城
192/210

第十話 チーム臥竜戦 再び

 十三


 決勝リーグ一日目、午後。


 天候は曇りと暗雲立ち込めるような空気だった。


 観戦会場は午前中の戦いで大盛りあがりであり、満員御礼とも呼べる状態だった。そのため、統括本部はプリズマに用意した第二会場も学生に向けて開放し、それでも収まりきれない状況に野外に観戦会場を急遽設営していた。


 午前中はチーム美周郎対チーム武帝。本予選リーグでの戦いとは違い、両者とも一歩も譲らない状態であり、最後は周藤と武の一騎打ちになるが、決着には至らず、引き分けとなっていた。観客もその戦いの激しさに驚き、一進一退の攻防戦に歓声を上げていた。


 そのボルテージは冷めず、観戦会場にいる人間はその場に残りながら、午後の部を待つ人間が多かった。事態を見た統括本部は強制的に退場させ、時間になったら集まるようにと注意をするも学生たちからブーイングが怒る始末だった。


 朝子は演習会場である市街地Cに集合時間の二十分前に着いていた。そこには何故か由美子がもういたのだ。


「速いじゃない、お姫様……」


「あなたもね……」


 由美子はそのまま黙ってしまった。朝子もなんて言葉をかければいいか分からず、他の人を待っていた。


 そこへチーム臥竜の面々がやってきた。細めで笑みを浮かべているメガネの生徒会長の竹中は由美子に近づく。


「やあ、由美子くん。今日はあいにくの天気だね」


「これも会長の占いのおかげですか?」


「そこまではできないさ」


「お早いお着きですけど、どうされるんですか?」


「神宮由美子!」


 絹張が大声を上げる。今にも由美子に食ってかかろうとしている絹張を見て、朝子はムッとなった。


「やめろ、絹張。ここで戦ってもしょうがないだろう」


 安藤は絹張を後ろへと引っ張る。


「お前らのチームは現地集合なのか?」


「はい。その方が私達らしいので」


 安藤は困ったという顔をしていた。


「まあまあ、由美子くん。そう不安がらないでくれたまえ」


「不安? なんでですか?」


「そうだね。君たちを見るに、集合時間からまだ早いと思う。その中、君の敵対心を考えれば君の心は不安でしょうがないと感じた」


 由美子は平然とした顔でいた。


「的外れですね。私はいつもどおり早めに来ているだけです」


「そうかね……」


 竹中は空を見る。


「僕はね、不安だよ。お互い負けても勝っても、翼志館にとってはメリットしかない。だが、僕個人からすれば一年生チームに負けるということは我が校の生徒に示しがつくものかと」


「なら、簡単です。私たちに負ければいい」


「神宮由美子!」


 安藤が絹張の服を掴む。


「一つ、理由を聞こう」


「負ければそんなこと考えずに済むからです。あなたが私達に負けたとしてもそれは仕方がなかったことだと私が証明しますから」


 竹中は思わず大声を上げて笑う。


「良い答えだ。不安が一瞬にして消えてしまったよ。いいのかい? 敵に塩を送ってしまっても?」


「会長こそ、私を勢いづかせていいんですか?」


 安藤は前に出ようとする絹張の服を引っ張った。


「流石は神宮……。物怖じしない。では、僕達は先に作戦室に入るとしよう。戦場でまた会おう、由美子くん」


 竹中、安藤、母里の三人は作戦室に向かう中、絹張だけがその場から動かず、由美子を睨んでいた。


「何ですか? 絹張先輩」


 絹張は答えなかった。


「絹張くーん! 速くこっちに来たまえー。君じゃあ言葉で彼女には勝てないよー!」


 絹張は眉間に皺を寄せながら、振り返り、三人の下へ走った。


「あんたも大変ね……」


 朝子が口を開く。


「なによ、急に……」


「内にも、外にも敵ばかり……。まぁ、後二日ぐらいはあんたの味方になってやってもいいわ」


 由美子はその言葉に不満げだった。


「何よ、不満なの?」


「ええ、とっても!」


「二日ぐらい我慢しなさいよ」


 由美子はぼそっと呟く。


「なに? 聞こえない」


「何も!」


 由美子は明後日の方向を向いていた。


 そこへ葉が意気揚々とやってきた。


「おー! 朝子、由美子! 今日はチーム臥竜にぎゃふんと言わせるぞー!」


 葉は改めて、二人を見るとその様子で察する。


「二人共、まさか喧嘩してた? 駄目だよ、チーム一丸となって戦わなきゃいけないときに!」


「してない」

「してないわ」


 二人は声を揃えて言う。


「あ、息ぴったりだ! なら、大丈夫だね!」


 葉の笑顔に由美子は顔を綻ばせる。


 観戦会場の本会場は人だかりが多く、立ち見の人間が多数いた。その中には午前に行っていたチーム武帝とチーム美周郎(びしゅうろう)の面々も居た。立ち見席が多い理由はプリズマではなく、解説席の二人が原因だろう。


「自己紹介をさせて頂きますが、とりあえず麻希様って言って頂ければと思います」


 プリズマの山南麻希は会場人間にそう呼びかける。


「はぁい! あなたが好きなのは姫様? 女王様? いいえ~」


 麻希は皆にレスポンスを呼びかえるとバラバラに「麻希様~~!!」と帰ってきた。


「はぁい。ありがとうございます。緑の王国、蝦夷島から来ました。ちょっぴりドジな天然リーダー麻希様こと山南麻希でぇーす」


 会場からはまばらに拍手の音が聞こえてきた。


「そ、それでは解説のお二人をご紹介します! 一人目はこの方、皇国陸軍第八師団、特殊呪術連隊、第一中隊、第一小隊隊長の遠矢八雲二尉でーす」


 八雲はいつもどおり戦闘服を来て、ダラけた様子だった。


「あ、どうも。よろしく」


「続きまして、皇国陸軍第一師団、第一呪術特科大隊、第二中隊長の佐伯総将(そうすけ)三佐です!」


 総将は八雲に水を渡しながら頷いていた。


「今回はお二人の解説ということで、本会場では立ち見席の人がいっぱい居ます。午前中もそうでしたが、お二人の有名度に私もあやかりたいですぅ」


「必要ないじゃない? てか、あんたらの方が俺達よりも有名でしょう」


 八雲は笑顔で答えた。


「そんなことないですよ。お二人は出雲の乱の英雄と呪術者を目指す私達にとっては憧れの人です」


「単なる人殺しだがな」


「おい、総将! 悪いな。こいつ、テレビとか嫌いなんだよ」


「いえ、午前の部を私も見ていたいので……」


「そう言ってくれると助かる!」


「こちらこそ、ありがとうございます、遠矢二尉」


 八雲は麻希の可愛らしい顔にデレデレとしていた。


「さて、今回の対戦カードですが、午前中に引き続き、本予選リーグで戦ったことがある同士の対決となります。チーム臥竜(がりょう)対チーム五芒星(ファイブスター)。前回はチーム臥竜に包囲された形になりましたが、チーム五芒星がそれを食い破り、勝ちました。お二人は今回はどうのようになると思われますか?」


「チーム五芒星が不利だろうな」


「そうか? あいつらなら勝つんじゃないの?」


「妹贔屓か。相変わらずだな」


「ゆみは関係ねえだろ。実際、竹中ってやつが作った包囲網を突破したんだろ? だったら、今度も食い破ればいい」


「竹中という男は手札を明かしたわけじゃない。そもそも、このチーム攻略するには竹中というと男をいかに攻略するかだ。格上の(しょう)を相手にお前の妹の指揮じゃあ難しいだろう」


「おい、俺のゆみに文句つけるつもりか?」


「あ、あの、ゆみというのは、もしかして、神宮由美子選手のこと、ですか?」


 麻希は恐る恐る聞いてみた。


「ああ」


「お二人は、どういったご関係ですか? まさか、婚約者とか?」


「違う違う。妹だ」


 会場からどよめきが走る。


「えええ!!! 妹!? ですが、遠矢二尉は、その名字が違うというか……」


「いやさぁ、俺、家から勘当されてて、名前を捨ててるんだよ」


 総将は頭に手を当てる。


「え、いや、あの、その……」


「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。なら、総将、チーム五芒星が勝ったら、打ち上げはお前の奢りな」


「何だ、その賭けは」


「お前、どうせ、ゆみたちが勝つと思ってないんだろ?」


「そうは言ってないだろ」


「俺はゆみが勝つと信じてるぜ!」


「勝手にしろ……」


「ええっと、私の理解が追いついていないのですが、とりあえずはなかったことにして話しましょう」


 麻希はマイクに切り、胸に手を抑えながら呪文を唱えるように呟く。それを聞いた総将と八雲は苦笑いしていた。


「はぁい! それでは気を取り直していきまーす!」


「おい、すげーな、その切替」


 八雲は麻希をまじまじと見た。


「今回の演習場は市街地C、廃墟ビルが立ち並ぶ学戦ではよく使われる場所です。非常に隠れる場所も多く、相手を不意打ちするには格好の場所でもあります。そういう意味では作戦の組み立てが上手いチーム臥竜にとっても有利でもあり、チーム五芒星の賀茂選手の隠形が光る場所でもあります」


 八雲は麻希の解説に拍手する。


「凄いね、よく調べてるじゃん」


「当たり前だ」


「お二人共ありがとうございます。チーム臥竜の作戦は前回の戦いでも分かっていることですが、隠形を使う賀茂選手をお二人ならどう戦われますか?」


「まぁ、まだ戦い方がなってないから、なんとも言えないけどよ、光るものはあると思ってる。それにあいつ、最近いやらしい攻撃をしてるだろ? あれ、絶対伏見に似てきてるぜ。総将は、この前実際に戦ってみてどうだった?」


「戦った?」


 麻希はまた焦り始めた。


「前提としては姿を表したあいつは弱い。だが、この前みたいに呪詛を使われるとかなり厄介な相手になる。この島の学生相手に向ければ死に繋がるから、よほどでない限り使ってわないだろう」


 会場の中で小さな声が飛び交う。その反応を見て、八雲はマイクを切り、伏見を見る。伏見は笑顔で地獄に落ちろとジェスチャーしていた。


「総将、なんか不味いことを言ったみたいだぜ」


「そうなのか?」


 総将のマイクが入っており、声が漏れていた。


「ええっと、お二人と賀茂選手は知り合いなのですか?」


 八雲はマイクのスイッチをオンにした。


「まあな。今回の皆が使っていた呪防具あるだろ? あの動作テストをあいつらが手伝ってくれたんだよ。軍人相手に何度も死ぬ思いをしてたぜ。皆、あいつらに感謝してくれよな」


 八雲は笑って誤魔化していた。


「賀茂のやつ、呪詛を使えるのか? だとしたら、ヤバいぞ……」


 浩平のボヤキに真も頷く。


「何が、問題なの? 大体呪詛ってなんなのよ……」


 遠山は浩平を問いただしていた。


「呪詛は簡単に言うと自分が持つ負の感情を相手に流し込むことだ」


 周藤(すどう)は亜門に答えていた。


「だからって学生に向けて使えば死ぬわけ無いでしょう」


「呪詛のコントロールは難しい。自分の感情を制御出来なければ、感情のままに相手に流す。相手を本当に殺したいと思ったまま、それを放てば、そのまま作用し、相手を殺すことになる。呪いに対して抵抗力が弱い学生なら尚更だ」


 亜門は周藤の言葉を納得できなかった。


「それでは定刻に近づいてきました。皆様、カウントダウンをお願いいたします!」


 十秒前からのカウントダウンが続き、麻希のスタートという声が会場に響き渡る。

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